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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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気になる二人

本日、二話目の更新です。

「随分、嬉しそうだね」


 雄也先輩から声をかけられて、わたしは正気に返った。


「すみません……。つい……」


 わたしは口元を押さえる。


 それでも、ニヤけてしまう表情を抑えることはできなかった。


「咎めたわけではないから気にしないで」


 どんな時にも雄也先輩は優しい。


 九十九に対してはかなり厳しくて辛口なのに。


 でも、与えられる課題の量を見る限り……、彼が甘い人だとも思っていない。


 笑顔で遠慮なく山積みにしてくれるのだ。

 そんなところはワカに対する恭哉兄ちゃんによく似ている。


 いや、恭哉兄ちゃんの場合は、厳しさと同時に物凄く甘やかしているのだけど。

 甘すぎて砂糖を吐けるレベルになっている。


「そんなに嬉しかった?」

「はい!」


 それはもう!

 思わず、わたしは両腕で雄也先輩から渡されたものを抱き締める。


 そこには絵姿屋が描いてくれた美麗な絵が一枚あった。

 絵姿屋にもいろいろな絵柄がある。


 作者……、絵描きさんが違うからそれは当然のことだろう。

 今、わたしの中にあるのは、写実的で写真のように繊細な表現をする画家さんだった。


「大事にしますね」


 この世界には、人間界のようにカメラがあるわけではない。


 いや、ワカは趣味で作らせたようだが、かなり特殊な事例だった。


 作るまでの過程やその原料となるものを聞いた限りでは、簡単に再現できるものではないらしい。


 それよりは、絵を描いた方がずっと安上がりとなる。


 だけど……、写真に近い絵を描ける人間もそう多くはいないわけで……、そして、当然ながら、安くもないようだ。


「これで、また頑張れそうな気がします」


 わたしの手にあるのは、ワカと大神官の絵だった。

 二人、並んで微笑んでいる。


 正直、こんな顔を二人並んだ状態で見せてくれたことはない。

 でも、想像だけでここまで再現されているのは凄いって思う。


 いや、恭哉兄ちゃんは妙に清廉な笑顔だし、ワカも花が零れ落ちそうなほど可憐な微笑みである。


 ワカが見たら、荒れ狂うだろう。

 だが、フィクションやファンタジーの世界に突っ込むのは野暮というものだ。


 だけど……、見ているとニヤけてしまうほど本当にあの二人によく似ているのだ。

 いつか、こんな状態を目の前で見たいと思うと、やる気も湧き出てくるというものである。


「これは……、雄也先輩が持っていていただけますか?」

「俺で良いの?」

「はい。わたしはまだ収納魔法が使えないし、この絵は……、九十九に見せない方が良いかなと思いまして……」


 その時の九十九の反応も気になるけど……、この絵の存在をワカが知った時も怖そうだし、あまり巻き込まない方が良いよね?


 定期的に取り出してもらって、ニヤニヤしよう。


***


 さて、ここは定期船の甲板である。


 グランフィルト大陸に来た時のような船と違って、とにかく大きい。

 そのためか浮いていなかった。


 ファンタジーの世界ということもあって、船のイメージは帆船だったが、この船に帆は見当たらない。


 船室はあるけれど、荷物を置く船倉部分の方が数も多いそうだ。


 貨客船ではあるけれど、利用するのは商人がほとんどらしいので、どうしても荷物が増えるそことになると聞いている。


 そして、数少ない船室も、商人によって買い占められることも珍しくはないらしい。


 今回は、水尾先輩の乗船手配をする際に、しっかり、雄也先輩が船室を押さえてくれたらしい。


 始めからわたしの思考を読まれていたようで、恥ずかしくはあるけれど、助かるので素直に甘えることにした。


 船室は、通常、4人部屋らしいけど、お金を支払えばしっかり全てを予約できるらしい。

 今回は二部屋押さえ……、まあ、8人分の料金を支払ってくれたそうだ。


 確かに、見知らぬ他人と同室に抵抗があるから助かったけれど……、倍の金額を支払わせたことになる。


 彼に足を向けて寝られないね。


 雇い主から必要経費として出ているかもしれないけれど、ちゃんと自分自身でも返せるようにしないといけない。


 いつかは、彼らから離れることになるのだろうし。


 そして、わたしたちから少し離れたところで水尾先輩が九十九から、ここに至るまでの経緯を説明されているのだと思う。


 何故、「思う」なのか……。


 距離があるためか、風の方向のためか分からないけれど、会話が聞こえないのだ。

 いや、聞き耳を立てているわけでもないから当然でもあるのだけど。


 だから、二人の表情からそう判断するしかない。


 それにしても……、九十九はいつの間に、水尾先輩の身長を抜かしたのだろう。

 少し離れた場所にいる二人を見てそんなことを思った。


 向かい合うことはあっても、二人が仲良く並んで話す姿ってあまり見ていないためか、ちょっと新鮮である。


 水尾先輩は確か、169ぐらいだって聞いているから……、九十九の身長は間違いなく170を越えているのだろう。


 羨ましい。

 その長い足を5センチほど分けて欲しいと心底思う。


 強い想い……。


 願いが力になるというこの世界で、本当に一生懸命に願ったのに、わたしの身長は彼と離れていくばかりだった。


 祈りがまだ足りないのか、わたしの身長が伸びないことを祈る人の想いが強すぎるのか分からないけれど……、既に17歳という年齢。


 今後も伸びない気がしている。


 せめて、150センチに届いていると良いのだけど……。

 149と150じゃ、全然違うのだ。


 背の高い人たちに囲まれていると、わたしと5センチぐらいしか変わらないワカの身長が恋しくなる。


 でも、彼女はもっと複雑かもしれない。


 大神官さまはかなり長身なのだ。

 背の低い人は高い人に惹かれるって本当だね。


 ……ぬ?

 それでは、わたしのまだ見ぬ相手も高身長になる可能性があるのかな?


 そんな誰にとってもどうでも良いようなことを考えていた時のこと。


「あれ?」

「お?」


 わたしと雄也先輩から同時に声が出た。

 水尾先輩の右手が九十九の頭に触れたのだ。


 それは、凄く自然な動きで、水尾先輩も珍しく柔らかく、何かを慈しむような表情をしていた。


 少し前まで、わたしに向かって、火炎魔法をぶっ放していた右手と同じようには思えない。


 それを受けた九十九は……、鳩が豆鉄砲を食ったような顔だった。

 わたしが初めて彼を撫でた時とは随分、違う反応。


 わたしが何度かなでなでした時でも、彼があんなに驚くこともなかった気がする。


 違いは何だろう?

 もしかしなくても、なでなでのテクニック?


 わたしはもっとぎこちない動きをしている気がする。


 九十九は驚きから、戸惑いに変わり、さらに呆れたような表情となった。

 会話はやはり聞こえないままだけど、雰囲気だけは伝わってくる。


「二人が気になるかい?」

「はい、珍しいので」


 どちらの表情や反応もあまり見たことがない種類のものだった。

 それに……、なんとなくお似合いな気もする。


 料理人の九十九に、その料理好きな水尾先輩。

 うん、相性も悪くなさそうだ。


「仲が良いのは良いことですよね」

「そうだね」


 わたしは雄也先輩に向かって、そう言うと、雄也先輩も微笑みを返してくれた。


 九十九と水尾先輩はちゃんとカップルに見えなくもないけれど、わたしと雄也先輩はどうなのだろう?


 まだ近所のお兄ちゃんとそれに懐く中学生?


 いや、別にカップルに見られたいわけじゃないけれど、少しぐらいは成長していたい。


 特に、こんな青年の横に並んでも見劣りしないって凄いことだと思うのだ。


 ……うん、精進しなければいけないね。


 前に比べて、動揺は減ったと思う。

 まあ、不意打ちには弱いけど。


 雄也先輩や大神官さまにかなり慣らされて耐性がついたのだと思う。


 ただ……、九十九が時々、油断できない。


 彼は、基本、わたしのことを異性扱いしないのに、不意に異性として扱う時があるのだ。

 そのギャップはまだまだ埋まらない。


 困ったものである。


 だけど……、その次の瞬間。

 九十九の方から、不思議な気配を感じて思わず振り返る。


 彼は、微笑んでいたけど……、その気配は明らかにいつもと違っていた。


 危うさと怪しさが入り乱れたような雰囲気のその姿が妙に気になって……、なんとなく傍にいた雄也先輩を見る。


 雄也先輩は少し難しい顔をしていたけど、わたしが見ていることに気付いて、その表情を緩めてくれた。


「大丈夫だよ」


 その言葉に何故かホッと胸をなでおろす。


 だけど、その言葉が何を意味していたのか。わたしには分からないままだった。


 その時にわたしが感じた不安がはっきりと形になってしまうのは、それから一年ほど経った後のことである。

次話は、本日22時投稿予定です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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