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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家の傷跡編 ~

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他の選択肢

「「「「「情報国家!? 」」」」」


 雄也先輩の言葉に、その場にいるリヒトと大神官以外の人間が反応する。


 いや、だって、情報国家って本来は避けるべきところじゃないっけ?


 え?

 確か雄也先輩自身もそう言っていたよね?


「魔法国家アリッサムの情報……。それを必死で探している国だ。交渉次第では、この国を越える援助を受けられたことだろう」


 周囲の驚きを他所に、涼しい声のまま、雄也先輩はそう続ける。


「ゆ、ユーヤ……。しかし……、情報国家は……」

「カルセオラリアに行くことを提案、もしくは()()()()()()は?」


 雄也先輩の言葉に……、少し寒気がしたのは気のせいか?


「危機の時は、知り合いがいるところを頼りたくなる気持ちはおかしいですか? それに……、第一王女の顔は知られていません。それに隣国は……信用は出来なかった」


 雄也先輩の言葉に、真央先輩が答える。


「世俗から隔離されていた第一王女殿下が頼ることができる国はないし、隣国は……、亡命中の魔法国家の王族にとっては危険だから周囲から反対されることも分かる。特に、ラスブール様の反対は目に見えるようだよ。積年の想いの果てにようやく手に入るはずだった女性を失いたくはないだろうからね」


 ラスブール……、確か……、アリッサムの聖騎士団長さまの名前だったはずだ。

 そして、第一王女の婚約者だったとも聞いている。


「あ~、確かに隣国行きはラスブールも反対したと思う。アイツの姉貴への執着心は異常だったから」


 水尾先輩はどこか遠い目をしながら言った。


 アリッサムの第一王女は、隔離され、異性のことを知らないまま、接触を断って育てられると聞いている。


 あれ?

 でも……、それなら、聖騎士団長様の「積年の想い」ってやつはどこから来た?


「だけど……、情報国家を頼ることはあの男、もっと反対すると思うぞ、先輩。第一王女を売ることになるだろ?」

「情報国家が必要とするのは、王族の身ではなく『情報』だ。そして、一度取り引きした『情報(商談)』には守秘義務が成り立つ。少なくとも情報国家は、亡国の王女たちを囲う趣味など持たない。野に放った方が、新たな情報をもたらしてくれるだろうからな」


 ……なかなか酷いこと言っていませんか? 雄也先輩。


「だが……、シェフィルレート王子は年齢的に頃合いだろ?」

「噂に聞く限りの判断ではあるが、その王子殿下は女性に困ってはいない。魔力についても不自由していないのだから、わざわざ魔法国家の王女を娶る理由はないな。情報国家の王族が、相手の女性の立場よりもその『情報』を望むことは機械国家の方が知っているだろ?」


 随分……、詳しいな……と思ってしまった。


 いや、雄也先輩のことだから、警戒しているところほど、より詳しく調べているのは分かるけどね。


「誰もが先輩と同じように考えると思わないでくださいよ」


 真央先輩は、困ったような顔で笑いながら雄也先輩に声をかける。


「先輩が言うように、私たちは世間知らずの集まりだったのですから。あの時は……、私たちを助けてくれそうなのは、カルセオラリア以外……、考えられなかった。迷惑だって分かっていても、あの国以外、頼れなかった」


 確かに、真央先輩が言うように困った時に頼れるのは……、知っている人間がいる国だと思う。


 あの時、水尾先輩だって、緊急時に頼ることができるような国に思い当たらなかったと……、言っていた気がする。


「情報国家という選択肢もなかったです。あの国に関わったらどうなるか……。先輩なら予想がつくでしょう?」

「既に失うものはないのに?」


 雄也先輩の言葉に真央先輩は、ぐっと何かをこらえる。


「ユーヤ!」


 先ほどと違って、トルクスタン王子は反応するが、水尾先輩はどこか難しい顔をして黙っていた。


 先ほどから、雄也先輩はきついことを言っている気がする。

 まるで、真央先輩を煽っているように。


「言っておくが、俺はトルクスタンより楽天的な考えを持てないんだ。そして、ここまで巻き込まれて、大人しくしていられるほど俺もお人好しではない」


 あ、これって……、もしかしなくても……雄也先輩。

 実は、かなり怒っている?


「し、シオリ……」

「はい?」


 そして……、トルクスタン王子は何故、このタイミングでわたしに呼び掛ける?


「少しばかり、ユーヤを嗜めて欲しいのだが……」

「嗜める?」


 えっと……?

 わけが分かりません。


「……兄貴を止められるのはお前しかいないってことだよ」

「なんで止める必要があるの?」


 九十九が言っている意味も分からない。


 そして、そんなわたしの言葉に、雄也先輩と、水尾先輩、リヒトが同時に苦笑した。


 わたしにそう言ってくれた九十九も、どこか複雑な顔をしている。


 何故に?


「迷惑をかけられたら、誰でも怒るのは当然でしょう? 特に今回、雄也先輩は被害者だよ? それなのに、なんで、追求に手心を加えろって話になるの? 個人的には『もっとやれ! 』って言って差し上げたいぐらいだけど……」


 さらに続いたわたしの言葉にトルクスタン王子が唖然として……、水尾先輩が机に突っ伏して肩を震わせた。


「……解せぬ」

「おいこら。また武士になってるぞ」


 その言葉で、今度は真央先輩が撃沈した。


 あれ?

 「解せぬ」って一般的な言葉じゃないっけ?


「『解せぬ』は古語の一種だよ、栞ちゃん」


 そうだったのか……。


 でも、そう教えてくれている雄也先輩も、実は今、笑いをこらえていますよね?


「トルク、高田……、いや、シオリに下手なタイミングで話題を振るな。ツボに入りやすいマオが潰れる」


 水尾先輩が口元を抑えながら、トルクスタン王子に助言する。


「ただ……、個人的な意見としては私も彼女に賛成だ。巻き込んだ側が、救いを求めるな」

「しかし……、マオはまだ万全じゃないんだぞ」

「先輩……、ユーヤだって万全じゃねえ。似たような条件で甘えんなよ」


 水尾先輩はぴしゃりと言い切った。


「そうだね……。多少のきついお言葉くらいは覚悟してるよ。だから、トルクも余計な口出ししないでくれる? 貴方が甘いことを言うと、先輩の当たりはもっと激しくなりそうで困るから」


 同じ顔した二人に言われては、トルクスタン王子も黙るしかなかった。


 ちょっと気の毒だけど……、仕方ないよね。


「アリッサムの事情とか、国同士の関係とか、そこに関する小難しい駆け引きとかは正直、どうでも良いのです。どちらかと言うと、気になっているのは、真央先輩がどこまで、ウィルクス王子に関わって、協力してきたか……の方なので」

「まあ……、高田はそうだろうね」

「自分に関係ない話にまで興味はないですから」


 そんなことに頭を割くほど脳の処理能力は高くないのだ。


 真央先輩とウィルクス王子殿下の婚約に至るまで……について、興味がまったく湧かないと言えば嘘になるけど……、そのために余計な時間を使っていけば、多分、雄也先輩の体力が持たない気がする。


 それでなくても、彼が無理をしているのは間違いないのだから。


「それでは、高田は……、どこまで関わった?」


 真央先輩がどこか挑発的に見える笑みを浮かべる。


「ウィルクス王子殿下には、初対面時に、髪の毛を数本ばかり引き抜かれました」


 そのわたしの言葉で、周囲の気配が一気に変わったことが分かる。


 あれ?

 言葉選び、間違えた?


 九十九はその時のことを思い出したかのように風の気配が強くなったし、雄也先輩の気配も少しおかしい。


 水尾先輩に至っては、距離が離れているのに、熱気がここまで伝わってくる。


 でも……、実は、今一番怖いのは、今回、黙って入り口に立ってくださっている背が高い御仁です。


 この国ではカミを大事にするものね。


 仮にも「聖女の卵」と呼ばれる存在の髪の毛に、乱暴な扱いをされたたと聞けば、怒るのは当然かもしれない。


「あ、兄が!?」


 トルクスタン王子が驚愕する。

 どうやら、彼は知らなかったらしい。


「ああ、そうか……。あの髪は……、高田から引き抜いたのか。道理で……、おかしいと思った」


 だが、真央先輩の方は知っていたようだ。


「マオ!」


 その言葉で水尾先輩が怒りを露わにする。


「ミオはやっぱり分かりやすいね。そして……、九十九くんはともかく、先輩もそこまで反応するとは思わなかった」


 水尾先輩の表情がさらに変わる。


「でも、その件については、『風の気配がする娘から提供された』としか聞いてないから、彼がどんな考えを持っていたかは分からない。そこは……、ごめんね」

「マオ……。お前……、それを変だとは思わなかったのか!?」


 水尾先輩は真央先輩の揺さぶるように肩を掴む。


「思ったけど……、その辺りの感覚は麻痺している気はするかな」

「は?」


 どこか他人事のように、真央先輩はこう言った。


「私は既に、髪以外の……いろいろな物を彼に提供していたからね」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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