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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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実は仲良し?

 トルクスタン王子に飲んだ薬の報告書を渡した後、わたしと九十九は、カルセオラリア城の屋上部にいた。


 城壁に囲まれたこの場所は、日本の城で言う曲輪みたいなものだと思う。


 でも、こんな城の造りということは、昔、この国は他国から攻められるようなことがあったのだろうか?


 この場所からは、城下を見渡すことができるが、何故かゲームや漫画でよく見るような見張りの兵のような人はいなかった。


 地下は許可がないと立ち寄れないが、この見晴らしの良い場所は大丈夫と言うのも少し、不思議な話である。


 まあ、ここは機械国家と言われているような国だ。

 もしかしたら、わたしが気付かないだけで物凄い仕掛けとかもあるのかもしれない。


「来ると思うか?」


 壁に背を預けながら、九十九はわたしに向かってそう言った。


「来るかどうかは分からない。でも、見ている可能性は高いと思うよ」


 わたしはそう答えるしかなかった。


「こんな露骨な誘い出しにほいほい応えるほど、大きな隙を見せるようなヤツか?」

「ん~? 普通なら無視すると思うけど、彼は少しばかり自己顕示欲が高そうだからね」

「……なるほど」


 九十九は息を吐きつつ、肩を竦める。


 わたしの足元には白い紙を広げていた。


 そこには大きく文字を書いてはいるが、これが見える場所にいれば、言葉そのものは伝わることだろう。


 でも、伝わっても無視される可能性は高いとは思っている。


 明らかに罠に見える行為だからだ。


「暗くなって文字が見えなくなるまでだから、悪いけど、付き合ってくれる?」

「へいへい」


 今日は朝から本当にいろいろあった。


 廊下でトルクスタン王子だけではなく、人間界で会った同級生たちと再会し、何故か、不思議な薬を飲むことになった。


 それから、薬の効果が切れるころに、水尾先輩の双子の姉である真央先輩と再会し、その会話の流れで、水尾先輩との一方的な魔法勝負。


 意識を飛ばされ、復活した後にそれからお絵描きの時間。


 ……イベントが盛りだくさん過ぎる。

 せめて、日程を分けて欲しい。


 そんなバタバタした一日が終わって、今は、夕方である。


 この世界の太陽である「ナス」が傾き、広い空に羊の大群が駆けるような雲を、紅く染め上げ始めた。


 あともう少し時間が経てば、完全に「太陽(ナス)」はあの地平線の彼方へ落ち、今は、薄っすらとしか見えない二つの「蒼月(ティアラタス)」と「紅月(ノウム)」と言う名の衛星たちがそれぞれ自己主張を始めることだろう。


 初めは慣れなかった「二つの衛星(ティアラタスとノウム)」も、太陽とは色味が違う気がする「恒星(ナス)」も今ではすっかり日常となっていた。


「そろそろ日が落ちるな」

「そうだね」


 黄昏時、九十九と二人でのんびりと日が暮れていくのを見る。


 日本では「逢魔時(おうまがどき)」とか「大禍時(おおまがどき)」とも呼ばれていたことをなんとなく思い出す。


 昔の人は、魔物に遭遇するとか、大きな災禍が訪れるとか、そんな不吉なことをこの赤い夕陽に見たのだろう。


 空だけではなく、周囲の城壁や傍にいる九十九の顔まで紅く染まった頃……。


「来た……」


 わたしは思わずそう口にしてしまった。


「は?」


 九十九がわたしの言葉に、慌てて周囲を見回す。


「そこの少し離れた右斜めの城壁の上に立っている。いきなり現われたから、転移魔法を使ったかな?」


 わたしはそちらに顔を向けながらそう言った。


「よく分かったな。気配は完全に消したつもりだったが……」


 そう言いながら、先ほどまで見えていた夕日のように紅い髪をなびかせながら、黒い服を着た男がその場に姿を現した。


 二ヶ月ほど前、迷いの森で会った時とはまた印象が違う気がする。

 でも、何が違うかとははっきり言えないのだけど。


 九十九は庇うようにわたしの前に立ち、そのまま左手を握った。


 転移魔法などの移動魔法によって、わたしだけが別の場所に飛ばされることを防ぐための行為だ。


 だから、他に深い意味はない。


 でも、これじゃあ、せっかく呼び出した相手の顔が見えない。

 わたしは背が低いままだが、九十九の背は大きくなったからだ。


 この二年で身長は、1.2倍近く、体重は1.7倍ほど差が付いていたのだから、仕方はないのだけど。


「護衛の方が、主人より反応が鈍けりゃ盾にすらなれんぞ」


 紅い髪の男、ライトは九十九に挑発的な声を向ける。


 だが、それぐらいで九十九は動じない。


「まさか……本当に来るとはな」


 大きく息を吐きながら、どこか呆れたような声で九十九はそう言った。


 分かりやすくその言外に「お前、アホだろ? 」と言う意味を込めている。


「あんたの主人より、初めて逢引きの誘いを受けたんだ。それに応えないわけにはいかないだろう?」


 ……逢引き?

 つまりは、デートのお誘いってこと?


 そんなものしたっけ?


「これを、『逢引きの誘い』と言うのか?」


 九十九は、足元に広げてある白い紙を見回しながら、力の抜けたような声を出す。


 だけど、握られたこの手には力が込められた。


「その背後の女に色気ある誘いが期待できると思うか?」


 ライトは相変わらず失礼なことを平気で口にしてくれる。


「思わない」


 それに対して九十九もきっぱりと肯定の意思を見せる。


 そんな所で妙に仲良くされてもわたしが複雑になるだけですよ?


「呼び出しだけでも十分な進歩だ。なあ、シオリ」

「この呼び出しってそんなに変?」


 別に「逢引きの誘い」というわけではないけれど、先程から、なんか女性としてのわたしが全否定されている気持ちになる。


「「変」」


 二人とも、特に示し合わせたような様子はないのに、声を揃えてわたしの疑問に答えてくれた。


 実は、仲が良いでしょう? あなたたち。


 足元にある白い紙には、「ライトへ お渡ししたいものがあります。」としか書いていなかった。


 但し、その文字は今となっては懐かしい日本語で書かれている。


 この言語が通じるのは、人間界、それも日本へ行った人限定だ。

 この国の人間には理解もできないだろう。


 しかし……、この文章、そんなに変かな?


 どのくらいの大きさで書けば、彼に見えるかも分からなかったから、出来るだけ大きく、簡潔に書いたつもりだったのだけど。


「但し、呼び出しに応えるのは今回だけだ。二度はない」


 ライトは、はっきりとそう言い切った。


「二度も呼び出させねえよ」


 ライトの言葉にわたしが返答するよりも先に、九十九が答えた。


 わたしとしては、今回も彼が応えてくれるとは思っていなかったのだ。


 だから、一度だけでも奇跡(気紛れ)が起きただけ良かったと思うことにする。


「それで渡したいものとはなんだ?」


 ライトはどこか面倒くさそうにしながら、わたしに促した。


 こんな所は年相応って感じがするよね。


「マント」

「は?」


 わたしの言葉が伝わらなかったのか、彼は短い言葉で問い返す。


「正確には返したいもの……かな」


 そう言いながら、わたしは右手に握っていた袋ごと手渡した。


「……中を見て良いか?」


 そう聞かれたので、わたしは頷く。確認は大事だしね。


 彼は袋から、黒いマントを取り出すと一瞬、目を丸くして、それから軽く溜息を吐く。


「このまま、わたしが持っていたらボロボロになっちゃうから」


 本当はもっと無傷で返したかったけれど、今日、水尾先輩の魔法対策で使っちゃったからね。


「返さなくて良い」

「ほへ?」

「それはお前にくれてやったものだ。それに……、そこまで、お前の魔気が染みわたっている物なんざ、今更、俺が使えるかよ」


 そう言いながら、袋ごと突っ返されてしまった。


「ほら、見ろ。余計なことだっただろ」


 九十九はそう言うが……。


「もともとの所持者の許可を得ないまま、使い続けられないよ」


 周りに言われるままずっと身に付けていた。


 確かに彼が言ったように今更でもある。


「譲渡されたのかはっきりしていなかったし」


 気が付いたら、これがかけられていた。


 もしかしたら、うっかり落としたのかもしれないとも思ったのだ。


 そして……、実は高価らしいことも引っかかっていた。


「ずっと気になっていたことだから、はっきりさせたかったの」


 それが自己満足に過ぎなくても。


「ほう。ずっと俺のことを考えていたということか?」


 何故か、ライトは挑発的な笑みを浮かべた。


「??? そうなる? ……の? ……かな?」

「納得するなよ」

「疑問符、多すぎだろ」


 わたしのどこか曖昧な返答に九十九とライトからそれぞれ突っ込みが入る。


「いや、この一か月半、昼夜問わず無休で考え続けていたわけじゃないから、それを『ずっと考えていた』と言うのは何か違う気がするのです」


 それだけ、この期間はいろいろなことがありすぎたのだ。

 主に魔法使用のことばかり考えていた。


 彼のことは、マントを見るたびに「返さなきゃ」と考えるぐらいだったかな。


「細けえよ」

「細かいだろ」


 ライトと九十九が同時に同じ意味の言葉を口にした。


 どこか似ているのかな? この二人……。

 それとも実は、仲良しさん?


 彼らは、全く顔を合わせようともしていないけれど、わたしはなんとなくそう思ったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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