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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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互いに不足を補って

「なっ!?」


 少し前から、不安……、不吉な予感はあった。


 でも、こんなに早く、その予感が当たるとは思わなかった。


 突然、城の地下から響き始めた音は、今や、城全体を揺るがしている。


 自分は、この地響きが起きる前から走っていた。


 彼女のことを彼に話してしまったことを後悔していたのだ。


 だから、彼が彼女に何かする前に止めようと思って、地下に向かっていたところに……、この轟音はなり始めたのだった。


 そして、この鳴りやむことのない爆音。


 彼が何をしたのかは分からない。

 何より、本当に彼と彼女が会ったかどうかも分からない。


 だが、この事態は、他ならぬ彼自身の手によるものだということだけは、分かっていた。


「急がなければ……」


 通常の道では、既に通れなくなっているため、手探りで、城の地下へと向かう。


 触れている壁や床にも少しずつ亀裂が入り始めていた。


 その明らかな崩壊の兆しに、この堅城が、後、どれくらいもつかは分からないけれど、それでも、自分は地下へ向かわなければいけない。


「なんてことを……」


 自分のしたことは自分で責任を取るべきなのだ。


 それぐらいのことは分かっている。


 だが、それは自分一人だけの話。


 自分以外の誰かを巻き込んでしまったことで、責任という存在はより大きなものと発展してしまう。


「城内の者は多分、逃げる時間はあると思うが……」


 爆音や地響きが起きる前に、緊急避難用の音が鳴ったことは確認している。


 非常事態を告げる、城内の人間全ての脳に伝わる音が……。


 だが、伝わったところで逃げる気が無い人間には意味はない。


 緊急避難の音の後、城から響き出した音で、この全てを理解した者ばかりではないだろう。


 寧ろ、崩れ出したと分かった今から避難を始める人間だっているはずだ。


 その上、この国は機械国家だ。

 魔法による転移が苦手な人間が多い。


 転移を行う際は機械を使うことも多いが、その機械も、肝心要の部分が壊れてしまえばただのガラクタに過ぎない。


 それでも、機械国家に住まう人間は機械から離れることはできないし、愛着のある機械を手放すことはしない。


 最後まで機械を信じ続け、機械と共倒れになってしまう者たちもいるかもしれないのだ。


 そんな中でも、冷静に誘導してくれる人間がいれば良いのだが、そこまで願うのは虫の良い話だろう。


 そんなことが分かっている自分だって、本来ならば外に向かって避難しなければいけないのに、恐らく、発生源と思われる地下へと向かっているではないか。


「馬鹿だな、まったく……」


 誰に問われるまでもなく、そう呟く。


 何度も彼を止める機会はあったのだ。


 そして、それができる……いや、それをしなければいけない立場に自分はいたはずなのである。


 それなのに、自分は彼を ―― してしまった。


 だからこそ、この責任や咎は彼だけのものではない。

 間違いなく、自分にもあるのだ。


 地響きはさらに大きくなり、走るという単純な行為すら難しくなってきた。

 いや、立っているのも危うくなっている。


「それでも……」


 自分は、地下へと向かわなければいけないのだ。

 彼と会うために…………。

 

****


「うわっ!?」


 突然、頭に大きな音が鳴り響いた。


 それとほぼ同時に、向かっていた方向から地響きが沸き起こっている。


『ツクモ……』

「くそっ! 何が起きたんだ!?」


 オレたちは障害物を避けるスクーターに乗っているが、それでも、地響き対応はされていないらしい。


『遠いから、言葉、聞こえにくかった。でも、シオリ、今、危ない』

「分かっている!!」


 心を読めるリヒトに言われるまでもなく、高田が危険な状態であることは分かっていた。


 アイツの魔気が一瞬だけ大きく膨れ上がり、今は、かなり微弱になっている。


 怪我をしたとかではなさそうなのが救いだが、動く気配がない以上、アイツは、この状態の渦中にいる気がしてならない。


『いろんな人間の声が聞こえる』

「耳塞げ」


 不安そうに言うリヒトにオレはそう返答する。


『……それでも、聞こえる』

「じゃあ、オレの心に集中しろ」


 彼の苦し気な言葉にも、そう答えるしかなかった。


 強い声がコイツの耳に届きやすいのなら、逃げ惑う人間たちの声なんか聞こえすぎるくらいだろう。


 オレにだってはっきり聞こえるぐらいだ。


 すれ違うスクーターも雪崩のように城門へ向かって押し寄せて行った。

 先ほどよりは、大分静かなような気がするが、それでも声が聞こえなくなったわけではない。


「今のところ、一気に崩れる様子はなさそうだが……」


 それでも、あちこちから聞こえてくる爆発するような音や、周囲の壁や床の状況からすると、遅かれ早かれこの城が崩落する可能性は高いような気がする。


 さっき、オレが破壊した部屋とは比べ物にならないほどのヒビ……いや、亀裂が瞬く間に走り、電気がないのに放電するような音も聞こえているのだ。


 だが、正直、ここがどこか分からない。

 あの部屋から下の方へ向かったのは良いが、地下へ行くルートが分からなかったのだ。


 そんなわけで、間抜けにもオレとその連れは、一階付近だと思われる場所を、高速でウロウロしているわけだが……。


『トルクスタン王子の声がする』

「何!?」

『この少し、先……。他にも何人かいるみたいだ』

「よし!」


 手がかりを見つけた以上、少しでもそちらに向かうべきだろう。


 だが……。


「九十九!!」


 向かおうとした方向から、オレを呼ぶ声がした。


「水尾さ……」


 彼女はオレが声を発し終わる前にオレの傍へと走ってきた。


 恐らくは、速度の強化をしているのだろう。


 こんな状態では、転移は無謀だ。

 転移の先で、押しつぶされかねない。


「良かった。リヒトも……、お前たちは無事だったんだな」

「はい……。でも……」


 オレが言い終わる前に、彼女は察したようだ。


「まさか……、高田の姿()……ないのか!?」

「も!?」


ごごごごごっ!!


 一際、大きな地響きが起こった。


「まずいな……。詳しく話し込んでいる余裕はなさそうか」


 水尾さんの額から汗が流れる。


「お互い要点だけを述べましょう。オレたちは高田を探しています。恐らく、地下にいると推測されますが、地下へのルートはご存知ですか?」


 恐らくは知らないと思う。


 それでも、確認する必要はあるだろう。


「悪いが、契約の間以外の地下へのルートはこの国の機密らしくて知らない。トルクたちを締め上げろ。この先の玉間にいるはずだ。だが……普通は……、いや、九十九がいるって言うんだから高田はそこにいるんだろうな」

『ミオは、脱出中か?』


 オレに代わって、リヒトが尋ねる。


「まさか。仮にも今は亡き王族の生き残りだ。我先にと逃げるような愚はしない。ただ……、私は()()()()()()()()

「マオさんもいないんですか?」

「ああ。城下へと避難した者の中にも怪我人が多数いるみたいだから、こんな時こそ、マオの治癒魔法が役に立つって言うのに……、どこにもいないんだよ!」


 彼女の声には焦りと苛立ちが含まれている。


「じゃあ、このスクーターをお貸しします」

「九十九!? だが……、それはっ!!」

『どの道、この先では役に立たない。どう見ても、この先の方が崩壊、ひどい』


 水尾さんの言葉を制止するように、リヒトがそう言いながら、先を見る。


「リヒトの言うとおりです。それに、まだ城内に残っている人たち……怪我をして動けないような人を拾うにも役立つでしょう。これ、かなりの重量を運べるらしいですから」


 オレもそう言葉を続けると、水尾さんは肩を落とした。


「分かった。でも、借りるだけだ。絶対に返すから。だから、二人とも……」

「はい」

『分かっている』


 これ以上の言葉は無用だ。


 ここから後の言葉は、落ち着いたときにでもゆっくりと話せば良いだろう。


 後に「こんなこともあったな」と語れる笑い話として。


「じゃあ、借りてく」


 そう言うと、彼女はひらりとスクーターに乗り、颯爽と、オレたちが来た方角へと走り出した。


 オレよりも、扱いが巧い気がするのは気のせいか?


「リヒト、お前が足りない言葉を補ってくれるから助かる」

『お前の考えを代弁しているだけだ。俺にはそこまでまだ細かい判断力はない』

「それでも、助かるんだよ」


 言いにくい言葉でも、それを察して口にしてくれるから。


 オレだけだともっと会話が長引いていたかもしれないのだ。


 水尾さんの速度強化魔法はどちらかというと瞬間的なもので、持続能力は低いとオレは感じていた。


 加えて、彼女は物を軽くしたり、自分自身の強化はそこまで得意ではないのだ。


 補助魔法よりより攻撃的な魔法が得意。

 本当に彼女の気質どおりで困る。


 だが、それをオレが指摘してしまうと彼女は却って意固地になり、自力でなんとかしようとしたことだろう。


 それなのに、厄介なことに彼女は弱者を容易に見捨てることができない人種だ。

 葛藤しながら、優先順位を計りながらも、その場でどうにかしようとするのは間違いない。


 それでは、ただ、やたらと時間を消費するだけで、結局どちらも迅速に目的も果たすということが難しくなる。


 尤も、途中で見かける怪我人を放って、迷わず走り抜けるような人間であれば、ここまでオレたちと行動を共にできていないだろう。


 高田に構わずにいれば、彼女だって厄介ごとに巻き込まれないで済んでいることだってあるのだから。


 だから、あのスクーターに乗った彼女なら、その片割れを探しながらも、他人を運ぶことも可能となるだろう。


「悪いが、ここからは走るぞ」

『分かった。足手纏いになるようなら置いていけ』

「安全地帯に着けば、迷わず置いていく」


 安全地帯……。

 今の状況を見る限り、この先にそんなものがあるとは思えない。


 だが、トルクスタン王子たちがいるというのなら、そこは少なくとも安全である可能性は高いのだ。


ごおんっ!


「……っと! 大丈夫か? リヒト!」


 リヒトの近くにあった、花瓶が倒れてきて、足元に欠片が飛び散る。


『幸い、当たっていない。少し飛び散った欠片が服を掠っただけだ』

「待ってろ。今……」

『治癒は不要だ。恐らく、()()()()()()()()()()()。お前の()()()()()()()()()()


 そう言って、リヒトは、もう平らとはいえなくなった回廊を走り出した。


「は?」

『先ほどの爆発で、怪我人が増えた。恐らくはもっと増える』

「まさか、城下か!?」


 あれほどの規模の爆発だ。

 外に影響が全くないとは思えなかった。


『城内もだ。まだ、この城に縋る人間は多いと見える』

「阿呆か。命あっての建物だろうに。とっとと逃げろってんだ」

『ならば、渦中に向かう俺たちは、それ以上の阿呆だな』

「阿呆は、アイツであって、オレたちじゃねえよ。……ったく、世話ばっかり、かけやがる」


 オレはこの場にいないヤツに不満をぶつける。


『お前は……、シオリのことばかりで()()()()()()()()()()んだな』

「兄貴は殺したって死なねぇ人種だし」

『まあ、しぶといのは認めるが、ユーヤの声が聞こえないのが気になる』

「は?」

『ユーヤがいたはずの書庫は俺たちのいた場所よりも、トルクスタン王子たちの場所に近かった。それなのに、何も、アクションを起こしていないのは不気味だ』

「つまり、陰で暗躍してるんだろうな」

『絶対的な信頼だな』

「まあ、付き合い長いし。信じているといえば、信じざるを得ないというか」


 もしかしたら、この突然の事態も、実は兄貴が陰ながら動いた結果のような気がしているくらいだ。


 それほど、オレにとって兄貴という存在は大きくて同時に謎でもあるのだろう。


「怪我をしているって訳じゃないんだろう?」

『それはなさそうだ』


 それだけで、十分な答えだ。


 それより、今は、地下(彼女のいる場所)に行くことが最優先なのだから。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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