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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家の傷跡編 ~

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手を握って欲しい

またも品のない表現があります。

R-15の範囲内……、だと思います。

「マオ……?」


 水尾先輩は信じられないものを見る目で、真央先輩を見つめた。


 真央先輩は、そんな水尾先輩の視線を流して、わたしを見る。


「高田は……見たんだよね? 第一王子の成果を」


 そこにあるのはどこか狂気の色を宿した瞳。


「いっぱいいたでしょう? ()()()()()()()()()()()……」


 先ほどの話を聞いてしまった今。


 その言葉の本当の意味も分かる。


「……子? まさか……マオ、お前、子供……が……?」


 水尾先輩が呆然と呟く。


 それが本当なら、ある意味、どんなに良かったのだろうか。

 それができない話だったから、彼と彼女はあんな手段に出るしかなかったのだから。


「真央先輩は……、あの状態を自分の子と言いますか?」


 あの水槽の中に浮いた存在。


 それを生命……と言い切れるだろうか?


「少なくとも、子に近いナニか……だったね。私だけでは足りなくて、結局、高田にも協力願うしかなかったのだから」


 どこか自嘲気味に、真央先輩はそう答える。


「は……?」


 真央先輩の言葉を聞いて、水尾先輩ではなく、()()()()()()()()、そんな声がした。


「高田!? お前……、まさか……」

「ふへ!?」


 九十九から肩を掴まれる。


「ウィルクス王子殿下に無理矢理!?」

「……はい?」


 九十九の言っている意味を理解するまでに時間がかかったわたしは、絶対に何も悪くないと思う。


「リヒト、代わりに頼む」


 雄也先輩がリヒトに向かって、何かの指示を出すと……。


『承知した』


 そう言いながらリヒトが立ち上がり、九十九に向かって……、スパーンっと小気味よい音を立てた。


 その手にはハリセンと呼ばれるものが握られている。

 どうやら、ずっと背中に隠し持っていたらしい。


 彼はいつの間にそんな芸当ができるようになったのだろうか?

 いや、それよりも、そのハリセンは誰が作ったのか?


「り、リヒト……?」


 頭ではなく、肩をはたかれた九十九。


 まるで、警策のような扱いだが……、身長差があるため、ここは仕方ない。


 今の九十九の高さなら、わたしでもそこに当てることしかできない。

 いや、フルスイングを考えれば……、脇腹……胴狙いになるか?


『落ち着け、ツクモ。シオリはそこまでのことはされてない。……と言うか、考えすぎだ』


 リヒトの言葉を受けて、九十九は、何故か顔を紅くする。


 そこで、なんとなく九十九がどんな誤解をしたのか……、理解してしまった。


 まあ、事情を知らなければ、子供を作るための協力って……、そんな話に受け止められてもおかしくないかもしれない。


 いや、そんなことされた後に、それでもそんな相手の命を助けようって思えたなら、わたしは本当に「聖女」だと思うよ?


「すまん……。みっともない所を見せたな。先走りすぎた」

「文字通りか……」


 雄也先輩がポツリと言った。


「おい、こら。流石に品がねえ」


 何故か九十九がかなりの怒気を込めてそう言うが……、先ほどの雄也先輩の台詞の中に、そんなに変な言葉があったっけ?


「……それが分かってしまうのは、この場ではお前ぐら……、ああ、真央さんも分かるのか。それは失礼した」


 雄也先輩はニッコリとした笑顔を真央先輩に向けるが、彼女は今まで以上に顔を真っ赤にしていた。


 わけが分からぬ……。


 でも、水尾先輩もトルクスタン王子も分からなかったようなので、特殊な人間界の言葉……なのかな? とは思ったのだけど。


「えっと……。恐らく、高田以外は第一王子のやっていたことを知らないと思うので、そこも伝えなければいけないことはよく分かった。そして、高田は……誰にも言ってないってことだね」

「言うことができると思いますか?」


 あの時のことは、まだ自分でも整理しきれていないのに。


「言わない精神力は凄いと思うよ。私は……、誰かに言いたくて、伝えたくて、逃げたくてたまらなかったから」

「真央先輩……?」

「高田は強いなって本当に思う。尊敬しちゃうよ」


 そう言って、彼女は力なくへにゃりと笑った。


「まさか、神に仕える神官最高位の大神官様がいる前で、しかも、私が言うことになるとは思わなかったけど……、これも人間界で言う因果応報ってやつかな?」

「マオ……、兄上は……、一体……」


 トルクスタン王子はずっと言いたかったであろう言葉を口にする。


「トルクもよく我慢したね」

「兄上は……、教えてくれなかったからな」

「私に聞けば……、教えてしまったかもしれない。私は高田ほど、強くないから」


 それまでの言葉で……、真央先輩は、心から賛成していたわけではないとは思った。


 それでも、止めきれなかったことには変わりはなく、そこにどれだけの思いが混ざっているのかは分からないけれど……。


「真央先輩、わたしから言いましょうか?」


 彼女は結論を先延ばしにしようとしている気がした。


「いいや、これは私の務めだよ。ああ、でも……、こっちに来て、手を握っては欲しいかな」


 そう言って、真央先輩が小刻みに震える手を差し出す。


「俺が握る」


 わたしが椅子から立ち上がろうとした時、トルクスタン王子がそれを止め、真央先輩の手を握る。


「兄のしたことは恐らく、罪深いことなのだろう。なんとなくそれに気付いていて、俺は動かなかった。今更、遅いかもしれないけど……、これぐらいはさせてくれ」

「……トルク」


 真央先輩が、トルクスタン王子を見つめる。


「お? なんだ? トルクは、マオが好きなのか?」

「……中年みたいな反応するなよ、ミオ。それに俺はマオより、どちらかというとシオリの方が好みだ」

「はえ!?」


 なんかこっちに話が来た?


「私も、ちょっとオツムが足りない人間は難しいな……」

「あ~、その条件ならトルクは絶望的だな」


 真央先輩と水尾先輩が二人して、酷いことを言っているが……、わたしは、戸惑っていた。


 いや、さらりと凄いこと言われたよね?


「でも、トルクで良いか。第一王子と同じ血が流れているしね。仕方ないから、代わりに責任、とってね」

「お前の手を握るだけなら、安いものだ」


 互いの目を見つめ合って、真央先輩とトルクスタン王子は言葉を交わし合った。


 ぬ?

 今のって……、もし、ワカが見ていたら「プロポーズっぽくない!? 」って大興奮するところだと思う。


 少なくとも……、わたしにはそう見えたし、そう聞こえてしまった。


 だけど……、そう騒ぐような場面ではないので押し黙る。


「第一王子は、人工授精の研究をしていたんだよ」


 トルクスタン王子の手を握ると、真央先輩は先ほどまでのきつくて苦しそうな顔を緩めて、話を始めた。


「ああ、タネなしだからか」

「水尾先輩、言葉!」


 いくら何でも、品がないし、言葉も悪いため、叫ばずにはいられなかった。


「だけど、ミオの言う通り、遺伝子がないでしょう? 始めは一人でその……、頑張ったみたいだけど、透明な人の形をした何か……、までしかできなかったらしくって……」

「よく分からないが、兄上は……、子供を一人で作ろうとしたのか?」

「最初はそうだったらしいよ。いろいろな薬草を混ぜて、自分の血液を毎日与えていたって言ってた。不思議な発想だよね?」


 真央先輩は柔らかく笑う。


「私と言う協力者を得て、それぞれの血液を毎日混ぜたけど……、それでも小さな肉塊までしか育たなくて……。暫くは育っても、小指よりも小さくてオタマジャクシみたいな……、ピンク色の小さな塊だったかなあ……」


 真央先輩が思い出すかのように上を見ながら、そう呟くように言った。


 わたしはあの時の水槽を思い出す。

 確かにオタマジャクシのような奇妙な生き物もいたし、小さな丸い塊しかないものもあった。


「人間のせ……、雄の遺伝子と、数種類の薬草。そして……、恐らくは腐敗させた後で、毎日の血液投与……か。まるで、()()()()()()()()()()()()()だな……」


 雄也先輩がそんなことを言っているのが聞こえる。


 ホムンクルスって言葉はゲームや漫画に出てきたから知っていたけど、そんな風にできるんですか?


 わたしは知らなかった。

 ……オカルトって、怖い。


「今年に入って……、ようやく『サンショウウオ(アドマラス)』の幼体に近くなった。確か、その大きさは小指くらいだったと思う」


 そう言いながら、真央先輩はトルクスタン王子に握られていない手の指をどこか愛おしそうに見つめた。


 それを……、水尾先輩は苦虫をかみつぶしたかのような顔で見る。


「それで、一番成長した水槽に、高田の髪を溶かし入れたら……、人の形に大分、近づいたんだ。大きさだって握り拳ぐらいまで育った。だから……、あの人は、高田に協力をしてもらいたかったのだと思う」


 いや……、そこまでの事情は分かる。


 でも、現実は、彼は強迫に近い行動に出た上で……、わたしとまともに話をしようともしなかったのだ。


 だけど……、あの人が細かく状況を説明した上で、さらに、もっと低姿勢でわたしに協力依頼をしていたら……、果たしてわたしはどうしていただろうか?


 いや……、それでも……、わたしは断っていたと思う。


 不妊治療とは違った方法を選んだ二人に……、話を聞いた今でも、わたしはどうしても賛同はできなかったから。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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