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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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抑えていたモノ

本日、二話目の投稿です。

 わたしの中で確かな恐怖が形作られていく。


 魔法に対する基礎知識も何もない時に、問答無用で襲い来ってきた炎。


 魔界を知り、魔法というものの存在を知ってからも、わたしの周囲にいたというだけでそれらの事情を知らない人間たちを巻き込むことを躊躇わず、魔法を放った正体不明の男。


 魔界に逃げ込んでからも襲い来る魔法の数々。


 そして……、魔法でわたしの動きを封じ、身を投げた女性。


「真央先輩だってわたしのこと、分からないじゃないですか。分かっていないのに、知った顔しないで下さい。怒りをぶつけないで下さい。そんなの……、そんなのただの八つ当たりじゃないですか」


「分かってるんだよ!」


 突然、真央先輩は叫んだ。


 その声は怒りよりも……。


「本当は分かってるんだよ。これは八つ当たりだって。ただ、私はミオや、高田が羨ましいだけなんだって」


 真央先輩の肩が震えている。


 さっきまでの炎の気配は消えたわけではないのに、酷く寒気がしてきたのが分かる。


「あの日、女王陛下や王配殿下が、私や姉よりも優先してミオを探そうとしたのだって、アレがあの時点で実質上、国内最高の魔法使いだったからだ。アレさえいれば、事態は打開できるって思い込んだからだったんだよ。だから……、だから……、あの時、私は……」


 そう言いながら、真央先輩は膝を折った。


 後に続いている言葉は小さすぎて、聞き取ることができなかったけど、そこには……、さっきまでの気配はなく、ただわたしよりもずっと小さな女の子が泣いているだけにしか見えなかった。


 わたしは、彼女にかける言葉が見つからなくってただおろおろとするしかない。


 わたしにだってよく分からないのだ。

 真央先輩の本当の気持ち……。


 結局、分かることはないのだろう。


 魔法国家の王女という立場にいる人が、魔法を使えないってことがどれだけの苦痛かなんて、考えることしかできないし、考えたところで正しい言葉が見つかるはずも無かった。


 わたしには、そんな重いモノがないから。


 真央先輩は、強大な魔法を数多く、そして、自由自在に使いこなす水尾先輩に対する激しい嫉妬を抱いていたってことはなんとなく分かった。


 そして、それでも王族として、王位継承権第一位であるお姉さんを護らないといけないという使命だけは今も彼女に残っているということも理解はできる。


 そして、両親への複雑な想いを胸に秘めてずっと頑張ってきたのだろうな、ということも想像でしかないが、分からなくもない。


 そして、だからこそ……、たった一人で、この国に残ることにしたんだ。


 人質……、いや、身売り同然の待遇だということも承知で。


「もういいだろう。マオ……」


 不意に、後ろから声がした。


 反射的に振り返ると、一瞬、トルクスタン王子殿下かと思ってしまうほど優しく、穏やかな声と顔で……、ウィルクス王子殿下がわたしの後ろに立っていた。


 いや、トルクスタン王子殿下のここまで落ち着いた声も、聞いたことはない。


 ウィルクス王子殿下はわたしなんか目に入っていないように、横を通ると、真央先輩の前に立った。


「もうそれ以上、自分を追い詰めるな。魔法国家アリッサムの王女は既にいないのだ。我の眼前にいるのは、我が婚約者。今更、過去を顧みたところでどうにかできるものでもあるまい」


 そう言って、真央先輩にその手を差し出した。


 この王子が、この部屋に来るのは初めてのことだと思う。

 少なくとも、わたしは、何度もここに来ているけれど、会ったことは無かった。


 ……いや、それよりもこの王子さま。


 本当にわたしの髪を引き抜いた人と同じ人でしょうか?


 そして、この発言から察するにどうやら、会話は聞かれていたらしい。


 どこからどこまで筒抜けだったのかは分からないけれど、まあ、ここは機械国家カルセオラリアだ。


 部屋に盗聴器や監視装置の一つや二つあったところで驚くほどのことでも無いだろう。


 でも、やっぱり、あまり感じがいいとは思えなかった。

 まさか、個人で使っている部屋にまではその監視機能はないよね?


 真央先輩はその手をとって、ゆっくりと立ち上がった。


「悪かったね。高田。つい……、今までずっと抑えていたものが噴出してしまったみたいだ。高田が素直すぎる反応をするからかな。でも、情けないし、やっぱり恥ずかしいからキレかけたことはミオには内緒にしといてくれる? あの子のこと、言えなくなってしまうし」


 少しだけ照れくさそうに彼女は笑った。


「真央先輩……、水尾先輩はどこまでご存知ですか?」

「女王陛下と王配殿下がミオを捜して飛び出したことは伝えたよ。ミオは知っておくべきだと思ったしね。後はまあ、大体はさっきしたようなのと同じような話。違うのは、感情の込め方くらいかな」

「そうですか……。じゃあ、これ以上余計なことは言いません。わたし程度の『魔気の護り』では、真央先輩の怒りを含んだ魔気だけで蒸し焼きにされてしまいますから」


 焼かれなかったのは、多分……、無意識に風の護りが強くなっていたためだろう。


 実体のない炎だとは言えど、これだけ汗が出てくるほどのものだ。

 本当に、蒸し焼きくらいは簡単にできそうだと思えた。


「じゃあ、悪いけど、私は行くね。今日は珍しく、いっぱい話せてよかったよ。高田の周りはいっつもいろんな護衛がいるから、なかなかこういった機会はないからね」


 いつもの笑顔を見せ、彼女は、ウィルクス王子殿下と共に立ち去った。


 ウィルクス王子殿下は相変わらず、わたしなんかにほとんど興味がなさそうな顔をしていたが、真央先輩の手をしっかり握って退室した辺り、一応はそれなりに真央先輩に好意は持っているのだろう。


 なんとなく、それだけでも救いがある気がする。


「しかし……、魔法……か……」


 掌を見つめても特に変わった様子なんかない。


 でも、ごく普通に見えるこの手からは、わたしがその気になれば、人を簡単に吹き飛ばせるほどの巨大な風の渦を発生させることができる。


 魔法国家と呼ばれたほどの存在が、どれほどのものか……なんて、正直、分からない。


 そして、王家……、王族の血の重さなんて理解もできない。


 それでも、本来、立場上必要とされる能力が備わっていないことに対して抱く感情くらいはなんとなくだが、想像することぐらいはできる。


 尤も、それはあくまでも想像の域を出ないもので、結局、その心は当人しかわからないものなのだろう。


 ……いや、当人すら分からない部分もあったかもしれない。


 わたしの言葉は真央先輩に少しでも届いただろうか。


 魔法など使えなくても問題なく、魔界で生きていくことは可能だってこと。

 そして、魔法があったところで、どうにもできない事態なんていっぱいあるってこと。


「でも……なんで……」


 あれだけの魔気を身に纏っている人間が、ほとんど魔法を使うことができないのだろうか?


 なんかその辺にも理由があって、それさえ分かれば、真央先輩が恐らく長年抱き続けている劣等感のようなものも払拭できそうな気がする。


 そうして、完全に誰もいなくなった部屋で、魔法の練習をする気力もなくなってしまったわたしは、ぼーっとこんなことを考えて過ごす以外のことはできなくなってしまった。


 まあ、わたしみたいな魔界人として根本的な考えが欠けまくっている人間が、多少足掻いたところでどうにもならないことは勿論、分かっている。


 でも、あんな真央先輩を見て、気にするなという方が無理だというものだ。


 同じ立場になれるはずもないのだけど……、彼女の気持ちを少しでも理解するためにはどうしたら良いのだろうか?


 真央先輩はそんなことを望んではいないと思うけど、それでも考えずにはいられなかったのだ。

次話は本日22時投稿予定です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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