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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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同じ言葉でも違う意味

 オレの目の前で、彼女が落ちる姿を見たのはもう何度目だろうか?


 初めて見たのは……、出会った時だった。


 自分がどこから来たのかを問われて……、さりげなく指さしたら……、その場所から何故か彼女(シオリ)は落っこちてしまったのだ。


 あの流れは今でもよく分からない。


 さらに、彼女が「高田栞」になってからも、何度かオレの目の前から落ちている。

 重力や引力に従い過ぎだろう。


 そして、本日、二回目が今……だ。

 いや、もう日付が変わったから二日連続で落ちた……が正しいかもしれない。


 互いに油断している面があったとは思う。


 それでも、彼女は主人で、オレは彼女を護るためのいるのだ。

 オレの方が、もう少し気を引き締める必要があることは間違いない。


 だが、今はそんなことよりも……。


「いろいろと気になっていることがあるんだが、お前、なんで、あの男が来るって知っていたんだ?」


 そこだけははっきりさせておきたかった。


「なんでって……、なんとなく?」


 彼女は、きょとんとした顔でオレを見た。


 それを単に「王族の勘」という言葉で済ませて良いか?

 良いわけあるか。


「『なんとなく』……、なわけあるかよ。あれだけしっかりと断言しておいて」


 彼女ははっきりと口にしたのだ。


 オレが、彼女の一部を鷲掴みにした後……、「もう一度、彼が来ると思うから、備えられる? 」と。


 覚えている限り、ヤツが同じ日に二回、目の前に現れたことはない。

 あの迷いの森は予定外の事態だったからそれは除く。


 それでも、彼女は断言したのだ。

 アイツは、再び現れる……と。


「本当に……特別な根拠があったわけじゃないのだけど……。強いて言えば、去り際……かな?」

「去り際?」

「九十九に余計なことをした。いつもはそんなことをしないのに……」

「ああ、アレ……か」


 正直、アレはあまり、思い出したくもないが、その直後にあった出来事を思えば……。


「護衛から冷静な判断を奪えば、油断を誘えるでしょう?それに、彼は一日に二度も現れたことはない。そして……、この国の建物は外からの侵入は難しいし、別の部屋からの転移は無理だと言われている。それらを合わせて……、そんな気がした」

「たったそれだけで、そう考えたお前の思考回路が変だと思う」


 謎回路……としか、言いようがない。


 だが、結果としてそれが当たってしまったのだから、それを単純に否定することもできないわけなのだが……。


「ああ、それと……、左の手首がなんかおかしかった」

「左手首?」

「うん。夕方、彼が去った後も、暫く、変な感覚があった。それが一番の根拠……かな?」


 そう言いながら、彼女は、オレに左手を見せた。


 暗い中でも、その紅い法珠は仄かに光り、彼女の白く細い腕を照らしている。


「痛むのか?」


 彼女の腕に宿る「シンショク」。

 それは、オレの眼には映らない。


「いや、全然?」


 彼女はけろりとそう言った。


「痛むわけじゃないのだけど……、彼……、ライトが近づくと、少しだけ圧迫感がある時がある。はっきりと気付いたのは……、迷いの森だったけどね」


 そう言いながら、彼女は笑う。


「それなら、立派な根拠だ」


 そして、ヤツの前でそれを言わなかったのは英断だ。


 彼女の左腕にそんな探知機に似たような機能があることは、ヤツも知らないだろう。


「でも、いつもってわけじゃないみたい。ん~っと……、彼の瞳が濁っている時?」

「瞳に濁り?」

「うん。はっきりとは分からないけど、多分……、『シンショク』の影響が彼の表面に出ている時……かな?」


 そこで、オレは別の気になったことを尋ねる。


「なんで、お前はアイツがお前と同じように『シンショク』されていることを知っているんだ?」


 あの男とは確かに迷いの森でこれまでになく会話をした。


 その中で、確かにアイツは自分に妙な魔力が後付けされた……と言っていた。

 それが、「シンショク」のことだとは思わなかったのだが。


 しかし、彼女とはそんな会話をした場面を全く見ていないのだ。


 あれだけ、警戒のために目を光らせていたのに、そんな重要な話をしているような状況を見逃していたとは思えなかった。


「なんでって……」


 そこで、彼女は大きく首を捻った。


「そう言えば、なんでだろう? どこかで聞いた気がするのだけど……」


 何故か、彼女自身もはっきりしないらしい。


 それでも、ヤツは彼女の言葉を否定しなかった。

 それどころか、何故か嬉しそうな顔を見せたのだ。


 そんなこと、彼女は気付きもしなかったのだろうけど。


「ヤツの『シンショク』と、お前の『シンショク』が違うというのは本当か?」

「わたしのは生まれる前だけど、彼のは……、誰かの手によって……とは聞いた気がする。えっと……確か、最高クラスのバカから……とか?」

「……なんだ、それ?」


 彼女から出てきた言葉の意味がオレにもよく分からない。


「なんか記憶が断片的で……上手くまとめれらない」


 だが、そう言っている彼女自身も、戸惑っていることは分かる。


「会話したことは確かなのだけど……、それがどこで……だったかも分からないし、なんか彼の言葉に雑音が入ったかのようで……」


 どうやら、本当に分からないようだ。

 何かの弾みで思い出すのかもしれない。


 それほど、曖昧な記憶。


「思い出せないなら、大した話じゃない……か?」


 だが、彼女の口から自然に出てきた言葉の数々はあまり無視できるものじゃなかった。


 できれば、全て思い出してほしいとは思う。


「くしゅんっ!」


 だが、彼女が一つくしゃみをした。


「寒いか?」


 今の彼女は、いつもよりずっと薄着だ。


 でも、魔界人はそこまで温度変化に弱くはない。

 特に彼女は身を護る「魔気の護り」も強い。


 その影響で、日焼けもしないため、肌の色はかなり白くなっていた。


「いや……、妙に鼻がむずむずしただけ。誰か、噂しているのかな?」


 そう言いながらも、彼女は服を合わせた。


「……なんで、そんな服着てんだよ」

「いや、『神舞』の練習して目を覚まそうとして……」


 この時間帯は、彼女にとって既に寝ている時間だ。

 身体を動かすことで眠ることを避けたかったのだろう。


「……わざわざその服を着る理由はないだろう?」


 ストレリチアで渡されたその衣装は、薄手の上、膝丈で少し裾が広がりやすい。


 王女殿下の意向を取り入れた結果だと聞いているが……、大神官猊下はもっと反対すべきだと思う。


「気分だよ。ユニフォームを着ると、試合って感じがするのと一緒」


 彼女のその気持ちは分からなくもないが、今夜はあの男が来る可能性が高かったというのなら、話は別だろう。


 少なくともその格好で待つのは可笑しい。


「いや……、それは無理があるだろう」

「なんで?」

「先に言っておくが、一般的な男目線で語らせてもらう」

「はい?」


 彼女はきょとんとした顔をオレに向ける。


 どうやら、本気で気付いていないらしい。


「裾が短いスカート。肌の色まで分かりそうな薄手の服。さらに上半身は浅い衿合わせ。それは……、男を誘っているとしか思えん」

「は?」


 彼女は、自分の胸元に両手をやり、衿を握って呟く。


「そう言えば、ライトも似たようなことを言ってたな……」


 ああ、やっぱりそう思うよな?

 男だから。


 そして、衿を握るその行動も無意識なのだろうけど、そんな姿も、かえって男としては目のやり場に困る姿となることを彼女は知らない。


 両手で胸の(あわせ)部分を強調するとか、狙っているとしか思えないのだ。


 しかし、それをこれ以上追及したところで、彼女にそんな自覚がない以上、不毛な問答にしかならないだろう。


 それに、そんな男の心理が彼女に分かるようなら、オレも、恐らくあの男も、頭を抱えたくなる回数はもっと少なかったとも思う。


 仕方がないので、オレは、上着を彼女にかける。


「それでも、羽織っておけ」

「ありがとう」


 彼女は一言だけそう口にして、オレの上着を着た。


 なんと言うか……、少し気まずい雰囲気なのは何故だろう?


「移動するか?」


 オレが手を差し出すと……。


「うん」


 彼女は俯いたままだったが、素直にその手をとったので、オレたちはすぐに彼女の部屋へ移動したのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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