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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 初魔法編 ~

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不自然なまでに

「信っじられない!!」


 わたしは国境の町ベゴルベオ(カルセオラリア国内側)の宿の一室にて、彼に向かってそう叫ぶしかなかった。


 ぐっすりと眠っている間にカルセオラリア側に運ばれたらしい。


「守る相手に一服盛る護衛がいるなんて!!」

「……ここにいるから仕方ねえな」


 一服盛った護衛(犯人)である九十九は涼しい顔してわたしの目の前で、のんびりお茶を飲んでいる。


「飲むか?」

「飲まんわ!!」


 さらに笑顔でお茶ではなく、すぐ近くにあった別の緑色の液体を差し出すとか……。

 彼はわたしに喧嘩売っているとしか思えない。


「この状況を説明していただきましょうか?」

「国境を越える時に、お前が眠っていれば何も問題がないことが分かっているからな。眠っているうちに国境を越えた」

「……もっと、やり方を選んでください」

「やり方を選んだ結果、こうなった。夜中、お前が寝ている時に部屋に侵入してこっそり運び出す方がいろいろ問題だろ?」


 ああ、それは確かに問題だと思うけど……。

 それでも、これはこれでどうなのか? とも思ってしまう。


「体調はどうだ?」

「お陰様で絶好調ですわ。このまま、『目の前の的』に、何も考えずに全力で風魔法をぶつけたくなるぐらい」

「やめろ。お前が言うと、本気でやりそうで怖い」


 いや、半分以上、本気ですけどね!

 この行き場のない怒りをどこかにぶつけたくてしょうがないのだ。


 ああ、わたしが自分で結界を張ることができたなら、迷わずぶつけるのに。


 さて、なんでこんなことになってしまったのか……。


 状況を整理しよう。


 わたしは国境を変えるたびに魔気が激しく攪乱される可能性があることが、セントポーリアからジギタリスに入った時に証明されている。


 そして、それは魔力の封印をされていた時だった。


 ジギタリスから出たのは海上だったが、その時は眠っていたためか、反応はほとんどなかったらしい。


 そして、ストレリチアに入国したのも海上。

 その時も眠っていた。


 ストレリチアから定期船に乗って出国した時も寝ていたし、バッカリスに入国し、さらにエラティオールに入った時も……、あれ? なんかおかしくない?


「わたし……、セントポーリアからジギタリスに入った時を除いて、不自然なまでに寝ている気がするのだけど……?」


 海上での移動もあったからはっきりと言い切れないが、起きた時に「国境を越えた」という言葉を聞いた覚えはある。


 でも、バッカリスとエラティオールの国境は、キャリーの上で気づいたら寝ていて……?


「ああ、水尾さんが眠らせていたからな」


 九十九がわたしの疑問にあっさりと答える。


「なんじゃ、そりゃああああああっ!!」


 そう叫んだわたしに罪はないと思う。


「いや、ここまで気付かないお前もどうかと思うぞ」

「ぐっ」


 九十九に正論を言われた。


 思い出してみれば、海上で国境を越える時は、必ず水尾先輩が同室だった。

 そして、キャリーだって一緒に乗っていたのだ。


 しかし、今回の国境は町の中にあり、しかも一人一室の宿。

 眠った後、水尾先輩が念のために魔法をかけるという手段もとれなかった。


 その結果……、油断させて眠らせた後に国境を越えさせる……と。


「だからって……薬を使うなんて……」

「この町は強力な結界があるからな。誘眠魔法は効果が薄い可能性があった」

「素直に言って良い? それでも他に手段はなかったのか? と」

「なかった。魔力を解放した後のお前に暴走されても困る。バッカリスとエラティオールの国境で試せたら良かったが……、その時は、魔法を使う前にお前が寝てたし」


 キャリーで眠ってしまったのは、魔法のせいではなかったらしい。


「じゃあ、事前に話してくれたら……」

「先に分かっていたら、魔法に抵抗するだろ? 今回だって眠らされると分かっていて、素直に薬を飲めるか?」


 ぐぬう……。

 確かに九十九が言う通りだと思う。


 自分が眠らされると分かっていて、身構えない自信はない。

 そして、それが魔法を弾く可能性はあるのだ。


「で、でも……、次回はどうするの?」

「今回は迷いの森でロスしたことも含めて、あまり時間をかけたくなかったからこうした。次はもう少し対策を考えるよ。手段は一つじゃないからな」


 そう言って、彼は意味ありげに笑う。


 それを見て思わず……。


「九十九……、雄也先輩に似てきてない?」


 そんなこと言ってしまった。


「お前、何気に酷いこと、言っているな」


 そう言って、九十九は困ったように笑う。


 それはそれで酷い反応だとも思うのはわたしだけだろうか?


「ところで……、もう用は済んだんじゃないの?」


 いつまでも部屋から出ようとしない九十九にわたしはそう尋ねた。


 わたしを眠らせて、ここに運び込んだ時点で、九十九のお仕事は終わったはずだ。

 だけど、彼は何をするでもなく、この部屋で本を読んでいた。


「用は済んだが、一つだけ、すっげ~、困ったことがあるんだよ」

「困ったこと?」


 少しぐらい困った方が良いのではないか? とわたしは思う。


「部屋がもうないそうだ」

「はい?」

「だから、兄貴たちはエラティオールで一泊することになったらしい」

「いやいやいや! 待って! いろいろ、かなりおかしい!!」

「……だよな。オレも流石に困ってる」


 いや、あまり困っているようには見えないんですけど!?


 今の九十九は、控えめに見ても、余裕ぶっこいているようにしか見えないよ!?


「水尾先輩は!?」

「連絡がとれないんだよ。多分、もう寝てるんじゃねえかな?」


 窓の外は確かに暗い。

 わたしがどれぐらい眠っていたかは分からないけれど……、夜中ならそれもありえる。


「まあ、お前が寝たら、ちょっとふらふら出るから、オレのことはあまり気にせず、ゆっくり休め」


「なんじゃ、そりゃああああああっ!?」


 本日、二度目の叫び。

 いや、本当にわたしに罪はない。


「なんだと言われても……。そうするしかねえだろ?」

「九十九も疲れているのに?」


 ここに来るまで歩き通しだ。


 さらに買い物に出たり、眠り込んだわたしを抱えたりと、わたし以上に体力を使っていることは間違いないだろう。


「そりゃあ、疲れているけど……。仕方ねえだろ。野外や集団で雑魚寝するのとは意味が違う」

「随分、計画性がないことをしたもんだね」


 いつもなら先に宿の手配とかしていそうなのに……。


「水尾さんは何も言ってなかったけど、宿の話では急に客が入ったらしい」

「あ~、それなら仕方ないね」


 不測の事態ってやつだったのか……。


 一室だけでも、部屋があっただけマシだろう。


「じゃあ、寝袋出したら? 物質召喚はできるんだよね?」

「……お前は何を言っているんだ?」

「流石に一緒の布団は無理でも、それぐらいなら大丈夫じゃない?」


 わたしがそう言うと、九十九が床に突っ伏した。


「お前は何を言ってるんだ!?」


 先ほどより強い口調。


 いや、わたしもどうかと思うのだけど……、九十九だしね。

 今までに何度も同じ場所で寝ているのだから……、今更という気もする。


「先ほどは一服盛られたけど、あなたの本業は護衛でしょう? それなら、大丈夫じゃない?」


 護衛という立場で、わたしにアホなことをするとは思えない。

 今回のことにしても、理由はあった。


 基本的に彼は真面目なのだ。


「大丈夫じゃねえ!!」


 それでも彼は激しく否定する。


 わたしが信用しているというのに……。


「大丈夫じゃないって言うけど……、九十九は、わたしを異性として見ている?」


 少なくとも、わたしの方は彼からあまり異性に対する扱いをされているとは思っていない。


 これが、雄也先輩だったなら、かなり抵抗はあったかもしれないけど……。


 でも、あの人は同じ状況になったら、わたしが目を覚ます前に、何も言わずに退散しているとも思う。


「意識はしてねえ」


 ほら、やっぱり。


 彼のむすっとした表情までわたしは予測していた。

 だから、傷つくこともない。


「でも、意識してからじゃ、遅いだろ」

「ほへ?」


 だから、その後に続いた彼の言葉はわたしにとってはかなり、意外だったのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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