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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 初魔法編 ~

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あなたに触れたい

本来なら糖度が高い話になるはずだったですが……。

主人公が少しばかり残念なので……、過剰な期待されないようにお願いします。

「は?」


 オレは彼女の言葉の意味が頭に入ってこなくて、思わず聞き返していた。


 いや、聞き間違いじゃなければ、「触れたい」と聞こえた気がする。


 そう言えば……、ジギタリスでも似たようなことを言われた気がするな。

 あの時は……、喉仏だった気がする。


 ああ、だからこいつにとって特に深い意味などないのだろう。

 そう考えると少しだけ気が楽になった。


「や、やっぱり駄目?」


 両手を胸の前に添えて上目遣い。


 なんだろう、この小動物。


「オレの身体なんて触っても面白くねえぞ?」

「いや、多分、楽しい」


 なんだ?

 この期待に満ちた瞳は……。


 珍しくオレに対してキラキラしている気がする。


「後、もう一つ。お前の意図がよく分からんが、言っていることは完全に『変態』だぞ」

「ぐはっ! はっきり言わなくても、分かってるよ」


 分かってんのかよ。


「でも、我慢できないんだから仕方ないでしょ? この溢れる気持ちが抑えられないの」


 どこから聞いても完全に痴女の発言である。


「……本当に変態だったのか?」


 こいつにそんな性癖があったとは……。


 いや、ある意味、一般的な考え方か?


「違う!」


 彼女ははっきりと否定し、声高に言った。


「本物を知っているかどうかで表現が変わる気がするの!」

「……何の話だ?」

「絵の表現。本物に対する情報が多い方が、もっと上手く描ける気がするんだよね~」


 分かってた。


 だから、オレはがっかりなんかしてない。

 絶対に。


「男の人の裸体って……、あまりマジマジと見たことがないのよ」

「変態行為だからな」

「触れたことがないわけじゃないけど、ほとんどが服の上からだし……って、何? その可哀そうな人を見る目は……」

「いや、本当に残念な女だなと思って……」

「うるさい! 分かってる!!」


 分かってねえよ。


「それで? どこに触れたいと言うんだ? この痴女は」

「痴女って言うな。そうだね……」


 彼女は口元に手を当てて、オレの身体に舐めるような視線を送る。


 そこで、オレは初めて身の危険を感じた。


 いや……、ちょっと待て?

 目が本気すぎるような気がする。


 今からでもキャンセルできないか?


「首筋から鎖骨のライン、大胸筋と上腕二頭筋は外せない。その割れた腹直筋も触りたいな~。腰のラインも女性と違う。広背筋も大事だよね。肩のラインもよく見たいし……、後は……」


 つらつらと出てくる。

 しかも、筋肉の名称を知っている辺りが余計に怖え!!


「待て待て待て! まさか……、思いっきりオレの全身撫でまわす気か?」

「全身って……。下半身は言ってないよ」

「当たり前だ!」


 それを口にしていたら、本格的な変質者だ。


「大腿筋には興味あるけど……」

「どこをどう聞いても痴女だ!!」


 大腿筋って、間違ってなければ太ももの筋肉だよな?


「だから、そ~ゆ~のじゃないんだよ。資料って言えば良い? 経験に基づく感覚はかなり参考になるんだよ」


 何故かオレが悪いとでもいうように、諭される。


 そして、オレは今まで、この女を誤解していたことを知る。


 物欲が薄いと思っていたが、違う。

 単純に貪欲な好奇心をずっと抑えていただけだ。


 思い起こしてみれば、その兆候はずっとあった。

 単にこれまで気付かなかっただけだ。


「九十九が悪いんだよ?」


 そう言って……、目の前の女は妖し気に微笑む。


 こんな時にそんな顔をしないで欲しい。


「わたしにお絵描きの楽しさを思い出させちゃったからね」


 そう言われてしまっては……、オレは観念するしかなかった。


***


「うわっ、ココはすっごく固くてゴツゴツしてる」


 そう言いながら、ぎこちない手つきで、触れてくる。


 その言葉は、いろんな意味でセクハラだと思うのはオレだけか?


「この(すじ)も撫でて良い?」

「さっきみたいにくすぐったくなければ」

「いや、まさか……、九十九がそんなに敏感だとは思わなくて」


 困ったような顔で言われても、オレの方が困る。


「多数の人間は脇腹を撫でられるのはつらいと思うぞ」


 いや、自分でもそこまで過敏に反応するとは思わなかった。


 ガキの頃、兄貴にさんざん、くすぐられてきたし、ある程度までは耐えられると思っていたのだ。


 でも……、こいつの触り方って、変なんだよ。

 兄貴とは別の方向で、妙な感覚がするのだ。


 その、なんというか、触れられてる場所じゃない部分がゾワゾワする……。

 オレの身体はどうしてしまったのだろうか?


「胸板はやはり、広くてかたい……。腹筋は締まっている……」

「ぎゃあっ!?」

「あ、ごめん……。つい、夢中になって」


 この女、触りながら自然に自分の顔を張り付けやがった。


 柔らかい頬の感覚が、胸元にあった。


 しかも、そこに他意はない。

 本当に夢中になっただけらしい。


 思わず悲鳴をあげてしまったが、それは仕方ないよな?


「もう無理だ! これ以上、オレに対してセクハラを続けるというのなら、いっそお前の口から『命令』しろ!」


 とうとう、オレは耐えきれなくなって、素早く衣服を身に纏った。


 どれぐらい、長い間、撫でまわされていたか分からないけれど……、結構な時間が経っている気がする。


 まさか、こんな思いをさせられることになるとは思わなかった。


「大袈裟だなあ……」


 彼女は露骨に眉を下げる。


「大袈裟じゃねえ! 逆の立場なら、大問題だ!! あちこち、人の肌を撫でまわしやがって……」

「逆の……? ああ、うん。確かにごめん」


 ようやく、彼女も納得してくれた……と思ったのだが……、なんで、この女はオレの斜め上の言動を平気でできるのか?


「じゃあ、九十九も一回だけわたしの好きな所触って良いよ」


 そう言いながら、両手を腰に当てて、堂々と胸を張る女。


 いっそ殺せ……。

 どう考えても罠しかねえ。


 本能のままに触れば、本当の変態だ。

 確実に信用を無くす。


 でも、無難な所に触れれば、こいつは反省しない。

 しかもたった一回だけ……。


 オレはあれだけ触られたのにな。

 但し、時間の指定なし。


 一番、タチが悪いのは、そんなオレの思考を読んでいると思われるところだ。

 彼女の笑みはどこか余裕が見える。


 二年近くのストレリチア生活で、悪友に感化されたとしか思えない。

 実は今、あの女が取り憑いてるんじゃねえか?


 だが、このままではただオレが一方的に疲れただけとなる。

 それは悔しい。


 だから、オレはこう言ってみた。


「どこを触っても怒らないか?」

「ふ?」


 オレの確認に彼女が一瞬、固まった。


「う~ん、一般的に許される範囲なら?」


 一度「どこでも」と言った手前、露骨な表現を避けたようだ。


 だが、逃がさない。

 オレの羞恥を思い知れ。


「オレはその一般的が分からん。お前がはっきりと決めろ。オレはその範囲を守る」

「ぐぬっ」

「それと、直接か? 服の上からか?」

「ちょっと待って! 一体、どこを触る気なの?」

「さあ? お前の返答次第だが?」


 やはり、どこでも……ではないようだし、オレが受けたセクハラよりは軽いものってことだろうな。


 まあ、上半身裸に、頬を付ける行為より上とか……。

 うん、いろいろと変だろう?


「ふ、服の上からで」


 まあ、そうだろう。


 こいつに身体を張った挑発をする度胸はそこまでない。

 吹っ切ってしまうとめんどくさそうだけど、基本的にこいつは男に慣れていない女だ。


 いや、オレも慣れているわけではない。

 慣れていたら、こんなに迷ってねえ!


「服がない部分は気にしないで良いってことだな」

「な、何を企んでるの?」


 完全に警戒されているので、あえて言おう。


「仕返し」

「しっ!?」


 彼女が目を丸くする。


「覚悟しろよ。流石にあそこまで好き放題されて、黙っていられるほどオレは大人しい男ではない」

「ぐっ」

「まさか、今更撤回はないよな?」

「……ない」


 少し迷ったが、彼女は覚悟を決めたようだ。


 ここで引き下がっていれば良いのに、意地を張るからいけないのだと思う。


「じゃあ、目を(つぶ)れ」

「……ほ、本当に何をする気?」


 何を想像したのか知らないが、彼女は顔を真っ赤にして尋ねた。


 でも、オレはあえて何も言わずに微笑みだけを返してやる。

 彼女は、逡巡していたようだが、やがてその大きな眼を閉じた。


 さあ、オレの仕返しを素直に食らうが良い。


 ―――― 直後、彼女の悲鳴が部屋に響き亘ることになったのだった。

再度書きますが、当初の予定では、もう少し甘くなるところでしたが、どうしてこうなったのでしょうか?

作者にも分かりません。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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