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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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別次元の存在

 何かを手に入れるためには犠牲がつきものだと思う。

 今回はそんな心境だった。


 でも……。


 その薬を飲んだ途端、自分の身体の中から何かが無理矢理引き剥がされるような妙な感覚があった。


 まるで、ストレリチアで、同意なく仮死状態にされた時に少し似ている気がしたが、それはこんな乱暴な手段ではなく、もっとゆっくりと身体から引き離されたと記憶している。

 

 さらに、自分の奥底に隠されている本来なら出てくるはずの内部部分を掴まれ、さらにずるずると引きずり出されていくような……?


 ジギタリスへの国境へ抜ける時にあった体内魔気を乱された時とも違う。

 あれよりも、もっと雑な感じだ。


 沈めた記憶を丁寧に引っ張り出すのではなく、その遡源(そげん)


 体内の核となる魂をも揺らすほどの衝撃があり、わたしの中で何かが振り回され、分けられていく。


 なんで、彼はこんな状況にあってもいつも通りでいられたのか?


 わたしにそんな余裕はない。


 それだけ、わたしに分け与えられたものは、わたしの中に大きく深く根付いていて……?


 ふと気付く。


 なんで……、わたしは()()()()()()()()()()()


 自分の存在が揺らぐ中で、わたしは自分を思い出していく。

 そして……、急速に戻ろうとする自己意識。


 だけど……、一度、起きてしまった変化(へんげ)は止まらない。


 自分の意思ではなく、中身の意識でもなく、その根源となる存在により、細胞分裂のように作り替えられていく。


 これは……、かなり不味いかも?


 味の問題ではなく、わたしでもワタシでもない存在が表れようとしている……ような? 気が……?


 ―――― 高田!


 流れていく記憶の中、飲まれようとする意識の中で……、わたしは、彼の声を聞く。


 ―――― ああ、そうか……。


 ()()()()()()()()()()()()()だった。


 それを忘れない限り、「ワタシ」はいつだって、「わたし」のままでいられるのだ。


****


「つく……も?」


 自分を呼ぶ声に応えるように、ゆっくりと目を開けると……、そこには、知らない美形の顔があった。


 でも、不思議。

 それでも、心配そうに覗き込むその表情は、間違いなくわたしがよく知る九十九だった。


 だけど、そんな目が眩むような美形が憂い顔をしていてはいけない。

 彼にはきっと光り輝くような笑顔が似合うはずだから。


 そして、同時にこの端正なお顔にも覚えはある。


 暗い銀髪、深い海のような青い瞳。

 その端正な顔を見たのは……、法力国家ストレリチアだった。


 わたしの記憶に間違いがなければ……、彼の顔は今……。


「大丈夫か?」


 わたしを気遣うように声をかける九十九のような美形。


 ……違った、美形のような九十九かな?


 だけど、その外見がどうであっても、その中身は間違いなく、九十九である。


 そして……。


「苦い……」


 口の中に残る、変な味に思わず、眉間に力が入った気がする。


 その苦味は困ったことに、喉の奥に絡みついているような感覚を残している。


 風邪をひいた時に痰が絡んだような粘っこさがあるわけではなかったけれど、喉にちょっとした膜が張る感じ。


 まるで、濃い目の乳酸菌飲料を飲んだ時みたいに、口の奥に絡まるような落ち着かないものがわたしにあった。


「……ああ、間違いなくこれは高田だ」


 うん、褒められていないね?

 このタイミングでそのお言葉。


 そして、その発言と表情からも、彼が九十九であることは間違いない。


「間違いなく、わたしだよ」


 そう言いながら、何気なく視線を下に移すと……、なんだろう? ()()()()()()()があった。


 いや、見慣れたものと形……、いやそれ以上に大きさが違う。


 どうやら、わたしは九十九(仮)に抱き起こされていたらしい。


 それ自体は、もう珍しくもない。


 わたしは、この世界に来てから何度も意識を失って、気付くと、結構な確率で九十九が近くにいる。


 だが……、いつもとは状態が少し違うようだ。


 見慣れない形状のものに添って、金色の長い糸が引っかかっている。

 それが髪の毛と呼ばれるものであることは割とすぐに分かった。


 周囲をさらに見回すと……、先ほど見た鏡を発見した。


 そこに映っているのはどう見ても、自分ではないのだが、九十九(仮)に寄り添っているところを見ると、九十九のように変化してしまった「わたし」であることは間違いないようだ。


 いや……、こんな風に九十九にくっつくのは慣れてしまった気がしていたけど、その状況をこのように客観的に見せられるのはかなり恥ずかしい。


 せめてもの救いは、その鏡に映し出された二人が、本来の自分たちとは全く別の姿だったことか。


 いや、自分で言うのもなんだけど、この身体。

 すごく美人さんに変身していますよ?


 金色の光り輝く髪、そして、橙色の瞳。

 手足もすらりと長い。


 だが、何よりかなり胸が大きい!!

 ずっしりしている。


 なんだ、この生物!?

 本当に世の中に存在して良い物なのか!?


 そして、九十九(仮)に支えられた状態は、見事なまでに一枚の絵になっている。


 大至急、紙と筆記具をわたしにください!!

 心の底から叫びたい。


 今の彼の横に並ぶにはかなりのレベルが要求されているはずなのに、全く、見劣りしていないではないか。


 どこか神々しさを感じるような女性。


 そして、困ったことにこの女性にも、わたしは見覚えがあった。

 いや、この女性に関しては、九十九も知っていることだろう。


 わたしと違って、彼は、この人に会ったことがあるはずなのだから。


「大丈夫か?」


 九十九が再度、わたしに問いかける。


「大丈夫だよ。本当にどんな姿でも、心配性だね、九十九は……」


 わたしは笑いながらそう答えた。


「そろそろ落ち着いたか?」


 わたしが、九十九に支えられてゆっくりと立ち上がるところを見計らって、トルクスタン王子は声をかけた。


 九十九とわたしは顔を見合わせる。

 この状態と状況で落ち着いていられるかという話だ。


「トルクスタン王子、先ほどの薬品はどんな成分だったんですか?」


 戸惑うわたしを制して、九十九が最初に口を開いた。


「大方……、ツクモの言ったとおりで間違いないんだが……。ツクモは意識があり、シオリは暫く倒れた。これは、男女で差が出たか? だが、状態変化は二人共に起きている……。これは、薬の耐性もあるかもしれないな……」


 九十九とわたしを交互に見ながら、トルクスタン王子は考え込んだ。


「銀髪だけならまだしもこの瞳、この手、この声。何より自分の魔気が違いすぎます。それらパーツのどこをとっても全然、自分って感じがしません。完全に別の誰かだと思われます」


 九十九は淡々と説明する。


 わたしも彼と同意見だった。


 この姿はわたしじゃないし、ワタシでもない。


「因みに今の自分の姿に心当たりは?」

「皆無です」


 トルクスタン王子の問いに、あっさりと九十九は答えた。


「ユーヤとも全然似ていないから父親って説はないな。シオリもかなり変化しているが、こちらも完全に別人だ」


 魔界人は、その容姿が兄弟でも全く似ていないことも珍しくない。


 彼が言うのは体内魔気のことだろう。


 九十九と雄也先輩の魔気は、全く同じではないが、似てはいるから。


「シオリの方も、心当たりはないか?」


 トルクスタン王子がわたしにも問いかける。


 わたしはなんとなく、九十九をちらりと見たが、彼は何故かわたしを変な顔で見ているだけだった。


 これって、正直に言っても大丈夫かな?


「この姿によく似た人を見たことはあります」


 もともと、彼の試薬に協力するための話だった。

 だから、別に隠す必要もないだろう。


「本当か!?」


 そう言って、わたしに詰め寄るトルクスタン王子。


 その勢いに押されて、なんとなく後ろに下がりたくなる。


 ……いや、本当にトルクスタン王子の顔は、嫌いじゃないから困る。


 それを見て、自然に九十九が間に入った。


「王子殿下?」


 九十九はいつもと違った笑みを顔に張り付ける。


 でも、その顔そのものがいつもの彼と違うせいか、妙な感覚がわたしの中にあった。


「ああ、すまない」


 九十九の笑顔から顔を逸らすと、トルクスタン王子は素直に謝った。


「わたしの姿もですけど……、九十九の姿にも見覚えがあります」


 トルクスタン王子が下がったので、わたしはそう言葉を続けた。


「ど、どこで!?」


 トルクスタン王子ではなく、今度は九十九がわたしに押し迫った。


 ワカなら「目の保養」とにこやかに言いそうな場面だが、残念ながらわたしにそんな美形耐性はない。


 いや、この顔を……、わたしはあまり正視できない。


 九十九から顔を逸らしつつ、わたしはトルクスタン王子に向かってこう言った。


「ストレリチアで見た二人の神さまの絵姿が、それぞれ今のわたしたちにそっくりです」

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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