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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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等しい価値とは

本日二話目の投稿です。

 オレは再び、担ぎ上げられた。

 しかも、今度は男の肩に……。


 いや、どんな状況だよ、これ?!

 そんな阿呆なことを考えていた時だった。


「お()めください!」


 その場に通る高い制止の声。


 銀髪の王子はオレを抱えたまま、その声の主へ向き直る。


「メルリクアン王女殿下……か……」


 呟くような声で、オレはその声を発した人物を知る。


 これまで、その声の主は、オレに対して囁くような小さな声しか発していなかったのだが、これほど大きな声を出せたのか、と思った。


「これだけの声が出せる……とはな」


 どうやら、このクソ……いや、この王子も同じ考えだったようだ。


「そ、その方は、今、この場にいる人たちの支えです! あ、貴方が、どれだけ手を尽くしても、その……方の、身柄と、等価になるような、援助はありえません!!」

「メルリクアン王女殿下……。トルクスタン王子殿下だけではなく、貴女もこの男に価値を見出しているのか?」


 王子の問いかけに対し……。


「そ、そうだ!」

「王女殿下だけじゃない!! 俺たちもだ!」

「彼が助けてくれなければ、もっと酷かった!」

「お、おれの傷も……塞いだ」

「私の夫も、治して、くれた……」

「お願いだから、奪わないで!!」

「メシ、美味かった!」


 次々と周囲から別の声が上がる。

 その声は爆発的に広がっていく。


 この国は……、情報国家の王子の言葉に真っ向から反対の意思を示した。


「大した人気だな、色男」

「そう思うなら降ろしてください」


 こうなってしまえば、オレも簡単に連れ去られるわけにはいかなくなった。


「阿呆。この国の国民自らが、お前の価値を示した。ここで、俺が手放す理由はますますなくなったわけだな」

「そう言う台詞は女性にこそ言われたいです」

「同感だ。俺も男よりは女を担ぎたい」


 そう言うなら、この肩から素直に降ろして欲しい。


 心底そう思う。

 これは、何の苦行だ?


「しかし、王族だけならともかく、機械国家そのものを敵に回すのは面倒だな。魔力は弱いが、技術だけはある国だ。転移門を封じられたら、我が国には大打撃となる」


 なるほど……。

 確かに転移門は機械国家独自の技術だと聞く。

 他にも他国にはない技術も多い。


 だから、機械国家は魔力が弱くても中心国であり続けられた。


 確かに国の建物は半壊に等しいが、それでも、技術は国民たちの頭やその手に今も残っている。


 こうなれば、どちらも引くに退けない状況というやつだ。


 オレとしては……、頼むから面倒ごとに巻き込まないでくれ……と言うのが本音だった。

 確かに、ここまでオレ自身を求められたことは初めてだと思う。


 だけど……、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 水尾さんは、リヒトに任せた。

 だから、心配はいらない。


 その他のことについては、トルクスタン王子が思ったよりもしっかりしているようだから大丈夫だろう。

 

「変な男だな」


 銀髪の王子が呟くように言う。


「これだけ分かりやすく素直に慕われても、感情を動かさない」


 オレのことを言っているようだ。


「もっと大事な人間がいますから……」


 それ以上に大事なものはない。


 本当なら、今すぐこの男たちを振り切って、飛んでいきたいのを必死に抑えているだけだ。


「女か」

「男ではないですね」

「良い女か?」

「悪くはないですよ」


 間違いなく悪いヤツではない。


 しかし、「良い女」かと言われたら……難しくはある。

 勿論、そんな顔をこの場でできるはずはないが。


「一人に縛られるヤツの気しれんな」


 そんなのは個人の自由だろうとは思う。


 逆に不特定多数を相手にする方が、怖いと思うのはオレだけか?


「避妊さえすれば、何も問題はないというのに」


 割と、とんでもないことを口にする王子殿下。


 尤も、魔界の避妊方法ってやつはかなり怪しいけどな。

 オレは思わず笑いが出そうになる。


 元々、この世界は医学を本格的に研究していないのだ。

 そのために、人間界の民間治療以上に眉唾物な話もよく聞く。


 その中でも、一番浸透してしまっているのは、男女問わず初めてでは妊娠しないというやつか。


 かなり、危険な考え方だよな、それ……。


 まあ、相手は情報国家の王子様だ。

 一般人のオレよりは、そういった知識も良く知っているのだろう。


 そう信じたいところだ。


 それに、王子が婚外子を孕ませるなんて、醜聞も良い所となる。


 ただの醜聞ならざまを見ろ……と思うが、相手のことを考えれば……あまり喜べない話だよな。


 それにしても……、情報国家の王子はこんなタイプだったのか。

 どこか、兄貴に似ていたような気がしたのは気のせいだったようだ。


 兄貴はここまで迂闊ではない。


 そして……、この手の男なら、高田は絶対に惹かれることはないだろう。

 そのことに思わずホッとしてしまう。


 彼女は軽い口調の男は平気だが、心まで軽く浮ついた男には分かりやすく嫌悪と侮蔑の顔を向ける。


 そして、それは、自分に好色な瞳を向ける異性に対しても。


 ストレリチア城にいた時、彼女は高神官より、好意を向けられた。

 それ以降も、いろいろあったのだ。


 彼女は、「聖女の卵」となった。

 それに対して邪な想いを向ける神官や信者も少ない数ではなかったと思う。


 人間が多く集まれば、綺麗事ばかりの世界ではない。


 いつもの彼女に対してはそんな目を向けられなくても、「聖女の卵」として着飾れば、好奇の目に晒されることも多い。


 次第に敵も味方も増えていく。


 護衛としては、幸いなことに、彼女は自身に向けられる悪意や害意、敵意に関して、かなり敏感であった。


 その点は、正直意外であったが、それだけ、出会った人間たちに、彼女の敵が少なかったのだろう。


 そこで、気付いたのは、ずっと無防備だと思っていた彼女は、実は、かなり警戒心が強いということだった。


 言葉を向ける人には言葉を。

 善意を向ける人間には善意を。

 偽善を向ける者には笑みを。

 そして、害意を向ける相手には自ら鉄槌を。


 虫も殺さぬような呑気な顔をしておきながら、一度、敵として認識すれば叩き潰す。


 しかし、一番、厄介な点は、敵と認識した後でも、自身の気が済めばそれらを全て、忘れたかのように振舞う点だろう。


 ある意味、敵も味方もない考え方だった。


「一人でお腹いっぱいになったことがないのですね」


 気が付くと、そんなことを口にしていた。


「何だと?」


 銀髪の王子は不思議そうな声で問い返す。


「たった一人に振り回されるだけで、私は手一杯です。二人も三人も面倒を見きれる気がしません」


 本当に笑えるぐらい、自分勝手な女。

 それだけで、オレは十分だ。


 もう、勘弁してほしいと思うぐらい。


 そんなオレをどう思ったのか……。

 銀髪の王子はフッと口元だけで笑った。


 なんとなく嫌な予感がする。


「その辺りの感情は、俺にないものだな。ますますお前は面白い」


 オレは面白くねえ!

 そして、いい加減に、下へ降ろして欲しい。


 いつまでも、担ぎあげやがって……。


 このままでは、特に深い理由もないまま、オレは情報国家に連れ去られてしまうだろう。


 確かに、抵抗すれば、この状況から逃げられなくはなさそうだが、いくら何でも、それは悪手過ぎる。


 自分だけならそれでも良いが、この場にはオレ以外の存在もあるのだ。


 情報国家に目を付けられると面倒なのは、オレだけではない。


 オレの迂闊な行動で、リヒトや水尾さんにまで何かあったら、彼女に顔向けができなくなってしまう。


 手詰まりとまではいかないまでも、打つ手は限られてしまった。


 最悪の状況は、隠しておきたい全ての存在が情報国家に露見すること。

 だが、流石にそれはない。


 誰かがうっかり余計なことを言わない限り、全部がこの男にバレることはないだろう。


 次にオレにとって最悪の事態は、高田が情報国家に見つかること。

 でも、当人がいないので、それもありえないだろう。


 水尾さんやリヒトに興味を持たれることもない。

 このまま、大人しくしてくれたなら。


 それは、リヒトがいれば、ある程度はなんとかなる。


 オレのことは……、あまり良くもないが、少なくとも拷問を受けるわけではないだろうし、尋問にしても、兄貴よりは手ぬるいだろう。


 この王子が情報国家の最高基準であれば……、の話ではあるのだが。


 そう思って、オレは覚悟を決めることにした。


 悪いが、リヒト……、水尾さんは頼んだ。


 すっげ~、嫌そうな顔をしているかもしれんが、今はこれしかないことは、分かってくれるだろう?

 

 最初の約束が守られれば、治癒魔法の使い手は置いてくれるだろうし、援助もあるならこの国もなんとかなるはずだ。


 情報国家は目を付けられると大変厄介な国ではあるが、決して嘘を許さないし、嘘は吐かない国だとも聞いている。


 だから、始めの約束が有効であれば、この国は救われることだろう。


 だが……、オレの読みは、いつだって少しだけ外れてしまうのだ。


「チッ」


 すぐ傍で、銀髪の王子が舌打ちをした気がする。


「厄介なヤツが現れやがった……か」


 その言葉で、オレもその気配に気付いた。


 ここにいるはずのない人間。

 こんな所に現れるはずがない存在の気配を感じたのだった。

次話は本日22時投稿です。


ここまでお読みいただきありがとうございました

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