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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 迷いの森編 ~

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身体に聞こうか?

「お邪魔だったか?」

「「へ?? 」」


 不意に聞こえた声と、突然降りかかった眩しい光で、オレとミラの動きが固まった。


「……岩陰に隠れて逢い引きとは……。我が弟ながら成長したようだな」

「あ、兄貴!?」


 流石に気まずいのか、ミラが、慌てて離れる。


「……って言うか、襲われてたんじゃないのか? どう見ても、九十九は全身が動かせるような状態になさそうだし」


 そう言いながら、水尾さんが岩を持って、兄貴の背後から登場した。


 だが、そこには一人……足りない。


「た、高田は!?」

「まだ合流出来ていない」

「まだって……、兄貴らしくねえ!!」

「高田は多分、無事だよ。魔気に乱れがほとんどない。ここは方向感覚は狂うが、知覚とかそう言ったもんに影響はないようだな。それより……、九十九の方が魔気の乱れが激しかった。だから、先輩を引きずってこっちを優先したんだが?」

「オレより、高田を優先すべきじゃないですか! あいつは魔法が使えないんだから」

「な~に、言ってるのよ」


 少し離れた所から、ミラが声をかける。


「私一人、突き飛ばすことも出来ないほど酷い怪我をしている人が言う台詞じゃないわ。それに、どうやら、あの娘……、兄様にかなりの深手を負わせたみたいね。兄様の魔気は、今の貴方と大差がないわ」

「え?」


 そう言われても、よく分からない。

 それだけ、オレの感知能力が鈍っているのかもしれなかった。


 高田と兄貴の魔気は感じられるのに、すぐ近くにいる水尾さんの魔気すらはっきりと感じられなくなっている。


「へぇ……、こっちの激しく乱れている魔気はあんたの身内のか」

「だが、変だな……。彼女の魔気はほとんど変化がなかった。それに、魔法が発動した気配も感じられなかった。それなのに……」

「足でも、滑らせて落っこちたんじゃない? 誰かさんみたいに……」

「う、煩い!!」


 オレは別に足を滑らせたわけじゃないことは知っているのに。


「しかし、参ったな……。彼女を探すのは想像以上に厄介そうだ」

「そうだな……。でも、ここまで魔気に変化がないってのは凄いことだ」

「埋まっていたオレたちすら見つけたのにか?」

「お前たちを見つけるのはたやすい。やることが派手だからな」

「煩いよ、先輩」

「だが、栞ちゃんは違う。こんな状況なら少しは、魔法を使うかと思えば、最低限の防御以外に魔法の気配がなかった」


 そう言われた時だった。


「こ……れは?」

「どうした? 九十九……」


 確かに、オレがどこか落ち着いていられたのは、離れていても届く彼女の魔気(気配)に変化がなかったことが一番の理由だ。


 どこにいても、結界等で阻まれない限り、オレはあの魔気を感じとることができるという自信はあった。


 しかし……。


「高田の魔気が……、消えた?」


 水尾さんも気付いたのか声が震えている。


「兄さまの……、魔気も?」


 ミラも呆然としていた。


 痛みなんかどこかに吹き飛んだ。

 感覚の全てをそれだけに注ぎ込む……。


 しかし、反応がない。


「どういうことだ?」


 兄貴が少し焦ったように、水尾さんの方に聞く。


 水尾さんは、一度大きく息を吸い込み、深呼吸をした。


 オレにも、理由が分からない。

 さっきまで普通だった魔気が突然消失するようなことなんて今までなかった。


 以前、高田から魂が抜け出た時だって、一瞬でその全てが消失したわけではなかったのだ。


「先ほどまで完治できていた魔気が一瞬で消失する可能性……。以前の高田のように、魔力を完全に封印された時……、もしくは……」


 水尾さんの呟きに、最悪の可能性が頭を過ぎった。


 魔力……、魔気は生命力と直結している。

 その可能性に気付いたのか、ミラの顔もどこか青ざめているような気がした。


 どんなに酷い仕打ちを受けても、兄のことが気になってしまうのだろう。


「結界内に入ったか……ってところか」

「「「は? 」」」


 水尾さんの言葉にオレたち、3人の声が重なった。


「魂が『聖霊界』へ向かったとか……、その可能性は?」


 兄貴が恐る恐る尋ねる。


 婉曲な表現だが、それは、高田の死の可能性を口にしていた。

 兄貴も、それを恐れている。


「ゼロだ」


 水尾さんはきっぱりと断言した。


「だけど、魔力と生命力は同じで……」


 オレも続ける。


「魔力と生命力とかは似て非なるものだ。だけど、生命力だって、一気に消える訳じゃないだろ? 少しずつ命の炎は消えていくが一気にゼロになるってことはない。即死ったって、魂が直ぐに聖霊界に向かうわけじゃないからな」


 水尾さんはそう言いながら、軽く息を吐く。


「以前、ストレリチアでもそれを体感しているだろ? それに……、九十九やそこのお嬢ちゃんはともかく、先輩がそれを知らないのは驚きだが……」

「魔気の知識は専門じゃないからな」


 兄貴は、どこかほっとしたように言った。


「しっかし、ますます探しにくくなったのは事実だよな。この場合、恐らく結界の類。これだと……」

「いや、逆に探しやすくなった」

「は?」

「この森で結界があるところを探せばいいだけの話だ」


 水尾さんの言葉に対し、先ほどまでの動揺が嘘のように、兄貴は落ち着いて返答する。


「ああ、なるほど……」

「その問題は、すぐになんとかなるとして……、お前たちの方だな」


 兄貴はオレとミラを交互に見た。


「ああ、そうだな」


 水尾さんも、敵意を含んだ顔を向ける。


「私としては、個人的にミラージュの人間はすぐにでもぶっ放してやりたいところだが……、話ぐらいは聞いてやるか」

「ふん。話したところで、私を逃がす気は全くないくせに。あんたの魔気(殺気)がそう言ってるわ」


 ミラは、初めて会った時のような口調で水尾さんを見た。

 その目にも敵意は浮かんでいる。


「魔法力がスカスカの状態でそこまで虚勢を張れるってのは立派だが、喧嘩を売る相手は選べ」

「今、選択権はないのよ」


 今にも女の戦いが始まろうとしている所で、兄貴が深く大きな溜息を吐いた。


「水尾さん、その殺気(気配)を引っ込めてくれ。そちらのお嬢さんも。そんな状態では話し合いもままならない」

「先輩こそ引っ込んでろ!」

「そうして、またさっきみたいに貴重な情報源を失う気かい? 可哀想に、あの男は恐らく治癒魔法を施しても、暫くはまともに動けないだろうな」

「あの男って……、まさか、バモスのこと?」


 ミラが反応した。


「名前は知らないが、ある人物に完膚無きままに叩きのめされた男がいたのは確かだね」


 その状態は容易に想像が付く。


「あのサド男を……? 確かに、アイツが負けたのは知ってるけど、こんなヤツ一人に?」


 ミラは何やらブツブツ言っている。


「ふむ……。なるほど」


 兄貴は、顎に手を当てた。


「つまり、キミやあの男はこの人のことを知らないと見える。そして、恐らく俺と遊ぼうとしてくれた男も知らないのだろうな。そうでなければ、こんな無謀なことはできない。あの紅い髪の青年は、水尾さんについては、何も言っていなかったのだろうね」

「どういう意味だ?」


 水尾さんからは先程までの迫力は感じられなくなっている。


「キミに聞きたいことがある。キミや、他の男たちの中でアリッサム襲撃に加わった人間は?」


 ミラに向かって、兄貴は尋ねる。


「そう簡単に言うと思う?」

「思うよ。この状況でキミにあまり選択権がないことは分かっているだろうし、それを口にしたところでキミたちに不利な情報とは思えない。襲撃に参加した奴の詳細を聞こうって訳じゃないからね」

「そう……。それを答えないとその女を(けしか)けるってこと? 顔は似ているのに、情報を欲しない弟と、情報国家みたいなことする兄。面白いわね、貴方たち」

「嗾けるって……私は猛獣か!」

「……珍獣でしょ?」

「ムキーっ!!」


 確かに……、珍獣っぽい。


「九十九! 何か言ったか?」

「言ってません! そんな恐ろしい……」


 思わず、語尾が尻すぼみになった。

 オレは思っただけなのに……。


「いいや。この人の手を煩わせるまでもない。キミの口を割らせる方法はいくらでもあるからね」


 兄貴は不敵な笑みを浮かべた。


「あ……」


 ミラはその笑みに何かを感じ取ったのか、狭い空間で後退りをする。


「出来れば手荒な真似はしたくない。だけど、そこまで頑なに拒むなら……、()()()()()()()()という手もあるよ」


 兄貴の目つきが変わった。


 それで、その言葉の意味と、兄貴の意図が分かってしまう。


「兄貴!」

「先輩!?」


 オレと水尾さんは同時に叫んだ。


「お前たちは黙ってろ。これは俺の一存。汚れ役は俺一人が担当する」


 その瞳と声で、オレたちは動けなくなった。


「駄目だ! 兄貴!!」


 それだけは、やっちゃいけないんだ!!


「い、いや……」


 何かを察したのか、ミラは……、その場に座り込む。


 元より、足に怪我を負っている彼女は逃げることもできない。


 そんな彼女に向かって、兄貴は容赦なく歩みを進める。

 オレたちにそんな兄貴を止めることなどできなかった。


 そうして、オレたちの目の前で、男のオレでも目を背けたくなるような地獄絵図が繰り広げられた。


 そうしてどれくらい時間が経っただろうか

 ミラが、泣き疲れ、叫び疲れて倒れ込んだ。


「結構……、保ったな……」

「さ、最低……」


 涙目になりながら、ミラは兄貴を睨む。


「まだ足りないなら、続けるが?」


 そう言う、兄貴の言葉に、ミラは無言で思いっきり首を横に振った。


 そして、それらの光景を一部始終見ることになってしまった水尾さんも頭を抱えている。


「頭……、痛い……」


 その気持ちは分かる。


 オレもどうかなりそうだった。


 それは、まさに「拷問」の名に相応しかった。

 されている当人だけではなく、見ている者に対しても影響があるような……。


 その行為の最中、水尾さんは顔を逸らして耳を塞ぎ、(うずくま)って、何度も「もういい」、「止めてくれ」を繰り返していた。


 げっそりとするオレたちとは対照的に、兄貴はすっきりした顔をしていた。


「思ったより、情報も入ったな……」


 何やら涼しい顔でメモ書きをしている。


「し、信じられない。こんな屈辱今まで味わったこともないわ」

「周りが優しかったんだな。だけど、俺は、ちゃんと忠告しただろ? キミが我慢しなければ直ぐにでも解放してやるつもりだったが、案外、頑張ったので俺も久し振りに熱が入ってしまった」


 妙にいい顔をしながら額の汗を拭う。


 もしかして、ストレス解消の意味もあったのか?


「先輩って……、やっぱりサドか?」

「割と……」

「男だったらもっと残酷にできるんだが……、試しにそこの弟で実演しても……」

「オレを殺す気か!!」


 全力で断る!


「あ……、それなら見てみたい」


 ミラが顔を紅潮させたまま、少し、キラキラした眼差しでオレを見た。


「私も少し興味が……」

「水尾さん!?」


 ここに味方はいなかった。


「リクエストに応えるか?」

「嫌だ!」


 止めてくれ。

 オレは、アレに弱いんだ。


 幼い頃から何度も兄貴にやられているのに、アレだけは慣れないのだ。


「でも、これで分かったろ。アリッサム襲撃に加わったのは、運良く水尾さんが叩きのめしたヤツらばかりだったってこと。他の残りは、残念ながらミラージュにいるみたいだけどね」

「それも真実かどうか分からないだろ。私だって、あんなことされたらあることないことベラベラ喋るぞ」

「おや、(くすぐ)りは苦手で?」

「得意なヤツがいたら見てみたいよ!!」


 兄貴は、ミラを尋問……、いや、拷問するために、擽るという原始的な手法をとった。


 原始的というのは昔から効果があって今も尚、続けられているというものである。


 特に、手足を拘束しているわけでもないというのに、ミラはその場で倒れ伏すという結果になったのだった。


 気の毒だとは思うが……、こればかりは助けようもない。


「それにしても……」


 高田はどこへ行ったんだろうか?

 オレは、目の前のことよりも、それだけが気になったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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