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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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二度としないと誓ったのに

 満面の笑みで何度も頷く「女神」と同じ顔した女。


 そんな彼女はどこまで、絵を描くことが好きなんだろうか?


 先ほどまでぐるぐると何やら悩んでいたようだが、オレが覗き込んでから、変化していく様は見事に分かりやすかった。


 ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()……だと。


 先ほどのトルクスタン王子との交渉も、かなり驚いたのは確かだった。


 あんなあからさまに怪しい薬を飲んでまで手に入れたがる執着心が、実はオレのためだったんだと思うと、嬉しいような怒りたくなるような、どこか情けないようなそんな複雑な感情が入れ混じっている。


 確かに屋内用とはいえ、スクーターはオレも欲しかった。


 だけど、それは何もあんな危険を冒させたかったわけじゃない。

 そんな危ないことをさせるためにオレはアミュレットをやったわけじゃねえんだ。


 オレが彼女にアミュレットを渡したのは、単に護りを増やしたかっただけだった。


 魔力の封印を解いた以上、いらなくなるだろうと思っていたが、別方面での護りが必要となったために、彼女は今も肌身離さず身に付けていることは知っている。


 だけど……、それに対して礼を言うならオレではなく、製作者であるクレスノダール王子や法力を込めてくださった大神官に対してだろう?


 彼女の今の外見もどこか気に食わない。


 ストレリチアの大聖堂で見た、「導きの女神」にそっくりなこの外見。


 もし、本当にあの薬が「祖神」に姿を変えるものだったとしたらとんでもない話だ。


 オレの仕えるべき(あるじ)は「導きの女神」を祖に持つということになる。


 そして、それなら彼女があの時、この「女神」の「(かみ)()ろし」ができた理由にも納得できてしまうのだ。


 顔っていうか……、雰囲気は、いつもと変わらない言動のためか、オレの知る「高田栞」とそんなに変わらないんだが、魔気が明らかに違う。


 通常、高田の魔気と同じ風属性なのに、どこかその質が違う。


 オレの知っているはずの彼女が、オレの全く知らない女になっているという現実がなんとも居心地が悪い。


 だが……、それも、先ほどの態度ですっかり毒気を抜かれてしまった。


 どんな外見でも、そんな魔気を纏っていても、中身が「高田栞(彼女)」である以上、絶対に変わることはないのだ。


「駄目?」


 瞳を輝かせながら、上目遣いでオレに確認してくる女。


 いつもよりその目線はオレの高さに近い。

 しかも、両手を前にして祈るようなポーズ。


 それが、()()()()()()()()調()してしまうことに、こいつは気付いて……いるわけねえな。


 ……いや、でかい。

 強調するまでもなく、本当にでかい。


 オレは、特に大きいのが好みってわけじゃないが、それでも目が自然とそちらに向かってしまうぐらいにはでかかった。


「九十九?」


 流石に、無言が続き過ぎたせいか、彼女も訝し気な顔をする。


「部屋、行くぞ。他の人間に見つかると、面倒だ」

「ぬう……。確かに。服もきついから、早くなんとかしたい」


 まあ、それだけはちきれんばかりの状態だったらな。


 ……これ、解放したら、どんだけでかいんだ?


「じゃあ、とっとと行くか」


 そう言って、何かを誤魔化すように、憧れていたスクーターのグリップを握る。


 せっかくの初操作も、こんな心境で乗ることになるとは思わなかった。


 だが、彼女はすぐに動こうとはしない。


「……? 乗らんのか?」


 オレは準備できたが、彼女は何故かもたもたしている。


「あ、うん。乗る」


 そう言って、彼女はオレの肩に手をかけた。


「肩、いつもより高いね……」

「……そうか? お前、背は伸びてないのか? 残念だな……」


 彼女が自分の背を気にしていることは知っている。


 オレとしては、小さい方が何かと助かるので、気にしなくても良いと思っているのだが、当事者はそんなわけにはいかないらしい。


「いやいや、いつもより10センチぐらい視線が高いよ? だから、わたしも伸びてはいるみたいだけど……、それ以上に九十九が伸びていると思う」


 言われてみれば、オレの視界もいつもよりはかなり高い位置に設定されているみたいだ。


 自分では結構伸びたと思っていたのだが、このオレの姿はもっと高い大神官ぐらいあるかもしれない。


「肩に手を乗せるのが難しいなら、腰に手を回せ。その方が、オレの方も都合が良い」

「ああ、その方が高さ的には丁度良いかも」


 いつもと違うせいか、肩は妙にくすぐったく感じる。

 腰にしっかりだったら……?


「ん?」

「どしたの?」

「……いやいやいやいや、なんでもない、なんでもない」


 そう言いながら、屋内用スクーターを動かす。


「変な九十九…………」


 いや、だって、これは、ねえ?

 変にもなりますよ? 旦那。


 思わず、変な言葉が出てしまいそうになる。


 見た目通り、今の彼女の胸はかなりでかかった。


 何だ? この拷問。


 いつもと違うせいか、その、なんだ、いろいろと困った事態になってしまいそうな……って、いかんいかん! 姿形に惑わされるな!


 本当のこいつはもっと凹凸がない生き物なのだ。

 今はちょっとドーピングしているだけなんだ。


 この乗り物は、自分の意思で動くものだと知っている。

 邪心はまずいのだ。


「九十九?」

「なんだよ?」


 動揺を気取られないように、できるだけ冷静に返事する。


「嬉しい?」

「あ゛?!」


 冷静に返事をしたつもりだったのだが……?

 実はいろいろバレバレ?


「さっきからなんかニコニコしている。そんなに嬉しかった? このスクーター」

「へ?」


 ああ、そ~ゆ~ことか。


「それに……、なんかちょっとばかりアクロバットな走行だし。全身で喜んでいるみたいだね」


 本当のところは少し違うのだけど、そう言うことにしておこう。

 自分の名誉のために。


「怖いか?」

「ううん、大丈夫。しっかりひっついているみたいだから」


 それが、ある意味一番辛いんだが?

 だが、彼女は気にならないらしい。


 そうして、地獄に等しい天国の時間は終わった。


 いや、今回に限っては、どちらかと言うと、天国側で良いだろう。


 いつもと違った彼女の感触は、それだけ、オレの頭から冷静な判断力を奪っていたようだ。


 だから、つい、うっかり…………、オレは彼女の参考資料になる件を承諾してしまうことになる。


 もう二度としないと思っていたのに……なあ……。


****


「なるほど……。青い瞳って間近で見るとこうなっているのか。でも、わたしの絵で表現するなら、ここまで細かい再現はしなくて良いか」


 オレの顔を至近距離で覗き込みながら、彼女はその形の良い唇を動かす。


 どこか憂いを帯びたその表情だが……、言っていることはどこをどう聞いても残念な発言でしかない。


「実際の九十九と、肉の付き方が随分違うね。特に肩から腕のライン。ああ、胸筋も違うっぽい」

「脱がんぞ」


 視線の変化に釘を刺しておく。


「わ、分かってるよ」

「身体の線については、オレ以上に鍛えているってことだろうな。お前の言葉が本当なら、この姿は『努力の神』ってヤツなんだろう?」

「うん、よく似ている」


 彼女の姿が「導きの女神」で、オレの姿がその「努力の神」とやらに似ているのなら……、そう考えた方が良いだろう。


 法力国家(ストレリチア)で二年近く生活していたせいか、神に対する距離は、昔に比べて近くなっている。


「『努力の神』さまは筋トレがお好きなのだろうか?」

「いや、この筋肉は剣を振るっているということだろうな」


 それも、恐らくは両手剣だ。

 オレと肉の付き方が違うのも、その辺にあるだろう。


「剣!?」

「神様だって剣ぐらい振るうさ。神力だけじゃ足りない部分もあるだろう?」


 以前、見た神々の絵の中には、剣や槍、杖を握っている絵もあった。


 神具という言葉がある以上、神様だって道具を使うことも少なくはないだろう。


「九十九は剣を召喚できたりする?」

「オレは常日頃から剣を素振りしているんだが?」

「……へ?」


 オレの言葉は心底意外だったようだ。


 いや、彼女に言ったことはないし、その姿を見せた覚えもないが、その反応はどうなのだろうか?


「見たいって言ったら怒る?」

「……怒らねえよ」


 どうせ、資料目的だろう?


「練習用だから、実践向きではないけどな」


 そう言って、オレは練習用のロングソードを取り出す。


「うわああああっ! 剣だ。両手剣?」


 金色の髪の女は目の前で子供みたいに興奮した。


「片手剣。両手剣が良かったか?」


 そう言いながら、先程より刀身の長いツーハンデッドソードを取り出す。


「あ~、こっちの方が剣って感じもする」

「どっちも剣だよ。刀身を触るなよ。皮脂油はあまり付けたくない」


 勿論、手入れはできるのだけど。


 その言葉で、彼女は先ほどの興奮状態が嘘のように落ち着いて、姿勢を正し、真面目な顔でオレに尋ねる。


「九十九はこれで……、人を斬ったことはある?」

次話は、本日18時更新予定です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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