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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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できるなら苦労はない

 外観は全てを排除するかのごとく物々しい鋼鉄の要塞も、中に入ってしまえば普通の城に見える。


 豪華絢爛なセントポーリア城、薄暗いジギタリスの城樹、神殿のようなおごそかなストレリチア城といくつかの城の外観も内部も見てきたが……、ここは比較的飾り気がないように見える。


 セントポーリア城なんかはいかにも、城の扉って感じの重々しい分厚く大きかったけど、カルセオラリアの城の扉は無地で、小さく、一見、薄い印象を与える。


 扉の握りはなく、扉のすぐ横の壁に電子キーを彷彿させるようなものがついている辺り、機械国家というより電子国家なんじゃないかと思ってしまった。


 いや、なんか、この国の機械も全体的にハイテクな感じだし。


 ここに来る前の機械国家に対して抱いていたイメージは、無駄に計器とかあちこちに付いていて、ライトもビッカビカに光り、様々な絡繰仕掛けが施されていると思っていたのだが……、それは漫画の世界だけだったらしい。


 ジギタリスでスクーター見たときに、地球の科学力とは全然、違うってことに気付くべきだった。


 いや、それ以前に通信珠だって、この国が作ったわけだから、地球の技術とは、その根幹が違うのだろう。


 まあ、地球にあった魔法や魔術の概念だって、魔界の物とは違うのだから、当然なのかもしれないのだけど。


「部屋はどうする? 5つくらいならば、すぐに用意できるが」


 トルクスタン王子はそう言った。


 やはり、お城は広いようだ。


「そうだな……。リヒトはまだ日常生活に不慣れな点も多いし……、4つにしてくれるか? 俺が一緒にいる」

「……おや? いつの間に男色に?」


 トルクスタン王子がからかうように、雄也先輩に言う。


「たわけ。色欲目的なら始めから5つ指定する。その方が周りも誤魔化しやすい」


 今、さりげなく物凄い会話を目の前でされた気がするのですが?


「お前が男を気に掛けるなんて珍しいな」

「いろいろとあるのだ、こちらにも」


 確かに、リヒトのことは雄也先輩に任せておく方が間違いないだろう。


 言葉とか、行動とか、わたしじゃ分からないことが多すぎる。


「リヒトはそれで良いか?」

『ユーヤにシタガウ』

「ツクモと、ミオ、シオリは?」

「私は大丈夫。初めての国ってわけじゃないし。九十九と高田は?」

「オレも大丈夫です……。だけど、高田は大丈夫か?」


 わたしと九十九、同じ歳だよね?

 それでも、まだわたしを子ども扱いする気?


「大丈夫!」


 なるようになる!

 この国の宿だって、なんとかなったのだ。


「シオリが希望するなら、使用人をつけるが?」

「し、し、使用人!?」


 そんなのをつけられたのなら、却ってまともに部屋に居られなくなってしまう。


「使用人はいらんだろ。各部屋に通信珠があるわけだから、何か、あったらそれで連絡できるし」


 そう水尾先輩が言ってくれたので、幸い、使用人というものはつかないことになった。


****


 さてさて……。

 客室というにはちょっと広い……、ごてごてと無駄に豪華な調度品は一切ない部屋で、わたしは、ヒマを持て余していた。


 背伸びをしたり、足を伸ばしたりというストレッチにも飽きたし……、これからどうしようか。


「今までが……、忙しすぎたんだよね……」


 こんなにのんびり過ごしているのは、ストレリチア城以来だった。

 迷いの森ではこんなにのんびりした時間はあっという間になくなったし。


 あの国を出てから、2ヶ月半ぐらい。


 いろいろやるべきこと、覚えるべきことが多すぎて、あんまり、のほほ~んとはできていなかったと思う。


 ……自分比では。


 やるべきことにしても、覚えることにしても、魔法に関することや魔界の基礎知識のお勉強ばかりな辺り、どこ行ってもすべきことは変わらないわけなのだけどね。


 どうも、こう……、別種の刺激が欲しいというか……。


 早い話、同じことの繰り返しで飽きていたのだ。


 いや、飽きている場合じゃないでしょ! っていうのは、分かっているのだけど……、全く進歩のない魔法を見続けるのが少し、辛くなってきていたというのもある。


 せめて、魔法の変化……、成長している確かな証拠が目に見えて分かればもっと気が晴れるかもしれない。


「部屋から出る自由はあるのだし……、少し、城内を散歩してみるというのもありかもしれないけど……」


 トルクスタン王子の話では、城の地下に行かなければ、どこを歩いても構わないということだった。


 まあ、それでも簡単には入れない部屋が大多数らしいけど……。


 こういうとき、禁止されている地下に行ってしまって、酷い目に遭うというのはお約束だろう。


 だから、下への階段は特に気をつけることにしよう。

 それでなくても、わたしはトラブルに巻き込まれやすいのだから。


 まずは、九十九をいつものように呼んでから考えるか。


****


「――――で? なんで、オレがお前の暇つぶしに付き合わなきゃいけないんだよ」


 不機嫌そうにそう言う九十九。


「護衛だから仕方ない」

「分かってるよ。うっかりお前の機嫌を損ねて、『命令』されても困るからな」


 九十九は部屋でゆっくりしていたのか、どこか不機嫌な様子だった。

 珍しく口調が尖っている。


 だが、文句言いつつも、彼はわたしの散策に付き合ってくれるようだ。


「通信珠はともかく、前にも言ったとおり、『命呪』を使う気はないって。多分……、ずっと……」


 わたしが「命令」という言葉を口にするだけで、彼ら兄弟は自分の意思に反して、強制的に従わせてしまう。


 確かに彼らにとってはわたしが主人なのだろうけど、そんな主従関係って何かが違う気がするのだ。


「昔のお前もそう言って、結局、使ってるんだよ。一回だけだけどな」

「そんな記憶にない頃の話を言われても困るな~」


 そう言いながらも、どこかで胸が痛んだ気がした。


 でも、それは気のせいだということにしておこう。

 わたしは知らない感情なのだ。


「記憶になくても……、性質、本質は……、変わらないだろ」

「そうかもしれないけど……。記憶のない頃って5歳児以前でしょ。そんな小さい頃と全く変わらないって言われ方もなんだかな~って思うよ」


 記憶がなくても成長しているとは思いたい。


「……記憶がないことや、環境が変わったことで、多少の変化はあったかもしれないけどな」

「どちらにしても、命呪は使わないように努力はするよ。絶対とは、言い切れないから言い切らない。何の弾みでうっかり言葉にするか分からないしね」


 そう言うと、九十九は一瞬だけ言葉に詰まったような顔をして……。


「少し前みたいにオレを玩具にするのも、止めてくれよ。オレにも人権はあるんだからな。セクハラは流石に困る」


 どうやら、わたしに触れられたことが、余程、嫌だったらしい。


「分かっているよ。人権もあるし、勿論、自由もある。それに何度も言っているけど、九十九も雄也先輩もわたしのお()りに飽きたら、自分のしたいようにしても良いからね」

「飽きたらって……、できるわけねえだろ?」


 九十九はどこか呆れたような、拗ねたような口調でそう言った。


薬師(くすし)になりたいのでしょう? トルクスタン王子とは方向性が違うかもしれないけれど、参考になるかもしれないよ?」


 わたしがそう言うと、九十九は少し目を見張る。

 なんか変なことを言ったかな?


「なんでそんな細かいことを覚えてるんだよ」

「九十九はわたしの夢を覚えている?」

「漫画を描くこと」


 迷いもなく返答された。


「つまりはそう言うことだよ」


 わたしがそう言うと九十九も納得したようだ。


 自信がなかったわたしの夢を、応援すると言ってくれた。


 彼は、わたし自身も諦めていた喜びを思い出させてくれた。


 そんな人が諦めかけている夢を、わたしも忘れることなどできない。

 彼に我慢させたくはないのだ。


「だから、九十九も薬師の勉強をして欲しいって思う」

「……お前の護衛をしながら勉強するのは無理だと言っただろ?」

「わたしが絵を描く傍で、九十九は本などの参考書を広げれば良いんじゃないかな?」


 我ながら、良い案だと思う。


「それができれば苦労はない」

「ほへ?」

「薬学の書物……。薬草の基礎知識はともかく、調合に関しては、書物がほとんどない。だから、ほとんどの薬品調合については、独学で覚えるしかないんだ。この世界で薬は、料理と同じで変化しすぎるんだよ」


 料理と一緒か……。

 それは、ちょっと……、いや、かなり大変かもしれない。


「なんとかならないものかな?」


 魔界の料理ができるのなら、九十九は薬品調合もできるのではないだろうか?


「それができたら、苦労はない。だから、オレの夢のことは忘れておけ」


 キミの言う通り、それができたら苦労はないのです、九十九くん。

 簡単に忘れることなどできない。


 でも……、今回の件に関しては、なんとなく雄也先輩に相談しにくいことでもある。

 九十九は今まで、誰にも言わなかったのだ。


 ジギタリスにいた時なら、楓夜兄ちゃんに、ストレリチアから出る前なら、恭哉兄ちゃんに相談できたのに……。


 そう思うとわたしは溜息しか出ないのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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