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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 機械国家カルセオラリア編 ~

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光の言葉

「水尾先輩をあのままにしても大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だよ。ああ見えて彼女は冷静だ。一般人に危害を加えることは決してない」


 わたしの言葉に雄也先輩は笑顔でそう答えた。


「でも……、なんで、そんな日本刀があんな場所にあったんだろうな。あんな物、国宝級になってもおかしくはないのに」

「持ち主が無頓着だったのだろう。あんなものを持ち込まれては、この店も良い迷惑だっただろうな。気の毒なことだ」


 雄也先輩は近くの道具をいくつか手に取りながらそう言った。


 その口調は……、あの刀を売った相手を知っているかのように聞こえる。


「兄貴は知っているのか?」


 九十九も同じ疑問を持ったのか、雄也先輩にそんなことを尋ねる。


「経緯はともかく、結果がはっきりとしている以上、ある程度の予想はつく。……ああ、これが良さそうだ」


 そう言って、小さな石を手に取って何かを確認するかのように呟く。


「まずは本来の用をすませようか。リヒト……、『Legen Sie diesen Stein auf Ihre Stirn.(この石を額に当ててごらん)』」


 雄也先輩がその石をリヒトに渡すと……、彼はそれを受け取って、フードを少しまくり上げ、おでこに付けた。


「俺の言葉が分かるかい?」


 雄也先輩が彼に視線を合わせ、優しく問いかける。


 その質問の意味が良く分からなかったのか、リヒトは奇妙な顔をしつつ……。


『……分カル』

「「?! 」」


 彼の口からは片言の言葉が出てきた。

 それを見て、雄也先輩が嬉しそうに笑う。


 そんな何気ないやり取り。


 だけど……九十九とわたしは言葉を失った。

 それに気づいたのか……。


『ユーヤ? ツクモトシオリガ……、変ナ顔ヲしタゾ?』


 おでこに手をやった状態で、リヒトがどこか慌てたような声を出す。


 スカルウォーク大陸言語ではない彼の言葉は、声質がそのままだけど、いつもより少し高く聞こえる。


 もしかしたら、それはわたしのイメージなのかもしれない。


「リヒトの言葉が分かるからだよ」

『分カル? シオリモ……、ツクモモ、イツもオレノ言葉、頑張ッテクレテいるゾ。オレガ分カラナイダケダ』


 リヒトはますます不思議そうな顔をする。


「栞ちゃん。彼に応えてあげてくれるかい?」


 雄也先輩がそう言うけれど……、わたしは言葉をうまく話すことができない。


 何か言わなければと思うのに、とても、言葉にならなかった。


 不遇な扱いを受けていた彼を、半ば攫うようにあの場所から連れ出してから、一ヶ月半ぐらい経っている。


 扱いが酷くても仲間だった人たちから無理矢理引き離して、その外見を隠して行動させなければいけないことに罪悪感だってないわけじゃない。


 言葉が通じないことにお互いに不便も感じていただろう。

 連れてきたことに対する不安感がずっとあったのだ。


 だけど……、その一つが今、解消された。


 これで……ようやく、彼の気持ちも分かるというのに……、わたしの口からは何も出てこなかった。


「落ち着け、高田。リヒトが不安がる」


 九十九がわたしの肩を支えてくれなければ、この場で泣いていたかもしれない。


『タカダ……?』


 リヒトが九十九に不思議な視線を向ける。


 なんだろう?


『ユーヤ? シオリノ名前、オレニ間違っテ教エタカ?』

「いいや。それは彼女の……愛称……かな」

『愛ショー?』


 ますます疑問を浮かべる少年。


「わたしのサードネームみたいなものだよ、リヒト」

『シオリ?』


 リヒトがわたしに視線を向けた。


「わたしの言っている言葉が分かる?」


 わたしはできるだけ彼に伝わるようにする。


 リヒトは……何かを理解したのか……、その手から石を落としてしまった。


『Was für eine Sache.(なんてことだ)』

「あ……、石が……」


 わたしがそれを拾おうとして……手を伸ばした時……。


『Ich wollte schon immer so mit dir reden.(俺はずっとこうして話がしたかった)』


 彼に抱き締められた。


 リヒトの身長はわたしより少し低いぐらいだが、屈んだために頭の上から声を聴くことになる。


 でも……ごめんなさいと謝るしかできない。


 わたしには彼がなんと言ったのか分からなかったのだ。


「兄貴、通訳」

「……彼女とずっとこんな風に話したかったそうだ」


 九十九の言葉に雄也先輩が答える。


「見た目に反して意外と行動派だったんだな、リヒト。いや、ガキだからこそ……か?」

「何を言ってるんだ。彼は俺よりもずっと年上だぞ」

「は?」

「長耳族が俺たちと同じ歳の重ね方をすると思うか? 少なくとも50年は生きているそうだ」


 雄也先輩のその言葉に九十九だけではなく、わたしも固まった。


 いや……、種族が違うから見た目と異なっても不思議ではないのか。


「ガキじゃなくてジジィだったのか……」


 九十九、全国の50歳の方に謝ってください。

 50歳はまだおじいさんではないと思うよ?


「それでも長耳族ではひよっこらしいけどな」


 でも……、そうだとしたら、彼はどれだけの月日をあの状態で過ごしたのだろうか?


 リヒトはわたしから離れて、先ほど落とした石を拾った。

 どうやら、彼もその石のおかげで会話ができると気付いたらしい。


 再び、石を額に当てて……。


『ユーヤ。オレ、コレ欲しイ』


 と、そう言った。


「ああ、分かっている」


 雄也先輩はそう答えると、石をいくつか持って、リヒトとともに別の場所に向かった。


「九十九、これ、何の石か分かる?」


 わたしは、先ほどの石がいくつも入った箱を指さす。


 大きさは通信珠よりも小さく、様々な色があった。


 その中から、雄也先輩がリヒトに渡したのは濃い青色ばかりだった……、と思う。


 選んでいた辺り、何か意味もあるのだろう。


「これは……、暴走防止に使われる抑制石(よくせいせき)だ」


 九十九が、一つだけ箱から石を取り出して確認する。


「抑制石?」

「魔力の暴走ってやつは、感情の乱れだけじゃなく、単純に魔力が大きすぎて、制御ができなくてもなるんだよ」

「……ってことは、リヒトは暴走状態ってこと?」

「いや、長耳族とオレたちは力の質が違うはずだ。それに……、暴走で会話ができなくなるなんて聞いたこともない」

「ぬ?」

「まあ、その辺りは兄貴に確認すれば良いと思うぞ」

「教えてくれるかな?」


 正しくは、説明されても理解できるかが分からない。

 わたしの頭は小難しいことを考えるようには設定されていないのだ。


「お前には教えてくれると思うぞ。オレには……、自分で考えろと突き放すだろうが」


 それを聞いてわたしは少し考える。


「抑制石の効果って名前の通り、魔力を抑制する石ってこと?」

「いや……、外に出る体内魔気を減らすものだ。オレやお前が身に付けているヤツを強化したものと考えれば良い」


 言われて思い出す。


 わたしたちは、抑えていても、滲み出る魔気が普通の人よりは強いらしい。

 だから、装飾品の補助でその気配を抑えていたのだ。


 最近、これを身に付けることが自然となっていたために忘れていたぐらいだった。


「オレたちが付けているのは抑制石というより制御石(せいぎょせき)だな。体内魔気の放出を少しばかり減少させる効果がある」


 わたしたちの中では水尾先輩が一番、いっぱいつけている。

 その理由については口にするまでもないだろう。


「この抑制石は?」

「個人差だからはっきりとは言えないが、制御石よりは効果が高いはずだ。魔力の暴走を防ぐためのものと……罪人を捕えるために使うものだからな。捕らえた後は魔封石を使うだろうけど、アレは高いからな~」

「……罪人……」


 なんか物騒な言葉が出てきましたよ?


「魔法封じだと跳ね返されることもあるが、抑制石の効果を弾くことはできないらしいからな。これらを鎖にして捕らえれば、王族でも縛り付けられると謳われているが……」


 そこで九十九は言葉を止めて……、抑制石の箱を見直し、その中から、赤と橙色の石をいくつか取り出した。


 選ばれたのは、橙色の石の方が多い。


「いくつか買うか。ついでに、もっと大きい物がないか聞いてみよう」

「なんで!?」


 罪人でも捕まえる気!?


「水尾さんやお前が暴走した時に使う」

「おおう……」


 罪人を縛り付ける鎖ではなく……、わたしたちの暴走を止めるため……とは……。

 ちょっと複雑な気がしないでもないのだけど……。


「水尾さんもお前も通常の普通の方法で止められる気がしないからな」


 九十九はからかうでもなく、真面目にそう言っている。


 凄く真面目なわたしの護衛。

 彼とは一体、いつまで一緒に行動できるのだろう?


 なんとなくそんなことを考えるのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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