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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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物が多すぎて

 さて、困った。


 上から、笑えるぐらい無遠慮で容赦なく崩れてくる天井と、その破片の数々。


 これでは、仮に傘があっても防ぐことすらできず、すぐにポッキリと折れてしまうことだろう。


 何より、自分が落ちた場所と違って、この周囲は真っ暗で明かりが届かなかった。

 通信珠は……、全く光る様子がないから、通じない場所だと考えるべきだろう。


 そもそも、この場所に出入り口があるかどうかも分からない。


 さっきまでわたしたちがいた場所は、確か、城の地下だったのではないっけ?


 いや、あの水槽が並んだ実験室のような場所が、実は地下ではなく、城の二階とか三階とかという可能性は……やっぱり、ないか。


 落ちた場所でそのまま、ウィルクス王子は気絶したらしく、探すのに手間取らなかったことは幸いだった。


 下手をすれば、わたしが勢いよく穴に飛び込んで着地した場所が彼の真上であってもおかしくないような状況でもあったのだ。


 一歩、間違えれば、わたしがうっかりトドメを刺すところでもあった。

 そんなことになっていれば、もはや、コントでしかない。


 助けに来たぞ~、ぐしゃっ! ……なんて、ネタとしても酷すぎて笑うことができないと思う。


 わたしは、彼を肩に担いだ上で、さらにあのライトから貰った黒いマントを召喚し、頭から被ってみる。


 少しばかり不格好ではあるけど、見ている人がいるわけでもないし、最低限、頭は守っておく必要がある。


 マントのサイズが大きいのはある意味、良かったかもしれない。


 これは、確か耐火性のマントであり、物理防御として、どこまで大丈夫なのかは分からないけれど、ないよりは絶対に良いだろう。


 だけど、よく考えれば、これって、何気なく気絶しているのを良いことに、ウィルクス王子を盾にしてしまっている気がする。


 でも、この際、彼には多少の痛みは我慢してもらおう。


 痛いのは生きている証拠! ……だよね?


「しかし……、重い……」


 彼は、出血をいっぱいしていたし、さらに気絶している。


 まるで、水を吸った砂袋を抱えている気分だった。

 とにかく重い。


 どう頑張ったって、体格差はあるのだし、魔界人の筋力だからなんとかなっているけど、封印されていた頃なら、最初の一歩目から潰れていた自信がある。


 それでも……、一度、見つけた彼を投げ捨てることなどできるはずもない。


 それに、真央先輩にも大見得を切った後だ。

 彼女のためにも生かして連れ帰らなければいけない。


「それに、彼には責任は取らせなきゃ……」


 このまま、死んで楽になどさせてなんかやるものか。


 わたしは大きく息を吸う。


 どれだけ崩れたか分からないけれど、自爆して自分がしたことの証拠隠滅なんて、昔のアニメや漫画だけで十分だ!


「しかし……、漫画……。完成は見られなかったな」


 あの原稿は湊川くんの部屋に置いてきた。


 あの部屋まで爆発が広がったかどうかは分からないけれど、彼が原稿を回収してくれたとは思えない。


 彼が私に対して、そこまでの義理はないだろうし。


 でも、まあ、良いか。


 一度は、ちゃんと完成はしたのだ。

 また新しいものはいつかどこかで描けるだろう。


 わたしが生きて……帰ることができれば……。


 しかし、私はどこへ行こうと思っているのだろうか?


 穴だと思っていたこの場所……。


 真っ暗で明かりはないけれど、壁に当たらないので、ある程度、広い空間になっていることだけは分かる。


 平らな床からしても人工的な物だろう。


 床は地震のように揺れているし、天井から、どんどんいろいろな物が落ちてきているが、それでも、今のところ、わたしには当たっていないようだ。


 左手首に付いている大神官の御守り(アミュレット)の効果なのかもしれない。


 これは法力であって、魔法ではないから。


ゴツッ


「~~~~~~~っ!」


 膝を打った。

 よく目を凝らすと、足元にある大きな瓦礫の影がぼんやりと目に入る。


「参ったな……」


 わたしは溜息を吐くしかなかった。


 穴から降りた時、すぐ近くで倒れていたウィルクス王子を、風で吹っ飛ばしてその場から動かした。


 思ったより吹っ飛ばしてしまったのは申し訳なかったけれど、わたしの使う「癒しの風」とかいう魔法は、九十九の優しい治癒魔法と異なり、風で吹っ飛ばしながら相手を癒すというとんでもない魔法なのだ。


 だから……、なんか普通の魔法とは違う気がしているのだよね、この魔法。


 また水尾先輩にこんなのは魔法と認めないと言われそうなので、彼女には黙っていたが、迷いの森で使ったためか、ちゃんとわたしの中に残っているのだ。


 癒しを施した傷口に、土や石など余計なものが入り込んだ形跡もないので、癒しとしては成功なのだろう。


 しかし、その場から吹っ飛ばしてしまったために、結構、落ちた穴から離れてしまったようだ。


 上を見ても、落ちてくる物以外、何も見えない。


 その時点で、戻ることもできなくなったのだ。

 後ろを振り返っても、既に光など、どこにもなかった。


 そうして、仕方なく歩くしかなかったのが、現状なのである。


 あの場所から動かない方が正解だったかもしれないが、それでも、あの場に床がぽっかり抜けてしまうほどの穴が開いた以上、そこからさらに崩れていくことは間違いなかったと思う。


 それに……、実際、上から降ってくる自分の身体よりも大きな破片が目に入ったから、あの場では、慌てて回避行動をとるしかなかったのだから。


「ああ、でも……」


 肩に担いでいる成人男性の身体が重い。


 九十九がわたしのことを米俵みたいな持ち方をよくする理由が分かった。

 確かにこれが、一番、担ぎやすい。


 それでも、肩が痛い。

 さっき打ち付けた膝も痛い。


 マントとウィルクス王子の身体のおかげで、身体への致命傷は避けているだろうけど、それでも肩や腕には、こつん、ごつんと遠慮なく石が当たってくる感覚がある。


 いつものように自動防御は何度も働いているみたいだけれど、上から降ってくるものが、機械国家の建物独自の素材のせいか、あまり、効果がないようだ。


 無駄に魔法力を消費しているだけのようだが、時々、不自然な方向に吹っ飛んでいる欠片があるのは見えた。


 全く効果がないわけではないようなので、仕方なく我慢せず(抑えず)、そのままにしている。


 魔法力を惜しんで、瓦礫に埋まることは避けたい。


 幸い、まだわたしの魔法力には余裕があった。


 痛いけど、あの水尾先輩の攻撃に比べれば……、物理攻撃と魔法攻撃で比較はあまりできないね。


 物理は単純に痛いことだけは分かったけど。


 目の前には大きな瓦礫がある。

 どうやら、この真上も天井……上の階の床が落ちたようだ。


 休みたいけど休めない。

 休んだら、そのままぺしゃんこの刑だろう。


 これだけの物が落ちたのに、まだ上からは物が降ってくるのだから。


「お城は物が……多すぎる……なぁ」


 この辺りは、なんとなく踏みしめている感触にガラスの破片のようなものが混ざっている気がする。


 履いていた靴がそれなりに分厚くて良かった。

 室内でもしっかり、靴を履く文化だったことも良かったかも?


 でも、少しでも早く、この場所からは抜けないと……。


 そんなことを考え、さらにペースを上げて前に足を進めた後……、一瞬、わたしから強い風が沸き上がった気がした。


 この場所に降りてから、一番強い「魔気の護り(自動防御)」が働いたことだけは分かる。


「あれ……?」


 そして、なんか頭がぼんやりしてきた。


「ここ……何か……変?」


 特に変な匂いがしたわけではない。


「眠……い……?」


 だけど……、猛烈な眠気に襲われる。


 こんなに危ない状況だというのに、何故か、手足に力が入らなくなってしまった。

 自分の肩に乗せていた青年がずるりと地面に落ち、自分も倒れこむ。


 ―――― ああ、これは駄目かも……。


 こんな所で、倒れてはいけないのに。


 幸い、この場所は、先ほどまで大量にあったガラスの破片の上ではなかったようだけど、それでも、何かに手や足を打ち付けたことは分かる。


 ―――― この……匂い……は?


 独特の匂いがする。

 さらに大量の紙の感触。


 ああ、これは……本だ。

 わたしは今、本に囲まれている?


 ―――― 本に、囲まれて……死にたいと、思ったこともあったけど……。


 人間界の自分の部屋をなんとなく思い出した。

 あの部屋なら地震が起きれば、確実に本棚に圧し潰されて死ねたかもしれない。


 だけど、ここは人間界じゃない。


 それにこの匂いは、人間界の本とは違う。

 魔界の……、それもこのカルセオラリアで読んだ本の匂いだ。


 ―――― ああ、つまり……、ここは……。


 カルセオラリア城にあったトルクスタン王子が薬の調合を行ったりしていた部屋がこの上にあったってことかな?

 

 そんなことを考えながら……、わたしは……、意識を投げ飛ばしたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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