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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 迷いの森編 ~

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聖女属性

本日二回目の更新です。

 彼女は「聖女の肩書が重い」とはっきり言い切った。


 確かにあまり目立たず生きていきたい人間にとって、そんな称号は「邪魔(重荷)」にしかならないだろう。


 だが……、その資質があるかどうかで言えば……、彼女は間違いなく最上級のものだと俺は確信している。


 産まれる前の無垢な魂が神に魅入られた。


 それだけでも、法力国家は間違いなく当人の意思と無関係に、彼女を「聖女」として扱うだろう。


 その頂点に立つ大神官はそれを隠し、さらには選択肢まで与えたが、本来ならばそれ自体が異常なのだ。


 それだけ「神の御執心」というものは、法力国家……、いや、神官にとっては崇拝の対象となる。


 本来、神は人間に興味など示さないのだから。


 そのため、大神官が、彼女に配慮していなければ、彼女は間違いなく法力国家に飼い殺されていたと思われる。


 そして……、彼女が「聖女の卵」となるきっかけであった「(かみ)()ろし」。


 これは魂だけの問題ではなくなる。

 普通の人間ならば、その精神力も、肉体も「神力」の圧力に耐えられないのだ。


 肉体はともかく、精神に関しては、中心国の王族であることよりも……、「母親の資質」にあるだろう。


 何しろ、彼女の母親は惑星(ほし)に呼ばれ、転移門も使わずに強制的に惑星間移動をさせられた存在だ。


 それだけでも、並の魂ではない。


 惑星の化身、創造神「アウェクエア」は過去、現在、未来を見通すとまで言われている。

 しかし、同時に気紛れや思い付きで動き、万事適当だともされる神でもあった。


 その神が、彼女の母親を呼び寄せる必要があったと判断したのは何故か。

 それは、目の前の娘を存在させるためではなかったのかと俺は考えている。


 どの大陸にも「救国の神子」と呼ばれる聖女たちは存在した。


 だが、この世界で「聖女」と言えば、六千年前、セントポーリア王女だった「ディアグツォープ」を差す。


 それ以前もそれ以後も「聖女」の認定をされた聖人がいなかったわけでもないのに。


 そして……、目の前にいる女は唯一、その血を色濃く引いた女である。

 これら全てを「偶然」の一言で片づけられるとは俺は思っていない。


 何よりも……。


「お前は『(めし)いた占術師』というものを知っているか?」

「何? 突然……。でも、その目の見えない占い師さんの話はストレリチアでも何度か聞いてるよ。情報国家の神官が認定した聖人だったらしいね」

「へえ……、あの人、聖人認定されていたのか」

「……あなたでも知らないことはあるのね」


 知らないことの方が多い。

 俺が知っているのは、目の前の女のことだけ。


 これだけは、興味を持ってから、15年近く、調べ続けているのだから当然の結果だ。


 それを口にしてしまうと、また「変態」と呼ばれるだろうから、自重しておく。


 これ以上、彼女からそう呼ばれることが、()()()()()()自分が困るだけだ。


「その占術師が昔……、今のセントポーリア国王陛下が生まれた時に現れ、こう予言した。『この御子(おこ)御歳(おんとし)20に血を継ぎ、生を()けし者。ありとあらゆる数多(あまた)の人間を導く者なり』と」


 まあ、同時にその兄王子も別の予言を受けたのだが……、これを言うと混乱に拍車がかかりそうなので控えておく。


 形上は彼女の伯父にはなるが、余計な情報を入れても困るだけだろう。


 それに既に死んだ人間の話なのだ。

 だから、彼女が知る必要はない。


「つまり現国王陛下の御子……、それが今の王子殿下ってこと?」

「今の王子に人を導く器量があると思うか?」

「……人を強引に引っ張る力はありそうだよ」


 彼女の言葉に苦笑してしまう。

 確かにヤツは強引で他人の都合なんて考えない。


「お前がストレリチアでうっかり降臨させた女神については聞いただろ?」

「うっかりって……」

「導きの女神……。セントポーリア国王陛下に対する予言と被るとは思わないか?」

「偶然でしょう?」


 そうだ。

 全ては偶然。


 でも、それが積み重なっている時点で必然だろう。


「それに……、セントポーリア国王陛下が20歳の時に、わたしは存在していない。母が20歳だったのは間違いないらしいけど……」


 それも知っている。

 彼女が生まれたのは現セントポーリア国王陛下が21歳の時だった。


「お前は、『生を享ける』って正しくどういう意味か分かるか?」

「この世に誕生するってことじゃないの?」


 俺の言葉に対してすぐ答えを返す。


「それだけじゃない。『天から命を授かる』という意味もある。さて、占術師はどちらの意味で言ったのだろうな」

「……おおぅ」


 その意味に思い当たったのか、彼女は分かりやすく眉を顰めた。


 確かに現セントポーリア国王陛下が20歳の時に、王子が誕生している。


 だが、その裏で、彼女が母親の(はら)に宿ったのも、逆算すれば分かることだが現セントポーリア国王陛下が20歳の時だったりする。


 まあ、その辺りは男だから仕方ない。


 妻の妊娠中に別の女に浮気なんてよくある話だ。

 ヤれない相手よりは、ヤりたい相手を選ぶのも自然だろう。


「えっと? あなたはその予言の『御子』ってやつは、わたしのことだと言いたいってこと?」

「いいや」


 俺は彼女の言葉を否定する。


「はい?」

「俺としては、お前が予言の『御子』でも違っても、関係ないんだよ」


 実際、セントポーリアでその予言を知る人間は少ない。


 本来、盲いた占術師の言葉は最高級の宝石に値するとまで言われているが、その直後の兄王子に告げられた予言のために戒厳令が敷かれたほどの「予言(言葉)」だ。


 それを知っているのは現王と一部の限られた人間のみ。

 正王妃とその息子すら知らないはずだ。


 俺が知った理由?


 それは彼女のことを調べるうちに、偶々、行きついてしまった「偶然(奇跡)」としか言いようがない。


「ただ……、そう言ったこじつけが好きな人間はいる」

「こじつけ? ああ、こじつけなのか……」


 彼女は両腕を組み、何度も納得したように頷いた。


「それに、『神の執心』、『(かみ)()ろし』、『中心国の国王陛下の娘』、『聖女の血脈』、『聖女の卵』、『大神官のお気に入り』、『法力国家の王女殿下の友人』、『神官たちの偶像対象』……、どれだけ『聖女属性』を詰め込んだら満足するんだよ、お前という女は」


 そして恐らく、今後さらに追加されていくだろう。

 彼女が「高田栞」である限り。


「それらが聖女属性ばかりとは思えないけれど……」

()()()()()()()()()()()()のは誰だよ」

「……あれは、わたしのせいじゃないと思うのです」


 彼女はしどろもどろになりながら答える。


 どうやら、あまり思い出したくもない存在らしい。


 それについては正直、同感だ。

 そして、あの護衛がギリギリまでよく我慢したなと感心もしたが。


 相手は仮にも高神官だった。

 だから、多少、魅力的な人間(異性)がいたところで、容易く恋狂うはずはない。


 そんなにチョロい人間であれば、あの年齢まで独身を拗らせてはいなかっただろう。


 だが、相手の魂が神に相同するものであれば?

 神に篤信している者ほど、魅惑的に映ったことだろう。


 本来なら真っ先に堕とされそうな、大神官と呼ばれる地位に在る男は……、彼女と出会った時点で、既に別の人間に懸想していたし、何より、神嫌いな面がある。


 だから、簡単に迷うことはない。


「肩書は重いかもしれんが、属性が少しでもある以上、何らかの形で無理矢理結びつける人間は絶対にいる。そんな人間は過程を無視して結論ありき、だ。お前を聖女にするためなら、どんな手でも使うと心に留めておけ」


 相手の事情も周囲の言葉も顧みない強引な人間と言うのはどうしてもいる。


 そして……、セントポーリアの王妃と王子は、親子そろってその救いようのないタイプの人間だ。


 特定の地位を持たない娘を、血眼になって探している時点で、周囲からの声も聞く耳を持たない状態だということはよく分かるだろう。


 だが……、奴らが、彼女に「聖女」の資質があることを知ってしまったら?


 当人たちだけではなく、周囲を完全に巻き込んだお祭り騒ぎになることは想像に難くない。


 それだけ、セントポーリアという国にとって、「聖女」という存在は、尊ぶべきものであり、守りべきものでもあり、忌むべきものでもあるのだ。


「本当に親切だね」

「それぐらいの恩はあるからな」


 だが、俺如きのこれぐらいの言葉で、この先、何かが変わるとは思っていない。

 それだけ、この世界の未来には暗闇しかないのだ。


 だが……、少しでも長く「希望(ひかり)」を見つめたままでいることを願うのも、人間と言うものなのだろう。

次話の投稿は本日22時予定です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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