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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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転移の先に

「あんの野郎~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


 オレは久々にぶちきれるところだった。


 いや、正直、ブチ切れていたんだと思う。


 あの部屋の扉に触れた時、強制的に転移させられる感覚があった。

 そして、気付いたら、見知らぬ場所に飛ばされていたのだ。


 幸いだったのは、そこが部屋の外……、つまり通路で、他人の私室にいきなり闖入すると言う事態は避けられたというてんだろうか。


 それでも「してやられた」感は拭えない。


 目の前で、高田をどこかに転移させられた上、さらに自分もみすみす罠に嵌ると言うこの間抜けさ。


 確かに、あの場所が相手の領域であり、向こうが有利なのは当然だったが、それでも、護衛失格なのは間違いない話だ。


 兄貴に言えば、逆さに吊るされるだろう。


 だから、せめて、汚名は返上しておかなければならない。


 集中して、高田の魔気……、彼女の魔力の気配を探そうとするが、怒りが邪魔してどうにもならない。


 さっきまでは気配を感じたのだからそう遠くでもないだろうし、あの男が否定していたが、この城内にいることは恐らく間違いないだろう。


 そして、恐らく、「移動魔法」も難しいようだ。

 「移動魔法」でなんとかなるのなら、あの場で迷わず使っていただろう。


 だが、何かの気配に阻まれたのだ。

 つまり、今、彼女はオレの魔法を打ち消すような別の結界内にいるということだろう。


 だが、問題はこの場所だ。

 人っ子一人通らない。


 先ほどから何度かスクーターとはすれ違ったが、オレみたいな人間がこんなところをふらふらしていることは何の疑問も持たないようだ。


 呼び止めて詰問されることもなく、声を掛けようにも相手は高速移動しているのだから、言い終わる前には既にその場にはいない。


 自分の部屋の方向は、勘でなんとなく分かるから、そちらに向かって、せめてスクーターを取ってこよう。


 その方が高田を探しやすいかもしれない。

 それに、他の人間の手も借りやすいだろう。


 兄貴に吊るされるのは仕方ないが、高田をこのままにしてアイツの身に何かあった時よりはずっとマシだ。


 そう思って、オレは駆け出した。


 それにしても、あの男……。

 一体何を考えているのだろう。


 高田と漫画を描いていた時も芝居だったと言うのか?


 だが、あの時の話を聞いていた限り、そうは思えない。

 しかも、トルクスタン王子の前で芝居をするか?


 もし、そうだとしたら、一国の王子を前に、大した心臓だと思う。


 それともトルクスタン王子自体がこの件に関わっているのか?

 それはあまり考えたくない。


 水尾さんはともかく、あの兄貴がある程度気を許せるような人間だ。


 それ相応の人間だと信じたかった。


「でも、あの人の場合、何かの被験者にする可能性はあるかもしれないな」


 だが、それでもこんな大掛かりなことをするだろうか?


 そんな風に、頭がごちゃごちゃしだした時だった。


『考え事しながら走ると危ないぞ、ツクモ』


 兄貴に似た口調で、黒い肌の男が視界に入った。


「リヒト!」


 思わず、足を止める。


「丁度良かった! お前、兄貴や水尾さん、もしくはトルクスタン王子は知らないか?」


 オレは知り合いを片っ端から確認する。


『ユーヤは書物庫で頭を抱えている。ミオは城下で値切り中のようだな。この様子だと交渉は難航しそうだ。トルクスタン王子は……、多分、国王の私室にいるようだ』

「そうか……」


 当人たちの現状を把握しているのは凄いが、少し細かい気もする。


 兄貴やトルクスタン王子についてはともかく、水尾さんが城下にいることまで……って、彼女はいつもそういうことしているか。


「じゃあ、ここは、どこだ?」


 我ながら、変な質問をしているのは分かる。


 だが、現状と場所の把握は大事なのだ。


 そんなオレの様子に気付いたのか、リヒトはいつもどおりの口調で言った。


『ミオの部屋の前みたいだな』


 助かった。


 それなら場所も分かっているし、すぐに自分の部屋に戻ってスクーターを取ってくることは可能だ。


 あの野郎がいつまでも同じ部屋にいるとは思えんが、一発ぐらいぶん殴らないと気が済まない。


 そして、何よりも、高田の居場所を吐かせなければならない。


「ありがとう、リヒト。お前がここにいてくれて助かった」


 礼を言って、立ち去ろうとした時、リヒトに右腕を掴れた。


『慌てるな』


 一瞬、その物言いと表情が兄貴に見えた。


『慌てずとも、シオリはすぐどうこうなるわけではなさそうだ』

「は!?」


 突然のこのリヒトの発言に目が丸くなったのが分かる。


『だが、時間はないかもしれない。まずは、結論から言おう。俺は、先ほどからのお前たちの遣り取りは全て把握している』

「なんだって!?」


 あの時、そこまで大きな声を出していた覚えはない。


 仮にあの部屋の側を通っていたとしても、やたらでかい機械音がしていたんだ。


 今にして思えば、あれは、防音の部屋でも、万一を考えて、会話を周囲に聞かせないためのものだったのかもしれない。


 それなのに……、なんでこいつは……、そんなオレたちの会話を知っているんだ?


『俺はお前たちに隠していることがある。今から、少しの間、俺との会話に付き合ってくれるならば全てを話すが、どうする?』

「隠していたこと……?」


 それは、大変気になる話だ。


 だが、こうしている間にも高田の身に危険が迫っている可能性もあった。

 それなのに、のんびり話し込むなんて……。


『通信珠の反応は?』


 リヒトは冷静にそう言う。


「あ……、そう言えば全然……。でも、アイツ、すぐ忘れるから」

『最近、シオリは部屋から出る時は必ず持っている。通信珠の反応がないということは、シオリの意識がないのだろうな。気絶しているのか、眠らされたかは分からないが』

「……なんで、そこまで……?」

『聞きたくなったか?』


 そのリヒトの瞳に……、何か固い意思を感じた。


 何故、リヒトが、先ほどの会話を知っているかも気になる。


 そして、高田がどこかに転移されたことを知っていることについても、今までの話し振りから当事者のオレよりも詳しそうな気がする。


「高田は……、無事なんだな?」

『ヤツらの目的は、少なくとも、彼女の命ではないようだからな。だが、万一、シオリが危険になるようになるのなら、話は切り上げるがそれでも良いか?』

「分かった。それなら問題はない」


 リヒトも高田を気にしているのは分かる。


 何より、こいつにとって高田は恩人みたいなもんだ。

 むざむざ危険な目にあわせることは望まないだろう。


『気にしているんじゃない』

「は?」

『先に言っとくが、俺はシオリのことが好きなのだからな。今回のことにしたって、腹を立てているのはお前だけじゃない』

「え……っと?」


 オレ、声に出てたか?

 ……というより……。


「高田のことが……好き?」

『そうだ。文句があるか?』

「それは……こう家族愛とか、仲間意識とか友人としてとか……?」

『違う。間違いなく俺はシオリに恋慕を抱いている。情欲はまだないがな』

「はあ!?」


 突然の告白! ……って、それ言う相手を間違えてるんじゃないか?


「そんなこと、今、オレに言ってどうするんだよ? そういうのは当人に言え! オレには関わりのねえことだ」

『言ったが、あっさり振られた』


 あ……。

 もう、言ってたのか。


 でも、アイツそんなこと一言も言ってなかったのに……って、いちいち護衛にそこまでは、言わないか。


『まあ、だからといってこの気持ちは簡単に消えそうもないので、未熟なりに俺はシオリを支えたいとは思っているけどな』

「……まあ、お前が高田にどういう気持ちを持とうと勝手だが、それと、今回の話がどう繋がるんだよ?」

『話が、横道に逸れたな。俺の気持ち云々はさておいてだ』


 なんか、コイツ……、ホントにどんどん兄貴に口調が似てきたな。


 完全に別の人間なのに、その背後に兄貴の幻影が重なって見えるのが気色悪い。


『気色悪いとは失礼な話だ。それに似てくるのは当然だ。俺はユーヤに何かと師事を受けている』

「え……」


 さっきから、なんか変だ。

 今の台詞は、流石にオレ、声に出してなかったはずだ。


 それなのに……。


『その答えを知りたいか?』


 リヒトは不敵に笑った。


 だが、オレもそこまで鈍くはない。


「『長耳族(シーフ)』の読心術か」


 それ以外に考えられなかったのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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