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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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魔神の正体

「九十九がいると話せないことって?」


 彼女は警戒心を強めた顔を向ける。


 そして、それを隠す気はないらしい。


「お前は前の夢のことをどれくらい覚えている?」

「ほとんど覚えていなかった……というのが、正直なところかな。わたしは、夢の中で起きた出来事のほとんどは、忘れてしまう性質があるようなので」


 警戒はするものの、それでも俺の問いかけには素直に答えてくれる。


「……なるほど」


 しかし、ほとんどを忘れる……か。


 俺にとってはいろいろと好都合だな。


「じゃあ、ここでの会話も忘れてしまうということで間違いないか?」

「一部は残っているから、全てじゃないけどね」


 そうだろうな。

 現実での会話でも、夢での会話が混ざったような反応があったから。


 それに、従者にも話していないことから、忘れる……というのも本当なのだろう。


「残っているものの条件は?」

「不明。でも、前回、夢で話してくれたことは、この場所なら思い出せるよ」

「ほう」


 同じ夢の中だから……ということか?

 それとも何か別の理由があるのだろうか?


「去り際にされた余計なこともしっかりと覚えている」

「なるほど。それで、この距離か」


 妙に警戒されていると思ったのも気のせいではないらしい。


「異性慣れをしていない身なので、その辺りはご容赦くださいな」


 そう言って、彼女は笑う。


 だが、異性慣れしているかしていないかで言えば、かなり彼女は慣れている方ではないだろうか?


 確かに、身体的な接触の経験はあまりないのだろう。


 しかし、客観的に見てもかなりの美貌の持ち主たちと平気な顔で会話している。


 特に、あの大神官は老若男女問わず見惚れるほどの顔だというのに、彼女は平然としているのだ。


 あの神経は凄いと思う。


 それだけでも、彼女が異性慣れしていないとは言う人間はいないだろう。


「でも、あなたは同性でもオッケーな人だったね」


 オレの考えにも気付かず、彼女は揶揄うようにそんなことを言う。


「まあ、あの男のことは、そこまで、嫌いでもないからな」


 別の思考に没頭していたためか、そんなことを口にしていた。


 あの護衛のことはいろいろと思うところはあるが、嫌いではない。

 それは本当のことだ。


 だが、今の答え方は誤解を招くかもしれない。

 ……まあ、大したことではないか。


「お前に振り回されて、気の毒だと本心から同情したくなる」


 俺が本心からそう言うと、彼女は分かりやすく敵意を露わにする。


「用件はそれだけならお帰りくださいませ」


 そのまま、丁寧にお辞儀をする。


 どうやら、追い出したくなったらしい。

 ここは彼女の夢だから、彼女がその気になれば簡単に弾かれてしまうのだ。


「いやいや、まだ本題に入ってないからな?」


 俺は慌てて、ご機嫌取りをする。


「それに邪魔なのは、あの男だけじゃねえ。俺に『シンショク』している存在はどこに行っても邪魔してきやがる」


 俺がそう付け加えると、彼女は神妙な顔をして……。


「『シンショク』……」


 と、呟いた。


「流石に他人の夢にまで介入はできないみたいだがな」


 そこは、俺にとって嬉しい誤算ではあった。


 少なくとも、その間だけは、あの悪夢から解放される。

 それだけに、魔法力はかなり持っていかれるけど。


「でも、その間に身体の『シンショク』が進んでしまうのではないの?」


 彼女は不安げに尋ねる。


「俺の魔力を餌にしているみたいだから、封じればそこまで大差はない。一晩程度の効果しかないけどな」


 魔法を使った後に、魔力を封印する。

 いろいろと危険は伴うが、それに見合うだけの価値はあるのだ。


 そんな俺を見てどう思ったのか。


「あなたに宿る『魔神』って誰?」


 彼女は核心に触れてきた。


「悪いが、俺もよく知らない」


 分かっているのは父が信望している魔神ということだけ。


 各国のお伽話を読み漁って統合しても、未だにその正体は不明だ。

 ヤツが生まれることになった理由……、その元々の目的すら分からない。


「なるほど……」

「いや、そこで本当に引き下がるとは……」


 もうちょっと何か食い下がってくると思っていた俺からすれば、不気味でしかない。


「少なくとも話す気はないでしょう?」


 彼女はどこか冷めた瞳を俺に向ける。

 その顔に何故かゾクリとした。


「まあ、俺が知らないのは本当だからな。昔からミラージュに眠っていた神だとは聞いている」


 誤魔化すように俺がそう答えると、彼女は小さく息を吐いた後、聞いたことがない単語を口にした。


「『災害(ラトゥサジード)』」

「あ?」


 発音はともかく、どこの言葉かが分からない。


「『不幸(ナチュルフォスム)』」

「なんだ? その単語は……」


 さらに別の単語。

 熟語よりは淀みがないので、恐らくは何かの名詞だと思うが、その見当がつかない。


「『崩壊(スパルロック)』」


 英語のような……だが、意味が分からない。


 そんな戸惑う俺の気持ちが伝わったのか。

 彼女はチラリと俺の左腕を見て、さらに驚くべき言葉を口にした。


「『破壊(ナスカルシード)』?」


 その言葉でようやく気付く。


 彼女は、神々の名前を口にしていたことに。


「なるほど……破壊の神さま……か」


 彼女は困ったように笑った。


「お前……なんで……その名を?」

「一応、『聖女の卵』らしいので、多少の勉強はしているよ。大神官様より、神様の名前を一部だけ習いましたと言えば良い?」


 いくら俺でも興味のないことについては、そこまで調べない。

 全ての神の名を知るなど、興味の対象外だった。


 だが、彼女は「聖女の卵」だった。

 大神官と親しい彼女が、何も知らないままででいるはずもない。


「他にも、マイナスイメージの神様の名前は聞いているよ。頑張って覚えたからね。『(セド)』や、『殺人(ディアセマム)』、消滅(ノスカニトスキ)とかもちゃんと覚えた。それ以外は、『病気(ジージド)』、『落下(ルオーフ)』……」


 次々に出てくる。

 本当に学んでいたようだ。


「ああ、そうか……。お前なりに、ミラージュを調べていたんだな」

「少しでも、関わってしまった人間の助けになりたいからね」


 そう言って彼女は笑う。


「そうか……。アリッサムの第三王女……」


 彼女が言う「関わってしまった人間」は俺のことじゃないのだろう。


「まあ、彼女も迷いの森で、直接、襲撃した人の一部を半殺しにはしたらしいけど……」


 彼女はどこか遠い目をしながらそう言う。


「ああ。バモスがアリッサム襲撃にいたらしいからな」


 俺はあの腹立たしい顔を思い出す。


 血筋だけで上に立っている無能な男だ。


 魔力はそこそこあるが、それだけだった。

 それで、あそこまで鼻を高くできるのはいっそ羨ましい。


 さらに、セントポーリアの王子によく似た思考の持ち主で、その点もムカつく点である。


「……なんで、その人に忠告していなかったの? 水尾先輩がアリッサムの第三王女殿下と知っていたはずでしょう?」

「俺自身、アリッサム襲撃には今も納得していない。それに、あの男は嫌いなんだよ」


 そんな連携をとるような国だったら、あそこまで荒れてはいないだろう。


「王子殿下が人を選んじゃいけないのでは?」

「王子殿下だから使える部下は選びたい。アイツ、陛下から託された兵を半数近く率いて、あの森で返り打たれたんだぞ?」


 成功は自分の手柄に。

 失敗は自分の部下のせい。


「相手が悪いことを知っていたのに?」

「……あの報告を聞いた時、少し、溜飲が下がった。アリッサム襲撃に関わったヤツらをあのグループに纏めて正解だったな」


 今回も捨ておきたかったが、状況的にそれもできなかった。


 止めを刺してやる絶好の機会だったのに。


「まあ、あなたにシンショクしているのが破壊の神『ナスカルシード』さまの『分神』と言うのはよく分かったよ」

「どうせ忘れるんだろ?」

「忘れるだろうね」


 彼女は隠さずにそう言った。


「お前に宿る神は?」

「大神官様は教えてくれなかったな……」


 どうやら、自分だけ聞き出し満足したようだ。


「まあ、俺の方でも見当は付いている」

「おや?」

「毎晩、うるせ~からな」

 そう言いながら、俺は左腕を捲る。


 何も視えないはずなのに、黒い靄が湧き出たように見えた。


「お前に宿る神は知らんが、左腕(コイツ)()()()()()()()()()()()()()()()()()


 毎晩のように夢に見る。

 紅い髪、紅い瞳の紅い魔神が金の髪、紫の瞳の聖女を求めて叫ぶ姿を。


 封印した相手だから焦がれたのか。焦がれたから封印されたのか。

 どちらにしても大差はない。


()()()()()()()()()()


 そう言われ続け、蝕まれていることには変わりないのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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