表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

666/2797

やってきた男

「どうした? どんなに強い風も俺に当てなければ、効果はないぞ」


 余裕の態度を崩さずに、ヤツはそう言った。


「元からお前なんざ、()()()()()!」


 そう言って、近くの重そうな機械を持ち上げて床に叩きつける。


 オレ自身を魔法で強化したため、かなりの勢いもあったことだろう。


 機械国家の物は基本的に魔法を通さないし、物理耐性も高い物が多いが、同じ機械国家の物質同士の衝突ならば、多少の疵は期待できると考えた。


 尤も、それは想像していた床をぶち抜くには至らなかったが、微かなヒビは入った。

 だが、今はそれで十分だ。


「な、なんてことを……。お前……」


 オレの行動に、男は呆然とする。


 確かに、普通は躊躇なく機械を叩きつけるなんて発想はないだろうな。

 機械国家の人間ならば、尚更だ。


 自分の作品(成果)を、自らの手で壊すようなことはしないだろう。


 だが、オレは機械国家の人間じゃない。


 だから、他人の作った作品(障害物)など、知ったことか!


「以前、人間界であるヤツが言ってたんだけど、機械って外側は頑丈に作られるが、中身は案外、弱いんだと。しかもほんの少しの計算ミスで一気にシステムダウンしたり……。ああ、この部屋の空間も強制転移の装置がトラブルを起こし始めたみたいだな」


 周りから、電気に似たパリパリッとした音が聞こえ出し、異音が聞こえてきた。


 内部で爆発が起きているような音もするが、オレは専門家ではないため、はっきりと何が起こっているかは分からない。


 だが、先ほどから唸っていた機械はその機能を停止したためか、大分、静かになったようだ。


「お、お前っ!!」


 その言葉に先ほどまでの余裕はまったくなかった。


 激情に駆られ、飛び掛かってくる男。

 自分の作品を無遠慮に壊されれば、誰だって怒るに決まっている。


 だが……、オレはすいっとよけて、その大柄な身体に一発くれてやった。


 的が大きい上、感情的になった相手はやりやすい。


 さらに、今のオレは、全身強化済みだった。

 この状態で、武器を使わなかっただけ、マシだろう。


「がっ!?」


 たった一発だけで、男がもんどりうつ。


「良かったな、強制転移が働かなくって。あんた、格闘技の心得みたいなモンもねえだろ? ずっと機械に頼ってたみたいだからな。だが、こちとら、何年も魔法を筆頭に、格闘技も剣技もそこそこは仕込まれてんだ。口ばっかりの形だけの護衛じゃねえんだよ」


「がが……。ま、待て……」


 男が何か言っているが、それどころではなくなった。


「待たねえ。今、アイツの魔気が激しく乱れた。リヒト、行くぞ!」


 そう言って、リヒトの手を引いてスクーターに手を掛けようとしたときだった。


『ツクモ、待て!』


 リヒトが不意に叫んだ。


 その言葉で、反射的にその場から飛びのく。


 先ほどオレが向かった先の空間が歪み、その独特の景色から、二人目の笑顔を携えた男が現れた。


「くっ! こんな時に」


 リヒトが止めなければ、あの空間に飲まれ、再び強制転移されていた可能性がある。


 転移とはそもそも空間を歪める行為だ。


 そこに闇雲に突っ込んでしまったら、最悪、空間を漂う羽目になりかねない。


 だから、余程の事態が起きない限りは転移中の人間に触れるなと兄貴から言われていた。


 だが、今、魔法の気配はなかった。


 恐らくは、この男も機械的な転移技術でこの部屋に来たのだろう。


「カズトの部屋……、ボロボロにされたみたいだね。ああ、カズト自身もなのか。痛い?」

「いてえ……。こんな風に殴られることなんて、剣道ではなかったからな」

「剣道は防具で護られているしね」


 格闘技を何もやっていないと思ったが、この男はこう見えても、剣道をやっていたようだ。

 痛みの少ない竹刀や、急所を防具に護られた競技か。


 一度、木刀で突かれてみろ。

 その場所によっては、一撃で聖霊界(あの世)が見えるぞ。


 しかし、スクーターはこの現れた男の後ろだ。

 入り口付近に置いたのが仇となってしまったか。


「だが、良かった。イズミ、そいつらをなんとかして、足止めをしろ! 我が国に害為す輩どもだ。多少、俺より魔法の覚えがあるお前ならなんとかなる!」


 厄介だな。

 一人ならともかく、狭い場所で二人を相手することになった。


 しかもオレの後方にはリヒトがいて、それを護る必要もある。


 こうしている間にも高田が、どんな状況になってしまうかがわからない。

 場所は予想できているのに!


 だが、目の前にいた男は一瞬だけ目を伏せ、オレとリヒトを見て、……床に転がっている男を見て言った。


「ヤダよ」

「「は?」」


 あっさりとした拒絶の言葉に思わず、不本意だがオレと床の男の声が重なった。


「ボクは、『イヤだ』と言ったんだ。ボクには彼らと争う理由がない」


 男のオレでもドキッとしてしまいそうな無邪気な笑顔をしたまま、その男は、そう返事した。


「おまっ……。まさか、国を……、裏切る気か!?」


 息を荒げながら喘ぎにも似た声で、呻き声を発する男。


 まあ、鳩尾に一発入れたんだ。

 呼吸もきついことだろう。


「カズトが仕えるのは確かに国かもしれない。だけど、ボクは違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 にこやかだった声が、一変して迫力のある言葉へと変わる。


「それに、先に国を裏切ったのはあの人だ」


 どこか可愛らしい顔の割に、その凄みは見ているオレも一瞬、息を呑むほどだった。


「カズトだって、とっくに気付いているんだろ? トルクスタン王子殿下は悔やみ、メルリクアン王女殿下も自身を呪っていた。マオリア様だって、この国へ来てからずっと泣いていたんだ。そして、本来諌める立場にいるはずの国王陛下はずっと逃げていた。皆、知っていたのに……、カズトやボク……、他のヤツだって皆気付いていたのに!!」


 それは……、事情を知っているからこその叫び。


「イ……ズミ……。だが……」

「だから、行って。九十九さん。高田さんは……、貴方の大事な人はこの下だ。これ以上はボクにも言えない。この国の禁忌をこれ以上、ボク如きの言葉で簡単に暴露して良いモンじゃないんだ」

「分かった……。ありがとう」


 オレは礼を言って、スクーターに手を掛ける。


 どんな状況にあっても、国の命令に逆らうことは重罪だ。


 だが、そのことに触れはしない。

 この男だって、それを承知でこの場に現れたのだろうから。


「今度こそ、行くぞ! リヒト!!」

『ああ。囚われの姫が待っているはずだ』


 そう言って、オレたちは、半壊した部屋を後にした。


***


「結構……、派手にやられたみたいだね。この部屋、変えなきゃいけないかな?」

「い、いけ、しゃあしゃあ……と」

「この国には治癒の使い手はマオリア様しかいないに等しいから、ちょっと別の場所で探してくるよ。この国の神官ですら、治癒の術があてにならないからね」


 どこか遠くを見るように、イズミはそう呟いた。


 この国は、機械国家だ。

 だが、残念ながら、傷の治療ができるような機械は開発されていない。


「待て」

「カズト……。キミにだって分かっているはずだろ?」

「だが! あの方の命は絶対だ!!」


 イズミの言葉に、カズトは激しく反駁しようとしたが……、それに対して、彼の言葉は落ち着いたものだった。


「あの方は国民以外を巻き込んでしまった。ウィルクス王子殿下の……この国の王子の婚約者となったマオリア様だけならともかく、ただ、この城に立ち寄ったというだけで、高田さんまでも手をかけようとしている。()()()()は、それだけは許せなかったんだよ」

「イズミ……」


 どこかぼんやりとする意識の中、カズトはイズミを見つめる。


「この国の問題はこの国で解決すべきだ。そんな一番大切な鉄則を破ってしまったんだ。罰は受けるべきで、罪は裁かれる必要がある。当人の意思はどうであれ……ね。それに、キミの立場なら、あの方の気持ちを一番、察するべきなんじゃないかな?」


 カズトにとって痛い所をイズミは突いた。


 確かに、彼の言う通り、カズトは本来、最優先すべき人間がいる。


 だが……、今回の件に関しては、それが許されない。

 自分がその原因を一部、作り出してしまったのだから。


「それ以上……言うな」

「そうだね。でも、今まで黙っていたボクたちにだって責任はあるんだ。ならば、ちゃんと罪を受け入れようよ。だから、ボクたちは、風に行く末を託したんだよ……って、結構、良い話をしていたつもりだけど、普通、寝るかな~?」


 イズミの言うとおり、カズトは意識を失っていた。


 ……というよりも、今まで意識を保てていたのが不思議なくらいだろう。


 磨り減っていた精神に、貫かれるほどの打撃を受けたのだ。

 真っ当な人間なら、話をする間もなく昏倒コースだ。


「まあ、結局のところ、一番、要の部分……、つまり、後のことは彼らに全てを押し付けるみたいで悪いけど……、こればかりは、仕方ないよね。ボクたちじゃどうにもできないところまで来ているんだから」


 そう言うと小柄なイズミはひょいと、大柄なカズトを抱え、その部屋から出て行ったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ