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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 初魔法編 ~

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少女は焦りを隠せない

 う~~~~~~~~~~~~~っ!


 イライラする!

 イライラする!!


 イ・ラ・イ・ラ・する――――っ!! ……と、頭から湯気が出てしまいそうなくらいわたしはイライラしていた。


 理由は明確だ。


 分かり易すぎて、涙が出るくらい。

 いや、泣いたって仕方ないから泣かないけど!


 魔法できない!


 言葉通じない!


 ……凄く、派手に大見得切った後で、これってどうなのと思う。


 こんな(しょ)(ぱな)から(つまず)いているためか、周りもなんかピリピリしているみたいだし……。


 ううっ、自己嫌悪……。

 毎度ながら、何にも後先考えずに行動してしまう我が身の性質を呪ってしまう。


 ハッタリだけは一人前って思われているのだろうな……。


「水尾先輩、わたし……。もう魔法、使えそうです」


 ――――とか言って、全然、使えていないし!


 どこが?

 誰が?

 どの口で言うか!? って何度自問自答しただろう……。


 それすらも愚問愚答でしかない。


 自分自身の意思ではなかったけれど、この手から魔法が放たれる瞬間を見た。

 だから、前よりも明確に魔法がイメージできるようにはなっているのは確かだと思う。


 魔力……体内魔気ってやつが自分の手に収束される感覚も、なんとなくだが掴めた気もしたのだ。


 だけど、だけど!

 これなら、使えない方がまだ良かったんじゃないの?


 自分の中のナニかを意識的に手に向かって集結させる。


 拳を握り締めて力を入れた時の血液が集まってくるのと似てるような似てないような微妙な感覚。


 そして、爪先から背中を伝ってスーッとナニかが走り抜けていったのが分かる。


 ソレと同時に、仄かに指先から風特有の気配がして……、金属バットを振るような勢いで、一気に手で宙を薙ぎ払う。


 すると、あら不思議?


 ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!


 凄まじい、風の渦が前方1メートルくらいの地点から発生して、真っ直ぐに目的に向かうのだ。


 ……ってまたですか。


「くっ!」


 目標地点から声がして、その風は少しだけ弱まる。


 でも、少しだけ。


 魔法の師である水尾先輩曰く、目標物は、今のところ、わたしの風の力を弱めることはできても、無効化はできないとかなんとか。


 水尾先輩や、雄也先輩なら無効化することはできなくもないけど、それじゃあ、上達のほどが分からないってことで、哀れな生贄……、もとい、栄誉ある目標物は彼になったようである。


 でも、無効化できた方が、犠牲はないと思うのだけど……。


「だーかーらー! 何度言ったら分かるんだよ!!」


 またも水尾先輩の怒鳴り声が飛んでくる。


 本日、何度目でしょうか?


「ううっ……」


 この手、この手が憎い。


 この手が……、あの風速何メートルか考えことるもイヤになるほど大きな竜巻を何度も起こしているのだから。


 それを森から出ないように抑えきっているこの森の結界も凄いのだけど。


「魔力の聚合(しゅうごう)を感じたら、そこで収束させる! 放出を抑える! 心を落ち着ける! 発動を我慢する! 無駄に出さない! 簡単なことだろ?」


 魔力の()()……、それは感じている。

 収束……、できているんだと思う。


 でも、放出を抑えるとか、発動を我慢するとか、無駄に出さないってのが感覚としてよく分からない。


 心については、魔法を使うときには割と落ち着いていると思っているのだけど。


「……難しいです」


 感覚が掴みきれない。


 なんでだろう?


「甘えは厳禁!! 私は先輩や九十九みたいに甘くはないからな!」


 雄也先輩はともかく、わたしに指導する時の九十九は決して甘くないと思う……。


 特に料理の指導中は結構、怒られている気がする。


 でも、今の水尾先輩に比べたら……、確かに甘いうちに入るかもしれない。


「知っていますよ」


 忘れられるわけがないのだ。


 ストレリチアでも水尾先輩は魔気の操り方の指導はしてくれたけれど、今回のような本格的な魔法の指導とは違った。


 今回はどちらかと言うと……。


「鬼の生徒会長にして体育会系な二塁手(セカンド)。その恐ろしさは、中学時代に存分に味わいましたから」


 中学校時代の水尾先輩とわたしは同じ二塁手(守備位置)だった。

 それが、縁での付き合いなのだから少し不思議に思える。


 彼女が生徒会の仕事で忙しくならなければ、わたしが、一年生にしてレギュラーなんて快挙はなしえなかっただろう。


 生徒会に行きながら、実は、わたしよりも巧かったのだから。


 自分の代わりに試合に出る後輩のために、いろいろと指導してくれたのだ。

 (しご)いてくれたとも言うけど……、そのおかげでマシになったと思う。


 この状況は、あの時ととても良く似ていた。


 中学校時代の水尾先輩はなんというか、いろいろな方面で多才な人だった。


 成績も優秀、運動神経もよく、しかも生徒会の力が強い学校で、生徒会長を任されていた。


 生徒会にいた役員たちは各クラスから選出された人間ばかりだったのに、それらを総括し、統治していただけでも凄いことだと思う。


 その上、魔法国家のお姫さま……。世の中、恵まれている人って本当にいるよね。


「分かれば、よろしい。では、続けて。あの的……、もとい、九十九を狙って」

「だから、なんで、オレが的なんスか――――?」

「なんでって……、一番、やられ役に相応しいから?」


 水尾先輩、流石にそれは酷いです。


「怒りますよ!!」

「冗談。風属性の耐性があるからって説明しただろ? 高田の魔法は今のところ、ほとんど風属性になってしまうみたいだから」

「兄貴だって……、風属性の耐性があるのに……」


 九十九は定位置へと戻りながら、そんなことを呟いた。


「10メートル近く吹っ飛ばされたりすることはなくなったから、良いだろ?」

「タイミングと威力の見当がつけば、誰だってできますよ」


 それでも、まだ2,3メートルは後ろに飛ばしている。


 それは、わたしの制御ができないまま、九十九が風魔法の効果を軽減する能力だけが上がっている証拠だ。


 これでは、誰のための練習かが分からない。

 結局のところ、わたし自身は何も上達していないのだから。


「先輩! たまには、代わってくれ! 先輩の方が私より教え方は慣れてるだろ!」


 疲れてきたのか水尾先輩が雄也先輩に向かって叫ぶ。


「いやいや。魔法国家の王女以上に、魔法が長けた者など、この場にはいない。魔法に関しては、貴女に一任した方が望ましいと思っているが?」


 だが、彼はいつものように笑顔でそれを断った。


 ここ数日、雄也先輩は「リヒト」との会話を試みている。


 しかし、参考資料があっただけで、会話が成り立つということが既におかしい気がするのはわたしだけだろうか?


 発音記号とかは書いてあってもわたしにさっぱり分からなかった。


 いや、英語みたいに法則はあるってことは分かるのだけど……、このスカルウォーク大陸言語は、アルファベットとは違う記号もいくつか存在するのだ。


 くうっ!

 彼との意思疎通も道が遠すぎる!


 わたしの意識ではなかったけれど、わたしが連れて行くきっかけになったのだから、なんとかしたいのに。


 だが……、今は、目の前のことに集中する。

 彼との会話の時間がないわけではないのだから!


「九十九――――っ! もう一回、行くよ~~~~~~~!」

「あいよ~~~~~。殺さん程度に頼むわ、マジで」

「保障はできないよ」

「しろよ」


 そうは言っても、威力の調整ができないのだから仕方がない。


 尤も、わたしが少しぐらい頑張ったところで、彼の命を脅かすほどの魔法は出せないだろうとも思っている。


 せいぜい、彼を、この森の結界ギリギリの位置まで吹っ飛ばすことが精いっぱいだ。


「では、いっきま~す!」


 そんな遣り取りをしてから、またもチャレンジ!


 目の前に風が巻き起こる。

 この瞬間はいつも感心してしまう。


 凄いなあ……。

 何もない所から風が生まれたよ。


 そして、その風はあっと言う間に成長し……。


「ありゃ?」

「『ありゃ? 』じゃねえ!! お前、全然、学習してないだろ~~~~~!!」


 風に巻き込まれながら、九十九の叫び声が聞こえた。


 これだけの風に煽られても、全く怪我を負わない彼も凄いと思う。


 まあ、怪我するようなら、こんなことをするつもりはない。


 確かに彼は治癒魔法を使えるが、治せるからと言って傷つけても良いとはどうしても思えない。


 それを甘いと言われるなら、わたしは甘いままで良い。


 目の前の竜巻を見ながらぼんやりと考える。

 わたしの手から離れても、本来、この魔法はわたしの意思である程度操ることができる……はずらしい。


 でも、制御不能。

 毎度、巻き込まれる九十九を見つめる結果となっている。


 そして……、いつも効果が切れるまで待つしかないのだ。


 こんな時、わたしの魔力って本当に無駄だなあと思う。

 もっと早く効果が切れたら、九十九が洗濯機のようにならなくて済むのに。


「あ……」


 目の前の風がフッと消える。


 どうやら、魔法の効果が切れてくれたらしい。


 九十九がそのまま、身体を捻りながら体勢を整えて、着地した。

 その姿はまるで忍者のようだと毎回思う。


「どうだ? 手応えは?」

「さっぱりだよ~、何が悪くてどうしてああなるのかも分からないままだし……」


 わたしは自分の手を見つめる。


「まあ、焦るな。二年も使えなかった魔法が使えるようになっただけ進歩してるじゃねえか」


 九十九はそう慰めの言葉をかけてくれるが、どうにも自分自身に納得できないものがあるのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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