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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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それぞれの活動

「ねえ、湊川くん」


 シオリのどこか暢気な声が聞こえた。


「人間界のモノって持ち出しできるの?」

「ん? 流石にあまり多量に運び込むことは禁止されているけど、多少ならできるよ」

「それって、禁止されていなかったらいくらでも運べるってこと?」


 不思議なことに、シオリはそんな基本的なことをカズトに聞いている。


 ふと見ると、ツクモも手は止めていないが、二人の会話に耳をそばだてていることは分かった。


「うん。そうなるね。……じゃなかったら、ここにある人間界の専門書もおかしいし、今、俺が使っている画材だってどう見ても人間界のものだとは思わないかい?」


 そう言いながら、カズトは自分の絵具を見せる。


 シオリは、ツクモから渡された道具を使っているが、それだけでも人間界と呼ばれる場所と、物が違うことは一目でわかった。


「植物とかは?」


 シオリはさらに質問を重ねる。


「え? 植物……? ああ、一部の薬草は運んでいるから多分、許可があれば問題ないかな。国によって異なるとは思うけど、我が国では人間界の生態系を崩さない程度ならおっけ~みたいだよ」

「ま、魔界の生態系は?」

「魔界の生態系は簡単には崩れない。元々、魔界に現存する植物はそれ自体が多量の魔力を含み……、魔気の護りを生まれつき持っているから。逆に人間界の植物の含有魔力は脆弱すぎるんだ。だから、管理にも気を遣うんだけど」


 それは、いくつか持ち帰らせてから分かったことだ。


 実際、イズミやカズトが人間界という場所から、持ち込んだ植物のほとんどは枯れてしまった。


 ああ、それでも、ただ一つだけ枯れていない物が、温室にはあったか。


「……そっか。人間界の植物は魔界で育つのが難しいのか」

「環境や種類にもよるだろうけどね。でも、なんで? 人間界の植物でも描くの? 資料ならいくつかあるけど、何の絵?」

「いや、ちょっと気になって……。あ、資料は欲しいかも。特に木とかって難しいよね~」

「そんなに一本、一本に力入れて描くから……。もっと、背景はすっきりさせた方が高田さんの絵柄に合うと思うよ。逆に俺のはもっと描き込みが必要かな~。背景だけ取り替えてみる?」


 以上、シオリとカズトの会話。


 何やら、専門的な会話になってくると俺にはさっぱり分からない。

 ツクモも分かりやすく顔を変えるし。


 ただ、ツクモの場合は怒っているというよりは、どことなく疲労感が漂っていると言う気がしないでもない。


 何にしても、自分にとって遣り甲斐のある趣味を持ち、それを理解してくれる者がいるということは良い事だと思う。


 カズトも実に活き活きとしている。


 そして、俺自身もそうだった。


 ユーヤは相変わらず書物漬けの日々を送っているようだし、連れであるリヒトと言う名の少年も、そのユーヤに文字を習っている。


 その親密な状況からホントにアイツ、男色に走ったんじゃないだろうなと少し心配してしまうのだが。


 ミオも朝は書物、昼からは魔法三昧。


 ユーヤにしてもミオにしても、この城に来るたび同じことをしている気がするのは気のせいだろうか?


 まあ、ユーヤの場合、今回はリヒトという連れがいるから、少し今までとはリズムが違う気もするが。


「お……?」


 不意に九十九が声を出す。


「トルクスタン王子、『パーシチョプス』の色が紅くなりましたよ。なんだか色鮮やか過ぎて逆に怖いんですが」


 見ると、九十九の目の前にある丸い植物は緑から、鮮やかな紅色に染まっていた。


 確実に、()()()()()()()()()()()()()()ということだな。


「調合方法は?」

「えっと。『フルボ』に『ベウキン』をこの液体に溶かして、10秒ほど加熱した後に『スタラルバル』を入れたら、粉末状になって……」

「……それは、『クラベルタン』の作り方だ。俺でも覚えているくらい基本的なヤツだよ」

「……お?」


 因みに「クラベルタン」とは、カルセオラリアでは一般的な調味料の一種である。


 ツクモは偶然か否か、調味料をよく作り出す。


 珍しいものは調味料でも記録を残しているが、一般的なものは俺の好みじゃないので記録していないのだ。


「セントポーリアの調味料とはまた違う感じのものができますね。薬草の違いなのでしょうか」


 それでもツクモは、調味料でもマメに記録している。


 ツクモ作の調味料シリーズはもうすぐ一冊にまとめることができそうだ。


 それはそれで、何かの役に立つかもしれないから、本人が面倒でないようなので記録すること事態は止めない。


 それに、俺が知らないものもできているのは事実だし。


「九十九~。今ので、調味料どれくらいになった?」


 シオリが手を止めてこちらにきた。

 どうやら、休憩するらしい。


「こっちだって好きで調味料製作しているわけじゃねえんだが……、88品目だ。末広がりで縁起がいいな」

「肝心の薬の方は?」


 カズトが、顔を上げて、黒い液体を紙に塗りながら聞く。

 ヤツは色塗り中のようだ。


 何やら、「×」印を付けているところに、塗っていることだけは分かる。


「トルクスタン王子殿下の好きそうなものなら12品。オレが目標とする系統はまだできない」

「なんだ、あんた……。王子殿下みたいに無計画に作っている訳じゃなく、一応、目的みたいなのはあったのか」


 俺にも目的はあるのだが、カズトには伝わっていないようだ。


「あるんだよ。悪いか?」

「悪かないよ。寧ろ、真面目で良いことだとは思う」

「お?」


 カズトの言葉は、九十九にとって意外な評価だったのか、その動きを止める。


「で、なんだ? 目標は? 媚薬か? 精力剤か? クエン酸シルデナフィル製剤か?」

「なんで、そんなんばっかなんだよ!? それに……、クエン酸シルデナフィル製剤ってオレにはまだ不要だ!!」

「いや、その名で分かるあんたもすげ~よ。神と呼んでも良いかい?」

「迷惑だ!!」


 明らかにカズトが揶揄っていることが分かる。


「何ですか? そのクエン酸シルデナフィル製剤って?」


 シオリも分からないようで、俺に尋ねる。


「人間界の薬みたいだから俺には分からないな。その二人に聞くほうが確実だと思うぞ」

「何? 九十九?」

「オレに聞くな! でも、兄貴にも聞くな!」


 顔を耳まで紅くしているツクモと、ニヤニヤしているカズトの反応から、どうやら、どちらかというと口に出しにくい効果を持つらしい。


ツクモが分かりやすく顔を赤らめている辺り、あまり女性に聞かせる言葉じゃないのかもしれない。


 その様子を見てどう解釈したのか、考え込んでいたシオリが不意に顔を上げた。


「雄也先輩……? ああ、避妊薬?」

「「「ぶっ!! 」」」


 手を叩いて邪気のなさそうな満面の笑みで物凄いことを言う少女に対して、大の男が三人して吹き出すことしかできないとは恐れ入る。


「えっと……、シオリ?」


 俺はなんと声をかけたものか迷っていると……。


「お前の中にある兄貴の印象ってもしかして、結構、そっち方面なのか?」


 九十九がなんとも気まずそうな顔でそう尋ねた。


 しかし、「そっち」とはどちらの方向なのだろうか?


「いや、高田さんのような清純派の少女の口からその手の単語が出てくるのはギャップがあって、結構、楽しいけど……。なんだろう。少しだけ、幻想が壊れた音が聞こえた気がする」


 カズトが珍しくショックを受けたようだ。


 もともと、お前のせいだったはずだがな?


「違うのか。その前に媚薬とか言っていたから、それ繋がりで考えたのだけど……」


 それでも、当事者の少女は気にせず、そんなことを言った。


「ああ、それをヒントにしたのか。……いやいや、高田さん。方向性真逆だし」

「真逆?」


 さらにこれ以上、何かを言わせようと企むカズトには呆れてしまう。


「これ以上、こいつに考えさせるな! コレ以上何が飛び出すか分からない」

「それはそれでこう、ツボを突く答えがこの口から飛び出す可能性もあるわけだし。それに避妊薬は確かに重要だとは思わないか? 魔界の避妊方法ってどこか微妙だからな」

「……こっちにそういう話題を振るな!」

「確かに、相手のことを考えたら避妊はするべきだよな」


 徐々にカズトの口が饒舌になってくる。


 それを見る限り、俺やイズミでは見られない反応を楽しんでいるようだ。


 作業もキリの良いところまで終わったのか、いつの間にか手を止めていて、シオリの護衛である少年を揶揄っている。


 この男も……、いろいろあるから、ストレスを解消したいのだろう。


 そう思った俺は、暫くは放っておくことにしたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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