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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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熱闘!カラオケバトル

 以前にも利用したファミレスに入り、わたしたちは4人揃って、昼食をとることになった。


「いや~、この前も思ったけど、笹さんの食いっぷりはいかにも男の子って感じがして良いよね~」


 そう言えば、母も朝方、高瀬のようなことを口にしていた。


「そうか? 普通じゃね?」

「いやいや、多いよ。今ので、何品目?」


 ワカも目を丸くしている。


 確かに、クラスで給食を食べていた時も、こんなに食べる男子生徒は見ない気がする。


「オレとしては『おなかいっぱい』と言いながら、同じ口で大盛パフェを頬張っているお前たちの方が凄いと思うが?」

「「「デザートは別腹」」」


 わたしたち3人が口にした台詞こそ同じだったが、言い方は全然違った。


「それに九十九だってケーキ食べてるじゃないか」

「オレの場合はまだ入るんだよ。見ただけで腹いっぱいになりそうなパフェを食べているお前たちの気が知れない」


 確かにここの「大盛パフェ」は大きいけど……、それでも飽きが来ない不思議な味が魅力的なのだ。


「そんなでっかいパフェに何が入ってるんだ?」


 九十九が少し、興味を示したようだ。


「う~ん、チョコとかフルーツは普通のと変わらないんだけど……」

「そして、このコーヒーゼリー! これが良いのよ!!」


 ワカはコーヒーが飲めてもコーヒーゼリーが苦手と言う変わった人だ。


「歯ごたえのあるフレークも独特な味だね。これが美味しさの秘密かも」

「フレーク?」


 高瀬の言葉に九十九がわたしのパフェを覗く。


「これこれ。食べてみる?」

「おう」


 何気なく、パフェ用スプーンに載せたフレークを九十九が口にした途端……、ワカと高瀬がニヤニヤした笑いを浮かべた。


「な、何?」

「いや~、青春、甘酸っぱいねぇ~」

「見事に自然体だった。あれなら文句の付けようもない」


 そう2人に言われて……、ようやく自分がしたことの意味を理解した。


 わたしは、普段、母と2人でやっているようなことを深く考えずに九十九にしてしまったのだ。


「い、今のは……、その……」

「いやいや、周りを気にしない付き合いが出来るって幸せなことよ? 隠れていちゃいちゃじゃなくて……、そっか~。なかなかのばかっぷるっぷりを拝見しました」


 なんかワカが妙な納得の仕方をしているんですけど?


「そうそう。いや~良いもの見た。可愛い、可愛い」


 高瀬もニコニコしている。


 ただ、当の九十九の反応はと言うと……。


「ふむ……。確かに変わった配合だな……」


 不思議な感想を漏らしていた。


 まあ、九十九にとっても自然な行動だったんだろう。

 お兄さんとも普通に……していたら、なんか嫌だな。


****


 そんな今までにない疲れ方をした後、わたしたち4人はカラオケに行った。


 そうして、2時間ほど歌った後のこと。


「ねえ、カラオケのタイトルで『しりとり』してみない?」


 そんなことをワカが提案した。


「しりとり~?」


 九十九が、電話帳のように分厚い歌本を見ながら眉間にしわを寄せる。


 リモコンから探した方が楽なのに、彼は何故か歌本愛好者だった。


「そうだね、笹さんも持ち歌探しがそろそろ大変そうだし。頭文字が一つあればそこから探せるでしょ?」

 高瀬が賛同する。


「高田はどう思う?」

「うん。良いんじゃない? わたしもそろそろ持ち歌探すのに手間取り始めたし」


 ワカや高瀬とは趣味が似ているのか持ち歌が被っているのだ。


 同じ歌を続けて歌うのも気が引けるので、必然的に3倍近い速度で歌えるような歌がなくなってしまう。


「で、ルールは?」

「簡単に説明すると、恵奈が言ったとおり歌のタイトルでしりとりするんだよ。サブタイトルは基本的に無視。長音の場合、伸ばしている母音部ではなくその前の清音部で。濁点、半濁点は清音にしても良し。撥音で終わるのはしりとり上のルールでは駄目だけど、歌本内にはあるので、次の人に要相談で。促音では終わらないだろうけど、拗音はできるだけ頑張るってことでどう?」


 高瀬は見事なまでに長台詞を吐いた。


「……どの辺が簡単な説明だ?」

「恵乃の言葉を要約させていただくと、歌のタイトルが『ぽー』で終わる場合、『お』ではなく『ぽ』か『ほ』で。『ん』で終わる場合は、普通は駄目だけど歌自体がないわけではないので次の人次第で。小さい『つ』で終わることはないけど、小さい『や』、『ゆ』、『よ』で終わるときは出来る限り頑張れと」


 ワカによって、多少、噛み砕かれた説明にはなっていたが……、やはり長かった。


「なんとなくは……、分かった。でも、何で伸ばすときに母音じゃ駄目なんだ?」

「結構、長音で終わるタイトルって多いから。母音のネタが早々に尽きるのもあれでしょ? 長音無視の方が幅も広がったりするんだよ」


 そんなわけで……、歌のタイトルによるしりとりが始まった。

 順番は九十九、ワカ、高瀬、わたし。


「折角だから、賭けない?」


 ワカが瞳を輝かせながらそんなことを言い出した。


「賭け好きだよね~、ワカって……」

「賭けるって何を? ここの部屋代はオレが払うって話だろ?」


 九十九は気にした様子もなく、確認する。


「そうだね~。あまり目的から外れたものだと賭けとしても面白くはないから、ここの飲食代ってのはどう? 勿論、さっきまでのは除いて、賭けを始める今から終了までの分」

「まあ、妥当……かな? 笹さんと、高田はどうする?」

「オレは別に構わんが……、高田は?」

「わたしも別に……、大丈夫……だよ?」


 前がワカだったらきついかもしれないけど、高瀬ならそんな意地悪なことをされることもないと信じている!


「よし!成立! トップバッターの笹さん! 張り切って行ってらっしゃい!」

「どこに行けと?」


 そう言いながら、先ほどから探していた曲も見つかったのか、リモコンで番号を入れていく。


「なかなかの緊張感だね」


 そう言う高瀬からは緊張感はまったくない気がする。

 寧ろ、どこか余裕さえ感じるような……?


 まあ、高瀬は邦楽だけではなく、洋楽もある分だけ違うかもしれない。


 ワカだって他ジャンルにわたって歌を知っているし、九十九は男声だから、わたしたちとはキーが違うので、歌の被りも少ない。


 もしかして、わたしが一番不利なんじゃないか?

 この勝負……。


「笹さんの歌声って地声よりもっと甘くなるよね~。ホストに向いてるよ?」

「それは褒められているのか?」

「うん。美声は立派な褒め言葉よ? 本気で女の子を口説いたら、簡単に堕ちちゃうぐらい」

「若宮でも堕ちるか?」

「本気ならね。2番目なら絶対、嫌よ。私はナンバーワンのオンリーワンじゃなきゃ嫌なんだから。高田より上の扱いならちょっとは考えるかしら?」


 そんなワカと九十九のやり取りもなんだか余裕な感じ。


「若宮は声量あるし、音域も広いよな~」

「ほっほっほっ。仮にも元演劇部。音域はともかく、声量は努力の成果ですよ?」

「高瀬は英語の発音とかもしっかりしているよね~。早口の曲も難なく歌うし」

「それは恵奈の言う努力次第でどうにでもなるものだし。私としては高田の可愛い声のほうが羨ましいけど? 声質だけは多少のごまかしは出来ても、ある程度天性だからね」

「音は外れますがね……」


 ああ、ワカや高瀬の声を聴かせたい。


 自分の拙い表現では伝わりくいけれど、機械で調整させているライブとCDの差が激しい歌手よりもよっぽどか巧いんだよ~。


「でも、お前の選ぶ歌は割と歌詞が良いよな。知らん曲が多いけど、興味は持てる」


 歌い終わった九十九がマイクを置きながら言った。


『そうそう。高田ってば、どっからか良い曲を探してきて私や恵乃に布教するのよ?それが懐メロ、アニソンとジャンルを問わないところが凄いのよね~』

「恵奈、話に参加したいのは分かるけど、マイクを通して話さないの」


 高瀬が注意する。


「どこで見つけてくるんだ?」

「本屋とか、ゲーセンとか? 後はラジオかな?」


 店先で気に入ったら、調べて買うようにしている。


「二つぐらい前に歌ったやつはCDとか持っていたりするか?」

「ああ、あれは良い曲だよね。なんか……、ゲームの曲らしいけど。CDはあるよ」

 そんな会話をしながら、どんどん時間は経っていった。


 そして――――。


「参った。これ以上『る』の曲は知らない」

 残り時間10分を告げるスタッフからの電話が入ってから、意外にも白旗を振ったのは高瀬だった。

「よし!」

 ワカがガッツポーズをとる。


 地道に(?)、高瀬へのパスを「る」で終わる歌で攻めた結果だった。


「それにしたって……、何曲出てきた? オレ、後半は知らない歌の方が多かったぞ?」

「結構、粘られちゃったけど、勝利は勝利だよね」


 高瀬を打ち負かして、ご機嫌なワカ。


 やっぱり彼女の次でなく良かった。


 確実に開始一時間でわたしが白旗を……って、あれ?

 わたしは、あることに気付いた。


「ねえ、ワカ? 九十九?」

「なに?」

「なんだ?」

「勝負開始してから、2人とも、何か頼んだ?」

「へ?」

「は?」


 二人してきょとんとした顔をした。


 やっぱりだ。


 わたしは、自分が支払いする可能性も考えて、飲み放題のジュースを取りに行くことはあっても、凝った飲み物とか、簡単に掴める食べ物を何も頼んでいなかった。


 そして、それはこの2人も一緒だったようで……。


「「あ――――!? 」」


 珍しく、九十九とワカの声が重なる。

「5分で頼めるのはちょっとしたジュースくらい?」

「いや……、飲み放題以外の飲み物は難しいな」

「いや、流石にもう諦めようよ、ワカ……」


 九十九もわたしも今更そんな気力は残っていなかった。


「謀ったな! 高瀬」


 でもワカがそう叫びたくなる気持ちも分かる。


「いや~、皆が遠慮深くて助かったよ。まさか、何も頼まないとは思わなかった」


 そう言って微笑んだ彼女は本当に敗者だったのだろうか?

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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