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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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代わりになるから

「いろいろ言いたいことはあるんだが……、とりあえず最初に……、まったく、お前はどこまで迷惑掛ける気だ?」


 部屋から出た後、移動しながらもかなり苛立った声で、九十九は開口一番そんなことを言った。


これは長時間、お説教コースかもしれない。


 言葉が出れば、すぐに謝るのに!

 いや、彼は謝ったぐらいで許してくれないとは思うけど……。


『ごめんなさい……だそうだ』


 リヒトがわたしの心を通訳してくれる。


「それに、こんなお使いじみた小さなことに大神官を使うな。話を聞いているかもしれないが、大聖堂も城もいろいろ忙しいんだ。使うならいつものようにオレを使え」


 そんなことを言われても、声が出せない状態でどうしろと言うのだろう?

 それに、こんな運送作業まで、護衛の仕事だとは思えない。


「お前の手足が動かせないなら、オレがその手足の代わりになる。だから、お前はオレや兄貴以外の人間を使おうとするな」

『ツクモ……、シオリはまだ声が出ないようだ』

「あ?」


 そう言いながら、九十九がわたしに顔を近づける。


『近い』

「ああ、悪い」


 リヒトの声で、九十九は顔を近づけることをやめてくれた。


『俺は話せない人間の口の代わりになれる。だから、シオリは無理して口を開くな。お前の言葉は周囲に俺が届ける』


 リヒトはそんな言葉をかけてくれる。


 その優しさに素直に甘えさせてもらおう。


『だが、体格的にシオリを抱えて歩くのは無理だ。だから、仕方なくツクモに譲るしかない』


 どこか不服そうなリヒト。


 確かにまだ体格差があるから、そこは仕方ないけど……、そう言うリヒトは少し可愛い気がした。


「あ……とぅ」

「あ?」


 言葉にならなかったわたしの声に、九十九が聞き返す。


『ありがとう……だと』

「……そっか」


 九十九は納得したような声を出す。


 抱えられているため、距離がいつもより近い。

 そのためかは分からないけれど、どことなく彼の声が低く感じるのは気のせいだろうか?


 こう耳の奥に響いてくるような……?


『シオリ、今はまだ無理に話そうとしなくて良い』


 それでも、御礼ぐらいはちゃんと口にしたい。


『その心だけで良い』


 そう言って、リヒトは少し照れたように顔を逸らした。


「二人だけで会話するなよ。なんかムカつくじゃねえか」


 今度は九十九が不服そうな声を出す。


 でも、確かに仲間外れは嫌だよね。


「ああ、そうだ。あと……気にしているかもしれないから、先に言っておく」


 九十九のどこか改まったような低い声が、わたしの耳に届く。


「今回の件は、お前のせいだけじゃないから」


 そう彼は言った。


「ウィルクス王子殿下が死んだのはほとんど自業自得だし、兄貴が死に掛けたのも兄貴自身の選択によるものだ。カルセオラリア城の崩壊に至っては、魔法の不自由なお前一人でできることじゃない。だから、お前が気にする必要は全然、ねぇからな」


 これって……、九十九なりに慰めてくれているのかな?


「ただし、それでも反省はしろよ。兄貴やリヒトが行ったとき、もっと危険なところへ向かったって言うじゃねえか。そんな阿呆なことを何度もされたら、オレたちだって身体がもたねぇ。お前のための護衛だが、人並みに命は惜しいんだからな」

『それなりに反省しているそうだ』

「それなりかよ」


 九十九がどこか納得いかないようだ。


 本当に反省はしている。


 だけど、同じような状況になった時、絶対に、飛び出さないでいられるか? と問われたら、はっきりした答えを返せないのだ。


『ツクモ、言葉を続けろ。それは一応、言っとけ』

「……分かってるよ。……ってか、オレの言葉を止めたのはお前だろうが」


 リヒトに促され、九十九が不意にこんなことを言った。


「あ、兄貴を……その…………助けてくれて……ありがとう」


 のわ!?

 九十九が、雄也先輩のために御礼を!?


 しかも普通に?


 顔!

 顔が見たい!!


 一体、あなたは今、どんな顔してその言葉を口にしたの!?


『ひどい言われようだな』

「……そうなのか?」


 わたしの心を読んだリヒトが呆れたように言った。


 うん。

 自分でもそう思う。


 彼のお礼の言葉に対して、出てきたのはそんな思考なのか? と。


『だが、自分は何も出来てないそうだ。それどころか瀕死状態に追い込んだのは自分だと言っているが?』


 リヒトが細かく通訳してくれる。


 言葉に出せない現状では、本当に助かる。


「ば~か。瀕死状態になったのは兄貴自身が選んだだけだって言ってるだろ? これから会う本人だっておんなじようなことを言うはずだ。それに……、お前じゃなければ、あの状況でこの国に運ぶことなんて出来なかったはずだ」


 でも、非常口として、転移門を使うことを選択したのは雄也先輩だし、そこまでわたしを運んでくれたのも彼自身だった気がする。


『俺は、あの状況でも声が聞こえた。少なくとも、シオリの強い声だけは転移の直前まで聞こえていた。転移の発案はユーヤかもしれないが、行動に移せたのはシオリの強い精神力があってこそだと思う』

「しかも行き先がストレリチア……。避難所と援軍要請には最適だ。普通、パニクった状況なら、自国……母親のいるセントポーリアを選択してもおかしくないとオレは思っていた」


 確かにパニクっていた。


 だが、あんな神さまに祈りたくなるような状況で……、頼れそうな人間はそう多くない。


『あの状況で、一番頼れるのは大神官だと思ったそうだ』

「意外と冷静な判断も出来たんだな」


 なんだと?


『怒っているぞ』

「本当のことを言われて怒るなよ……。まあ、その我の強さ……、思い込みの強さなら魔界一だろうからな。次点は若宮あたりか……」


 そこで思い出す。


 あの時……、わたしは確かに九十九の言葉を思い出したのだ。


 そして……?

 どうなったんだっけ?


 う~ん?

 どうも記憶がまだ曖昧というか、思考回路が絶賛混線中というか?


『シオリが混乱しだしたぞ』

「……なんでだよ?」

『シオリの思考は常にあちこち飛ぶからその理由までは分からん』


 そんな会話をしている間に、九十九が足を止める気配がした。

 どうやら、目的地に着いたらしい。


 雄也先輩の状態……。


 恭哉兄ちゃんから少しだけ聞いたけど、身体の状態と自分の感覚が一致していないって話だった。


 でも、それが具体的にどういう状態なのかは良く分からない。


 何でも、怪我が治っているはずなのに、「痛い」って、身体の記憶が覚えているそうだ。

 思い込みに似たようなものかな?


 でも、本物の痛みではないのに、それがそんなにきついものだろうか?


『雄也の状態は、かなりきついようだ。俺は心を読めてしまうから、思わず制御石を外したくなるぐらいだな』


 リヒトが言うなら相当かもしれない。


「……身体は今のお前と同じでほとんど動かせてない。だけど、口だけはいつもと同じかそれ以上に達者だよ。ムカつくよな」


 ……話ができるだけ、わたしよりもマシな状況かなのかな?


 いや……、痛みを紛らわせるために、話しているかもしれないのだ。

 それぐらいのことは彼はするだろう。


『ユーヤもシオリの無事をその目で確かめたがっていた。だから、ちょうど良い』

「だけど、少しでも無理していると判断したら、元の部屋に戻すからな。こちらには()()()()()()()から誤魔化せないと思え?」

『俺に妙な名称を付けるな』


 そう言いながら、九十九に替わってリヒトが扉を叩いた。


 九十九はわたしを両手で抱えているから、腕を動かせないのだ。


 それって、護衛としては大丈夫か? と思われるかもしれないが、九十九はその気になれば、わたしを肩に担ぎながらも素早い移動ができる。


 今回は、珍しく「お姫さま抱っこ」での移動という手段だが、基本的に彼は、わたしを荷物扱いすることに抵抗がない護衛だ。


 ……なんとなく、悲しくなるのは気のせいだろうか?


 そして、布団が掛かったままなのはある意味、良かった。

 流石に異性にお姫さま抱っこをされて通路の移動はかなり恥ずかしい。


 いや、傍目には……、白く巨大な饅頭が運ばれているようにしか見えないかもしれないけど。


「どうぞ」


 目の前にある扉の奥から聞き慣れているはずの声がした。

 そのことに、酷く胸が騒いだことが分かる。


 ほんの数日振りだというのに、その声は、どこか懐かしい気がしたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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