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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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700/2804

変わった治癒効果

祝・700話!

「入るぞ~」


 そう言って九十九がわたしを抱えて移動した。


 大きく息を呑む気配がしたが、顔! 顔が見えてない!!


「……どういうことだ?」

「こいつが自力歩行どころか、まともに身体が動かせねぇんだからこうして移動するしかねえだろ?」

「動けない?」


 だから、顔が見えない!

 声は普通っぽいけど。


『無痛状態にするために一部の機能を完全に麻痺させているらしい。身体だけは完治しているユーヤと異なり、シオリは現在自己治癒能力が著しく低下しているため、そういった処置を施したそうだ。だから、声も出ない』


 え?

 この状態って、そう言うことなの?


 でっきり、この身体の異常は、怪我とかのせいだと思っていた。


「そうだったのか……、俺が付いていながら……」


 いや、これは雄也先輩のせいじゃありませんから!


「自己治癒能力の低下ってのが本当なら、オレが治癒魔法を使ったところで一緒だ。真央さんみたいにあんな反則的な魔法でも使えたなら別かもしれないけどな」


 そんなに凄い魔法だったのか。

 見れなかったのが少し残念だった。


『ユーヤが言いたいのはそう言うことではないのは、お前でも分かるだろ?』


 リヒトが呆れたようにそう言うが……。


「ああ。でも、一応……。オレがいても一緒だったってのは言っておかないとな」


 そう言わなければ……、わたしが気にすると、九十九は思ったかもしれない。


「お前がいれば、崩れてくる天井を避けるための盾が一つ増えただろうから、もう少しはマシだったかもしれないが?」

「オレは盾かよ!?」

「体力馬鹿にはお似合いの立ち位置だと思うが?」


 九十九との会話……。

 雄也先輩の言葉そのものはいつもどおりだと思う。


 でも、どこか違和感はぬぐえない。

 それがはっきりと分からないから、なんとなくなのだけど……。


『ツクモ……。その状態のままでは、シオリもユーヤもお互いの状態が見えない気がするが? 特にシオリの方は、お前の肩や胸元しか見えてない』


 な、なんか……それだけ聞くと少し、恥ずかしくなる。


 わたしは変態さんじゃないのに……。


「そういえばそうだな……」


 そう言って、九十九はわたしをゆっくりと足元だけ下ろした。


 形としては、九十九の右手を背もたれに、左腕に腰掛けている状態。


『重くないか……? だそうだが?』

「軽いと嘘はつきたくないけど……、まあ、短時間なら大丈夫だ」


 相変わらず正直な男だよね。


「椅子としては居心地悪いが、耐えてくれるかい?」


 ……と、雄也先輩の声が聞こえた。


 彼は、身体を起こしてはいた。


 だけど……、その周りはクッションで囲まれ、それらを背もたれ……、いや、支えにしている感じだ。


「みっともない姿をさらしてごめんね」


 そう力なく雄也先輩は笑った。


 みっともないなんてそんなこと思うはずがない。

 この状態はわたしを護ってくれた結果じゃないか。


 謝りたいのに、御礼も言いたいのに、素直に生きていることを喜びたいのに、どうして、今のわたしにそんな普通のことができないのだろう。


「でも……、栞ちゃんも無事でよかった」

「この状態を無事というかは謎だがな……」


 九十九の声が、さっきより近い。


『生きているのだから、無事だと思うが?』

「自己治癒の低下が見られた状態はある意味外傷がある状態よりタチが悪いんだよ。それだけ、基本的な生命力……、体内魔気が衰弱しているってことなんだからな」


 そうなのか……。

 身体の感覚がおかしいのは認めるけど、衰弱している自覚はあんまりない。


「体内魔気の低下は一時的なものだろうから、大丈夫だよ。ちょっと無理をしすぎただけだろうね」


 雄也先輩は自分もきついのに、わたしの心配をしてくれている。


 今の彼は弱々しい笑みなのに、どこか安心できるのが不思議だ。

 でも……。


『ユーヤ、シオリがお前の痛みの程度を気にしている』


 おおぅ。

 読まれた!?


 いや、話せないんだから本当に助かるけど……。


 でも、リヒトってちゃんと口に出していい言葉を選んでいるよね。


 それって結構凄いし難しいことだと思う。


 先ほどから言って欲しくない言葉はあまり口に出さなかったり、濁して伝えたりしてくれているのだ。


 そう思うと、リヒトが頬をかくのが見えた。

 なんか、ちょっとこっちも照れくさい。


「痛みか……、傷は確かにないけど変な感じだよ。首から下はまだ怪我が残っている気がしてすごく痛い」

「その割には平然としてるよな。もっとのたうちまわるかと思っていたのに残念だ」


 九十九が皮肉気に言う。

 だけど……、本心ではないのだろう。


 ……多分。


「お前とは精神の鍛え方が違う。この痛みが偽りのものだと分かっていれば、少しは耐えられるさ」

『少し……か。一番、痛むのはどこだ?』

「どこも痛いけど粉砕したはずの拳かな。背骨にも痛みがあるためか、大半を動かすことも出来ん。だが、頭の痛みがないのが幸いだ。この部分の痛みが残っていると眩暈と吐き気を伴うだろうからな」


 わたしは、転移門を使う直前に、彼が大きな塊に圧し潰されていたことを思い出す。


 その痛みがまだ残っているとしたら……?


 それに、あの時の雄也先輩の頭や顔も傷だらけだったから、本当ならまだ他の部分が痛んでいる可能性もある。


「痛みが残ってる……か。オレには分からない感覚だが、完治している以上、治癒系の魔法も効果がない。こればっかりは兄貴自身がなんとかするしかないな」

「当たり前だ」


 身体は治っているのだから、自己治癒が働くわけはないってことか。


 厄介だなぁ。

 瀕死から無傷で生還できるなんて、それだけでもかなり凄い魔法だとは思う。


 だけど、それならば、どうして、その感覚だけは残ってしまうようなそんな不思議な魔法なのだろう?


『大神官の考えでは、「身体の時を戻しているのでは? 」とのことだ』

「ああ、俺が受けた魔法のことか。真央さん本人に確認してないのでなんともいえないけれど多分、その仮説は正しいと思う。それならば多少の強引さも理解は可能だ」


 いいえ、理解不能です。


 とりあえず、正直な感想として……、なんじゃそりゃ?


『普通の治癒魔法は、自己治癒能力の促進や活性化。ある意味、身体の中の時を、進めているようなものだ。だが、マオの魔法はその真逆。傷のなかった状態に身体の時間を戻しているようなものなのだそうだ』


 要するに、傷を負ったときに、通常の治癒魔法ならば傷が治る一週間後になるけど、真央先輩の魔法はその傷を負う一時間前に戻るってことかな?


 結果は同じなのに、過程が違うってどこか不思議。


 ……ってちょっと、待って。

 その理論だと……。


『シオリが普通の治癒魔法を何度も受けると、早く「オバアチャン? 」になるのではないかと心配しているが?』

「何でだよ?」


 九十九が呆れたような声を出す。


『身体が未来に向かっているからだそうだ』

「自己治癒能力の促進ってのは身体の時間を進めるんじゃねえよ。栄養剤を飲んだようなもんだ。自分の身体の中にあるもともとの力の補助。魔界人は元々自己治癒能力が高いから、その力の後押しは楽なんだよ」


 あれ?

 そういえば、以前もそんな説明を受けた気が……。


「リヒトも『ある意味』と言っただろう。身体自身の時間を進めているのとは全然違うんだ。時空への干渉なんて、並の魔界人には無理だ」


 ああ、そういうことか。

 なるほど、真央先輩が並の魔界人じゃないからこそできるってことなのか。


 時空への干渉?

 SFの世界で言うタイプスリップやタイムリープってやつなのかな?


 なんて非現実な……とは、今更言っても仕方がないだろう。


 でも、身体の時を戻すって普通のSFとは少し違う気がする。


 ああ、でも……、有名な猫型ロボットが出てくるアニメの中にあった道具の一つに、そんな効果がある風呂敷があったような気がする。


 あの状態と似たようなものなのかな?

700話目にして、護衛・兄と再会。

メインは治癒魔法の説明になってしまったようですが……。


ここまで無事に辿り着けたのも、評価、感想、ブックマーク登録をしてくださった方々のみならず、お読みいただいている方々のおかげでもあります。

本当にありがとうございます。

これからも、精進いたしますので、今後ともよろしくお願いいたします。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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