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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 初魔法編 ~

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綺麗だと思った

前話より少し、時間が戻ります。

 目の前で九十九が倒れ伏している。


 誰かがそれを見たら、間違いなくわたしが犯人扱いされるだろう。

 実際、この状況になっているのはわたしが原因だしね。


 彼がその液体を口に含んだ時、心の中でガッツポーズをとった。

 まさか、彼も飲み物の位置を替えられていたなんて思わなかったのだろう。


 湯呑が変わっていることに気付かなかったことが彼の敗因であり、わたしの勝因だよね。


 それにしても……、やはりあれはわたしが飲まされた睡眠薬だったのか……。

 もし、わたしが眠らなかった時の強硬手段として準備されていたのかもしれない。


 先手を打てたようだ。


 このまま放置したままというのは、流石に彼から怒られそうな気がするので……、運ぶことにしよう。


 彼の推定体重は65キロぐらい?

 流石にその重さを抱えたことはない。


 でも……、まあ、筋力は上がっているし、なんとかなるだろう。


 しかし……、男の人ってどう抱えるべきかな?

 しかも机に伏している人を……。


 少し考えて、わたしは椅子をずらすことに決めた。


 簡単には起きないと思うけれど、一口ぐらいしか飲まなかったはずだ。

 効果は薄いかもしれない。


 起こさないように慎重に押して、掛布団を剥いだベッドの近くからなんとか持ち上げて、彼を転がす。


 それにしても、部屋の大きさに反してこのベッドは広い。

 部屋の半分はこのベッドが占めている気がする。


「これで良し……と」


 彼が、いつ起き上がるかは分からないけれど……、わたしよりも彼の方が体力を消費しているはずだ。


 少しでも良いから身体を休めて欲しい。


 それに、基本的に、わたしはどこでも眠れる。

 床の上も、ふこふこした敷物の上だから大丈夫だろう。


 幸い、タオルもシーツも余分にあるようだから、土足で歩き回った場所でも問題はない。


 それに……、地面で寝たこともあるのだから、その辺りは今更というやつだろうね。


「でも……、シャワーは今のうちの方が良いかな」


 当人が起きてしまう前に着替えもしておこう。


 誰かよりも先にお風呂に入るのは苦手だが、シャワーならなんとか我慢できる。

 湯船さえ先じゃなければ問題ない。


 そう思って、わたしは、お泊り用の荷物から自分の着替えを取り出した。

 移動中は九十九に渡しているが、宿などでは自由に取り出せるように出してもらっている。


 収納魔法と召喚魔法を早く使いこなさないといけない。


 さて、ここで問題が発生する。


 着替えをどこでしようか?


 シャワールームに脱衣所などない。

 魔界人は瞬間着衣が可能な人が多いのだ。


 一人なら脱衣所がないことを気にする必要もないが、シャワールームから出たら、すぐに部屋である。


 九十九がいつまで眠っているか分からないのに、シャワーを浴びた直後はどうしよう?


 シャワールームで着替え?

 でも、それだと着替えるための服が濡れてしまうよね。


 少し、思考して……、服だけ入り口に置くことにした。

 考えなければいけないことはまだまだ続く。


 一つ気になることがあれば、普段は、気にもしないことが次々と気になって仕方ない。


 シャワールームに落ちてしまった髪の毛とかそう言ったものまで……。

 いや、だって、手洗い場……、洗面所に落ちている他人の髪の毛って気になるよね?


 先にシャワールームを使ってしまった以上、ある程度気を使うことになるのは仕方ない。

 わたしはそう思って、いろいろ片付けたり、シャワールームの床を掃除したりした。


 しかし……、なんで、風呂上がりにお掃除してるんだ? わたしは……。


 いろいろ片付けた後、床にタオルを敷いて、その上に予備のシーツを重ねてその感触を確かめる。これなら大丈夫そうだ。


 そう思った自分を全力で張り倒してやりたいと思うのは、その数分後。


 床の硬さとかは全く、問題ではなかった。

 単純に九十九が同じ部屋にいることが酷く落ち着かない。


 いつもは全く気にならないのにどうしてだろう?


 水尾先輩は割と静かに寝る人だ。

 多分、わたしの方が煩いと思っている。


 そして、別にベッドで眠っている九十九が煩いというわけではない。

 彼は静かすぎて心配になるレベルだ。


 彼が眠っている姿を見るのは初めてではないが、ここまで静かだっただろうか?

 それとも、これが薬の効果なのかな?


 うん……。

 このまま何事もなく眠るのは絶対、無理。


 そう思って……、わたしも九十九が残していた薬を飲んだのだった。


****


 わたしが目を覚ました時、部屋には誰もいなかった。

 でも、シャワールームに気配があるので、九十九はそこにいるのだろう。


 先に掃除していて正解だったかもしれない。

 だけど……、それでも、ちょっと気恥ずかしいのは何故だろう?


「おはよ」


 九十九が髪の毛を拭きながら、出てきたので、声をかける。


 何故か、彼は上半身が裸だった。

 ……半裸状態の彼を見るのは初めてかもしれない。


 思わず無言で見てしまう。


 今まで見たことがある殿方の上半身と言えば、中学生以前に体育の時間の男子とか……、つい最近なら、ライトのも見たけど……、随分、身体の造りが違う気がする。


 九十九はがっしりしていて少し、骨太な印象だけど、ライトはもう少し薄くて、全体的に細長い。


 同じ男性でも、身体つきって随分違うものなんだね。

 まあ、女性もそうなのだけど。


「おはよう」


 九十九もわたしに気付いて答える。


 どうやら、一服盛ってしまったことを怒ってはいないらしい。


「なんで上半身裸なの? 一瞬で着替えられるのに」


 実際、下半身はしっかりズボンまで穿いている。

 だから、自分の意思で半裸状態なのだろう。


「風呂上がりにはあまり服、着たくねえんだよ。野外でやるつもりはねえから、部屋の中ぐらい好きにさせろ。下半身は穿いているだけ、マシだろう?」

「……ああ、うん。流石にそれは困る」


 流石に下半身まで何も装備なしだったら、わたしでも悲鳴をあげているかもしれない。


 興味?

 なくはない。


 自分が見たこともないものを見たいと思うのは自然だと思う。


「ああ、でも……、見苦しいと思うならちゃんと着るが……」

「ああ、良いよ。そのままで……。よく分からないけれど、その方が、九十九は動きやすいのでしょ?」


 わたしには本当によく分からないけど。


 いや、自分が下着姿で部屋をうろつくって……絶対に無理!

 落ち着かないし、心許ない。


 恥ずかしいとかよりもそんな思いが出てくる。


 でも、それは自分の感覚だから、それを相手に押し付ける気はない。

 それに、見苦しいとは思わなかった。


「まあな」

「変わった趣味とは思うけどね」


 わたしには理解できない感覚だから。


「人を変態みたいに言うな」


 そんなつもりはない。


 だけど……、わたしは九十九の身体を綺麗だと思ったんだよ?


****


 さて、そのままなんとなく二人で朝食をとることにした。

 でも、珍しく無言。


 ここの宿のお食事は……、調味料をかけて誤魔化しているけど、魔界の一般的な料理の範囲内だった。


 でも、無言の原因は多分、わたしだろう。


 食べるのもそこそこに、この滅多にない機会を逃すまいと、しっかり九十九の身体を観察していたのだ。


 九十九の身体は、わたしの身体と随分、違うことが分かる。

 そして、服の上からなんとなく見えていたラインだったが、脱ぐと全然違った。


 人間の想像力の限界を思い知る。


 九十九の身体はあちこち、(すじ)張っていて、少し動くだけで身体に入っている(すじ)と言うか、肉体にある線がかなり変化するのだ。


 筋肉構造が分かる人体模型を中学校で見たが、あれは男性だったのだろう。

 それでも、ここまでしっかり分からない。


 それにしても、何度見ても、綺麗な身体だな……って思う。


 細身だと思っていたけど、思ったより結構、ガッシリしている。

 考えてみれば、身体強化もしない状態でも、わたしをひょいっと持ち上げるのだ。


 ある程度、筋肉が付いているのはおかしくないのか。


「服……、着た方が良いか?」


 わたしから見られていることに気付いたのか、九十九がそんなことを聞いてきた。


「おおぅ!? ご、ごめん! つい……」


 思わず見透かされたみたいで慌ててしまう。


 少し前に久しぶりに絵を描いたせいだろう。

 頭が資料(モデル)を欲していた。


 想像だけで絵を描くのには限界があるのだ。

 そんな所に目の前に極上の資料が舞い降りたのである。


 普段は見えない部分。

 今まで見たことがない部分。


 もともと、男性を描くのは苦手だった。

 この機会を逃したら、わたしの場合、一生、見ることができないかもしれない。


 触れてみたい……。


 引き締まった身体は固いと聞くけれど……、実際はどうなのだろうか?

 力を抜いている時も本当に固いのだろうか?


 服の上からだと骨の硬さはよく分かっても、筋肉の硬さは見えている腕の部分ぐらいしか分からないのだ。


 ああ、触れてみたい。


 あの胸板や、しっかり割れている腹筋。

 広い背中や不思議な盛り上がりのある肩。


「九十九、ダメ元でお願いがあるのだけど……」


 わたしは、思い切って直球で頼んでみることにしたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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