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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 初魔法編 ~

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情報が漏れない国

 石壁に囲まれた町……ばかりを見ていたので、この町は意外だった。


 鉱物国家「エラティオール」と機械国家「カルセオラリア」の国境を跨ぐように存在する国境の町「ベゴルベオ」。


 どちらの国でもあるこの町は、平原に何の囲いもなく存在していた。


 魔法国家「アリッサム」ほど大規模ではないが、結界で周囲を固めているため、害がある魔獣は近付くことができないようになっているそうだ。


 ただ、アリッサムの例もあるため、結界に過剰な期待を寄せず、警戒は怠っていないようで、巡回兵士がエラティオールとカルセオラリアよりそれぞれ派遣されているらしい。


「ここまでオープンになっていると……、逆に侵入しづらいだろうな」


 町に入る時に、水尾先輩がポツリとそう口にした。


 確かに、外から入ってくる人間は目立つことだろう。


「歩いて、来たのか? ご苦労だったな」


 町に入る前に、巡回兵士の目に付き、ちょっとした世間話をしてから町に入ることを許された。


 因みに、馬車などの乗り物を使用して来た時でも、この世間話という名の審査はある。


 それらを無視して、強行突破をしようとしても、普通の町ならともかく、この町ではそれが容易ではなかった。


 転移防止、魔法制限の結界があるという単純な理由だけではない。


 この大陸は空属性。

 空間に作用する魔法を得意としている国だ。


 移動魔法、転移魔法、遠見魔法、遠隔魔法、そして結界魔法を駆使する巡回兵士たち。

 さらに高速移動をする馬よりもさらに速い乗り物が存在する。


 街道から外れて接近しようとする気配をいち早く察し、魔法が効かない装備で身を固めた巡回兵士たちが、魔法を無効にする装備を両手に持ち、音もなく背後に現れるのだ。


 それだけ聞くとホラーでしかない。


「すげえな……」


 九十九が感心する。


「世界一の警備を謳われているだけあるだろう?」


 巡回兵士たちとの会話を終えた雄也先輩がそう言った。


 それが……、なんで、中心国の城下ではなく、国境の町なのか……?

 わたしには魔界の常識が分からない。


 雄也先輩によると、その理由はいろいろ考えられるそうだ。


 単純に二国から費用が出ているため、普通の場所よりお金をかけやすいとか、ここが大陸の主要都市だからとか、昔、ここにあった国家の名残だとか。


 ただ……、それでも世界で一番安全な場所ではないらしい。

 警備と安全は別の物ということかな?


「因みに世界で一番安全な場所ってどこですか?」


 わたしが尋ねると……。


「俺の考えではなく、一般的に言われている言葉を返して良いかい?」


 と、雄也先輩は何故か断りを入れて……。


「愛する人の隣……だそうだよ」


 これはもしかしなくても……、諧謔(ユーモア)というやつかな?


「なるほど」


 だが、その論は納得できなくもない。


 それを否定したり、現実的な話を持ち出したりするのはそれこそ野暮ってものだろう。


 納得したわたしを見て、雄也先輩は微笑んでくれた。


「さらりと涼しい顔で何を言ってるんだ、この先輩は……」

「誰だ、最初にそんなことを言い出した気障な野郎は……」


 水尾先輩と九十九にもその会話は聞こえていたようで、二人とも頭を抱えている。


 因みに、長耳族のリヒトは雄也先輩に背負われている。


 初めて、わたしたち以外の人間が集まる場所に来たのだ。

 慌てないように、一番、意思疎通ができる人間が保護している。


 彼の褐色の肌や長い耳については、結界があるために魔法で誤魔化すことはこの場所ではできない。


 だから、原始的にフードとマスクでその姿を覆い隠していた。


 多少の不便さは仕方ないが暫くは我慢してもらおう。


『Ich kann ein paar Worte verstehen.(少しだけ、言葉が分かる)』


 そのリヒトが周囲に視線を向けながらそう言った。


「Das ist eine gute Sache.(それは良いことだ)」


 雄也先輩もそれに応える。


 少し口元が笑っている辺り、悪い話ではないのだろう。


 しかし、どんな会話しているのか分からないのが少し、悔しい。


 文字にすれば、なんとなく分かるのかもしれないのだが……、わたしの耳は、ヒアリングが良くないらしい。


 うん、中学校の時からそれは知っていた。


 もう少し、ちゃんと耳を鍛えておくべきだったとか思わなくもないけど……、今更だった。


「雄也先輩が考える、世界で一番安全な場所はどこですか?」


 わたしが改めてそう聞くと……。


()めろ、高田。この先輩のことだ。『決まってるだろ? 俺の隣だよ』とか言い出しかねない」


 横から水尾先輩がそう言った。


「兄貴の横は逆に危険だよなあ……」


 九十九がそう続ける。


「安全……をどの尺度で測るかによるけど……。防衛の面なら間違いなくこれから向かうカルセオラリアかな」


 雄也先輩は二人の言葉を完全に無視して、わたしの問いかけに応じる。


「あの国の建物は基本的に魔法が通じない。物理攻撃にも耐える。情報国家が最も潜入の難しい国とまで言われている」

「あ~、魔法……、通じないなあ。私が世界各国で破壊できない壁はあの城ぐらいだ。身体を相当、強化した上で、武器を振り下ろせば……、もしかしたら、ヒビくらいは入るかもしれないだろうけど……」


 ちょっと待ってください。

 今、さらりと凄いことを口にした人がいますよ。


「水尾さんの魔法でも?」


 いや、九十九。

 そこは感心するところじゃないから。


魔法弾きの矢(プファイル)など、特殊な魔法道具を造れるのはあの国ぐらいだ。そして、その技術は基本的に秘匿されている。転移門など、カルセオラリアの技術者しか維持管理ができないらしいからな」

「まあ、ヤツらが開発オタクというのは分かるけど……、そんなに情報が漏れない国か?」

「現イースターカクタス国王陛下の母君である王太后(おうたいごう)陛下はカルセオラリア出身らしい」


 情報国家の王の母君が?

 王太后って先代王様の妃だっけ?


「つまり、そこまでしなければ、あの国ですら、情報が得られないのか……」


 水尾先輩が呟いた。


 ……それって、ある意味、政略結婚というやつなのでしょうか?


「そこまでして、どれだけ必要な情報を得られたかも分からないけれどね。イースターカクタス母后(ぼこう)陛下は数十年も部屋から出てこないと聞いている」

「ああ、確か表に一切出ない引きこもりだったっけ。部屋からも出てないとは思わなかったけれど……」


 それだけの会話で、どれだけの情報が二人の間で確認されていたのだろうか?


「九十九……、分かる?」

「話の流れである程度は……。つまり、情報国家が機械国家の情報を得るために、王様自らが、機械国家の人間を嫁にしたってことだろう? でも、何故か引き籠った……と。夫婦仲が悪かったんじゃねえか? イースターカクタス国王陛下は兄弟姉妹もいないみたいだし」

「あれ? 双子のお兄さんがいたんじゃなかったっけ?」


 わたしが読んだ書物にはそう書いてあった。


「ああ、今はいないから、それを忘れてた。でも……、双子だってだけで……、産んだのは一回ってことには変わりないぞ」


 イースターカクタスの現国王陛下は双子だったらしいけれど、兄王子は王位を継承する前に亡くなったらしい。


 ああ、だから似たような境遇のセントポーリア国王陛下と仲が良いのかもしれないね。


 あの方もお兄さんが王位継承前に亡くなっていると聞いているから。


 そして、そう考えると……、九十九が薬師になりたいと願うのも無理はないかもしれない。


 一般的に、王族は普通の人間たちよりも肉体、精神ともに強いらしい。

 水尾先輩を見ていてもそれは納得できる。


 そんな存在であっても、病には倒れてしまうのだ。


「不勉強だな、二人とも。イースターカクタス国王陛下には妹もいたらしいぞ」

「「へ? 」」


 水尾先輩の言葉に、わたしたち二人は同じような反応をする。


「昔、城で読んだ書物にあった。名前は忘れたが……、現王とは5歳ほど年の離れた妹がいたとあった」

「そ、その姫は?」

「あの時、私が読んだ本には享年が書かれていなかったから……、まだ生きているんだと思う」

「なかなか興味深い話だね。いつ頃、読んだのかい?」


 雄也先輩も会話に入ってくる。


「ん~、はっきり覚えていないけれど……、5歳になる前ぐらいだったか? 書物庫を読み漁っていた時期だからなあ……」

「10年以上前……、なんという記憶力……」


 わたしは水尾先輩の記憶力に素直に感心するしかない。


 5歳になる前の自分なんて覚えて……、ああ、わたしは記憶封印された時期だった。

 それを言い訳としておこう。


「肝心の名前を憶えていないから……、なんの自慢にはならんけどな」


 そう言って水尾先輩は笑ったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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