技術の無駄使い?
意外に思われるかもしれないけれど、二年以上の時を一緒に過ごしているのに、わたしたち4人が一緒に行動することって案外少なかったりする。
今はリヒトもいるから5人となっているけれど。
同じ場所に向かうことは多いのだけど、その向かった先で同じように行動することが少ないのだ。
買い物もそれぞれ個人で済ませるし、宿も揃って同じ部屋で寛ぐことは少ない。
この辺りは性別の違いもあるから仕方ない面はある。
ジギタリス城樹やストレリチア城でお世話になっていた時も、同じ場所に留まるのは打合せや事情説明の必要があるような時ぐらいで、基本的には食事の時間を除けば、それぞれ別々に過ごしていた。
そして、わたしは、誰かと共に行動することが多い。
自衛ができないためである。
そのために、基本は九十九と一緒だけど、たまに水尾先輩だったり、時には雄也先輩だったり、それ以外の誰かが横にいたり……と、あまり一人で行動はしない……というかさせてもらえない。
九十九は護衛という立場にあるため、わたしと一緒にいることが多いが、水尾先輩に試食を頼んだり、雄也先輩と打ち合わせや報告をしたりしているらしい。
そう考えると、彼もあまり一人になっていないようだ。
水尾先輩は食事のためにわたしや九十九と一緒にいる時以外は、基本的に独りで行動をしていると聞いている。
読書とか自分一人で行動したい時に、他者による介入が嫌だとか。
だが、立場的にどうなのだろうか?
仮にも、元中心国の王族なんだよね?
でも、この水尾先輩をどうにかできるような人が、その辺りにいるとは思えない。
そして……、雄也先輩。
彼が一番謎だ。
最近ではリヒトの世話を担当しているが、彼は基本的に何をしているかは分からない。
わたしと一緒に行動することもあるが、それは何かの目的がある時が多い。
例えば、わたしを何かの釣り餌にする時とかだね。
グロッティ村やストレリチア城内などでそんな行動が見受けられた。
九十九とは報告、連絡の必要があるためか、多分、わたしより長く一緒にいる。
そう考えると、あの兄弟はかなり仲が良いようだ。
お年頃の反抗期ってお互いになかったのかな?
まあ、つまり、4人揃わない理由は、水尾先輩と雄也先輩の2人にある。
特に水尾先輩は雄也先輩とあまり一緒に行動をしたくないようで、2年も経つ今も、憎悪の意思は減っているけど、まだ嫌悪感はあるようだ。
対して、雄也先輩も秘密主義な所が多いため、わたしたちと一緒の行動を避けている気がする。
完全に裏方作業をしているためでもあるが、ストレリチア城内での彼の立ち位置を考えると……、どこに行っても忙しそうにしていることはよく分かった。
ワーカーホリックというやつだろうか?
一緒に行動する時は、やはり彼にとっては仕事の一環なのだろう。
そんなわたしたちが……、珍しく一緒に買い物に来た。
店内でバラバラになる可能性は高いけれど……、同じ場所に留まることが珍しいので、わたしは、少しだけワカワクしている。
四角い、シンプルなその建物はなんとなく、人間界のビルを思い出させた。
「うわっ!?」
そしてガラス張りの自動ドアが目の前で開く。
それは、人間界では珍しくもないけれど、魔界に来て初めての経験で、思わず声が出てしまったのだ。
そんなわたしを見て、雄也先輩と水尾先輩が同時に顔を横に向けた。
いっそ、笑ってください。
魔界は電気を一定の力で使い続けることが難しいという。
だから、この動力も人間界のように電気で動かしているというわけではないとは思う。
入り口を通り過ぎると……、そこは……、洋服がずらりと並んでいた。
思わず周りを見渡してしまう。
同じ服がずらりとと並んでいた。大きさが違うので同じデザインのサイズ違いを取り揃えているようだ。
魔界では基本的にサイズの変更を魔法でできるため、あまり同じデザインの服が並ぶことは少ないと聞いたことがある。
ストレリチア城下にあった洋品店に行ったことがあるが、微妙に服の形が違ったり、色が違ったり……、とあまり同じ服はなかった気がする。
「こっちだよ」
だが、目的はこちらではなかったようだ。
奥にあった自動ドアではない扉まで雄也先輩に先導され、5人でその部屋に入る。
「あれ?」
その部屋の床は、濃い青の光を放っていた。
「5階」
雄也先輩が短くそう言うと……、移動魔法の気配がした。
「……技術の無駄使い」
水尾先輩がそう言う。
扉の向こうは……先ほどまでと違う光景が広がっていた。
「今の技術は、転移門の応用……かな」
九十九が扉を出てからそう言った。
「エレベーター替わり?」
それを技術の無駄使いとは思わない。
そして、機械国家らしいと思う。
動力が電気ではないだけで、発想は人間界と変わらないのだ。
このフロアは洋服ばかりだった1階と違って、いろいろな道具が置いてあった。
見ただけでは何に使うのかがさっぱり分からないものも多い。
道具の種類もいろいろで、少々、雑多な印象がある。
洋服もあれば、水晶みたいなものもあったり、剣もあれば、瓶に入った液体もあったりする……。
ここは何屋だ?
万事屋か?
そこに飾られている剣は……本物なのかな?
本物だよね?
「魔道具の店? こんなところがあったのか……」
水尾先輩が一つを手に取ってそう呟いた。
「魔法付加が多いですね。これは凄い……」
そう言いながら……九十九が見回すと、店のある場所に目が止まった。
そして……、そのまま真っすぐ、そちらに向かう。
「何?」
それが気になって、彼の歩いている方向に顔を向けると……、その先には……、この世界で見るはずのない物があった。
その細長く研ぎ澄まされた黒と銀色の鉄の塊は、妖しい光を放っていた。
同じ系統の物は、この世界では真っすぐな物が多いのに、弓型の浅い反りがあって、その先は研ぎ澄まされている。
流石に、本物は見たことがなかったけれど……、漫画やテレビではよく見た覚えがある。
「『日本刀』……か?」
その場に立ち止まって顔を上げた九十九がそう呟く。
周囲にも剣が数本あったが、どちらかというと、石が付いた宝剣や、斬るというより叩き潰すような形状の物が多かった。
ファンタジーの世界にいながら……、一つだけ場所を間違えたような違和感があるそれは、最奥の壁の上部に堂々と展示されていた。
そして……、その下にはスカルウォーク大陸言語で「売り物ではありません」の文字。
つまりは、非売品であることを示している。
「もしかして、この国にも……人間界に行った人がいるってこと?」
「……だろうな。魔界で日本刀はありえない。魔法が基本のこの世界では、斬るための武器は、ほとんど役に立たないからな」
そうだろうか?
あの人は……、魔法が効かないような相手を叩き切ったことがある。
あれを見た後だと、剣が無意味だとは思わない。
「仮にも剣術国家出身の人間が言う言葉ではないな」
いつの間にかリヒトを連れて傍にいた雄也先輩がそう言った。
「思わぬ掘り出し物だな。正直、これほどの物がここにあるとは思わなかった」
雄也先輩も刀を見ながら、そう言葉を続ける。
「日本刀ってやっぱり珍しいですよね?」
「日本刀も……だけど、それ以上に、アレに付加されている魔力がね……」
「「魔力? 」」
九十九とわたしが同時に反応する。
「九十九が気付いていないのは意外だが……。ああ、そこの水尾さんを見れば分かるよ」
「水尾先輩?」
雄也先輩に言われて、水尾先輩の姿を探すと……、彼女は……店員に交渉をしていた。
「売れとは言わない! だから、教えてくれ!!」
そう叫んでいた。
いや……交渉?
でも、それにしては、何か雰囲気が違う気がする。
「店員にも守秘義務がある。顧客情報を教えられるはずはないだろう」
「先輩に言われなくても分かってるよ!」
水尾先輩が久しぶりに声を荒げた。
その声にリヒトが身体を震わせる。
「ど、どうしたんですか?」
これだけ余裕がない彼女を見たのは久しぶりな気がする。
最後に見たのは……、ストレリチアから出る前だった。
うん……。
思ったより離れていないね。
「ある程度、隠されても……私には分かるんだよ。あの魔力の持ち主は……たった一人しかいない」
その言葉でわたしも……気付く。
そして……、あの刀に意識を集中させてみた。
ゆらりと刀身がぶれ……、ガラスのようなケース越しにも関わらず、蒼い炎の揺らぎが視えた気がした。
「あの魔力は……、間違いなくマオのものだ」
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