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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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壊れる世界観

『な~んか1人余計な方もひっついてきたみたいですね~』

『べっつにいんじゃね? 始末すればいいだけのことだしよ~』

『気っの毒~』


 聞こえてきた声は三種類。

 それぞれどこか特徴的な口調であったが、わたしには覚えがなかった。


 このよく分からない場所に、わたしと九十九以外に、少なくとも3人はいることが分かる。

 ……って、問題はそこじゃない!


「なんで、声は聞こえるのに姿は見えないの?」


 声はするけど、姿は見えず。

 広くて何もない空間だから、スピーカーみたいな音響設備も見当たらない。


 まるで、狐にでも化かされているような気分になり、わたしは思わず、隣にいた九十九に聞いていた。


「オレに聞くなよ」

「そりゃそうだね」


 確かに彼に聞いたところで、こんな不思議現象について、分かるわけがない。

 彼もここがどこか分かっていなかったようだし。


 そんなことも判断できないほど、わたしは動揺していたのだ。


「それより話している内容に突っ込めよ。ノリは軽いが、かなり物騒なことを言われてんだぞ」


 言葉は聞き取れているからそれは分かる。


 でも……。


「余計な……ってどっちだろう。始末ってどういうことだと思う?」

「だから、なんでオレに聞くんだよ?」

「じゃあ、誰に聞けばいいの?」


 正直、わたしは本当に混乱していたのだ。


 突然、こんなわけのわからないところに来てしまった上、変な複数の声が、理解に苦しむようなことを言っているのだ。


 そんな状況で、わたしに冷静な判断ができるわけがない。


 そんな中で、はっきりしているのは顔見知りである九十九が側にいるということだけ。

 だから、今のわたしには、彼以外に頼れる人がいなかったのだ。


「だって、こんなの変だよ。さっきまでいたとことは全然違って。でも……」


 何故だろう。

 目の前にあっても、この状況を現実として受け止めきれていないのだ。


 いや、それも当然だろう。

 この状況は、あまりにも現実離れしすぎている。


 それに……、これを現実と認めてしまったら、そのまま、何かとんでもないことになりそうな気さえする。


 だから……、認めたくなくて、目を逸らしたくて……。


「でも、現実だぞ」

「あ――――っ!!」


 あっさり言いやがりました、この男は。


「なっ、なんだよ」

 わたしの声が大きかったためか、九十九が自分の耳を手で抑えた。


 部活で存分に鍛えた肺活量が、こんなところで出てきてしまって、本当にごめんなさい。

 運動部は、掛け声も大事。


 ……いや、今はそんなことを気にしている場合じゃなかった。


「こっちが、それを認めまいと懸命に努力していたというのにあなたって人は~~~~」

「アホか。お前が認めようと認めまいとそんなの関係ねえだろうが。そういうのは無駄な努力って言うんだよ」

「じゃあ、この説明がつかない状態を、貴方はあっさりと認められるっての? そんなの変でしょ?」


 半ば、八つ当たりのようにそう言った。


「じゃあ、夢だと思えってか?それこそ無理だろ。目の前にあるものは認めるしかねえべさ」

「でも……」


 こんなの変だよ。

 普通じゃない。


 それなのに、なんで九十九はこうも平然としていられるんだろう?

 わたしは緊張で、少しだけ震えているというのに。


「なんだかんだ言っても少しは動揺しているようで安心した。本当に何も考えていないようだと本物の馬鹿だかんな」

「パニックってのは、後から思考が追いついてくるもんなの! それより……」


 わたしが、「九十九こそどうしてそんなに落ち着いていられるの? 」と、続けようとした時だった。


「危ねっ!」


 突然、九十九がひらりと身をかわした。


 そして、さっきまで九十九がいたところには……。


「何? これ……」


 目の前で見た現象が……、いや、自分の目が信じられなかった。


 それまで何もなかった青い床が不意に変化したのだ。

 そこには、煙が立つ黒い跡。

 さらにツンと鼻を衝く焦げ臭い匂い。


 そして……、その場に微かに残った揺れる炎。


「知らないのか? 火というものだが」


 やはり何故か落ち着いた九十九の声。


 それがやたらと頭にくる。


「火ぐらい知ってるよ。原始人じゃないんだ。でも、それがなんで飛んでくるの?」


 そう、この火は飛んできたのだ。

 それも、わたしの目には、九十九に対して一直線に向かってきたように映った。


 もし、彼がここから離れなければ……。


「もしかしたら九十九が黒焦げになってたかもしれないんだよ?!」

「だからちゃんと避けただろ?」


 当然のようにさらっと言う九十九。


 だから、なんでこの男はこんな時でもいつもと変わらずにいられるのだろう?

 普通、もっと慌てるよね?


 もしかして、わたしの感覚がおかしいの?


『あらあら、よけられてしまいましたね』

『単におめえの腕が悪いんだよ』

『きゃははっ。おんもしろ~い』


 また、例の三人の声が聞こえてきた。

 しかも、その声は明らかに楽しんでいる気がする。


「一体、なんなわけ?」

「さあな。暇なやつらもいたもんだ」


 そう言いながら、九十九はじっと一点を見つめていた。


 もしかして、彼には何か見えるているんだろうか?


 いや、逆に次考えれば、わたしに見えていないだけで実は、この声の主たちはちゃんと見えるものだとか?


 そうなると、それって、幽霊とかそう言った存在?

 でも、幽霊って火の玉を飛ばして攻撃してくるっけ?


 ああ、それはアクションゲームとかなら、ありそうな気がする。


 九十九の見ている方向をしっかりと見てみたけど、変わったものは何一つ見えない。

 わたしの目に映っているのは、どこまでも変わりなく続く青い世界だけだった。


『見てな。こうやるんだよ!』


 そんな声がしたかと思うと……。


「なっ!?」


 さらに、わたしは我が目を疑うしかない事態となる。


 確かに、そこは何もなかったはずの空間だった。

 だけど、今は、ありえないものが浮かんでいたのだ。


 それは炎だった。


 それも、九十九が見つめていた辺りから、バスケットボールくらいの大きさで、え~~~っと、1、2……、全部で6つも発生したのだ。


 そして、それらは一つずつ上に向かっていったかと思うと、すごい速さでこちらに向かってくる。


「何!?」


 反射的に目を瞑り、顔の前で腕をクロスさせ、身を守ろうとした。


 相手は炎。こんな防御など意味があるはずもない。交差した腕ごと、燃えてしまうだけだ。

 わたしはそんな単純なことすら分からなくなっていた。


 しかし……。


「よけろ!」


 そんな声とともに、すごい力でわたしの身体は引っ張られる。


 その声の(ぬし)は分かっている。

 だって、わたしの近くには一人しかいないんだし。


「お前、アホか。ボクサーじゃねえんだからそんな防御になんの意味があるんだよ」


 確かにわたしの左手を九十九が引っ張ってくれなければ、そのまま黒焦げになっていたかもしれない。


「だ、だって……」

「でも、咄嗟の反応にしちゃ上出来だ」


 そう言って九十九はポンッとわたしの頭に手を置いた。

 

 それがなんだか少しだけ照れくさい。

 どことなく、子ども扱いされてるっぽいけど。


『あちゃ~っ。またまたよけられたよ』

『どうやら、あの邪魔者。ただもんじゃねえな』

『さしづめ、ガーディアンといったところでしょうか?』

『やっぱり一筋縄じゃいかねえか。なら、小細工なしだ』

『了解』


 そんな声とともに、今まで確かに誰もいなかったはずの空間に、黒く大きな影が3つほど現れる。


 そして、それらは少しずつ色濃くなったかと思うと、真っ黒な服に身を包んでいる3人の女性が姿を現したのだ。


「な……に……?」


 いなかったはずのところから人が現れたことよりも、その3人の黒一色という一風、変わった格好よりも、目を疑うような事実がそこに顕在している。


 夢や幻……。

 そう思えた方がどんなに良かっただろうか。


「浮いてる……」


 わたしは、呆然とそう呟くことしかできなかったのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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