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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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心の声

 精霊族であるリヒトの能力……。

 それは、人の心を読むこと。


 本当にそれ以外に考えられなかった。


 始めは、遠くを見通すような千里眼地味た能力かと思ったが、それとはどう考えても違いすぎる。


 さっきから、コイツはオレの心を読んでやがるんだ。


『悪いが、それに近いそうだ』


 コイツは、「長耳族(シーフ)」だ。


 オレたち魔界人と違った能力を持っていたとしても不思議はないし、現にあの森の長たちだって心を読めると言っていた。


 そう考えるとコレまでの言動からコイツもその能力を持っていることに気付かなかったオレも悪いのだが……。


「~~~~って、なんでそんな大事なこと先に言っておかないんだよ!?」

『聞かれなかったから答えなかっただけだが?』


 リヒトはしれっと答える。


「そうかもしれないが、そう言う問題じゃねえだろ? 他人の本音が駄々漏れってのは、読まれる方がきついのは当たり前だが、知らなきゃ害がねえ。だけど、お前のは多分、魔法で意識的に読んでるわけじゃなくて、他人の声が勝手に聞こえてくるんじゃないのか?」


 意識的に魔法を使うのと、自分の意思とは無関係に魔法を使ってしまうのでは身体の負担も大きすぎる。


 それも、目の前にいるオレだけならともかく、コイツは城下で値切り中の水尾さんのことまで把握していた。


 つまり、そんなかなり遠くの範囲の声まで聞こえてしまうってことじゃないのか?


『お前が想像しているとおり、広範囲に亘り様々な声が聞こえてくるのは確かだ。だが、魔気の護りが強い人間の心の声ならば、そこまではっきりと聞こえないようだ。多少なりとも魔気が防護壁……、この場合は防音壁の役割を持っているらしい』


 そんなリヒトの言葉に一度、納得しかけて……。


「待て、それは変だ」


 と、思い至る。


 確かに、魔気を利用すれば、意識的に心を閉ざすことはできると言われている。


 だが、それは当人が意識してのことだ。魔気を操り、防御をする。

 その方法ならば読心系魔法は効果が薄れると聞いている。


 そして、それは自分の意思で行う以上、常にそちらに集中しておかねばならないはずだ。


 そう考えれば、意識的に魔気を操作しているため、「魔気の護り(無意識の防御)」とは種類が違うのである。


 それに、単純に魔気の護りが強いだけで、本当に心が読めなくなると言うのなら、どう考えても水尾さんの声まで聞こえるのはおかしい。


 彼女ほど魔気の護りが強い人間などそう多くはないはずなのだ。


『ミオは、城下に出ると意識的に魔気の護りを抑えている。それは結構身体に負担がかかるはずだが、魔法のほとんどを遮断するこの城内と違い、外であの魔気のまま出歩くとどう考えても目立つだろう』

「それは……、確かにそうかもしれないが……」


 この城に来てから、オレは城下にほとんど出ていない。


 この国では、高田が城下にそこまで興味を示さなかったことが一番の理由だが、それだけではない。


 薬品調合に使う薬草にしたって、外で自力採集するのではなく、トルクスタン王子のコレクションにも似た薬草庫から適当に選んでいた。


 それだけでもかなりの種類があったのだ。


 わざわざ、外に出る必要はなかった。

 だから、この城に来てからは、外を出歩く時の魔気などあまり気にしたこともない。


『それに……、心の強い人間ほどその心の声も強いようだ。だから、シオリやお前、ミオの心の声は比較的良く聞こえる。魔気で護られていない限りな』

「つまり、兄貴はお前の能力を知っていて、魔気で護っているのか」


 今、名前が出てこなかった兄貴だって、心が弱いとは思えない。


 だから、リヒトの言葉の中に兄貴が出てこなかったということは、多分、兄貴は既に知っていたんだろう。


『因みに、シオリも知っている』

「はぁ!?」


 アイツも……?

 いつの間に?


「なんか……、オレ、仲間はずれにされていた?」


 そのことに少しだけ疎外感を覚える。


『そう言うわけではない。俺だってこの声の正体が分からなかったから、まずはユーヤに尋ねただけだ。シオリには自分の気持ちと共に知っていてもらいたかった。ただ、それだけのことだ』

「じゃあ、なんで隠していたのにオレにも話すんだよ?」


 それならば、逆に話さない方が良い気がした。


『いずれ、話すつもりだった。ミオにも……。お前たちは信用がおけるからな。ただ、今回は状況が状況だ。先に話しておかねばならないと思った』


 ああ、そうか……。

 コイツも……、気持ちは一緒なんだ。


高田(シオリ)のためか」


 それ以外の理由があるはずもない。


『そう言うことだ。アレだけはっきりと聞こえていたシオリの声が不意に止んだ。そして、直後の強いお前の怒りを含んだ声。何かあったのは明白だろう』


 先ほどのことか。

 アレで、リヒトがオレに話す気になったのだろう。


「高田の声は、まだ聞こえないか?」

『ああ。まだだ。時間もそれほど経っていないから、気絶か眠っているかは判断がつかないところだがな。だから、場所の特定も無理だ。心の声が聞こえなければ俺は何の役にも立たない』


 眠っていてもその心の声とやらは、聞こえることもあるらしい。


「じゃあ、ヤツは?」

『お前たちを罠に嵌めた男なら、まだ先ほどの部屋にいる。どうやら、シオリとの約束は果たす気らしい』

「は?」


 普通、あれだけのことをしたんだから、早々に現場から逃走するもんじゃないか?


『あの男とて好き好んであれだけのことをしたというわけではなく、ある種苦渋の選択だったかもしれない。だが、後悔をしている様子はないな』


 苦渋の選択なのに、後悔はない……か。


「分かった。じゃあ、スクーターを取って来る暇はあるな。それとリヒト、悪いが、付いて来てくれるか?」

『分かった』


 リヒトも力強く頷いてくれた。


 オレだけでは力が足りなくても、心が読めると言うコイツがいれば、また何か違うかもしれない。


「あとな~」

『言いたいことは分かった。だから言わなくてもいい』


 リヒトは、オレの心を読んだのか、困ったように言葉を遮った。


「いや、心の声と口にする声は別モンだ。だから、あえて言ってやる! 『お前は十分役立っているから、そんなに自分を卑下するな! 』」


 心を読めるとか読めないじゃなくて、少なくともオレが冷静になる時間を与えてくれたのは、間違いなくここにいる男だ。


『律儀だな』

「礼儀は大事だ。ありがとな」

『どうい()たしまして。』

「……『い』が一つ多い。まだ言葉、微妙だな」

『そうか。俺もまだまだだな』


 そんな会話をしつつ、オレたちは部屋へと向かった。


***


 リヒトが心を読めるってのは正直驚いたけど、そんなの大した問題じゃない。


 心にやましい感情があればそれは脅威だろうが、オレはもともと兄貴と違って心を隠し切るほど器用な人間じゃない。


 それに少しだけ護りの魔気を強めれば、多分、そこまで深いところまで読まれることも無いだろう。


『流石に、深みは読まれたくないか?』


 そんなオレの心を読んだ男が問いかけてくる。


「オレは大神官みたいに清廉潔白な聖人君子じゃないんでね。健全な青少年として、いろいろと考えちまうんだよ」


 だから、最近、いろいろ困っているのだが……。


『……シオリの体型とか?』

「……確かにアレは致命的だな。いつまでたってもガキくささが抜けないと言うか……」


 慌てているためか、オレはそんなことを口にしていた。


『嘘つきめ……』

「なんか言ったか?」

『心の声だ。気にするな』


 なんか、腑に落ちない言葉が聞こえた気がするが、気のせいだろう。


 ……分かってるよ。


 二年前ならともかく、今の高田は、十分、女性となっている。

 当人に全くその自覚はないようだけど。


 だから、余計な心配も増えているんだけどな!

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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