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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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会合に向けて

「どっちだ?」


 部屋を出るなり、九十九はリヒトにそう問いかけた。


『ユーヤの方だ。シオリは機能麻痺の術とやらのおかげで、感覚そのものがほとんど働いていない。疲れても気付かないだろうな』


 ぬう?

 そうなの?


 当事者より、リヒトの方がわたしの状況を把握している。

 それはかなり助かるけど、少しだけ情けない気もするね。


「……ったく、あの意地っ張りで見栄っ張りなクソ兄貴め。きついならきついと、痛いなら痛いってちゃんと言えば良いのに」


 九十九は苦々しくそう言った。


『ユーヤは、ツクモの前では絶対に言わないだろうな』

「そうだろうけど……」


 どうやら、雄也先輩の身体がきつそうだったので、退出したらしい。

 彼は、そんな様子を微塵も見せなかったのに。


 でも、見せてくれなかったから、余計にその弟である九十九も苛立つのだろう。


『今頃は、激痛で突っ伏しているぞ』


 なんと!?

 そんなにきつかったの?


『ツクモが言ってただろう? 意地っ張りで見栄っ張りだと。あそこまで見事に隠されれば、大半の人間は気付けないだろうな』


 なるほど、心を読むリヒトならではの話だと思う。


 彼がいてくれて、本当にいろいろな意味で良かった。

 勿論、そんなつもりで連れてきたわけじゃない。


 結果的に助かっただけなのだ。


「つまり、この国の神官たちもそうだってことだ。『大丈夫だ』という兄貴の言葉を鵜呑みにして世話してると、苦痛にしかならねえと思う」


 ああ、そうか。

 それは困る。


 痛いときぐらい、痛いって言ってくれても良いのに。


『雄也が一言でも「痛い」と口にすれば、シオリは絶対に気にする』


 へ?

 ……わたしが?


『カルセオラリアの事情はともかく、ユーヤの怪我はシオリを護ってのことだ。だから、苦痛に顔を顰めていては、シオリの表情が曇ることを懸念? している』


 いや、痛いのなら心配するよね?


 それに……、痛みを隠されてしまう方が、余計に気になると思うのはわたしだけ?


「まあ、何にしても……、暫くこの国で休養させてもらわないといけないってことだな。いろいろ面倒ではあるが、見知らぬ人間や土地でもないところが救いだ」


 九十九が肩を竦める。


 確かにわたしたちは数ヶ月前まで、ここで世話になっていたのだ。

 ある意味、カルセオラリア城よりは気楽に過ごせる場所ともいえる。


 でも、リヒトにとってはカルセオラリア城に引き続き、初めての場所だ。


 何度も環境が変化してしまうけど、大丈夫だろうか?

 環境の激変って確か、かなりのストレスになるのではなかったっけ?


『俺のことは大丈夫だ。シオリは気にせず、まずは自分の身体を治せ』


 リヒトが優しく声をかけてくれる。


 気を遣わせて本当に申し訳ない。


「ただ……、中心国の国王たちによる会合がこの国で開かれるとは聞いた。あまり、落ち着いていられないことには変わりはないな」


 わたしたちに直接関係はなくても、不特定多数の人間が出入りすることになる。


 しかも、各国の王たちが来るということは、今まで以上に目立つことはできない。


「トルクスタン王子の話だと……、アリッサム襲撃の時に開かれたぐらいらしい。それだけ、稀な会議らしいぞ」


 そう言えば、恭哉兄ちゃんがそう言っていた気がする。


 アリッサム襲撃の時に集まったのが、確か、数百年ぶりだったとか?


『中心国の変動がそれだけなかったということだな。数百年前の議題はイースターカクタスをライファス大陸の中心国として認めるかどうか……だったらしい』

「数百年前……か。それにしても、便利だな、読心術」


 九十九が感心する。


『便利なだけなら良いけどな。この国も雑念が多い』

「雑念?」

『大神官の人気が異常……ということだ』

「あ」


 九十九は何かを察したらしい。


 大神官への想いを声に出して、叫ぶ人もいるような国だ。


 心の中ではどれだけの情念が渦巻いていることだろうか?


『加えて、「聖女の卵」という声も多い』

「……ああ」


 九十九がどこか疲れたような声を出す。


 しかし、「聖女の卵」か……。

 どんな声があるのだろう?


『……シオリは聞かない方が良い』


 ……何故に?

 ああ、わたしじゃなくてもう一人の方に対する意見かな?


 彼女はこの国の王子殿下の婚約者でもあるもんね。

 いろいろな意見はあるだろう。


「リヒト、後でその詳細をオレに寄越せ」


 だけど、九十九はそんなことをリヒトに言った。


『了解した』


 さらに、了承するリヒト。


 いや、なんで、二人だけで情報共有しようとするのでしょうか?

 わたしだけ仲間外れ!?


 そんなわたしの雰囲気を察したのか……。


「元青羽(せいう)の神官のような話を聞きたいならお前にも伝えるが?」


 九十九がそんなことを言った。


『謹んで辞退するそうだ』

「……だよな。以前に結構、払ったつもりだったが、そんな阿呆なヤツらがまだ存在しているのか」


 九十九くん?

 ……払ったってなんですか?


『神官は隠すことがうまいのだろう』

「なるほど……。燻り出す絶好の機会だな」


 なんとなく不穏な雰囲気が漂ってくる。


 中心国の国王たちが集まる会合とやらよりも、九十九がそちらの方に力を入れている気がするのは気のせいでしょうか?


『中心国の会合には俺たちは関係ないからな。シオリに実害がありそうな方を選ぶのは当然だろう?』


 実害……?

 そんなものがあるかもしれないのか。


 そうなると、確かにこれ以上は聞かない方が良さそうだ。

 藪を(つつ)いて蛇に睨まれても嫌だからね。


「そうだな。中心国の会合の方は、関わるとしてもトルクスタン王子ぐらいだ。その期間は、俺たちも部屋でひっそりと気配を消していれば問題ないだろう」

『ユーヤは興味を持っているようだがな』

「まあ、滅多に開かれない珍しい会合だというのなら、当然だろうな」


 中心国の会合……か。


 各国の王様たちが集まると言うのは興味がある。

 でも……、そこで、うっかり余計なことをしでかしてしまうのも怖いね。


 特に情報国家の国王。


 一度だけ声を聴いたことがあるけど……、少しの会話を漏れ聞いただけでも、相当の情報量だった。


 しかもわたしが怖いと思ったのは、この情報は既に知っているぞとさりげなく会話に混ぜてくるところだ。


 遠く離れた他国にいるというのに、数分前にあった出来事まで知っているとか、盗聴器でも付いているのではないかと疑ってしまうほどである。


 あの紅い髪の……、ライトはわたしやその周辺の人について、いろいろと調べているみたいだけど、情報国家の王は、恐らく、世界各国を同じように調べているのだろう。


 しかも、音声付きで。


 そんな人に目を付けられて、無事でいられるとは思えないし、その結果、セントポーリアの王子の前に突き出されることになることは絶対、避けなければいけない。


 あの王子は絶対に、情報国家にも探させているだろう。

 そんな確信がわたしの中にはあったのだった。


 そう考えると、中心国の会合なんて何事もないまま、とっとと早く終わってほしいと願うしかない。


 それが一体どんなものになるのかは分からないけれど……、それが一筋縄では行きそうもないことだけはなんとなく予想ができているのだから。


 わたしはこの時点で、既に気が重くて仕方がなかった。


 だけど……、まさかあんな出会いがあるなんて、この時のわたしも、多分、護衛である九十九も、これっぽっちも考えてもいなかった。


 この中心国の会合……、とやらは、あらゆる方向から、これまで甘えていたわたしの意識を大きく変えるものとなってしまうきっかけとなる。


 それは、結果として、九十九も雄也先輩も知らないところでひっそりと起こるわたしの中の変革。


 わたしが、()()の立場とその存在によって、大きく叩きのめされてしまうところから、全てが始まるのだった。

この話で、38章は終わりです。

次話から第39章「満身創痍」となります。


ここまでお読みいただきありがとうございました

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