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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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共通した思い

「――――以上が、貴女がこの国へ来てから、この聖堂や城内で起きた出来事です」


 大神官はそれを結びの言葉とした。


 言葉も……出ない。


 いや、うん。

 今のわたしの口からは単語すら音として出せないということが正しいのだけれど。


 わたしと雄也先輩、ウィルクス王子は大聖堂の転移門、「聖運門」から転がり出たらしい。


 普通、「聖運門」を使用する時には、その聖堂を管理する神官から通信珠で先触れ……、のようなものがあるのだけど、今回はそれがなかった。


 わたしたちは、カルセオラリア城から転移門を使ったのだ。


 それが、ストレリチア城内の転移門ではなく、大聖堂の聖運門に通じたのは……、使用者であるわたしのせいだろう。


 わたしはあの時、法力国家ストレリチアという国ではなく、大神官である恭哉兄ちゃんに助けを求めたのだから。


『城が崩れる時、一陣の風が神の国への扉を開く』


 以前、そんな言葉を聞いていた。


 それが誰に対しての言葉なのか。

 何を表しているのかもよく分からない。


 そんな呪いのような予言。


 その予言がこのことを指していたのかも、わたしには分からない。


 だけど、この世界では、神官や神女(みこ)が亡くなった人間の魂を、迷わぬように「聖霊界(あの世)」へと案内する。


 魂だけとなった存在はその世界への扉を潜り抜けられるが、生きている人間はその扉を通り抜けられない。


 そして、その世界の扉を開くことができるのは、神に認められた人間のみ。今の世ではただ一人。


 日頃、神に祈りを捧げるほど、わたしは信心深くもない。


 「聖女の卵」とか言われても、そんなの勝手に周りが言っているだけだ。

 神さまはわたしを救うよりも、呪いを掛ける方だということも知っている。


 だけど、あの瞬間。

 わたしは間違いなく、何かに祈った。


 ―――― ()()()()()()()()()()()、と。


 わたしを助けてくれる人間なんてそう多くはないけど……、それでも、昔よりは増えたと思う。


 昔は、母親だけだったのに、いつの間に、わたしは別の人に助けを求めるようになったのだろうね。


 先触れがなく、聖運門が使用された気配に反応した大聖堂の管理者である大神官が、その確認に向かうことは自然な流れだった。


 そして、そこで発見されたのは、あちこちに怪我を負った血みどろの三人の姿。


 それはさぞかし、大神官の肝を潰したことだろう。


 数ヶ月前に旅立ったわたしが、自分の護衛と他国の王子を連れて、聖運門から文字通り転がり出たのだから。


 その時、大神官の姿を見たわたしは、ただ一言、「カルセオラリアを助けて」と言って、ぶっ倒れてしまったらしいが、正直、そんなことまで覚えていない。


 自分がズタボロになっている状況で、そんな別の場所を心配するような余裕があったことに驚いているぐらいなのに。


 それでも、そんな状況と、拙いわたしの言葉だけで事態を察してくれた恭哉兄ちゃんは、すぐに動ける神官たちを集めて、カルセオラリアの聖堂へ向かってくれたそうだ。


 あの場にカルセオラリアの王子であるウィルクス王子を連れていたことも、状況把握する理由の一つでもあったのだろう。


 下手に言葉を重ねるよりはずっと説得力もあったはずだ。


 大神官が神官たちを動かすのに、王族の許可は必要としない。


 他国は人を集めることに面倒な手続きを必要とするが、独自ルールで動ける神職者たちは最高位にある大神官の言葉だけで良い。


 動くために詳細な事情の説明をせずとも、彼の意思とその決定に従うのだ。


 恐らくは、どこの国よりも最速で救助隊が駆け付けることができただろう。


 そして、雄也先輩が言っていたとおり、カルセオラリアは城だけではなく、城下も半壊していたらしい。


 そのために怪我人もわたしが想像していたよりも遥かに多かったそうだ。


 城だけではなく、城下まで巻き込むような事態になることを、あの時、ウィルクス王子は知っていたのだろうか?


 そして、城下では救出作業が続けられ、怪我人たちは比較的被害の少ない場所に集められ、処置を施されていたらしい。


 カルセオラリアは機械国家。


 もともと魔法が不得手な人間が多く集まっているため、適性が必要だとされる治癒魔法に至っては、その使い手がいなかった。


 聖堂を守る神官も、カルセオラリアに関しては、各国の聖運門を保守点検する技術者の色が強く、まあ……、驚いたことに、治癒術は使えないそうだ。


 そんな状況で、ただ一人、治癒魔法を使い続けていた少年がその場にはいた。


 その話を恭哉兄ちゃんから聞いた時は、わたしは彼のことを誇らしく思ったし、同時に凄く嬉しかったのだ。


 確かに護衛としては評価が分かれるところかもしれないし、当人も迷ったことだろう。


 彼は護衛対象であるわたしの救出、救護をすることよりも、他国の人間たちを守ることを選んだのだから。


 だけど、わたしは以前、彼に言ったことがある。

 やりたいことがあれば、自分(わたし)よりもそれを選べと。


 その時、彼は、それを否定したけれど、それでも……、「人を救いたい」とも言った少年が、目の前で倒れている人たちを見捨てることなどできるはずもない。


 いや、寧ろ、怪我人たちを見捨てる方がわたしは怒ったと思う。


 口先だけで、人を救うための「薬師になりたい」なんて、ふざけたことを抜かすな……と。


 恭哉兄ちゃんの話では、その場所では、他にもトルクスタン王子やメルリクアン王女、水尾先輩たちも頑張っていたらしい。


 王族として、民を守る意識はあっても、そんな直接的な救護処置など、あまり慣れていないはずなのに。


 それぞれの場所で、それぞれの戦いがあった。


 わたしが雄也先輩に助けられていた時、少し離れただけの場所では、そんな光景が広がっていたのだ。


 その場にいても、わたし自身は恐らくは何もできなかったと思うけれど、その場に立ち会えなかったことを悔しく思った。


 そこで、駆け付けた神官たちによる救助隊をおき、重傷者の身内である九十九とトルクスタン王子、そして、真央先輩だけをストレリチアへ案内した。


 彼らを送り出した後、メルリクアン王女やその場にいた人間たちに事情を聞き、神官たちに指示を出していたら、ストレリチア……、大聖堂より、恭哉兄ちゃんに帰還命令が出たらしい。


 そして、大聖堂に帰還後に、ウィルクス王子の悲報を聞かされることになった……と。


 ……それは、かなりショックだったと思う。


 大聖堂に、わたしたちが現れた後、恭哉兄ちゃんは、神官たちを招集している間に、別の神官たちにも指示を出していたそうだ。


 そして、怪我をしていたわたしと雄也先輩は「迷える子羊」として、大聖堂の客室へ運ばれた。


 だが、同じように怪我をていたが、他国の王子という身分上、ウィルクス王子は城内にある賓客室へと運ばれることとなったのだ。


 それらを見届けた後、大神官は動ける神官たちを連れてカルセオラリアへ向かった。


 そこまでは良い。


 ここまでが何の問題もない対応……、寧ろ、そんな短い時間でよくそれだけの判断をしたと褒められても良いほどである。


 ところが、大神官が戻るまでの時間に、ウィルクス王子が目覚め、傍に付いていた神官の隙を突いて、自らの所持品である日本刀で斬首するという、自殺にしてもかなり激しすぎる方法を選んだ。


 そんな光景を、うっかり見届けさせられることとなった神官が倒れてしまったそうだから、わたしが想像しているより、もっとずっと凄惨な現場だったと思う。


 だが、あの人は何故、自分で首を斬ったのだろうか?

 しかも、日本刀なんて……、そんな刀なんて持ってなかったと思う。


 わたしは、あの人の背中や身体のあちこちに触れたのだ。


 いや、変な意味じゃなくて、運ぶ時や引っ張る時ですよ?


 それに、一度、かなりでかくて重い塊に、その身体ごと圧し潰されたりもしたのだ。


 並の日本刀なら耐えらず、ポッキリいくだろう。

 日本刀は切れ味重視だけど、衝撃には弱いって漫画で読んだことがある。


 お芝居や漫画でよくある、刀を合わせるなんて、現実にはとんでもない話らしい。

 切っ先などが欠けてしまうそうだ。


 いや、落ち着け?

 魔界人は召喚魔法が使える。


 さらにカルセオラリアは空属性。

 空間魔法が得意な国だ。


 だから……、何らかの手段で隠し持つことは可能かもしれない。


 あれ?

 でも……、カルセオラリア製の物質には魔法が効かないのではなかったっけ?


 う~ん?

 混乱してきた……。


 だが、問題はそこではない。


 何より、首を掻っ切るなんて、自殺としても異常だろう。

 いや、「掻っ切る」なんて可愛らしい表現じゃすまなかった。


 首がすっ飛んだ。

 そんな話は漫画でしか見たことが無い。


 腹を切ったり、喉を突いたりするような自殺は聞いたことがあるが、自分で自分の首を落とすって、普通の神経や並の筋力では難しいだろう。


 躊躇いもなく抜刀しても……、普通は首の骨で勢いが止まる……気がする。


 首の骨は、確かにずれやすいけど、硬くて、刀ではかなり斬り(にく)いと、漫画で読んだことがあった。


 自分の首はおろか、人の首など刎ねたこともないから、それが本当かどうかまでは分からないのだけど。


 そうなると……こっちも魔法……か?


 でも、この国には害意に対して反応する結界がある。

 しかも、彼が案内されたのは城内だったらしい。


 そうなると、この国で一番強固な結界があったはずだけど……。


 ああ、わけが分からない!!


 そう叫びたかったのは、恐らくわたしだけではなかっただろう。


 巻き込まれるように、関わることとなってしまった全ての人間たちに共通した思いだったのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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