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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 迷いの森編 ~

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今後の予定が行方不明

表題は、作者のことではありません。

そして少しばかり、BLというほどではないけれど、腐った表現が出てきますので、ご注意ください。

 さて、水尾先輩のお楽しみの時間と言えば?


「九十九! メシ!」

「いや……、水尾さん? 先ほど、長耳……じゃない、シーフたちからお食事、頂きましたよね?」

「魔法を使いまくった私が、あれっぽっちで足りると思うか?」

「思いません」


 そう言いながら、九十九はいつもの水尾先輩専用保存食収納袋より保存食を取り出す。


「高田は?」


 流れで、九十九はわたしにも声をかけてくれる。


「わたしは足りたよ。無駄に保存食減らす必要もないかな」


 それでなくても、いつここから出られるか分からないのだ。


 九十九の保存食は気になるけど、今は我慢!


「お前らは?」

「「は? 」」


 ライトとミラクティさんにも自然に声をかける九十九。

 そして、驚く二人。


 でも、わたしは驚かない。


 以前にも似たようなことがあったからだ。


 あの時は、ミラージュじゃなくて、アリッサムの元聖騎士団たちだったが……、襲い掛かってきたという立場からすれば、そんなに変わらないだろう。


「私たちまで、もらって……良いの?」


 ミラクティさんが、先ほどまでとは違って控えめな視線を九十九に送る。


 随分、態度が違うと思うけれど……、これは「恋する乙女」というヤツだろうか?


「ああ、水尾さんほど食わなければ大丈夫だ」


 そう言いながら、九十九は水尾先輩に視線を向ける。


 彼女は既に、魔法力回復のために食べ始めていた。


 ミラクティさんは遠慮がちに九十九から焼き菓子を一つ受け取ると、キラキラした目でそれを見つめていた。


 まるで宝物を発見した子供のように。


「毒でも入れる気か?」


 当然ながら、ライトは素直に受け取らない。


「『サルハ』と『テリム』、『ビスタリア』ぐらいなら入ってるかもな」

「ミラ、食うな」


 九十九の言葉にライトは顔を顰めながら、妹に指示する。


 なるほど……、「ミラクティ」だから「ミラ」……、ね。


 彼は、愛称で呼ぶ程度には妹を可愛がっていて、()()もそれを受け入れる程度に、兄に気を許しているのだろう。


「あら、ツクモさまに殺されるなら、本望よ」


 兄の忠告をさらりと流して、彼女は嬉しそうに焼き菓子を口にした。


 なんで、そこまで会って間もない九十九を信じられるのだろうか?

 一般的にはライトの反応の方が正しい。


 わたしも……、同じ立場なら、流石に警戒してしまうと思う。


「美味しい……」


 ミラは凄く嬉しそうにそう言った。


 そして、そのまま小動物のように少しずつ、大切に食べていく。

 ……なんか、可愛い。


 その反応を見て、ライトは訝し気な顔をする。

 いや、興味は湧いたけど、素直になれない感じに見えなくもない。


「九十九、わたしにも一つ。小さいやつが良いな」

「おう」


 わたしは九十九から焼き菓子を受け取ると……。


「はい、あ~ん」


 と、言いながら、ひょいっとライトの口に無理矢理押し込んだ。


「むぐっ!?」

「た!?」


 ライトと……、何故か九十九の驚いた声。


「美味しいでしょ?」

「……美味(うま)い」


 少し戸惑いながらも、素直にそう言われると、凄く嬉しい。


「……お前が食うのかと思ったんだが……」


 九十九は不服そうだ。


 わたしが食べるものに護衛である九十九が毒を混ぜるようなことはしない。


 そんなわたしに手渡されたものなら、毒見をせずとも、ライトも食べてくれるだろう、と思った。


「でも、彼にも『美味しい』って言わせたよ。やっぱり、九十九の料理は凄いね」


 わたしがそう言うと、九十九は金魚のように口をパクパクさせ、()()は顔を顰めた。


 これぐらいのことで、何か変わるとも思えない。


 でも……、せっかく、同じ空間にいるのだから、少しぐらい、安らぎがあっても良いじゃないかと願いたいのだ。


 それが甘い考え方だって……、分かっているのだけど。


****


「……ってなんで、オレがこいつと一緒に寝なきゃいけないんだよ!?」

「同感だ」


 ライトと九十九が同時に言う。


 まあ、彼らがそう言いたくなる気持ちも分からないでもないのだが……。


「じゃあ、どちらかが俺と同じ布団に入るのか? 男と『同衾(どうきん)』などとは我が意にそぐわぬ手段だが、今回ばかりはそれも已むを得ない」


 ……ど~きん?

 銅金?


 駄目だ……。

 漢字が出てこない。


「『同衾』って言うな!! 意味が違うだろ」

「『同衾』……ってなんだ?」


 先ほどとはテンションが交代する。


 ライトがムキになって、九十九は疑問符。


「普通、男女間で使う気がするんだが……。先輩って時々、変な言葉を知ってるよな」


 あ、水尾先輩は知っているのか。


「話の流れからすると一緒の布団に入るって事ですか?」

「そう言うことだね」

「嘘吐け! シオリ、その男に騙されるな! こいつは笑顔で人を陥れるタイプだ」

「オレもそれは身に染みてる。兄貴はそう言う男だ」


 ……九十九。

 ライトはともかく、あなたは自分のお兄さんだよね?


「……で、九十九とライトのどちらがその『同衾』ってやつを、雄也先輩とすることになるの?」


 そんなわたしの台詞で、ライトは固まり、雄也先輩と水尾先輩は大笑いする。


「無知ね~。『同衾』ってのは男女が同じ夜具……、この場合布団に寝ること。が、表向きの表現で、大抵は、エッチすることって意味よ」


 呆れたように言うミラ。


「え……えっち?」


 ああ、なるほど。それならこの反応も分かる。


「は?! オレ、兄貴となんかしないぞ!!」

「遅い!!」


 九十九の反応にライトが突っ込む。


 さりげなく、突っ込み体質だよね、彼……。


「安心しろ。俺も男に興味はない」


 あっても困ります、雄也先輩。


 しかも弟が相手なんていろいろと問題でしょう。


「で、どうするんだ? そちらが決まらないと困るのだが……」


 水尾先輩は眠たげにそう言う。


「私がツクモさまと一緒でも……」

「それはオレが嫌だ」


 ミラの言葉に九十九が答える。


「それは、布団を4つしか用意しなかった長を恨むしかないな。個人的には女性三人にそれぞれ与えたいところだが、男三人が一つの布団に寝るのは物理上難しい」


 まあ、この部屋自体があまり広くはないのでその辺については仕方がないと思う。


 そして、この場合、「隔離部屋」という名の客室なのだから、多少の不自由は仕方がないのだけど。


「お前ら、男三人が重なれば?」

「水尾さん!!」

「ふざけるな!!」


 水尾先輩の提案に、九十九とライトが反駁する。


「それだと誰が上になるかで揉めそうだな……」

「あんたが言うと、別の意味に聞こえる」


 雄也先輩の言葉に、ライトが疲れたように言う。


「言ってる意味が分からないな。俺は単純に折り重なった場合、下になるものが押し潰されて寝苦しいだろうと、こう言ってるのだが?」

「いや……、分かっていて濁しただろ?」

「私、ツクモさまとそのお兄さまの二人が折り重なるなら、許せるかも?」


 ミラのテンションが変わった。

 頬が紅潮して、少し瞳もキラキラしている。


 なんだろう?

 中学校の時の同級生によく似ている気がする。


 いや、ミラの場合は同級生と違って、興奮気味に息を荒げてはいないけど。


 九十九と雄也先輩を重ねる?

 わたしには柔道やプロレスしかイメージできない。


 想像力が貧困なのだろうね。


「いや、許すなよ!」

「それなら俺は害がないな……」

「お前が良くてもオレは困る!! 誰が得するんだ、そんな絵面!!」

「私が得する! 兄攻め、弟受けでお願いするわ!」

「するな!! 攻めとか受けとか知ったことか!!」


 おや?

 どこか懐かしい単語が出てきた。


 確か、その単語は中学校の時に聞き覚えがある。


 ……と言うか、九十九が知っていることの方が驚きなのだけど?


「……ごめん、私は本気で分からない。攻めるの反対って守るじゃないのか? もしくは防ぐ? 攻撃の反対って守備とか防御だよな?」

「ああ、ソフトボールでは攻守って言いますよね」


 涼しい顔でわたしも水尾先輩の言葉に答える。


 うん、水尾先輩はそのままでいてください。

 今、彼女たちが盛り上がっているのは、あまり一般的な単語ではないので。


 いや、わたしもそこまで詳しくはないのだけど、そう言った方向性のものが好きな友人もいたのです。


「簡単に言うと男女の役割をそれぞれに宛がうってことだな。この場合、攻めの兄が男役。受けの弟がヤラレ役」

「男役とヤラレ役……?」


 ライトの言葉に水尾先輩がますます疑問符を浮かべる。


「おい!! そんなこといちいち、説明するな!! ……って『ヤラレ役』じゃなくて、『女役』って聞いたぞ!?」


 そう言いながら、九十九が真っ赤になっていたのが妙に印象的だった。

 この場にワカがいたら、格好の餌食となる反応だよな~と思いながら。


 結局、九十九とライトはお互い目を瞑るということで妥協し、大人しく同じ布団に入ることとなった。


 なんでも、雄也先輩と一緒に寝るといろんな意味で身の危険を感じるからというのが共通の見解らしい。


 それもなんだかな……と思う。


 そして、わたしは水尾先輩と一緒になった。


 ミラは分かりやすくわたしに敵意を向けているし、わたしも彼女と一緒に寝て自動防御が働くような事態になっても困る。


 それに水尾先輩もミラージュのヤツとはイヤだといって譲らなかった。


 つまり、雄也先輩とミラはそれぞれ一人布団。


 ―――― もし、布団が3つしかなかったらどうなっていたのだろうか?


「そりゃあ、バトルロイヤルだろう。先輩と一緒の布団に入りたがるヤツがいないだろうから」

「じゃあ、九十九が一緒だったでしょうね」

「なんで?」

「兄弟だから。ミラとライトがやっぱり兄妹だから一緒で……」

「じょ、冗談じゃないわ! ツクモさまと私。貴女と兄さま。ツクモさまの兄さまとそこの女でちょうど良いじゃない。ほら、めでたくカップリング成立」

「「それこそ冗談じゃない!! 」」


 水尾先輩と九十九が同時に叫ぶ。

 そんなのは認められないらしい。


 わたしもちょっと嫌かな。


「俺は別に構わないけど」

「俺もシオリとなら甘くて良い夢を見ることができそうだ」


 雄也先輩とライトはけろりとそう言って、水尾先輩と九十九が睨みつける。


 この様子では、多数決も成立はなさそうだった。


 やはり、もし、3つの布団なら水尾先輩の言ったとおり、バトルロイヤルは間違いなかっただろう。


 そうなると、わたしが一番、不利だったかな。

 この中で、一番弱いし。


 まあ、個人的には、床でも布団の間でもどこでも眠れると思うから、布団はなくても良いのだけど。


 そうして……、わたしたちは互いにどの方向へ向かうか分からないまま、夜が更けていくのだった。

この話で第29章は終わります。

次話から、第30章「黒き災い」となります。

ついに、30章です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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