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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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どうしてこうなった?

「どうしてこうなった?」


 わたしは心の底からそう呟かざるを得なかった。


 割と、この世界に来てから何度もこの台詞を言っている気がするが、今回は、本気でそう思った。


 ここは、機械国家カルセオラリア城の地下にある契約の間。


 魔界の人が住む建物には必ず備わっているとされる契約の間は、例外なく耐魔法に特化した壁に覆われている。


 契約した直後に魔法が使えるかどうかを試すためらしい。


 言い換えれば、魔法を使い放題の場所でもある。


 本来は建物の主……、今回のように城の場合、使用するためには必ず王族の許可がいるらしい。


 ただ各国の城の中でも例外の存在、ストレリチアは城と大聖堂で契約の間が二部屋に分けられていた。


 だから、城にあるのは王族、大聖堂にある部屋は大神官の許可と、同じ敷地内にありながら別口の許可が必要となっているのは余談。


 そして、この国の王族、第二王子殿下は、何故かとても楽しそうにこの部屋の使用許可をくださいました。


 これって、結構、酷い話だと思う。


 そして、わたしの護衛である九十九は反対したが、もう一人の護衛である雄也先輩がなんと賛成してしまった。


 曰く、蘇生魔法に近しい魔法を扱うと噂の第二王女の魔法を見たいとのこと。

 つまり、実質の死刑宣告ということでしょうか?


 そして、九十九の方も形だけの反対に見えた。

 彼も未知の魔法は出来る限り見たい人だとわたしは知っている。


 九十九は、水尾先輩の食事を担っている。

 しかも、胃袋を掴んでいる状態。


 だから、その気になれば、本気で反対できなくはないはずなのだ。


 反対する人間がいない時点で、わたしに拒否権はなかった。


「トルク、結界を頼む」


 水尾先輩がトルクスタン王子にそう呼びかけた。


「流石にミオでも、この壁はぶち抜けないだろう?」

「壁はぶち抜かない。ただ……観客に保証はできない」


 とんでもないことを言いだしましたよ、この魔法国家の王女殿下。


 どれだけ本気でやる気なのでしょうか?

 ……いや殺す気って話だったか。


 まさに()る気ってやつだね。


 その言葉で、トルクスタン王子も一瞬、息を呑んだが、結界の準備を始める。


 水尾先輩の魔法はストレリチアにいた頃、毎日のように食らっていた。

 どれほど多彩で、強力なのかは文字通り、身体で覚えている。


 だけど……、それがまだ全力ではないことも知っていた。


 魔法国家の王女殿下の全力など、半分人間のわたしが耐えられるものだとは思っていない。


 彼女はいつも「手加減はしない」と言っていたが、それが、(イコール)「全力」というわけではないのだ。


 その証拠に……、わたしは、彼女が使えるはずの巨大魔法を一度も見たことがなかった。

 手加減はしていなかったが、使う魔法は選ばれていたということだ。


 対して、わたしは水尾先輩に対して、まともに魔法を使ったことはない。


 迷いの森で魔法を使えるようになってから、わたしが自分で意識して魔法を使ったことがあるのは、九十九に対してだけだった。


 でも……、恐らく水尾先輩には通じないだろう。

 彼女は風属性の魔法に対しても耐性が強いのだ。


 いや、正しくは、全属性魔法に対して耐性が強いらしい。


 それって、もうラスボスレベルなのではないですか?

 そして……、纏っている魔気を見る限り、真央先輩はそれ以上だと思う。


 魔法国家がおかしいと言っていた九十九の言葉が改めて身に染みる。


「準備できたか?」


 いつものように水尾先輩が呼びかける。


 でも、その表情はいつもより少しだけ険しかった。


「もう少しだけ、待ってもらえますか?」


 時間をかければかけたほど、集中している水尾先輩の魔力は上がる。


 既に、臨戦態勢となっている彼女から放たれ始めた魔気から感じられる気配は、熱くて、それだけで汗が出始めた。


 だけど、それでも……、覚悟が簡単に決まれば苦労はない。


 そもそも、わたしには彼女に対抗できるほどの手段がないのだ。

 これまで使った魔法は基本的な風魔法だけ。


 開始前から、勝負が決まっている。


 だからと言って、始めから白旗を振って逃げ出すような気もなかった。

 水尾先輩が本気を出せば、普通の人間は簡単に殺せるのだろう。


 それでも、ここで尻尾を撒いて逃げるほど恥知らずでもない。


 じゃあ、どうするか?


 相手が全力を出してくださるなら、こちらも全力を出すしかないでしょう?

 しかもできるだけ、意表を突ければ良い。


 水尾先輩に奇襲が通じるとは思っていないけれど、それでもやってみる価値はあるのだ。


「いけます」


 わたしは深呼吸をして、水尾先輩に向き直る。


「マオ、合図」

「了解」


 水尾先輩の声に真央先輩は結界に守られながら、応えた。


「始め!」


 その言葉をきっかけとして、わたしは初めて、まともな魔法勝負をすることになったのだ。


****


「どうしてこうなった?」


 そう言いたくなった彼女の気持ちはよく分かる。


 同じ状況でもオレなら、まともな勝負になる気はしない。


 水尾さんの双子の姉、真央さんの言葉で、二人は何故か魔法勝負をすることになった。

 それも、全力で。


 水尾さんは、魔法国家の第三王女だ。


 確かに国は消滅した。

 だけど、彼女たちの中にある魔力は一切の陰りを見せていない。


 水尾さんに至っては、出会った時よりも、より強くなっていると感じていた。


 本気の魔法勝負となると、他大陸の王族でも末端なら消し炭となる可能性はある。


 少なくとも、ストレリチアのグラナディーン王子殿下は彼女が本気を出せば自分など秒殺だろうなと呟いていた。


 もっと魔力が強い若宮はまともにはやらないだろうが、防護魔法を見る限り、そこまで強力な魔法を学んでいない気がする。


 尤も、ストレリチアは法力国家だ。

 魔法の知識はそこまでないかもしれない。


 我が国のダルエスラーム王子はもっと魔法の対抗能力が低い。

 あのクソ王子は数秒、持つだろうか?


 普通なら強力な魔法を操るために必要な詠唱も、水尾さんは省略する。

 下手すれば無詠唱だ。


 しかも、一息つく間に数種類の魔法を放つ。

 あんなの反則にも程がある。


 本来なら、オレの立場上、反対をしなければならないのだろう。


 実際、受け入れられないと思ったが、反対はしてみた。

 水尾さんは笑って「九十九は良い物を見たくないか? 」と言って却下してくれたが。


 この場合、知らない魔法のことではない。


 恐らくは、その良い物を見せるのは高田の方だろう。


 それがあるから、水尾さんは普通に考えれば彼女自身が反対しそうな提案を受けたのだと思った。


 水尾さんは口調の割に、過激な人間ではない。

 人を傷付けることは好まないのだ。


 その双子の姉である真央さんの方が何を考えているかは分からない。


 だが、流石は魔法国家の第二王女だ。

 纏っている魔気は、分かりやすく水尾さんを凌駕していた。


 防御のための結界を彼女自身が張らないのは少し意外だったが、機械国家は空属性だ。

 空間、結界、召喚などに特化していると聞いている。


 だから、トルクスタン王子に任せたのだろう。


 実際、この場に張られた結界はオレが知らないものだったが、かなり魔法耐性が強いことは分かる。


 機械国家の秘術じゃなければ、教えを請いたいところである。


 さて、水尾さんの前に立つ高田の顔色は明らかに悪い。


 明らかに迷いがある状態だ。

 まあ、いきなりこうなったのだから、無理はない。


「どちらが勝つと思う? 九十九くん」

「水尾さんでしょう」

「おや、主人が勝つとは言わないの?」

「高田には水尾さんを相手にできるほど対抗手段があまりないですから」


 まさか、高田がまだ魔法を使い始めたばかりとは言えない。


 オレは水尾さんのことを信じているが、この人はまだよく分からないのだ。


「笹ヶ谷先輩は?」

「ノーコメントで。ただ……、貴女の企み通り、どう転んでも面白い物を見ることができそうだなとは思います」

「……私は先輩ほど企む人間じゃないですよ?」


 いや、この人からは兄貴や大神官のような気配を感じる。

 少なくとも腹黒系だ。


「トルクは?」

「普通に考えれば、勝負にならないと思うが、ユーヤの含みが気になる」

「リヒトくんは?」

『オレ、まほう、よくわからない』

「貴方の目から見たこれまでのミオとシオリの判断を聞かせて欲しいだけだよ」


 なんでリヒトにそう尋ねたのかは分からないが、リヒトは少し考えて……。


『まよいがきえれば、シオリが一ばん、強い』


 高田と付き合いがそこまで長くはないはずのリヒトは、きっぱりと言い切った。


 そして、それはオレも感じていることだ。


 確かに水尾さんは強い。

 魔法の知識も豊富だ。


 だけど……、この世界では精神力がものを言う。


 その意味では、オレが知る限りこの世界最強は、間違いなく、目の前にいるあの小柄な女だ。


 敵だと分かっている人間、少なくとも自分の身を狙う人間までも受け入れる度量は並の人間にはできない。


 そして、彼女は自分がこれまでにされたことを忘れているわけではないのだ。

 覚えている上で、その手を伸ばすことに迷いはない。


 但し、そこには明確な線引きはあることは分かっている。

 それは、「その時、自分に害のない人間」に限るのだ。


 少しでも、自分やその周囲に対して害意や敵意を見せた時には容赦なく、ぶっ飛ばす。

 その敵味方の判断と、思い切りの良さは本気で羨ましい。


「準備できたか?」


 高田に向かって、いつものように水尾さんが呼びかけた。


 その彼女の周囲に紅い炎の気配が目まぐるしく変化を見せる。

 並の人間ならば、その時点で両膝を付くだろう。


 勝てるわけはない……と。


 だが、これは恐らく、勝負ではないのだ。


「もう少しだけ、待ってもらえますか?」


 高田は笑顔を作ってそう答えた。


 それだけでも普通の女じゃない。


 当人は意識していないだろうけど、それを見慣れているオレや兄貴はともかく、トルクスタン王子は目を丸くしている。


 あれだけの魔力の差を見て何故笑えるのか、と。


 ここで、トルクスタン王子が知らないことがいくつかある。


 高田は魔気を魔法具で抑え込んでいる。

 水尾さんも抑え込んでいて、アレなのだが。


 単純に表層魔気の放出を外に出していないだけで、封印とは違う。


 よほど感知に優れた人間でない限り、あの女の身体に巡る魔力(竜巻)には気付かないだろう。


 さらに、高田は水尾さんも測りきっていないものを持っている。


 法力や神力ではないが、少なくとも、ストレリチアの城下で、大神官の補助を借りながら、神の意識だけを降臨させるという信じられないことをしでかした。


 彼女が追い詰められた時、それがどんな反応を出すか分からない。


 何より、高田自身、王族だ。

 確かに半分は人間の血が流れているが、それを補って尚、余りある魔力を持っている。


 自動防御を含めて、普通の人間にはあり得ないほどの魔法耐性はあるだろう。


 そして、もう一つ。

 水尾さん自身が大丈夫だと判断している。


 真央さんの治癒魔法がどれだけ優れているかオレは知らないが、それでもオレより分かっている人がそう判断したのだ。


 それならば、その考えを信じるべきだろう。


 それに……、オレは致命傷を治すことは流石にできないが、多少は治癒魔法を使える。

 時間はかかっても、彼女に傷を残さない方法はいくらでもあるのだ。


「いけます」


 高田が迷いを吹っ切って、水尾さんを見た。


「マオ、合図」


 水尾さんはそう言うことで、彼女に答えを返す。


「了解」


 すぐ傍で、嬉しそうにこの場で一番の魔力所持者が返事をした。


「始め!」


 そうして、結界内に声が響いたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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