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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 迷いの森編 ~

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合流

 ライトが、魔法力の回復のためとかで眠ってからどれくらい経っただろうか?


 彼は本当に不思議な人だと思う。


 いきなり狙ってきたかと思えば、今は無防備に寝ているなんて、魔界の常識が欠けているとよく言われるわたしにも考えられない。


 わたしがその辺の手ごろな鈍器で殴るとか考えていないのだろうか?


 何度か話をしてみて思うのは、この人は根っからの悪人ではないということだった。

 でも、善人でもない。


 善人はまず人を問答無用で襲わないだろう。


 だけど……、目的と本来の意識が少しだけ違うようなそんなちぐはぐな印象がずっとあるのだ。


 大体、その気になれば、彼はいつだってわたしを手中に収めることは可能だろう。

 わたしは自動防御が働くが、自分の意思で魔法が使えないのだ。


 それは、魔法力と体力の消費が激しくなることを意味している。


 そのことに彼は気付いているはずなのに、わたしの魔力切れを狙うような部下の使い方をしない。


 魔法力の消耗戦に持ち込めば、かなり、彼に有利となるはずなのに。


 何より、組み伏せられた時……、わたしの自動防御は働かなかったのだ。


 つまり、わたしの本能は、あんな状況だというのに、彼からの敵意を認識しなかったということになる。


 びっくりしたし、怖かったけれど……、それでも自分に対して危害を加えられるとは何故か思わなかった。


 人間界にいた時から……、何度もこの人から怖い思いもさせられたし、痛い思いもさせられた。


 それでも……、どこか憎みきれないのは……、夜の港町での彼の言動や、今回だって自分の身を顧みず、わたしを助けてくれたという部分にあるかもしれない。


 そして、他にも気になることがあった。


 彼の右肩に刻まれている変な痣。

 彼曰く「魔神の呪い」。


 見ているだけで胸の奥がざわざわしてくる。

 このままにしておいて良いものとは思えない。


 でも……、だからと言って、わたしに何ができるというのだろう?

 今も魔法も使えないのに。


 だけど……。


「運命の女神は勇者に味方する」


 その言葉を、唐突に彼は口にしたのだ。


 それを彼がどんな意図で言ったのかなんて分からない。

 それでも、あれだけ多数の言語で言い分けられる程度には好きな言葉なのだと思う。


 わたしもいろいろシルヴァーレン大陸言語やグランフィルト大陸言語の文字はなんとか覚えたが、日常的な文章が中心で、格言とかちょっと横道に逸れた言葉までは自信がない。


 それに……、翻訳機能があるからと、読み書きを中心としていて、わざわざ話し言葉までは勉強しようと思っていなかった。


 いや、その翻訳機能があるから覚える必要もなかったと言うのが正しい。


 まさか、その気になれば、各大陸言語で話し、それを相手に伝えることができるなんて考えもしなかった。


 まあ、つまり、彼は『言語オタク(変態)』というやつなのだろう。


 必要のないことを勉強するなんて、正気とは思えない。


 いや、人間界の学生ならば仕方がない。

 将来、何が役立つか分からないから学ぶのだ。


 あるいは、勉強の仕方、技術の身に付け方を自分で探す必要があるから、考えるのだ。


 だが……、魔界人としては必要のないことを覚えようとするのは心に余裕がある人間だと聞いている。


 彼に余裕があるようには見えないが、本当に趣味で、それぞれの大陸言語を発音まで身に付けてしまったのだと思う。


 それは素直に凄いと思うけど……、真似したくはないなあ。


 趣味を存分に楽しめるような余裕があるなら、歌を歌うとか絵を描くとか、わたしはそちらの方向に向かうから。


 まあ、そんなわけで、特に何もすることはなく、唯一の話し相手となる人も眠っているため、わたしは彼から少し離れた場所で、暢気に歌を歌っていた。


 眠るのは好きだけど、長耳族(シーフ)の人たちの目的が分からないため、どちらも同時に眠るなんて危ないだろう。


 尤も、魔界の歌なんてストレリチアで覚えた聖歌以外あまり良く知らないから、人間界で覚えた歌……、それも2年以上前の歌ばかり歌うしかなかった。


 いや、歌うことは好きだから良いのだけど……、もっと思い切り歌いたいなあ……と思ってしまう。


 贅沢なのは分かっているのだけどね。


『失礼します』


 そう言って、ノックもなしにシーフの女性が顔を出した。

 まあ、ここはわたしたちの家じゃなく借りている場所だから仕方ない。


『あと、4人ほどグールがこの部屋にみえるようなのですが、よろしいでしょうか?』


 よろしくないと言った所で、わたしに決定権があるわけじゃない。

 反対したとしても、それは意味を成さないことだろう。


 何より、その相手についてもよく分かっているのだ。

 拒否するつもりはなかった。


 承諾の意思を伝えると、彼女はまた部屋から出た。


 そうして……、さらに、数分した後……、かの者たちがやってきたのである。


「高田、無事だな!」


 最初に声を発して、部屋に飛び込んできたのは水尾先輩だった。


「無事だとは分かっていたけど……、やはり、顔を見るまでは安心できなかったよ」


 雄也先輩もそんなことを言いながら、笑ってくれた。


「水尾先輩……、それに、雄也先輩も……」


 わたしも彼らが無事だってことはなんとなく分かっていたけど、雄也先輩の言う通り、顔を見ると安心できる。


 だけど……。


「九十九は?」


 いつもはこの中にいるはずの彼の姿がない。


「ああ、九十九ならヤツらが治癒の術を施すとかでどっかに連れて行かれたよ。私も先輩も治癒魔法が使えないから」


 ああ、わたしがここ来たときにされたやつか……。


 ……ってことは、彼も素っ裸にされているのかな?


「……ふむ……。やはり、紅い髪の青年と一緒だったか」


 眠っているライトを見て、雄也先輩が呟く。


 そして、「やはり」ということは、一緒にいることは知っていたのだろう。


「ミラとかいう女のいったとおりだったな~。コイツの魔気、ひどく乱れている。これじゃあ、高田に危害を与えることなんてできなかっただろうな」

「それに予想よりもかなり重傷のようだな」

「え?」


 重傷って見た目は普通なのに?


「で、でも……、彼も治癒を受けたはずですよ?」

「表面だけしか癒されてないみたいだね。ぱっと見た感じ、外傷は目立たないけど、身体の内部がボロボロだと思う」

「動きを封じる分にはその方がいいしな」


 なんてことだ。

 彼は、やっぱり何も言わなかったのだ。


 話を聞いた限り、本当はまだ激痛が走っていただろうに。


 そういえば、この部屋に来てもあまり動かず、ほとんど身体を倒していた。


 それは、疲れていたとか面倒だとか魔力の回復とかのためじゃなくて身体の怪我のためだったってことだろうか?


「心配しなくても九十九は……、魔気も清浄だからちゃんと癒してもらえるとは思うぞ。ヤツらは汚れた魔力がイヤなだけだろうし」


 水尾先輩はわたしが黙っているのを見て、九十九のことを気にしていると思ったようだ。


「九十九はともかく……、彼女の方はどうだろうな」

「ああ。あの女は魔法力が落ちているだけで、そこまで大きな怪我とかはしてなさそうだから大丈夫なんじゃないか? せいぜい、そこで眠っている男と同じように魔法封じされる程度だろう」

「……あの女?」


 誰のことだろう?


「彼の妹とかいう少女を拘束……、もとい、保護したんだよ」

「先輩……、いまさらりと本音が出ただろう」

「なんのことだか?」

「彼……、ライトの妹?」


 ああ、襲撃者の一人……か。

 その子もまだ一緒にいたんだね。


「で、その子は?」

「九十九と一緒に連れて行かれたよ」

「あれは自分から付いていったって感じだけどな」

「付いていったって……?」

「ああ、その娘は何でもあの愚弟に好意を持ったらしいよ」

「は?」


 あの……、好意って、好きになるってことだよね?


 え?

 ……好き?


 誰が?

 九十九のことを?


「なかなか、あの外見の割に良い趣味してるよな~」


 あれ?

 ……気のせいか、水尾先輩も九十九の評価って上の方?


「そして、あの料理! 各国の人間たちをも唸らせるあの腕! あれだけで婿にきてもらう価値がある!!!!」


 そんなところで力説されても。


「……水尾先輩は、本当に料理が判断基準なのですね」

「高田は大事じゃないのか? メシは生きる糧だろ?」


 ……確かに、料理があまり得意ではない水尾先輩にとっては、死活問題になるのかもしれないけどね。


「……で、九十九が治癒を受け、彼も眠ってくれている間に今後のことでも考えようか」

「仮にも高田を狙っているやつの傍でそんな話しても大丈夫なのか?」

「今は、どこで、話したってあまり変わらないだろう。ここの長()聞き耳と覗き見が趣味のようだからな」

「へ?」


 ここの長にそんな特異なご趣味が?


「絵本の通りだな。初めて見たけど長耳族ってやつは本当に人間不信なのか。同じ精霊でも人懐っこい水鏡族とは大違いだ。だから、耳が長くなるし、垂れていくんだよ」

「……それは関係ないと思うが……」


 どうやら、水尾先輩はシーフたちが少し苦手なようだ。


「人間不信……というより、彼らは自分たちと異なる存在が許せないようだな。つまりは排他的ということだろうが……」

「だから、右へ倣えって形になるんだよ。実際、会ってみると人形みたいで気味が悪い」


 確かに、シーフたちは皆、似通った容姿をしていた。

 男女の区別もそこまではっきりとさせていない。


 よく言えば平等。

 悪く言えば無個性。


「それに今後も何も、ここから出られなきゃ話にならないんだが?」

「出られなきゃって……、難しいのですか?」

「「難しい」」


 二人が同時にきっぱりと返事をする。


「長耳族というのは、外からの変化をひどく嫌う。その反面、かなりの秘密主義だ。ここに長耳族の集落があることを知ってしまった人間をどう扱う気でいることか分からないというのが正直なとこだね……」

「つまり、秘密……、ここで生活していることを外部に漏らさないためなら口封じも考えられるってことですか?」

「いや……、口封じのためにわざわざ殺すことまではしないだろうね」

「せいぜい、生涯、軟禁ぐらいだと思う」

「生涯……、軟禁……って」


 なんか恐ろしい単語が出てきた気がします。


「殺すと後々面倒だからね。死体の処理とか……」

「ヤツらは、魔界人ほど魔法に優れてはいないみたいだからな。証拠隠滅は苦手だろう」

「魔界人でも完全犯罪はできないって言われていることだし」

「それは、探す方も優れているためでもあるんだろうな」


 な、なんかさらに結構、物騒な話題になっていく。


「つ、つまり……、殺されなくても、ここから出ることは難しいってことですね」

「そういうことだね。尤も、それも長の考え方次第だろうけど」

「私としては、一刻も早くカルセオラリアに行きたいのに……。なんで、こんなに邪魔が入るんだ?」


 その二人の反応を見る限り、なんか……、本当にこの状況が前途多難だということだけはよく分かったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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