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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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いつもの方が良い

本日二話目の更新です。

 ずっと彼女は聞きたかったのだろう。


 いや、これまでに一度も聞かれたことがないのは不思議なくらいだった。


「オレの基本は魔法だ。剣については、そっちの練習用で兄貴の血ぐらいしか吸ってない」

「……どこから突っ込めばいい?」

「未熟者同士の手合わせなんてそんなものだ。兄貴の剣の方がもっとオレの血を吸っているけどな」


 それ以上に……、オレたちの師が持っていた剣の方が吸っていただろうけど。


 そう言えば、あの人が使っていた剣は、一体、どこに行ったのだろうか?


「魔法で……、人を傷付けたことは?」

「オレはほとんどお前を護る以外では使っていないからな。前にも言ったかもしれんが、殺したことは、今もない」


 流石に、自分や彼女を守る以外のことで、人間相手に魔法を使ったことがないとは言わない。


 例えば、神官の試験に巻き込まれた時。

 あれは、仕方がないと思っている。


 ある意味、自分の身を護るためでもあったから。


 基本的にオレは魔法も剣もあまり使いたくはないのだ。

 だから、自衛と護衛以外で使う気はなかった。


「本当に?」

「私欲で傷付けたら、お前を護る資格なんてなくなるだろう? 自衛と護衛以外で魔法を使う気も、剣を振るう気もない」


 オレの主は、自分のために人が傷付くことを嫌がるような女だ。


 関係のない所で、オレが自分勝手に誰かを傷付けても許さないだろう。


「そうか……」


 嬉しそう……というか安心したような顔で、彼女は納得してくれたようだ。


「お前と一緒にするなよ。オレは暴発をほとんどさせない男だ」

「……魔力の暴走とかは?」

「水尾さんに言わせれば、オレは暴走時にも冷静に判断できる『理性的な男』らしいぞ」


 思い起こせば、一度だけ……、オレは水尾さんに向かって暴走したことがあった。


 二年ほど前、グロッティ村というセントポーリアとジギタリスの国境にある村で、彼女に挑発された時だと記憶している。


「水尾先輩は九十九の暴走状態は知っているの?」

「グロッティ村でちょっと暴走したからな」

「……それってわたしのことじゃなくて?」

「お前のは暴発。オレのが暴走。まあ、話にならなかったけどな」


 あれから二年。

 あの時の水尾さんとの実力は少しぐらい埋まったのだろうか?


 いや、広がっているのは分かっているんだよ。

 比べる相手が悪すぎる。


「わたしが知らない間にそんなことが……」

「あの頃のお前は、よく意識を飛ばしていたからな」


 魔力の解放前だったこともあるが、もともと魔力が大きすぎることが一因としてあるかもしれない。


「ところで、これも参考にするんじゃないのか?」

「え? 良いの?」

「さっき言ったように、『刀身には触るな』。後、『振り回すな』」

「わたしは子供か?」


 そう言いながら、彼女は剣をいろいろな角度から見始めた。


 どうやら、ツーハンデッドソードの方がお気に入りらしい。


「子供じゃねえから困ってるんだよ」


 オレは彼女に聞こえないように、こっそりと呟いた。


 彼女は剣に夢中で、聞こえなかったようだけど。


 今の彼女はまさに別人で、どう見ても、女性だった。


 動くたびに目を引くほど揺れる立派な物を二つも持っているからな。


 ただ……、それでもオレはいつもの彼女の方が良いとは思った。


 顔も含めて目を引く容姿ではあるけれど……、それでも、いつもの黒髪、黒い瞳で全体的に小柄なあの女の方が落ち着くのだ。


 こんな女が常日頃傍にいたら、オレは落ち着かん。


「九十九、これ持って、構えることってできる?」

「オレで遊ぶなよ」

「遊んでいるわけじゃないのだけど……、無理なら良い。男の人にとって、剣は、大事なものだものね」


 そう言って素直に引き下がられると困る。


 確かに剣は大事な物だが、それ以上に大事な者からの要望に応えないほどオレは狭義でもないのだ。


 オレにとって剣は、「武士の魂」とか「忠義の証」とかそんな大げさなものとして見ていない。


 道具は所詮、道具でしかないのだから。


「オレのはほとんど我流だからな。見栄えは悪いかもしれんぞ」


 ある程度、型を学びはしたが……、最終的には自分が動きやすい形となってしまう。


「へ……?」


 彼女はきょとんとした後……、剣を構えたオレを見ると、無言で、手にしていた筆記具を動かし始めた。


 今回は、触れるのではなく、描き映すことにしたらしい。 

 彼女の基準がよく分からない。


「へえ……、ロングソードは左で構えるんだね」

「魔法が主だからな。剣は牽制でしかない。利き手を自由にさせたいんだよ」

「なるほど……」

「ツーハンデッドソードは両手剣だから、右構えになる」

「通販デッドソード?」

「……明らかに何か響きがおかしい言葉になったのは分かった」


****


「あ~、いっぱい描いた~!!」


 満足そうに笑う女性。


 だけど……、その笑顔が不意にいつもの彼女と重なった。


 そして、彼女は一頻り右手を振った後、肩に手を当てて、首を左右に捻る。


「なるほど……、これが胸の大きい人の悩み、『肩こり』か」

「……たった数時間の重みでそんなに違うものか?」

「違うね、全然。普段、ない物があるってだけでも負担なのに、なんか下に引っ張られる感じがずっとしている。重力をこの部分だけ妙に実感しているというか……」


 そう言いながら、彼女は胸を持ち上げて、手を離す。


 当然ながら、今まで以上に胸が大きく揺れる……、というより、跳ねた。


 それを見たオレは……。


「このアホ!!」

「ふおぅっ!?」

「その外見で、そんな行動をとるな! 羞恥心ってものがないのか、お前は……」

「ああ、うん。なんか……、ごめん。どこか自分の物じゃない気がして……」


 かなり刺激的なものを見たと言いたくもあったが、行動自体が残念過ぎて、頭が痛くなってくる。


 せめてもの救いは、これを他の男の前でしなかっただけマシだと……、そう思うしかなかった。


 いつもの彼女が、ここまで胸がでかくなかったのは本当に良かったかもしれない。


「九十九は……、胸、大きい方が好き?」

「別に。……と言うか、いきなり聞くことかよ」


 なんてタイミングで、なんてことを聞きやがるんだ?

 この女は……。


「……いや、ここまで胸が大きければ、護りがいはあるかなと」

「ねえよ。そこまででかいと邪魔だろ?」

「ああ、確かに邪魔だね」


 胸だけで価値を量る気はないが、ここまで大きいと気が散ることだろう。

 男の本能を刺激しすぎる。


 その反応をどう思ったのか、彼女はじっとオレを見た。


 言葉を疑われているわけではないようだが、なんか居心地が悪くて、そちらを向けなかった。


「早く戻れると良いね。やっぱりなんだか落ち着かないや」


 彼女は自分の金色の髪をいじりながら、そう呟いた。


「同感だ。どうも調子が狂う」


 目の前にいる彼女は、どう見てもいつもの少女じゃなくて、見知らぬ女性だから。


「……九十九も? ……だよね~、自分じゃないって変な感じだ」

「感覚も声も違うし、いろいろと勝手が悪い」


 自分の顔など、もともと見えないから割とどうでも良い。


 だが、いつもの顔、いつもの少女が目の前にいないというのは本当に落ち着かないのだ。


 ストレリチアで彼女が仮死状態になった時も、その身体は見える位置にあった。


 数ヶ月前、「迷いの森」で彼女と離れてしまった時とは、姿がなくてもその存在は感じ取れた。


 どんなに離れていても彼女の魔気が感じられたのに、今は目の前にいても彼女の魔気がどこにもない。


 姿もなく、存在を感じることもできないのは、なんという違和感なのだろうか。


 人間界にいた時は、それが普通だったのに。


「自分のこともだけど、九十九が九十九の姿をしていないってのも、なんか変な感じ。やっぱりいつもの九十九の姿が良いや」


 そう言って笑う彼女は何故かいつもの顔と似ていた。


 それで少し安心したのか……。


「そうか? オレは今のお前の方が、見た感じ良いと思うが?」

「ひっど~い!!」


 心にもないことを口にしていた。


 白い肌、流れる金色の髪、緑の瞳、瑞々しい唇、ある程度均整の取れた顔、メリハリのある体型、全体的に少し長くなった身体。


 正直、嫌いじゃない。

 寧ろ、好きだ。男なら当然の選択だろう。


 だが、それを前にしても彼女に限ってはいつもの方が良い。


 本心ではそう思ったから、自分の身体にちょっとした変化を覚えた。


 今のは、自分でも分かりやすいほどの嘘だったから仕方ない。

 暫くすれば納まるだろう。


「まあ……、どちらにしてもあまり今は出歩くなよ。オレも必要なければ部屋から出ないことにする」

「分かった……。何かあったら、コレでまた呼ぶね」


 そう言って、彼女は通信珠を出して微笑む。


 その顔に……、何故か胸の奥が何故か擽られてような気がしたが……、それは気のせいということにしておこう。

次話は本日22時更新予定です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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