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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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やってきた男

 長耳族であるリヒトと問題なく会話ができるようになって四日目。

 それは、この国に来て3回目の朝食を摂っているときに訪れた。


「この味……、なんとかならねえのか?」

「お前の好みに合わせていくと、エンゲル係数が上がるだろうが。それに、ここは、完全無人化されている。身を隠したり、トラブルを避けるには都合が良い」


 この宿の食事は、部屋にあるボタン一つで注文し、召喚されるというルームサービスを利用できるのだ。


 勿論、この宿ではなく、外で食事をすることもできるが、今回、彼らはそれをしなかった。


『オレノ、タめカ?』

「この件に関してリヒトはあまり関係が無いな。単に我々の都合だ」


 そうは言っても、リヒトがまだ他人に慣れていないのは目に見えて分かる。


 特に細身で色白の大人を分かりやすく避けていた。

 森の中での出来事は、彼にとって簡単に忘れられることではないのだろう。


 彼の耳については、幻覚魔法を付加した装飾品を身に付けることで、その特徴的な形を変えて見せている。


 肌の色に関しては、褐色肌の人間はこの国に珍しくないので、問題はない。


「……リヒトも、あまり食えてないじゃねえか。大丈夫かよ」

『コレ……、匂イ……? キツイ……。ダケド、村デハ、食ベラレナイ日ノ方ガ多カッタ。オ前タチ、食ジ、クレル。それ、ウレシイ』


 その言葉で九十九が気付く。


「匂い? ああ、ドレッシングがリヒトにはきついかもしれないな。兄貴、リヒトのサラダには生野菜だけの方が良いかもしれない。これって抜けるのか?」

「注文時にドレッシング抜き設定をすれば良いはずだが……」

『ドレ……シン?』


 褐色肌の少年は不思議そうな顔をする。


「ああ、上にかかっている黄色い液体のことだ。昨日のはまだ今日のより食べていたから、原因は多分、コレだと思う。設定変更は兄貴してくれよ。ここの文字、完全には分からないから、面倒なんだ」

「分からないなら、分かる努力をしろ」


 九十九の要請もあっさりと拒絶する兄。


『オレモ、ココのコトバワカルケド、文字、ワカラナイ』

「リヒトは仕方がない。九十九は、単に勉強不足だ」

「兄貴が分かるなら、良いじゃねえか」

「甘えるな。お前が困ったとき、俺がいつもいるとは限らないんだからな」

「それはそうなんだけど……」


 実際、九十九と雄也は別行動が多い。


 そして、雄也はこの宿から何度も抜けているが、九十九は言葉が通じるようになったリヒトが混乱しないよう傍にいるように兄から命じられていた。


 そんな会話をしていた矢先……。


ドゴォォォン!


 奇妙な爆発音にも似た音と振動が、扉の外で聴こえた。


「な、なんだ!? 時砲にしては変だぞ?」

「どこかの慌て者が、そこの扉にぶつかった音だろう。迷惑な話だ」

「は? それって……」


 妙に具体的な言葉を言う兄に対して九十九が、疑問を投げかける前に、その部屋の扉が開かれた。


「な!?」


 そこには、茶髪の長い髪、琥珀色の瞳の男が立っている。


 背は九十九の兄よりは高く、彼が身に付けている物はここ数日この国で見てきた一般のソレとは明らかに違うことが分かる。


 その男は、雄也の顔を見て瞳を見開いた。


「ユーヤ! やはり、お前か……」

「へ?」


 九十九は思わず自分の兄を見る。


「一週間、かからなかったか……。相変わらず、あの店には頻繁に足を運んでいるようだな」

「そんなことはどうでも良い! お前が連れているはずの女性ってのはどこにいる?」

「あ、兄貴……。知り合いか?」

「まあ、一応……」

「一応って酷いな。……って話を逸らすなよ」

「女性の連れなら、この隣の部屋にいる……。流石に同じ部屋にいると思うか? ただ……」

「分かった!」


 雄也の話を全て聞き終わらないうちに、男は、その部屋を後にしようとして……。


ズドォォォン!!


 ()()()()()()()を響かせた。


「そっちは壁だ」


 雄也が指した方向に何も考えずにそのまま突っ込めば、隣の部屋との境の壁に激突する以外のルートはない。


 男は、余程の勢いで壁に突撃したようで、目を回している。


「もう一度、聞く。兄貴、この男と知り合いか?」

「否定はしたいが、知り合いであることに間違いはない。放って置いてもすぐに回復するだろうが、話も進まん。九十九、治癒を頼む」

「あいよ。……で、この男は、何者なんだ?」


 九十九は呆れながら、治癒魔法を施す。


「ソレはこの国の王子だ」


 問いかけられた雄也は事もなげにそう答えた。


「は?」

『……オウジ?』

「王位継承権第二位、名を『トルクスタン=スラフ=カルセオラリア』と言う。多少、慌て者で早とちりの感は否めないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……多少か? そして……大丈夫か、この国」


 九十九は戸惑いを隠せない。


「王位継承権第一位の王子殿下はもっとしっかりした方だというから、大丈夫だと思うぞ」

「いや、そう言う問題じゃなくて……」

「何気に酷いこと、言われてないか……? 俺」


 治癒魔法の効果で意識が戻ったのか、長身の男……、王子は、頭を抑えながらゆっくりと身体を起こす。


「壁に向かって一直線に向かう男を『慌て者』という表現で留めているだけまだマシだと思え」

「くわ~~~~っ! 相変わらず、口が悪い男だな、お前」


 そう言われて、九十九は気付いた。


 兄が、一度たりとも彼に対して敬語を使っていないことに。


 これでは、まるで、自分に話している時のようだ。

 いや、自分に話すときはもっと容赦がないのだが。


「それを希望したのは貴方だ。尤も、私が貴方に対して敬語を使った方が良いとおっしゃるなら、今からでもそれでお話いたしますが?」

「ソレは止めてくれ。お前の敬語は、裏がありすぎて寒気がする」


 それは同感だと九十九も思う。


「だから、そんなことはどうだって良い! ユーヤ! この部屋の出口は!?」

「……先ほど、貴方が入ってきた所は出入り口と呼ぶと記憶しているが?」

「くっ! 不覚……。こんな単純なことも分からなくなるとは……」


 そう言って、彼は、扉に向かって……。


ドゴォォォン!!!!


 本日、三度目の激突音を轟かせる結果となった。


「分かっていると思っていたから、言わなかったんだが……、この部屋の扉は引いて開けるものだぞ」


 雄也のそんな言葉は、勿論、意識が飛んでいる彼に、届くはずもない。


『オウジとイウノハ偉イ存在、ダッタヨナ? ミナ、コンナカンジナノカ?』


 リヒトの言葉に九十九は苦笑いするしかなかった。


「違うと言いたいところなんだが……、オレが今まで出会った王族は皆、どこか変だったからな~。こんな感じなのかもしれない」


 九十九はこれまで出会ったことがある王族を思い浮かべる。


 自分の護るべき者はトラブルメーカー。


 傍にいる魔法国家の王女殿下は安全弁の外れた銃火器所持者。


 ジギタリスの王子殿下は脱走常習犯にしてナンパな男。


 ストレリチアの王子殿下はシスコン、その妹殿下は天上天下唯我独尊。


 そして、自国の王子すら目的のためなら手段を選ばない人間だと彼は認識している。


「……まあ、確かにそれぞれ癖はあるが、慣れればなんとか付き合えんこともない……気もする」


 それでも……、その中でも自国の王子とだけは徹底的に合わないことだけははっきりと分かっているのだが。


「で……、また、この王子を回復するのか?」

「放置してもメリットはない」

「治したメリットもあんまりなさそうだがな」


 そうは言いつつも、九十九は再び治癒魔法を施す。


『ユーヤは、チゆ、デキナイノカ?』

「相性が悪いみたいだな。何度かやってはみたけど、魔力を過剰に使ってしまうみたいで、体組織を破壊してしまうんだ」


 だから、雄也の治癒魔法は、主に弟にしかしたことがない。


 弟なら、体組織を完全に破壊しきらない限りは自力で治すことが出来るからというのが、一応の名目である。


「その代わり、兄貴は他者に対しての補助ができる。オレは、自身の増強くらいしかできない」

『兄弟デモ、チガウンダナ』

「適材適所ってやつだな。同じもの使えても仕方ないってことだろう。兄弟だけでなく一卵性の双子でも、適性とかそういうので違うっていうくらいだし」


 ソレはつまり……、魔法を行使するためには同一の遺伝子とかそういうのも関係がないということになる。


「それにしても……、この人の頭部は治ったはずだけど……、気付かないな」

「二度も壁と仲良くしたために軽い脳震盪を起こしているのだろう。頑丈な男だから、そこのベッドに寝かせておけばすぐ目覚めるはずだ」


 雄也は面倒くさそうに、そう言い放つ。


 他人に対してここまで飾らない兄は珍しいと思いつつ、九十九は王子と言われたモノを寝台に運ぶのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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