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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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再会はいつも突然に

 そのことに先に気が付いたのは当然ながら、水尾先輩の方だった。


「ん?」


 遅れて、わたしも反応する。


「なっ!?」


 不意に、隣の部屋……、九十九たちの部屋から敵意が混ざったような魔気……、それも、割と強そうな気配を感じたのだ。


 勿論、九十九や雄也先輩、リヒトからじゃない。

 少なくとも、わたしはこんな魔気を知らないとも思う。


 周囲にいる風、火の気配とも違う。

 そして、少し前までいっぱい感じていた地の属性とは違う気配の魔力。


 さらに、ライトたちミラージュの不思議な魔気とも違う気配なんて、わたしに分かるはずもないのだ。


「これは……」


 水尾先輩が何かを言いかけた時だった。


ズドォォォン!!


「んなっ!?」


 わたしたちが見ていた壁から、物凄い音が響き……、隣の部屋から感じられていた魔気が突然消失したのだった。


「ここって……、それなりに防音って話だったですよね?」


 実際、隣の部屋から物音は全く聞こえない。


「壁に直接的な物理攻撃を加えたら、防音も意味を成さないってことなんだろうな。それより、高田……。その風をしまえ」

「え?」


 言われて気付く。


 わたしの周りだけ風が起こっていた。

 水尾先輩が、部屋にあったテーブルを盾にしている。


「反応は悪くない。だけど、この国のほとんどのモノは魔法の干渉を受けないから、壁に魔気をぶつけても意味ないぞ」


 どうやら、敵意が篭っていた魔気に反応して、無意識に魔気の護りが発動したようだ。


 結構、抑えられるようになっていたけど、不意打ちにまだ弱いってことか。

 わたしもまだまだだね。


「魔法の干渉は受けないのに、壁を隔てた場所の魔気は分かるんですね」

「魔気の感知は知覚能力、感覚の問題だからな。魔法の干渉は受け付けなくても、人の気配とかは分かるわけだし。それに、人体に対しての魔法は有効だ。効かないのは、この国で創られた物だけってことだな」

「でも、さっきの気配はなんだったんでしょう? 九十九や雄也先輩、リヒトは無事なんでしょうか?」


 雄也先輩がいるから、大丈夫だと思うけど……。


「どこぞの阿呆が壁に激突かました音だろうよ」

「……九十九?」

「いやいや、それ、結構、ひどいぞ?」


 じゃあ、誰?


「先輩は……、どんな魔法を使ったんだ? あいつが、こんな宿に偶然、用があって来るとは思えないし、何より、先輩の部屋へ直行してるっぽい……」

「せ、先輩?」


 水尾先輩は考え込んでしまった。


 「あいつ」というのは、多分、さっきの魔気の持ち主で、かつ、「壁に激突した阿呆」ということなのは、なんとなく分かる。


 加えて、水尾先輩と雄也先輩の共通の知り合いってことは……、もうパターン化しつつある人間界で会った人なのかな?


「まあ、結果として、繋ぎをつけることは成功したってことか。あの人は、ホント、底が知れないというか、得体も知れないというか……」


 この場合、「あの人」とは、勿論、雄也先輩だろう。

 確かに底も得体も知れないのは納得できるし……。


 そんなことを考えていた時だった。


バタンッ!!


 勢いが良い音と共に、ソレが飛び込んできたのと……、わたしが闇に呑まれ、圧迫に苦しみ、温もりに包まれるのはほぼ同時だった。


 だから、ソレが何であるか、分からなかったのは当然だろう。


「あれ? 縮んだか?」


 そんな声が響いてくる。


ゴゴゴンッ!!


「うぎゃっ!」


 ちょっとした振動……、衝撃っぽいものが三度ほどあり、悲鳴のようなものが聞こえたな~っと思った時、わたしは息苦しさと、圧力から開放されることができた。


 そして、その相手の顔を見る。


「間違えるな!」

「何してやがる!」

「もっとよく見ることを勧める」


 水尾先輩、九十九、雄也先輩……、の三者三様の反応を前に、わたしは固まるしかできなかった。


 三人の行動に……じゃない。


 この人物の顔に……だ。


 勿論、そんなはずがないってことは分かっている。

 彼がここにいるなんてありえないって思う。


 だけど、そう思うには似すぎたんだ……。

 もう忘れかかっていたアノ人に。


「うぐぐ……」


 やっぱり、違う。

 声も顔も確かに似ているけど……、この人は、アノ人じゃない。


 アノ人はこんなに親しみやすさ全開オーラはなかった。


 どちらかと言えば、彼は、もっと近寄りがたくてぶっきらぼうで、ちょっと怖そうな印象を持っていたのだ。


 人違いっぽくても、いきなり異性を抱きしめるという行動をとるほどの積極性は多分、なかった。


「高田……。ビックリしただろう? こいつ、いっつもこんな感じなんだよ」


 わたしが固まっていたせいか、水尾先輩が言う。


 でも、わたしがビックリしたのはその声と容貌。

 だけど、そんなこと言えるはずもなかった。


「知り合い……ですか?」

「知り合いって言うか、幼馴染と言うか……。まあ、腐れ縁な感じ?」


 水尾先輩が頭を掻きながら言った。


 どうも、彼との関係は微妙なライン上にあるらしい。


「……本来なら、ここは感動の再会の場面だったはずだが……。どうもこの男はその手のシチュエーションを自ら、破壊する才能を持っているようだな」


 雄也先輩が溜息を吐く。


「いやいや、こいつ相手にゃ、感動できないって。ああ、お笑い方面ならいけるか」


 そう言う水尾先輩はどことなく嬉しそうな感じだった。


 幼馴染との再会……。

 それは嬉しくないはずがない……ってあれ?


「この国で……、幼馴染?」


 水尾先輩は確か……、この国には城にしか行ったことがないって言っていた気がする。

 つまり……?


「気付いたか?」


 水尾先輩が笑った。


「栞ちゃん、信じられないだろうが、この慌てモノで粗忽モノな男がこの国の第二王子殿下……、『トルクスタン=スラフ=カルセオラリア』だ」

「王子殿下……?」

「慌てモノで粗忽モノってオレ、そんなに酷いか?」


 酷い紹介をされた王子は頭を摩りながら、立ち上がった。


 むすっとしているその顔はやはり、彼に似ている気がする。


 髪の毛の色と瞳の色もその雰囲気すら全然、違うのに……、なんで、そう感じるんだろう?


「幼馴染みである私と、その連れを間違えている辺り、相当なものだ」

「先ほどのはどちらにも失礼な行為だ。猛省していただきたいな」


 水尾先輩と雄也先輩のきっついお言葉。


 ……?

 あれ?


 雄也先輩のきっつい?


「楓夜兄ちゃん相手にでもほとんど敬語だった雄也先輩が……、敬語、使ってない」


 仮にも相手は王子さまなのに……。


「ああ、俺が彼は敬語を使うと怒るんだ。鳥肌が立つとかで……」


 それでも、珍しいよね?


「へぇ……。彼女が……、ユーヤの……?」


 そう言って、その王子殿下はわたしを穏やかな顔で見た。

 少し、ドキドキしてしまう。


 ……好みの顔のせいだろう、多分。


 この顔で黒髪、黒い瞳だったらかなり好きな顔だと思う。


「初めまして。先ほどは失礼しました。この国の第二王子『トルクスタン=スラフ=カルセオラリア』です」


 そう言って、わたしに跪いた。


「え? え?!」


 思わぬ変貌に、わたしは混乱してしまった。


「トルク。そいつ、その手の扱いには慣れてないから止めとけ」


 水尾先輩の助け舟。


 それに彼は反応した。


「ミオ!」


 彼は先ほど、わたしにしたと思われる行動を水尾先輩にした。


「く、苦しい!」


 ああ、確かに苦しかったな……。


「放せ、この馬鹿力!!」


 水尾先輩は顔を真っ赤にしてもがくが、彼はびくともしなかった。


 水尾先輩の顔が紅いのは恥ずかしいのか、苦しいためか分からない。


「ミオ……、よく生きていてくれた……」


 彼のその一言で、水尾先輩は……、動きを止めた。

 わたしも、九十九たちも言葉が出なくなる。


 いや……、こんな状況で、口を出せるほど無神経な者はいないだろう。


「第一王女やマオの話では……、お前だけが生死が分からないと言っていた」


 水尾先輩を抱きしめたまま、彼はそう言った。


 彼は、心底、水尾先輩の身を案じていたんだろう。

 その声と肩は微かに震えていた。


「マオ……と、姉貴は……、城か?」


 そう尋ねる水尾先輩も、声が震えていた。


「マオは……城に……、いや、兄上の傍にいる。だが、第一王女は……」

「姉上が……どうかしたのか?」

「ラスブールたちと共に……、他の地へと向かった」

「それ……は、一年半前のこと……か?」


 水尾先輩の表情は見えない。


「いや、それ以上前の話だな。謎の集団によるアリッサムの襲撃後に彼女たちはこの国に身を寄せようとしたが……、全ての民を受け入れることはできなかった。だから、第一王女たちは生き残ったものたちと共に、別の地へと向かうしかなかったのだ」

「全ての民……?」


 水尾先輩は顔を上げないまま、彼に抱きすくめられた状態で尋ねる。


「10や20なら、この国にも居場所の確保は可能だったと思う。だが、千を超える数となるとそれは無理だった。それでなくても、この国は魔法国家に劣等感を抱いている者の方が多いからな」

「千を……? そんなに……、生きて……?」


 国としては少ないかもしれないが、セントポーリアを出てからグロッティ村で遭遇した人数なんかとは比べものにならないほどの人数であることは間違いない。


 例え、それが2年ぐらい前の情報でも、今までで一番はっきりとした情報だった。


「連れ去られたり、お前みたいにどこかへ逃げ延びた者たちを合わせれば、もっとその数は膨れ上がるだろう」


 その言葉を受け、水尾先輩は、彼を思いっきり突き飛ばした。


 不意のことだったためか、彼の手も緩み、水尾先輩の身体が離れる。


「ミオ?」

「ちょ……、ごめん……。手洗いに行ってくる……」


 そう言って、水尾先輩は顔も見せずに、部屋から飛び出した。


「……俺、嫌われた? 久し振りの再会なのに、やっぱり間違えたことで機嫌が悪くなった?」


 恐る恐る雄也先輩に彼は尋ねる。


「間違えたのは最悪だが、今のは違うだろ」


 わたしもそう思う。


 これ以上、分かりやすい理由はないよね。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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