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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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趣味は千差万別

「……とりあえず、俺はどうすれば良いと思う?」


 静観するつもりではあったが、このままでは収拾がつかない。


 仕方なく、傍にいたシオリに聞いてみた。


「事態の収拾をはかるには、その『クエン酸シルデナフィル製剤』が何を意味するかが分かれば良いと思います。でも、九十九は口を閉ざし、カズトさんも教えてくれそうにはないですよね」


 思いの外、冷静な答えが返ってきた。


「手がかりは『避妊薬だと真逆の方向性』か……。ユーヤに聞いた方が早そうだが、連絡の取れないところにいるっぽいな」


 ユーヤに通信を試みるが、部屋にはいなかった。


 他にも心当たりを探すが、特に反応はない。


「どこです?」

「恐らく書物庫かな。アイツ、昔から、この国に来ては分類問わず本を読み漁っているんだよ」

「どの国にいても雄也先輩はそうなんですね」


 そう言って、栞は邪気のない顔で笑う。


「でも『クエン酸シルデナフィル製剤』って九十九の反応からすると、九十九には必要のないもので、雄也先輩もその名前を知っているほど有名な薬なのは分かります」

「媚薬、精力剤という単語から考えると催淫剤、昏倒剤、幻覚剤……その辺りか?」


 他には感覚を鋭敏にしたりするとかも考えられるが……、流石にそれは異性である彼女の前で口にすることは躊躇われた。


「高田さん、高田さん」


 カズトが頭を抱えているシオリに答えを教える気になったようだ。


 そして、こっそりと耳打ちをする。

 いや、できれば俺にもその薬の効果を聞かせて欲しいのだが?


 シオリはきょとんとした顔をして、少し考え込んだが……。


「バイ……? ああ! 性的不能障害を改善させる薬ってこと?」


 聞き違いでなければ、今、とんでもない言葉を耳にした気がする。


 人間界と言うのはそんな言葉を、年若い女性が平気で口にできるような恐ろしい場所だということか。


「ぐはぁ! 良い答えだ。正直なところ、もっとえろちっくな表現を期待したが、これはこれでおっけ~! つまりは、『クエン酸シルデナフィル製剤』とはその薬のことなんだよ」


 カズトの反応を見る限り、聞き違いではなかったようだ。

 しかし、お前はどんな表現を期待していたのだ?


「真逆……、とまではいかないまでも確かに避妊とは意味が違うな。そんな効能がある薬もあるのか、人間界という場所では」


 イズミから聞いた話では、この世界にはない病を治すものがあるとは聞いていた。


 だが、それ以外にもそんな効き目があるものがあるのか……。


「あるんですよ、これが。まあ、若い男にはほとんど使用の必要は無いみたいですけど、ある程度の年齢になると打ち止めがくるからってことでしょうね」


 そうカズトは言うが、これまでに俺はそんな報告を受けていないのだが?


「高田が知っていることは、結構、意外だった」

「そう? 新聞に載るぐらいには、有名な薬だと思うけど……。いや、具体的にはあまりよく分かってないんだよ? 性的不能障害状態って……」

「連呼するな」


 俺も同感だ。


 あまり年若い女性が口にする単語ではないと思う。


「それで、新聞に書いていそうな解説言葉か。高田さんは知識だけで性教育が足りてないみたいだな。俺が教えても良いけど」


 おい、従者?

 いつからそこまで軽くなった?


 そして、それはあらゆる意味で大きな問題となることを知っていて、言っているのか?


「その首を飛ばしたくなければ、そいつに手を出すな」

「大丈夫だって、じっくり調教するし」

「ちょ、調教って動物扱い?」


 確かにシオリは小動物を髣髴(ほうふつ)させるが、カズトの言っている意味とは若干ずれが生じている気がする。


「カズト。どちらにしても、その二人は俺とマオの客人だ。危害を加えるような真似はしないでくれ」


 万一の時、ユーヤの動向も読めないしな。


 昔はもう少し九十九に似て素直だった覚えがあるが、いつから、あの男はあんなに捻くれたのだろうか。


「分かってますよ。ほんの冗談です。俺も一時の気の迷いで同志を失うのは勘弁です。高田さんがもっと好みのタイプだったらちょっと危なかった気もするけど、残念ながら、二人きりになることもなさそうだし」

「当たり前だ! そんな煩悩全開発言をする男は信用できん」


 九十九はどうやら、かなり真面目なようだ。


 その辺りは、俺にとってかなり好ましい部分である。


「『むっつり助兵衛』よりはマシだぞ~。それに、俺、『発情期』の危険性もないから丸一日一緒にいても高田さんに手を出す確率は極めて低い」

「「ぶっ!! 」」


 今度はツクモとシオリが吹いた。


「高田さんはともかく、あんたまで吹くことはないだろ? そんな顔を真っ赤にしていたってヤることヤってなきゃ、異性の護衛はできないはずだし」


 カズトの言葉で、シオリが複雑そうな顔でツクモを見る。


 だが、ツクモは顔を先ほど以上に真っ赤にして下を向いていた。

 ツクモの場合、その表情はどちらにも取れるので、判断がつきにくい。


「万一、まだなら言ってくれ。『ゆめの郷』の紹介ぐらいはしてやろう」


 突っ込んだ話になるので、異性の前であまり深くは聞けないが、これぐらいなら問題はないだろう。


「『ゆめの郷』?」


 シオリがツクモから目を逸らし、俺の方を向いた。


「ああ、女性は知らないかもな。便宜上、どこの大陸にも必ず一箇所はある隠れ郷だ。そこには多くの『ゆめ』が集まり、国、身分、経歴を問わずに男たちを受け入れてくれるんだ」


 俺ができるだけぼかして伝えたためか、シオリは首を捻る。


「高田さんにも分かりやすく言うと、『遊郭』が一番近いかな。中に、じょ……じゃない『遊女』がいて、男たちの性欲解消を手伝ってくれる場所があるんだよ。ソープとかとは違うらしいんだけど、流石に俺も人間界でそんな所までは行ってないからな~」


 露骨なカズトの表現だったが、それをシオリは気にした風でもなく、手を叩いた。


「地域ぐるみで春を売っている感じ?」


 ……「春」ってなんだ?


「うん。そ~ゆ~ところがないと、魔界の男は『発情期』があるし、いろいろたまりすぎると暴走しやすくもなるからね~。こう、適度に解消しとかないと大変なんだよ、男は。限度もあるからね~、自家発……」

「だ~~~~~!! そんなことまで言う必要ないだろうが!! それに王子殿下! 申し訳ありませんが、オレにそんな場所の紹介は不要です!!」


 ツクモが慌てて、カズトの言葉を遮った。


「わ、わたしも、……流石に、ちょっとこれ以上は話に参加できません」


 見ると、先ほどまでと違って、顔を真っ赤にして座り込んでいるシオリの姿もある。


 そこで、俺もようやく気付いたのだ。

 彼女は、こんな露骨な会話を本当に平気で聞いていたわけではなかったのだ、と。


 そして、ミオやマオにも見せてやりたい、この恥じらい。

 基本的にあの二人もずけずけと口にするからな。


「駄目だよ、高田さん。モノ描きは知識以上に経験が大事。本物を知っているとその描写は想像をはるかに凌駕する。お堅い護衛が教えてくれないことも俺なら教えてあげられるよ?」

「……悪の道へ引き込むな」


 九十九は分かりやすく敵意を見せる。


「女は多少悪いところも無ければダメだろ? 清純派で売れるのは20歳くらいまでだぜ。20歳過ぎても経験なしの女ってなんか欠陥品っぽいじゃん」

「その考えには賛同できない。20歳過ぎても三十路になっても良い女は良い女だとオレは思っている。尤も、そこの幼児体型にそれが該当するかは別の話だがな」


 幼児体型?

 幼児のような体型って……、シオリが?


 確かに背はかなり低いが、俺はそこまで彼女が子供っぽいとは思えない。


「失礼な! 幼児体型じゃないもん!」


 先ほどまで、顔を真っ赤にして俯いていたシオリが、今度は別の意味で顔を赤く染める。


「そうだ! 高田さんは少なくとも服の上からでも凹凸が分かる! 真の幼児体型とはほど遠い!!」


 その言葉を聞いて複雑な顔をするシオリ。


 怒るべきか喜ぶべきか……。

 そんな顔だった。


 とりあえず、この場でその男を張り倒しても罪には問わないぞ。


 それにしても、本当に趣味はいろんな意味で千差万別だ。


 カズトはメリハリのある体型じゃなきゃ駄目だと言うし、イズミは健康的ならば体型は気にならないと言う。


 九十九は話を聞いて想像する限りでは、垢抜けていないような清純派が好みっぽい。


 俺はというと、まあ、凹凸がない細身の女の方が好きだったりする。


 こういうのって、俺の経験から察するに、初恋が多少なりとも影響するのだろうか?


 全然、胸がなかった気がするからな、あの方は。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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