表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家の傷跡編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

719/2796

損得を考える

「トルクスタン王子殿下も、真央先輩からもお礼を言われましたが……、わたし、結局のところ、ウィルクス王子殿下に関しては、本当に何もできませんでしたよ」


 改めて、わたしはそう言った。


 彼に対してやったことと言えば……、うっかり挑発みたいなこと言っちゃったとか、彼が明らかに大怪我をしている状態なのに、あちこち瓦礫が転がっている所で引き摺って運んだとかそれぐらいだ。


 今回の件に関しては、わたしが原因の一部になっている気もしなくはないし、寧ろ、容赦なく(とど)めを刺しにいった方ではないか……とも思う。


「本気で言っているのか?」


 トルクスタン王子は何故か驚く。


「普通の人間は打算なく、他人のために命を懸けることはしないものだ」


 確かにそうかもしれない。


 でも……。


「わたしだって、損得は考えましたよ」


 そう言うと、トルクスタン王子だけではなく、周囲までもが目を見張る気配があった。


「どんな?」


 そんな意外そうな顔で見られても困る。


 でも、あの時に、そこまで深く考える余裕はなかったので、短絡的な思考と直感的な行動が直結していたことだけは間違いないのだけど。


「無理かもしれないけど、助けられたら嬉しいって……」


 あの時の感情は……、そんな感じだった気がする。


「は?」

「生き延びれば、ウィルクス王子殿下と、もっとまともな話ができるかもって……」


 結果として、話はできなくなってしまったのだけど……。


「それを……、シオリは損得と言うのか?」


 トルクスタン王子はますます目を丸くする。


「それにあの人が助かれば、真央先輩が喜ぶでしょう?」

「私……が……?」


 確かに、彼の言動は不可解なことが多すぎて、わたしに理解できるかも分からなかったけれど……、それでも……、あの瞬間、彼は、真央先輩のために命を懸けたのだ。


 あの時点で、大怪我していてまともに動けるかも分からないような状態だったのに。


 少なくとも、大事な人のために動ける人だと思った。


 そして、その真央先輩も自分が危険だったのに、彼を助けようと、さらに危険な場所へと向かう意思を見せた。


 そこまで人を動かすような人が、なんであんなことをしていたのか。

 そして、それらを壊したのか。


 その理由を知りたくなった。


「でも、一番の理由は、自分の目の前で誰かが死ぬのって嫌なのです」

「そのために……、自分や周りが死んだとしても?」


 トルクスタン王子になかなか痛い所を突かれたが、それも当然の意見だろう。


「勿論、死ぬ気はないですが……、死なせたくない方が強かったのは確かですね。せめて、それらの全てを見てなければ、安全第一、見捨てて逃げるという選択肢もあったとは思います」


 それでも……、絶対、心のどこかに引っかかるのは確かだとは思うけど。


「わたし、深く考えないので」


 そう言うと、背後から大きく息を吐くような気配があった。


「……らしいぞ、マオ」

「……みたいだね。高田に、理由を尋ねること自体が間違っていたかもしれない」


 何か二人に酷いことを言われている気がしますが?


「だが、そのおかげで……兄は救われた」

「いや、だから……、救えていませんよ?」


 彼は結果として、死を選んでしまったのだから。


「シオリとユーヤが向かわなければ、あの兄は、()()()()()()()()()()可能性はある」

「へ?」

「地下にあった多くのモノは、爆発に巻き込まれたり、押しつぶされるなどして、跡形もなくなっていた。その残骸からそこにナニがあったかも分からないぐらいだったらしい」


 その言葉で……、なんとなくあの水槽にいたモノたちを思い出した。


 ああ、そうか。

 アレらは、誰の目にも触れることなく……、()()()()()()()


 それで良かった……と思う反面、それで良かったのか? と思う気持ちが複雑に混ざり合っている。


 思い出すだけでも、嫌で不快な気持ちが蘇るような光景だった。


 でも……、あの時のことを、わたしは、忘れてはいけない気がするのだ。


 女として。

 いや、人間として。


「それに、転移門の近くは、空が見えるほど天井が抜け落ちたと聞いている。あれだけ頑強な造りの転移門自体も無残な状態になっていた。あの場に倒れていれば、いずれにしろ、命はなかっただろう」


 その言葉で、改めて、自分がどれだけの窮地にあったのかを理解する。


 多分、雄也先輩がいなければ、わたしもあの水槽の中身たちと同じ運命……だったかも?


「トルクスタン? そんな話をするために我々を呼びつけたのか?」


 雄也先輩の言葉で、トルクスタン王子は彼を見た。


「お前の(あるじ)の行動は俺にとって不可解だったので、本題に入る前に確認させてもらっただけだ」

「お前が容易に理解できるような底の浅い人間ではないということだ」


 おおう。

 なんだ?


 このやり取り。


 そして、背後で九十九が「単に高田の行動がおかしいだけだよな……」と呟いたのも聞こえたけど。


「そこで、恩に報いる方法を考えたのだが……、()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………は?」

「「は? 」」

「はあ!?」


 トルクスタン王子の唐突な申し出に、わたしの思考は停止して、雄也先輩と九十九が怪訝な声を出し、水尾先輩が驚きの声を上げた。


「カルセオラリアは身分を気にしない。だから、出自に関係なく、相手を選べる」


 トルクスタン王子が何か言っているが、頭に入ってこない。


 嫁って……何?

 わたしの知っている「嫁」で間違いない?


「いや、トルクの嫁って、どんな嫌がらせだ? そして、それでこの事態の礼や詫びになると思ってんのか?」


 水尾先輩は、分かりやすく納得していない。


「お前の妻にすることで、恩返しになると思っているとは本当に目出たいやつだな」


 さらに、雄也先輩も反対してくれる。


「お前たちは一応、俺の幼馴染と友人だと言うのに、なかなか酷いことを言うな。だが……、これでも、王族である俺は、お前たちより、シオリを守れる。少なくとも、逃げ回る生活はしなくてすむようにはなるぞ」


 トルクスタン王子の言葉に、水尾先輩は押し黙った。


「阿呆か。王族に()すれば、彼女が表舞台に立たされることは避けらん。それは、当人や周囲の意に反する」


 雄也先輩はそう言う。


「私もトルクの提案は短絡的で血迷った話だと思うけど、九十九くんは、反対しないの?」


 驚いた様子はなかった真央先輩は、わたしの背後で黙ったままの九十九に声をかける。


 なんとなく、わたし以外の視線が、その後ろにいる九十九に集まっている気がした。


「オレ、頭悪いから難しいことはよく分からないのですが……、それって、高田をカルセオラリアの次期『正妃』にするって考え方で良いですか?」


 その九十九は新たな問題を投下する。


 ……「せいひ」? 「成否」? 「正否」?


 いやいや、分かっていますよ、「正妃」ってことは。


 カルセオラリアの王位継承権第一位が亡くなったのだから、第二位が後を継ぐ可能性が高くなったわけだ。


 そうなると、彼の妻となる人は……?


 うん。

 将来の王妃ってことになるだろう。


「あ~、うん……」


 トルクスタン王子はどこか気まずそうにそう答える。


「……お前、九十九でも思い至るその可能性を……、まさか頭に入れてなかったとは言わないよな?」

「いや……、その件は、まだ……」


 雄也先輩の問いかけに、トルクスタン王子はどこか歯切れの悪い返答をする。


「それとも、囲い者にする気か?」


 囲い者、お妾さんってやつ?

 ああ、王様ならいっぱい、側室を囲っていてもおかしくはないね。


 跡継ぎは必要だろうから、その流れは分からなくもない。


「そんな不実なことをするかよ。お前やミオを含めたこの場にいる全ての人間に()()かれるじゃないか」


 そんな物騒なことを言う。


 雄也先輩や水尾先輩、九十九ならともかく、真央先輩やリヒト、それに恭哉兄ちゃんはそこまでしないと思うけどね。


「……と言うわけで、シオリ。お前の意見はどうだ?」

「わたし、ですか?」


 いきなり話を振られたので、思わず……。


「そんなことより、話を進めて欲しいと思います」


 何も考えずに、わたしがそう言うと、周囲は何故か噴き出した。


「お、王族の求婚を『そんなこと』って……、高田は、やっぱり凄すぎるな。私は、一応、考えるぞ」

「まあ、トルクの言葉は軽いからね。私でも断るけど、確かに扱いとしては酷い」


 水尾先輩と真央先輩が、お互いに小声で話す。


 わたしの場所にまで聞こえているから、聞こえるように話していることは分かるけど。


 二人の間には、先ほどまでのギスギスした雰囲気は既になくなっていた。


「つまり、我が(あるじ)にとっては、お前の申し出は一考の価値すらないと言っているわけだな」

「……分かりやすい通訳だな、ユーヤ」


 そうは言われても……、とても、本気だとは思えなかった。


 え?

 周囲の反応を見る限り……、先ほどの言葉って、まさか、冗談じゃなかったの?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ