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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家の傷跡編 ~

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【第39章― 満身創痍 ―】シンフォニックな激痛

「いったあああああああああああああああああああああああああっいっ!?」


 朝、目が覚めて開口一番口にしたのはそんな言葉だった。


 朝?

 いや、早朝?


 いいや、夜中と言っても差支えがない時間だったと記憶している。


 身体のあちこちの傷がいっせいに痛み出したのだ。

 ……っていうか、わたしはこんなに傷だらけだったのか?


 なんだか、今の状態はヒリヒリ、ズキズキ、ウズウズ……などといった表現がよく似合う気がする。


 そしてそれらが見事な演奏っぷりを披露して、わたしの身体のあちこちに容赦なく響き渡っているのだ。


 ……演目は激痛シンフォニー?

 運命が扉を激しく叩く音がする。


「どうした、高田!?」


 と、駆け込んでくる気配。


「お、おはよ……う、九十九」


 とりあえず、挨拶してみる。


 そう言いながら、挙げた手も、よく見ると傷でいっぱいだった。


「どうしたんだ? その傷……」

「いや、別に……、何も……?」


 心当たりって一つしかないよね?


『治しきれなかった傷だろう……』


 そう言いながら、リヒトが眠そうな目をこすりつつ現れた。


 時間的に寝ているのが普通だと思う。

 わたしだって少し前まで眠っていたし。


 それなのに、何故、九十九はこんなに元気いっぱいなのだろうか?


「ああ、そういうことか……。自己治癒能力が低下しても、傷そのものは顔に残ってないからたいしたことないと思っていたんだが……」


 そう言って、九十九がわたしの腕をとって確認する。


 ううっ!!

 それだけでも結構、痛い。

 

「裂傷っぽいのは、大分薄いが、火傷の方が治りきってないな」

「火傷……、皮膚がもう、壊死しているから治ってないってこと?」

「いや、そこまで重度じゃないし、炎に巻かれたところで、魔界人の皮膚はそう簡単に壊死しない」


 なんて、凄い皮膚なのだろうか。


「でも、わたしは半分人間だよ?」

「お前、王族の血をなめてるだろ? しかもそこまでの魔気を纏っていて何の加護もないはずがないじゃないか」


 そんなことを言われても、王族だって高いところから落ちて死んだりする以上、そこまで魔気というのが完璧な護りだとは思えない。


 それに、王族の血が100だったとしても、人間の血を混ぜたら50ぐらいしかないと思うけど。


「体内の魔気が回復したら、自己治癒ももっと効果が出ると思うが……」

『単純に大きな治癒魔法を施すのでは駄目なのだな』

「栄養を過剰に与えすぎると身体を悪くするように、治癒魔法ってのは程度ってもんが必要なんだと。現に兄貴が治癒を施して、オレのアバラが2、3本ほど、いったことがある」

「な、なんで、自分でしなかったの?」


 九十九の魔法は、わたしのと違って自分にも有効だったはずなんだけど?


「魔法は集中力。オレが負傷して集中できないような事態だったから、兄貴がやったんだよ」

『お前たちは、何を……してるんだ?』


 けろりと言う九十九に対して、リヒトが青ざめて見えるのは、部屋の暗さのせいだけではないだろう。


「どういうこと?」

「読んだんだろ? その情景。今、一瞬考えちまったからな。ガキの時、オレの魔法が暴発して、右腕が無残な状態になっちまった。その場にいたのは兄貴だけ。さあ、どうする?」

「きゅ、救急車?」


 人間界なら、そうするしかない。


「阿呆か? どうやって説明するんだよ?」


 ううっ!

 確かに。


『緊急時のため、やむなく……か。だが、血みどろの腕をぶら下げたままの状態よりは、見えないアバラのほうがマシではないのか?』

「あの時の兄貴と同じこと言いやがって。まあ、アバラやられて逆に、意識が集中しやすくなったのは事実だな。自分で治さなければ、殺されると思ったぐらいだから」


 と、彼はしみじみととんでもないことを口にしている。


 いや、それって感慨深そうに語るような話じゃないよね?


 血みどろの腕をぶら下げるって……、何をどうしたらそんな事態になってしまうの?


『体内の魔気……、とやらを回復する手段はないのか?』

「魔気かぁ……。通常、魔法力を含めた魔気ってのは自然に回復するのを待つしかねえからな。睡眠、休養が一番なんだが……、眠れないほどの痛みってのは問題だな」


 リヒトの言葉に九十九は少しだけ考えて、そう返事した。


「いや、痛みにびっくりしただけで、眠れないほどの痛みってのじゃないと思うよ」

『動かせるか?』

「まあ、一応……。ちょっと、重いし痛いけど……、身体も起こせるしね」


 大きく息をすると、胸の辺りにかなりの激痛が走るのが気になるぐらい?


「眉間に皺がすごいな。ずっとそのままの顔していると、跡になるぞ」

「え? ……がっ!?」


 九十九に言われて反射的に、おでこに手をやる。


 そして、身体全体に広がる素敵な痛みに、思わず奇声が飛び出した。


「……随分と、色気のない悲鳴だな」


 悲鳴に色気を求めないでください。

 咄嗟に出る声にまで、責任は持てません。


『見た目よりは、余裕はありそうだ。反応の割に思考が纏まっている』

「それなら、良い。兄貴みたいに神官たちに完全介護されるほどじゃないってことだな」

「え……? 雄也先輩、そんなに悪いの?」


 あの雄也先輩が完全介護って……。


「自分でまともに身体を動かせないような人間は、絶好調とは言わんだろ?」

『あの状態では、まともに魔法も使えない。思考が分散していて、短時間しかまともに会話も出来ないようだ』

「そんなに……?」


 会って話したときは全然、そんな感じに見えなかったのに。


「魔気の乱れも激しい。大神官の手による結界が結ばれていなかったら、いつ暴走してもおかしくないってぐらいな」

『思考のことも魔気のことも、当人には言っていない。だが、ユーヤのことだ。自覚はしていることだろう』

「兄貴の方こそ、時間が必要だな。まあ、普段、働きすぎてるんだ。この機会にきっちり休養とれってことだろ」


 それは、確かに。


 あの人は、わたしが知らないところでいっぱい働いているだろうし。


「その状態を治すことは……、できないのかな?」

『治したからこその障害らしいからな。難しいだろう。こればかりは本人に耐え抜いてもらうしかないようだな。あとは……、カルセオラリアの王子殿下のように、突発的な衝動に駆られないことを祈るだけだ』


 わたしの言葉に、リヒトがとんでもない台詞で返す。


「こんな状態なら死んだほうがマシってか。ふざけるなよ」


 治癒魔法で人を癒し、人を救うために「薬師になりたい」と言う九十九は、真っ向からリヒトの言葉に反論する。


『ふざけてなどない。死ぬより生き続けるほうが、辛いときもある。そんな発言は、当事者になってから……、もしくは、いつ終わるかもしれない苦痛を一度でも味わってから言え。選ぶのも決めるのも当人しかできん』

「ぐっ!」


 だが、リヒトは冷静に言葉を返す。


 しかし、今の発言は……、九十九じゃなくてもきつい。


 いつ終わるか分からない苦痛を与えられてきたリヒトにそう言われたら、黙ることしかできないだろう。


「でも……、それでも、どんな状態であったとしても、生きていることを願ってしまうのはいけないことなのかな?」


 わたしには、そんな苦痛が分からない。


 それでも、近くにいる人間が突然いなくなるなんて……、そんなのは嫌だって思う。


 それが我が儘で、勝手な考え方だと言われても、一度でも会話を交わしたことがある人間が、目の前から消えてしまうのなのだ。


『その考えは賛同する。近しく、親しい人間がいなくなるのは俺も嫌だ。だが、そのままの状態で救われるかどうかは運次第だがな』


 俺は運が良かったとリヒトは口にした。


「一生このままってことはないって話なんだろ? だから、後は本当に兄貴次第だ。俺たちがどうこうできる問題じゃねえってことになるな」

『だが、支えにはなる』


 と、リヒトは口にした。


「あの兄貴に支えなんているのか?」

『いる。身近に支えがあるかないかで、人間の気持ちの強さは大きく変化する』


 その言葉は解る気がする。


 わたしも一人じゃないから、周りに人がいるから安心できている面が多い。


『今は気を紛らわせる手段がないようだから、尚更、支えが必要だろう』

「まあ、退屈凌ぎがないと兄貴もきついからな。あの活字大好き人間が、書物を開くことすら満足にできないみたいだし。ずっと、痛みと向き合うだけの時間は、精神的に追い込まれかねないのは解らないでもない」


 九十九が溜息を吐いた。


 どの国に行っても、雄也先輩は時間があれば、本を読んでいる人だ。


 そこまで本が大好きな人が、本を開くことすらできないなんて……、かなりの苦痛かもしれない。


 本くらいなら、なんとかできないかな?

ここまでお読みいただきありがとうございました

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