世界を敵に回しても
祝!500話!
まあね。
我ながらお節介だとは思ったのよ。
人の恋愛に首突っ込むなんて。
それでも……、あの子に返せない借りが出来てしまったのは事実だから……、少しでも彼女のためになんとかしたかった。
あの子が私のためにこっそりと動いてくれていたように。
でも、慣れないことはするもんじゃないとも思った。
私は、あの「高田栞」という人間を理解していたと思う。
いや、理解しているつもりでいた。
だけど、それは人間としての「高田栞」であって、魔界人としてのあの子のことはほとんど知らないことに気付いた。
出身国がセントポーリアで、その国の王子から目をつけられたために国から逃げている。
知っているのはそんなことぐらいだ。
聞けば教えてくれたかもしれない。
でも、そこには深い事情がありそうだからあまり聞き出したくもない。
そのために正式な身分も「魔名」すら知らないままだった。
普段はかなり抑え込まれているけれど、温泉の時に感じた魔力からすると、実は王族であっても驚かない。
あの黒い炎の中で感じた魔力は、間違いなくあの時点で私以上だったから。
逆に、あれで「普通の貴族です」って言われる方が腹立たしい。魔法国家じゃあるまいし。
でも、そんなことは正直本当にどうでも良いことだって思ってる。
例え、魔界人としての身分が何であっても、あの子は「高田栞」で、人間界にいた時から友人で、我の強い私相手に一歩も引かず、それどころか好意的に接してくれているのは間違いないのだから。
私が王女だと告げた時、実は、離れていく可能性を考えなかったわけじゃない。
できるだけさらりと何でもないように言ったのはそのためだった。
幼い頃、身分を隠して城下で友人を作った時、王女だと知られた途端、離れていったことがあった。
私はその子を友人だと思っていたのに。
だけど、高田は違った。
いや、彼女だけではなくその周りにいた人たちも、態度を変えることはなかった。
だから、私は、彼女たちには王女としてではなく、「若宮恵奈」として、振る舞うことが出来たんだと思う。
強い意思を持って、自分の好きな方向に邁進する強い女の子として、彼女たちと一緒にいられたのだと。
「不思議な子よね……、高田は……」
ホントに不思議だ。
あの子は周りを強く惹き付ける。
あのあったま固いベオグラも、彼女といる時の表情は作られた顔ではなく、自然な顔をして、普通に会話をしている。
そのためか……、私にも見せようとしなかった表情を見せてくれるようになった。
いろいろと複雑だけど、まあ、良い。
他人に対して好き嫌いが激しいお兄様ですら、高田にはかなり好意的な態度だ。
あの「聖女」認定の件についても、あの子の意思を尊重して、できるならば避けたいと思っていることも知っているのだ。
法力国家の王族としては、二人とも失格よね、お兄様。
何より、彼女は私すら惹き付けた。
母が死んだ時、父である王は喪が明けてすぐに新しい妃を娶った。
もう既に決まっていたかのような早さに当時、子どもだった私は裏切られたような気になったのだ。
そして、セントポーリアの王子に魔獣を送り付けられる日々にも飽きていたこともあって、転移門を開いて家出をした。
我慢できなくはなかったから、10歳になってからでも良かったのだけど、ベオグラがいるはずの人間界という場所に行ってみたかったというのもある。
実際は頻繁に帰国ならぬ帰界?……、していたことは、私には知らされていなかったのだ。
まあ、ヤツは城の転移門ではなく、大聖堂内にある聖運門を使っていたせいもあるけど。
転移門を一人で使ったのは初めてだったこともあり、位置はかなりずれてしまったようで、結局、ベオグラには人間界で会うことはなかったし、実は、探すことも……、忘れていた。
それほど人間界での生活は今までになく、刺激的で、自分が今まで考えたこともないことを真剣に考えるようになったりすることができた。
何より、私を特別扱いしようとしないところが気に入った。
実力のある者が認められる世界。
それは、ベオグラたち神官の世界とちょっとだけ似ている気がして……。
それでも……、それらの生活を捨てて、魔界に戻る気になったのは……、あの子や笹さんたちと出会って、同じ魔界人だって分かって……、ただ、それだけだった。
そして、偶然にも巻き込まれた事件の中で、高田たちも、魔界に還ることを知った。
いや、あの時点ではまだ迷っていたみたいだけど、それまでの話の流れを考えれば、そうするしかなかっただろう。
また会えるかどうかはホントに賭けだった。
それでも人間界にいたままでは二度と会えないことも分かり切っていた。
彼女たちにもう一度会いたいから私はこの城に戻ってきたようなものだった。
「我ながら……、惚れ込んだものよね~」
確かにベオグラのことは異性として大好きだ。
だけど……、高田とは違う。
そして、わたしには二人を比べることなどできない。
勿論、別に妖しい意味じゃない。
彼女相手に欲情しないので、恋愛的なものはないのだろう。
高田は高田で別次元の「好き」があるのだと思っている。
「妹がいたら……、あんな感じかな……」
妹の幸せを願うのは姉の役目。
だから、自分よりあの子にはもっと幸せになって欲しいと思ってる。
だから……。
「私の大事な親友を……、泣かさないでね、笹さん」
心の底からそう祈りたい。
彼がすごく高田のことが好きなのは……、うん、よく分かっている。
日常会話でも無意識にそれを出しているのだ。
いや……、あれ、本当に無意識? ……ってレベルで。
でも、彼にはそれなりに事情があって、それを出すことができないと自制していることも分かるのだ。
少し前の私には理解できなかったかもしれないけど……、身分とか立場とかって本当に面倒だと思う。
ただの人間だったら、二人は何も問題なかったのだろう。
でも、実際、二人は魔界人なのだ。
その面倒な世界で生きるしかない。
しかも……、高田は「聖人」の素養を持っていた。
これでは我が国も絶対的に安全とは言い切れない。
それでも……、ベオグラや兄様は「悪いようにはしない」と言ってくれた。
それならば、私は二人を信じようと思っている。
あの二人なら、確かに高田を幸せにしてくれるかもしれないけれど、私は高田を「義姉」と呼びたくはないし、ベオグラを奪われるのは冗談じゃない!
あれだけいろいろなものを投げ捨てて手に入れた男だ。
簡単に手放せるものか。
しかし、高神官も上神官にも良い男はいない。
少なくともあの笹さん以上の男なんてそうゴロゴロしていない。
あの少年は当人に自覚がないけれどかなりのハイスペック男子だ。
その時点で、高田はこの国の男と縁は持たないだろう。
まあ、いつもの格好なら、神官たちも絶対に気付かないだろう。
それだけ普段の彼女は年相応に見えないし、聖なる女性の雰囲気も持たないのだ。
でもあの時の高田は違った。
それだけ見事に化けていたのだ。
笹さんが自分の理想に仕立て上げたというのも納得の出来だった。
あんなことを平気で言うのに、彼女を恋愛対象として見ることができないなんて言うのだから……、ある意味、実は高田も本当に苦労していると思う。
そして……、あれだけの神々しさは普段の高田にはない。
それだけ違えば同じ人間だとは思わないだろう。
本当に大好きなのだ。
本当に彼女の泣き顔を見たくないのだ。
本当は涙もろい癖に、強がって涙をこぼさない少女。
本当に泣きたい時に声を殺して泣く少女。
だから、あの子を傷つけるやつは、たとえ、神さまだって許さない。
私は心からそう誓った。
あの子が助けを呼んだ時、世界を敵に回してでも絶対に助けるのだ。
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―――― 神話は語る。
混沌の世界より出る神々の中にその導きはあった。
炎と真実より生まれ出た破壊の如き災厄を、導きは恩恵の力により結び、永き時を眠る。
数々の困難を越えるが、努力は実る前に阻まれ、やがて繰り返される呪いとなる。
―――― ただの旧き話である。
この話で第26章は終わります。
次話から第27章「優しい時間の終わり」です。
そして、今回、前書きにあるように500話です。
400話と同様、土曜日更新となったのは偶然ですが、この話を500話にするために、実は、丸々1話分を削って事前に調整をしております。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




