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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家の傷跡編 ~

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致命的なキズ

一部、品のない表現が続きます。

ご注意ください。


R-15の範囲内だと思います。

「王族として、致命的な傷……だと?」


 水尾先輩は一人、疑問符を浮かべる。


「まさか、あの男。国民を見捨てて、逃げたのか?」


 その言葉は王族である水尾先輩にとって、許せない行為の一つなのだろう。


 だけど、多分、違う。


 先ほどまでの話と、実際にわたしが見たあの人の行動を繋げると……、彼があそこまで()()()()()()()()()()()()()()が説明できてしまう。


「まさか。そんな人だったら、あそこまで苦しまなかったよ」


 真央先輩はそう言いながら困ったように笑う。


「彼は、自分よりも国王陛下や、王妃殿下、それ以外の国民たちを優先したために……、治療を遅らせ、自分の状態を悪化させてしまったぐらいなのに」

「じゃあ、なんだって言うんだ?」

「高田ですら気付いていることに、ミオが気付かないことが驚きだよ」

「は?」


 水尾先輩が、わたしの方を驚いた瞳で見た。


 いや、これは、知っている情報量の違いだろう。


 寧ろ……、それらを知らないはずの九十九と雄也先輩が、なんとなくでも気付いているような状態の方がおかしいと思うぐらいに。


「マオ、俺もその辺りは……、よく知らない。兄上が何か隠していたことは知っていても、その理由……、それが、あの熱病にあったことまでは知らないのだ。できれば、ちゃんと説明してほしい」


 トルクスタン王子が俯きながらそう言った。


「そうだね。病気の詳細については、トルクも知らなかった……か」


 真央先輩が、どこか力なく笑った。


「第一王子は熱病に罹り、そのことが原因で、別の病も発症したんだ。九十九くんが言った合併症の一つ……その……精巣炎というのを発症して……」

「せいそうえん? 具体的にはどんな病なのだ?」


 トルクスタン王子が首を捻って真顔で聞き返す。


 ……当人に悪気はないと思うが、これはきつい。


 流石に真央先輩が、言葉に詰まった。


「細菌やウイルスの感染によって精巣と呼ばれる部位に炎症が起きる病気のことです。えっと、局部が腫れ上がる病気……、で伝わりますか?」


 九十九が代わりに応える。


「局部……? ああ、タマのことか!?」


 何故か嬉しそうに応えるトルクスタン王子。


「……そうです」


 九十九が気遣って言葉を濁してくれたのに、いろいろ台無しである。


 いや、小学生男児のように直接な表現ではない辺り、まだこれでも言葉としての表現は抑えられているのか。


「それは痛い!」


 トルクスタン王子の明け透けな物言いに、雄也先輩と九十九が同時に頭を抱えた気配がした。


「トルク? 私たちの性別を理解したうえでの発言?」


 おお?

 真央先輩が少し怖い。


「? 別に可笑しな言葉ではないだろう?」


 けろりと答えるトルクスタン王子。


「マオ、その男は無視しろ。羞恥の線引きが私たちとは違う」


 水尾先輩が疲れたように言った。


 男女の違いなのか、お国柄なのか分からないが、この辺りを追及しても感覚の差と言うのは簡単に埋まらない。


 でも、未婚の男女が同じ部屋に行くことは反対するのに、不思議だなとは思うけどね。


「だが、兄上は、その状態から治ったのだろう? あの人が股間を抑えている姿など、見たこともないぞ?」

「いや……うん……」


 真央先輩は再び、困った顔を見せる。


 どことなく九十九を見ている辺り、助けて欲しいようだ。

 その気持ちはよく分かる。


「精巣炎の厄介な所は、炎症そのものよりもその後にあると言われている」


 雄也先輩がそう口を開いた。


「両側の精巣に炎症が起きたりすると、精巣の中にある精子のもとになる細胞が死んでしまうことがあるのだ。2、3割の確率だというからそこまで低いものではない」


 2、3割って……、思ったよりも高い。


「……つまり?」

「お前にも分かるように言えば、子種がなくなるということだ」

「……マジか?」

「マジだな」

「……と言うことは、兄上は不能になったということか?」


 少し考えて、トルクスタン王子はそう言った。


「……そこまでは俺も知らん。子種がなくても、使えないことはないからそのことに当事者が気付かないことも多いとは聞いている。俺が知るのはそんな知識ぐらいだ」


 ……そうなのか。

 いや、知ったからってどこにも披露できない知識だけど……。


「「先輩!! 」」


 水尾先輩と真央先輩が同時に言う。


 流石、双子。

 息がぴったりだね。


「その話を続ける必要があるか?」

「その辺でやめていただけませんか?」


 二人して、「止めて欲しい」と言った。


「……俺も女性の前で言うのは憚られるが……、トルクスタンは追求を止める気はないようだぞ? 止めるなら、ソイツの方を止めてくれ」

「いや、止めるなよ。国にとっても、大事なことだろ? 兄上が不能だったかどうかって……」


 弟としては、兄のその状態が気になる話らしい。


「なんで国にとっても大事なのですか?」


 わたしは純粋に疑問だった。


「「分からないのか? 」」


 真央先輩とトルクスタン王子が同時にわたしを向く。


「えっと……次世代ができないからってことですよね?」


 わたしは考えられる心当たりを口にした。


「それなら……、ウィルクス王子殿下が後を継いだ後、トルクスタン王子殿下やメルリクアン王女殿下の子に王位継承させることってできないのですか?」


 この世界にも養子縁組はあると聞いている。


 それに、血筋と言うのが大事だとしても、ウィルクス王子の弟妹の子供だって同じ血が流れているのだから問題はないはずだ。


「できなくはないが……、始めから生殖機能に欠陥を抱えていると分かっていて、王位を継がせるということに納得する人間ばかりではない」


 トルクスタン王子がわたしの疑問に答えてくれる。


「それを公表しない選択肢は? その……、生殖機能が正常でも、子供ができない夫婦だっていますよ? 授かりものが授からなければ、仕方ないのではありませんか?」


 全てを表沙汰にする必要はないはずだ。

 隠し通せるなら隠し通した方が良いことだってある。


 この世界は、医学が発達していない。

 だから、ソレを隠し通すことは可能だと思うのだけど、浅知恵かな?


「それは……」


 トルクスタン王子は言い淀んだ。


「それを許せるほど、第一王子は不実な人間になり切れなかった。原因が自分にあることが明白な以上、誰かのせいにもできなかったんだよ」


 真央先輩が代わりに答える。


「それと、もう一つ。避妊もしていないのに、長い間、子供ができないと、女性のせいにされてしまうのは、どこの世界でも同じだよ。ウィルクス王子殿下が隠し通す選択肢をすれば、その矢面に立つのは、間違いなく相手の女性だ」


 そう雄也先輩がわたしに言った。


「不妊の原因って男女比で半々だって聞いたことがあるのですが……」

「医学が発展した人間界ではそうだね。でも……、この世界では、その八割が女性のせいにされてきた歴史がある。複数の女性を抱え、その中の誰一人として身籠らなくてもね」


 それはなかなか酷い。


 医学が発展していないとはいえ、子供って、夫婦が仲良くした結果だよね?

 それなのに、子供ができなければ女性が悪いって言うの?


 わたしが、「女性」という立場にあるためか、どうしても、その言葉に納得できなかった。


「少し疑問なんですけど……」


 九十九が少し言いにくそうに口を挟む。


「病気に対して詳しくない魔界の人間が……、何故、そうだとはっきり分かったのでしょうか?」


 その言葉で、わたしはハッとなる。


 確かに、九十九の言う通りだ。


 えっと……、その部分が炎症を起こしても、痛みが引けば元通り……だと思う。


 いや、分からないけれど!

 見たこともないし!


 少なくとも後に残るような炎症って少ないと思うのです!!

 見たことないから断言できないけど!!


「私も当人に聞いただけの話だから……その……ちゃんと言い切れないのだけど、えっと、腫れが治まった後、使うことは……できたらしいの……ね」


 顔を紅くしながら途切れがちに言葉を紡ぐ真央先輩。


 いや……、それを見ているだけで、なんか胸がむず痒くなるのは何故だろう?


「当人も薄々、感じていたらしいのだけど、はっきり異常だって思ったのは、二十歳の誕生日だったらしい」

「二十歳の?」


 トルクスタン王子は真央先輩の言葉に眉を(ひそ)めた。


「魔界人の男性には『発情期』と呼ばれる症状があることは知っていると思うけど……」


 真央先輩は顔を赤らめながらも、決定的な言葉を続けた。


「第一王子はその歳まで、その兆候が一度も現れなかったんだって」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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