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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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やりにくい相手

「これは想像以上だね」


 その現場を目撃していた誰もが真央の言葉に頷くか、そう思ったことだろう。


「……いや、これ……を、そんな言葉で片づけて良い話か?」


 だが、ただ一人、トルクスタン王子だけは呆然としていた。


「俺の結界が何度軋んだと思ってるんだ!?」

「ミオの魔法で、13回。高田の魔法で1回、魔気で2回」

「ミオは分かる。もともとアイツはおかしいからな。だが……、シオリは……」

「そこの二人に聞けば良いことでしょう? 私に聞く理由が分からない」


 そう言って真央は溜息を吐いた。


 彼女も確信があったわけではない。

 だが、彼女と再会した時からあった違和感。


 そして、自分の妹である水尾の魔法を躱しきるという事実。

 さらに……、セントポーリアから届けられていた謎の手配書。


 それらを結び付ければなんとなく見えてくるものがあった。


「ユーヤ、どういうことだ?」


 トルクスタン王子は素直に、目の前にいる黒髪の青年に尋ねる。


「当人に聞けば良いだろ?」


 黒髪の青年はさらりと答えた。


「当人、意識がないじゃないか!」

「当人からの許可がない状況で、俺や九十九が簡単に口を割るとでも?」


 当然ながら、雄也は簡単に話す気はないようだ。


「ユーヤは無理でも、優しそうなツクモなら!」


 そう言ってトルクスタン王子は先ほどまで九十九のいた場所を向き直るが、既に彼はその場から離れていた。


「主人第一の男が、あんな状況でいつまでもこの場に留まっていると思うか?」

「そんな男がよく、今回のことを許したな」


 九十九は、既に、倒れた栞の傍に水尾とともにいた。


 しきりにあちこちを確認している辺り、傍目には悪戯をしているようにしか見えないが、その眼差しは真剣過ぎて、ちゃかす気も起きない。


「ミオルカ王女殿下の魔法で簡単にどうにかなるような娘なら、ダルエスラーム王子殿下はあそこまで執着しない」

「あ~、次世代に賭ける気なのか、ダルエスは。唯一の世継ぎも大変だな」


 自然と愛称で呼ぶ辺り、トルクスタン王子にとって、そこまであの王子の印象は悪くないのだろう。


「血族主義のセントポーリアにしては珍しい選択ですね、笹ヶ谷先輩」

「正妃ではない位置づけにするために探しているとは聞いている。正妃はともかく、寵姫なら母の出自を問わないからな」


 セントポーリアという国は、基本的に血族主義であるため、国王の長子が王族の血を引かなかったことがなかった。


 勿論、過去には、王族の側女(そばめ)に子ができることもあった。


 だが、それはいずれも、先にその王族と正妻との間に長子が生まれた後の話である。


 正妻から、長子が生まれるまでは、側女(そばめ)との間に子を()すことは許されていないのだ。


 そして、その妾腹の子供たちも、例外なく、王族たちの血族婚の礎になったと雄也は聞いていた。


 そこまで徹底して貫くその姿勢には、もはや、溜息しか出ない。


「ところで、先輩とリヒトくんは高田の方へ行かないの?」

「九十九がいれば十分だ」

『ツクモに、まかせる』


 真央の問いかけに、雄也とリヒトはほぼ同時に答えた。


 雄也としては、治癒魔法を使えない自分があの場に行っても邪魔なだけだし、この場を離れるわけにもいかないという理由がある。


 リヒトはまだ雄也から離れることに不安があるためだった。


 だが、二人の迷いがない言葉を聞いて、真央は少し眉を動かす。


「そちらも、知りたいことが分かっただろう? こちらも見たいものを見た。お互いに利があったことだと思うが?」


 対して、雄也はその微笑みを崩さない。


 それがやりにくいと真央は感じた。


 この国は基本的に分かりやすい人間で溢れている。

 彼女の出身であったアリッサムも直情的な人間の方が多かった。


 だから、こんな本心を読ませない人間を相手にするのは酷く疲れるのだ。


「まあ、確かに知りたいことは分かったけどね」


 真央はそう答えるしかなかった。


 確かに彼の言う通り、一番知りたかったことは分かったのだ。

 それで「良し」とすべきではある。


 だが、同時に新たな疑問もいくつか生じてしまったのも事実だった。


「マオ、何か分かったのか?」

「まあ、一応」

 近づいてくる水尾に向かって真央は答える。


「ただ……、ミオ。なんで、最後は『誘眠魔法』だったの?」


 背後をとった後で、精神系の魔法でその動きを制止させる。


 それはこれまでの妹からは考えられない手段だった。


 昔から彼女はその性格上、見た目にも派手な魔法を好んでいたのだ。


 だから、あの絶好の機会を逃すとは思えなかった。


 見たところ、簡単に死ぬような娘でもないことは分かっていたから、迷いなく大きな魔法を放つと思っていたのに……。


 それに、「誘眠魔法」なんて、いつの間に契約していたのだろうか?


「分かんないか?」

「分からないから疑問なんだよ」

「あそこで、攻撃したら倒れているのは私だったってことも?」

「は?」


 真央は妹が当然のように口にした言葉の意味がよく分からなかった。


「高田は守りに特化している。自動防御の魔気が必要以上に攻撃的なのもそれが原因だ」

「でも、ミオだって自動防御するでしょう?」


 自動防御を同時に発動させたなら、魔力が強い方に分があるはずではないか?


「高田を見て知ったんだが、風と火なら風属性の自動防御の方が発動は早いんだよ。先に防御させた方が負け確定って話だ」

「だが……、それでミオが倒れるというのが俺には分からない」


 その後ろで話を聞いていたトルクスタン王子は純粋な疑問を口にする。


 水尾は魔法国家アリッサムの第三王女で、彼が知る限り、魔法に関しては世界の頂点に近い位置にいる。


 そんな彼女が他者の「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」程度で倒れるとは思えなかったのだ。


「魔気の防御は高田の方が上で、発動も早くて、超至近距離。魔法耐性や風属性耐性が強くても、強大な魔力の塊が来たら私でも避けられないし勝てん」

「アリッサムの第三王女ともあろう者が、随分と弱気だな」

「不意打ちで何度か吹っ飛ばされたら自覚もする。高田の防御に1メートルぐらいの至近距離でも完全に耐えられるのは、そこで聞き耳を立てている兄と、高田を抱えて既に立ち去った弟ぐらいだ」


 それは遠回しに、魔法国家の女王や風属性最高位の王でも耐えられないと言っているも同然だった。


「いや、それは買いかぶりすぎだろ? アリッサムの女王陛下が宙を舞うとは思えんが」

「アリッサムの女王陛下がやられるとは言っていない。だが……、間違いなく数歩は後ろに下げられる。セントポーリアの国王陛下も同じだ。他者との実戦経験がなければ尚更だろう」


 水尾は自分の手を見つめながらそう言った。


 彼女に勝てたのは彼女への対策を知っていたからだ。


 風の盾や黒いマントの召喚は完全に予想外の行動だったが、それ以外の護り方や攻撃手法はよく見ていたし、何度か体験もしていた。


 彼女がもっと攻撃手段や防護手段を身に付けたら、迷いの森で契約した「誘眠魔法」なんて呑気な手段を使うこともできなくなるだろう。


 いずれはもともとの話通り、「殺し合い」になる。


 そして、自動防御が彼女の方に分がある限り、自分は絶対に勝つこともできなくなるだろう。


「それならば、なんで、彼らなら耐えられると思うの?」


 それ以上に真央は水尾の言葉が引っかかった。


 世界最高峰の人間を凌駕していない限り、それはありえない話なのだ。


 アリッサムは世界最高の魔力所持国。

 聖女伝説の名残もあっても、尚、セントポーリアは第二位とも言われるほどである。


 アリッサムが崩壊したことにより、順番は変わってしまったが、それでも、生き残った王族を見る限り、今でもその考え方は通用すると言えるだろう。


「彼ら二人は高田限定でかなり強い耐性を持ってんだよ。幼馴染だから感応症が働いた結果だとは思うが……」


 そう言いながら、水尾は雄也を見て、九十九が去った方を見た。


 雄也としてはこれ以上、余計な話をさせたくはなかったが、水尾はまた雄也を見て、口元に笑みを浮かべたので、止めずに見守ることにした。


 水尾と真央は双子だ。


 アリッサムという国が消滅しても、お互いがその行方もその身も案じていたことに嘘偽りはない。


 だが、互いを信用しているかどうかと問われたら、今は「YES」と即答はできないだろう。


 それだけこの2人が離れていた二年と言う月日は長すぎたのだ。


 それぞれがこれまでの境遇を話したのは表面上のことである。


 全てを語りつくすには時間が足りないこともあるのだが、相手に渡す情報の取捨選択をしたのは明らかだった。


 さて、この結果が後に禍根とならなければ良いのだが……。


 その場で話を聞いていた雄也はそう思うしかなかったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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