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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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黒髪少女、危機一髪

「もう一つの理由として、カルセオラリア国が中心国であると認定された理由です」


 恭哉兄ちゃんは言葉を続ける。


 認定された理由?

 そんなものがあるのか。


「ご承知の通り、我が国は法力国家として認められました。アリッサムから中心国の権限移譲をしたクリサンセマムは、輸送国家の評価が認められたようですね」


 ぬ? 「輸送国家」?


 頭の中に、大型トレーラーが走り出す。

 もしくは貨物列車?


 同じ大陸にあったアリッサムの「魔法国家」と比べてなんか……、どこか中心国として地味な印象があることは間違いない。


「大事なことですよ? どの国でもクリサンセマムのお世話になっているはずです。定期船の航路などを含めて、人や物を輸送する時は、一般的な国民はクリサンセマム国が用意しているルートを利用しますね」


 ああ、定期船とかもその国が運営しているのか。


 確かに交通ルートの確立は大事だけど……、あれって、各国が独自にやっているのかと思っていた。


 それに、移動は転移門もあるし……。


「転移門は城内にあり、王族の許可がないと使用はできません。神官たちが使用する聖運門も、その聖堂を護る神官の許可をとる必要があります。どちらの移動にしても一般の国民には敷居が高いものであることに変わりはありません。それに、大量の物資搬送にも向いていませんね」


 言われてみれば、人が物を持って移動するには限度もある。


 この世界には収納魔法や召喚魔法があるけれど、皆がそれを使えるわけでもなく、その容量だって無限ではないらしい。


 わたしの周りにいる人たちはちょっと規格外が多すぎるだけだ。


 そう考えると、あまり意識したことはなかったけれど、物流にも関係する交通機関って凄く大事なんだね。


 でも、魔法使いなのだから魔法でぽんと運べそうな気もするのだけど……。


「不特定多数のものを移動させるには、転移魔法でも限度がありますし、基本的な範囲も限られます。ましてや、大陸間の移動となると、交通機関を使用したほうが合理的だと思いますよ?」


 そっか。

 大陸間移動なんて普通の魔界人には難しいって聞いた。


 水尾先輩だって、一度しか出来てないと言っていた。


 魔法国家の王女ですら一人が移動するのがやっとなのだから、普通の人には不可能に近いかもしれない。


「話がそれましたね。そのように中心国を位置づけるには、どの国も認めるほどの特色があることが前提となります。それも、できるだけ突出している必要がありますね」


 そういうことか……。


 ストレリチアは「法力」。


 アリッサムは「魔法」。


 セントポーリアは確か「剣術」。


 そして、その新しいところも「輸送」という特徴があるのだ。


 そして、カルセオラリアは……。


「カルセオラリア国の最大の特徴は『機械』……。古くより、様々な機械を生み出してきたと言われています。しかし、あのように崩壊している状態で、再び盛り返すのは難しいと思われるかもしれません」


 うぬぬ……。

 恭哉兄ちゃんの現実的な意見に、返す言葉を思うことすら出来なかった。


 この大神官な人に対抗するほどの頭脳は元より、魔界の知識もないわたしが、異見なんて持ち合わせているはずもない。


「言い替えれば、中心国を納得させるほどの材料がカルセオラリア国にあれば、中心国存続は可能だということです」


 おお!

 そういうことか。


 ちょっとした光明が見えた気がする。


 過程はどうであれ、結果としてわたしが崩壊に関わってしまったのが事実としてある以上、それが原因で一つの国が格下げ状態となるのは望むものではない。


 わたしが被った迷惑を差し引いても、その代償が国なのは釣り合わないと思う。


「……かえって、余計なことを考えさせましたか?」


 やっぱり、心、読まれている気がします。


 それも、長耳族であるリヒト並みに一言一句しっかりと。


「私としては、余計なことを考えずにゆっくりと休まれる方を望みます。貴女を心配している方が一人や二人ではないのですから」


 ……それは分かっているのです。


 でも! これは! わたしの! 性分なのです!!


「私からの話は以上となります」


 恭哉兄ちゃんはそう言って、いつもの大神官の表情に戻った。


 なんと言うか……、本当に濃い話だったと思う。


「あと、神官は自分の身体や心、命を大切にすることを第一に学びます。ですから、どんな事情があっても自ら命を絶つという行動そのものが理解できない者も多いことでしょう。ですが、万一、そのことで貴女方にまで心無い言葉を口にする人間がいたら、報告をお願いしますね」


 ああ、やっぱりそうなのか……。


 人間界の基督(キリスト)教も、自殺を禁じていたのと同じように、この国もそんな決まりがあってもおかしくない。


 それに……、仏教で言う死の穢れ……黒不浄みたいなのもあるかもしれないのだ。


 そうだとしたら、そう言った意味でも、厄介ごとが舞い込んだような状態?

 うわぁ……、どこまでわたしは傍迷惑なのだ?


「何故か、またぐるぐると思考が回っているようですが、ウィルクス王子殿下がこの国で死を選んだことについては、貴女の責任にはなりません。それどころか、貴女たちの身が危険な時、我が国を頼ってくれたのは私としては嬉しいですよ」


 恭哉兄ちゃんはたまに厳しいけど、基本的にはやっぱり優しいと思う。


 今、涙が出るなら大泣きしてしまったかもしれない。


「出来る限りの手助けは致しましょう。貴女は、私の恩人ですからね」


 恩人って言われるほど何かした覚えはないのだけど……。

 基本、わたし自身は何もできてないのだ。


 そんなことを考えていると恭哉兄ちゃんはにっこりと微笑んだ。


「それで、これからどうされますか?」


 は?

 思考停止……1秒、2秒?


「一命を取り留めた雄也さんにお会いしますか? 私の言葉だけでは不安でしょうから」


 はい!


「栞さんは、本当に素直な方ですよね」


 そう言って、恭哉兄ちゃんはわたしに向かって、手を伸ばし……。


「御無礼致します」


 そう言いながら、ひょいっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ……ってひょいっ?

 それもお姫さま抱っこ!?


「病床の身に等しい方を連れまわすのは私の本意ではないのですが、このまま放っておくと、貴女は無茶をされますからね」


 涼しい顔しているけど、結構、重いですって、わたし!


 恭哉兄ちゃんって……、細く見えるのに、結構、力持ちさんだよね。


「それとも、九十九さんをお呼びしましょうか? 立場的にはその方が好ましいとは思いますが、あの方も疲弊されていたようですので……、」


 疲弊……、疲労ではなくて……、疲弊……ですか。


 そんな状態にあるのに、彼を今、あまり呼び出したくはない気がする。


 それに、お兄さんを瀕死状態に追い込んだ原因なのに、平気な顔していられるほど、わたしの神経は鋼鉄で出来てない。


 だが、この大神官にお姫さま抱っこという状態も精神的には良くない。

 万一、ワカに見つかったら雪女張りの笑顔を届けられそうな気もする。


「姫は気にされないと思いますが、栞さんのお気遣いも分かります。どうしても私では嫌だとおっしゃるなら他の神官に頼むという手もありますが……」


 う~ん。

 それが一番マシな気がしてきた。


 知らない人に運ばれるというのは抵抗がないわけではないけど、これも医療行為だと割り切れば平気な気がする。


 そんな風に考えていた時だった。


ドンドンドン


 この国には似つかわしくない音が聞こえた。


「どうぞ」


 そう言って、恭哉兄ちゃんは私を抱えた状態のまま、普通に返事をする。


 ……ってこの状態を人にさらすのはあまり良くない気もする。

 この国で、大神官は、神官たちの間でかなりの偶像崇拝の対象だったはずだ。


 それに、気のせいか大神官がクスリと笑ったような気もした。


「失礼致します」

『失礼します』


 ……ほぼ同時に重なった声。


 そこにいたのは二人の黒髪の少年。

 九十九とリヒトだった。


「またウチの主人がご迷惑をおかけしているみたいですね」


 なんか、主婦みたいな口調の九十九。


『シオリの移送はツクモがします。貴方を含めた神官たちも暇ではないのですから、わざわざ、他国の人間のために手を煩わせる必要はないでしょう』


 おお、リヒトが敬語を使っている。

 言葉も勉強できているね。


 わたしがそう思うと、リヒトの表情が和らいだ気がした。


「そうですね。私もそれが一番だと思いますよ。でも……、大丈夫ですか?」

「大丈夫です。この主人に振り回されるのは馴れていますから」


 そう言葉を交わしながら、大神官はわたしを九十九に渡した。

 一瞬だけ沈んだけど、すぐに持ち上げられる。


 ……気まずい。

 ひたすら、居心地が悪い。


 九十九の顔が見えるわけではないのに、雰囲気がなんか……勝手が悪い。


 今、わたしが動けるなら今すぐ、どこかの黒髭な海賊さんのようにすぽーんと脱出したくなるような……、そんな針の筵みたいな感じ。


『とりあえず、ユーヤのところだな』

「それでは、これで失礼します」

『失礼します』

「では、また……」


 そう言って、わたしたちは部屋から出たのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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