表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 迷いの森編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

528/2790

大きな借り

「先ほども言いましたが……、彼はわたしを護ってこれだけの大怪我を負いました。彼の企みや意図なんて本当のことは何も分かりませんが、それだけは事実です」


 わたしはきっぱり言い切った。


 確かに何か特別な理由がない限り、彼がわたしを助けることなんてないだろう。

 彼は今回、部下を率いてまで、わたしを捕えようとしている。


 ただ……、同時に殺す気もなかったと確信していた。


「ですから、彼の傷を治すか、彼の身の安全が保障されるとこまで連れて行くことができなければ、わたしは彼に大きな借りをつくったままになります」

『正気か? 娘……』

「わたしが正気なのかどうかは、あなたには分かるのでしょう?」


 相手はわたしの心が読めると言っているのだ。

 わたしが狂気かどうかは分かっているのだろう。


 こんな知らないところで、味方もなく、一人にされるのは心細いと思ってしまうのは当然の話だと思う。


 それに……、今も姿を見せようともしない、正体不明の声に対して、素直に従いたくもなかった。


 それぐらいなら、まだ姿を見せている彼の方がずっとマシだ。


『その者も招き入れろと?』

「どこに招かれるかは分かりませんが、知り合いがいた方が心強いのは確かです」

「本格的な馬鹿だろ、お前……」


 すぐ傍でライトの呆れたような声がする。


 心が読めるという相手に対して、彼にわたしの意思は伝わらない。

 だから、彼にとっては本当にわたしの行動は意味不明だと思う。


「その自覚は十分すぎるほどあるよ。だけど、わたしからすれば、あなたも声だけの相手も怪しいという点においては差がないんだ。だったら、面識があって、ちゃんとわたしに姿を見せているあなたの方がまだ信用できるとは思わない?」

「ホントに……、馬鹿だな」


 そう言ったライトはどんな顔をしていたのか分からない。

 声からすれば、悪い意味で言ったわけではないのだろうけど。


『つまり我らより、その男を選ぶというのか?』


 それだけ聞くと、なんだか……、誤解を招きそうな言葉だと思う。


『それは、この場で殺されても良いと言うことになる。それでも、お前はその男を選ぶというのか?』


 うわ……。

 物騒な言葉を持ち出してきましたよ、この相手。


 だけど、それに似た脅しはこれまでに何度かあった。

 それぐらいで心が揺らぐはずはない。


 そして、わたしの答えはもう決まっている。


「崖から落ちたのがわたし一人なら、先ほど、一度死んでいたかもしれません」

「馬鹿か。それが分かっているなら、拾った命を無駄にしてるんじゃねえよ」


 ライトはそう言うが、そんな正論でわたしが簡単に考えを変えるようならば、いつも近くにいる九十九は苦労していないだろう。


 うん、自覚はある。

 でも、考えは曲げられない。


 それに……、もしかしたら、わたしは今日という日を迎えるまでに、既に死んでいた可能性もある。


 これまでに何度も遭った命の危機で、少しばかり感覚は麻痺しているかもしれない。


 うっかりそう考えてしまった。


『どういうことだ?』


 声が、わたしの思考に反応した。


「あっ……」


 しまった。

 これも聞かれたか……。


 不味い。

 もっと別のこと、別のこと……。


 しかし、人間というのは、何故こんなにも愚かなのでしょう?


 考えまいとすればするほど、より深く考えてしまい……、結局、生い立ち全てを事細かに考えてしまうことになる。


 ……と言っても、自分が体感した訳じゃなく、そのほとんどが周囲から聞いた程度の情報でしかないのだけど。


『なるほど……。面白い娘が迷い込んだものだ』

「お前……、何をどこまで考えた?」


 見えない声の(ぬし)の反応で、彼も何かを察したらしい。


「えっと……、生い立ち全暴露?」

「救えねえ」


 ライトは、これまでにないほどふっか~い溜息を吐いた。

 なんか、九十九みたいな反応だね。


『気が変わった。娘よ。そこの男も、一緒なら我らに従うか?』

「「は? 」」


 わたしとライトの短い声が重なる。

 そして、その直後に……。


(おさ)!?』

『それはあまりにも短絡的なお考えで』

『責任は私がとる』

『しかし』

『それとも私に意見する気か?』

『いえ、それは……』


 何故か揉める声が聞こえてきた。


「な、なんか……、さらに雲行きが変わってきた気が……?」

「……みたいだな」

「どうしようか?」

「死ぬか、従うか……。従う振りをするってのも一興だろうが……」

「物騒な人だね」


 でも、そんなのは今更の話か。

 もともと、彼は物騒な人種だった。


『さて、どうする?』


 声は再び、私たちに問う。


『妙な真似をしない限り、お前たちの身の安全は保障することを約束しよう。但し、ここを出るまでは、我らに従ってもらう。それでよければ……だがな』

「ここを出る時に何かするということは?」

『ない。我らは、客人に対してそのような振る舞いをするほど野蛮ではない』


 それにしては、問答無用で襲いかかってきたじゃないか……とも思う。


『結界保持のためだ。悪く思うな。侵入者ではなく、客人としての扱いを受けるのが不満だというのなら、このまま、実力行使も辞さないがな』

「えらく気に入られたもんだな。お前……」

「へ?」

「お前の意思を問わず、お前を招き入れるってことだろ? 俺みたいな怪しいヤツをオマケに付けてもいいぐらい」

「そうなの?」


 でも、それって選択権はないわけか。


『そういうことだ』


 素直に承知すれば、ライトも一緒。

 だけど、その先は不明。


 でも、拒絶すればわたしは捕らえられ、ライトは……、この様子だと恐らく殺されてしまうと思う。


 わたしはともかく、怪我をしている彼の身を護ろうと言うのなら……。


「分かりました。彼も一緒で良いと言うのなら、お言葉に従います」


 素直に従うしかないだろう。


『交渉成立だな』


 その声と共に、変な緑色の光る珠が私の前に現れた。


『それが案内だ。付いてこい』


 それだけいうと、声は消えてしまった。


「身体、動かせる?」

「さっきと同じ程度には……。それにしても、お前、ほんっとに馬鹿だろ?」

「本日、何度目かね」


 いくらなんでも言い過ぎではなかろうか?

 しかも、今回は妙に力強く言われた。


 いや、九十九にもよく「阿呆」とか言われているけど。


「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い?」

「いいじゃない、わたしの勝手でしょ」

「俺なんかを助けて……、後で後悔しても知らないぞ」

「確かに、それについてはいつかどこかで後悔しちゃうかも知れない。あなたは身体が治ったら、また襲いかかってきそうだもんね。だけど……、ここであなたを見捨てても絶対に後悔すると思うんだ。それよりはずっとマシだよ」


 わたしは素直にそう言った。


 自分の身を護るために見知った人を見捨てて、呑気に高いびきできるほどわたしは人間性を捨てられない。


「ホントによく分からん女だ」

「あなたの言う通り、馬鹿だからね。それに……、知らない場所でも、知っている人がいるってだけで、結構、心強いもんだよ。」

「それが俺みたいなのでもか?」

「うん」


 身体を張ってわたしを助けてくれるような人が近くにいれば、心強く思うのは当然だろう。

 彼に、その自覚はないようだが。


「じゃあ、また肩を貸すね」

「ホントに、馬鹿だな」


 そう言うと、彼は再び、わたしの肩に手を乗せる。


「あれ?」

「なんだよ?」

「なに、これ?」


 今のライトは、先ほどわたしに(武器)を提供してくれたため、上半身に何も身に着けていなかった。


 つまり素肌を露出している状態。


 いや、だからと言って、顔が紅くなるとかの照れとかは一切ない。

 先ほどよりはちょっと生温かく感じるなと思う程度だった。


 流石に触れたことはないけれど、殿方の上半身裸の姿なんて、プールの授業がある中学校時代に何度も見ている。


 問題はそんなところではなかった。


 今までに彼が半裸になった所を見たことはない。


 だから、今までソレに気付かなかったんだけど……。


「肩に……、痣?」

「ああ、コレは……、刻印だ」


 彼の右肩には、黒い変な模様が張り付いていた。


「ミラージュで生を受けた者は、生後間もない時にどういう訳か、この刻印が浮かび上がるようになっている」

「ふ~ん、生まれつきなのか」


 そう言いながらも、その刻印を見ると、なんか嫌な感じがした。


 うまくはいえないんだけど、すっごく妙な空気が漂っている。


「多少濃度が違うみたいだが、大体はこんな黒だ。ミラージュの王族に近いほど、色が濃くなるといわれている」

「なるほど……、だから、王子殿下であるあなたはこれだけくっきりしているのか」

「覚えていたのか。だが、そのことは何の誇りにもならない。ミラージュの王族は……、代々、魔神の呪いを受けているのだからな」

「魔神の呪い?」

「……お喋りはここまでだ。行くぞ」

「え? あ……、うん……」


 もっと彼から話を聞きたかったが、これ以上、聞かない方がいい気もする。


 この「魔神の呪い(刻印)」ってヤツを見ているだけで、身体が軋むような変な感覚があった。


 これ以上、深入りしない方がわたしにとっても良さそうな気がしたのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ