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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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救国の神子と聖女

「そう言えば……、二日ほど前にもこの女神の顔を見たいと言われた方が大聖堂の方へ見えましたよ」

「え?」


 誰だろう……?

 神官さんかな?


「貴女もご存知の方です。黒い髪、黒い真っ直ぐした瞳の少年ですよ」


 それだけで、誰のことかが分かってしまう。


「え……? 九十九がなんで……?」

「あの時、彼を迎えに来た導きの女神の御姿をゆっくりしっかり見たいとかで」


 九十九は……、見ていたのに?

 それでも、もう一度見たいと思うぐらい興味を持った?


「だけど、一人でこそこそと来るなんて……」


 わたしを誘ってくれたらよかったのに……。


「心を落ち着けて見たかったのでしょう」

「それにしたって……」


 なんか避けられているみたいでヤな感じ。


 今だってワカと二人でデート中だって言うし。


「ああ、でも、栞さんに似ていると言うのなら……、こちらの方が……」


 そう言いながら、恭哉兄ちゃんは別の絵を手にする。


 あれ?

 今のは召喚?


 一歩も動いてないよね?


「実は、許可された神官ならば、神のことを考えるだけで、ここの絵をすぐ取り寄せられるのです」

「……書物庫システムと同じ?」


 魔界の書物庫は、自分の調べたいものを考えるだけで、書庫から書物がにょきっと飛び出すのだ。


 これって凄く便利で、重宝している。


「この方は栞さんによく似ていると思います」

「……本当だ」


 先ほどよりも素直にそう思えた。


 肩までの黒髪セミロング(おかっぱ)、くりりっとした黒い瞳。

 色白で丸い顔。


 いや……、この絵描きさん、もうちょっと綺麗に描いてくれれば良いのに。


 これじゃあ、本当にわたしそっくりすぎて気持ちが悪い。

 実際の神さまは多分、もっと綺麗だと思うのだ。


「『救国の神子(みこ)』の一人、『ラシアレス=ハリナ=シルヴァーレン』様です」

「『救国の神子』? それに……、シルヴァーレン?」


 「救国の神子」という名は、魔界を救った聖女と同じように、この世界に来てから何度か耳にした覚えがある。


 それが……、この女性?


 そして、サードネームはその家名を表すと聞いている。

 王家はその国の名。


 だけど……、大陸名がサードネームというのは多分、聞いたこともない。


「『救国の神子』はその昔、人類が滅びかけた時代に選ばれた7人の少女たちです。7人が力を合わせ、神々の力を借りることによって、この世界を救ったとされています。そして、その方々はそれぞれ大陸名の元となる名を与えられました」

「……それって『救国』よりも『救世』って気がするのだけど……」

「それぞれが大陸名を与えられたからでしょうね。そして、1人ではなく7人で世界を救っています。そのためにそう呼ばれるようになったのでしょう」


 なるほど……。


 つまり、選ばれし7人の少女たちが世界を救う! 「救国戦隊カントリーセイヴァー」ってところかな?


 ここで、「救国少女戦士セイヴァーカントリー」って方向にすぐ考えないのが自分らしい。


 いや、戦う女の子ってかなり大好きな題材だけど。


「……ということは、他の6人にも大陸名が付いているの?」

「そうですね。フレイミアム、シルヴァーレン、ライファス、グランフィルト、ウォルダンテ、スカルウォーク、ダーミタージュの名を神より賜れたとされています」

「おおう。6大……じゃなく7大陸揃い踏み」


 恭哉兄ちゃんが口にした中でわたしが知らなかったのは、「ダーミタージュ」という名前だけだった。


 他は火、風、光、地、水、空の神様の加護を受ける大陸名だ。


 つまり……、闇の大陸ってことだろう。


「『救国の神子』は、それぞれの大陸の王家の祖とも言われています。それならば、栞さんが似ていてもおかしくはないでしょうね」

「ああ、そうか……」


 セントポーリアもその血を引いているってことか。


 そうなると、わたしは先祖返りってやつになるのかな?


 まあ、聖女にしても、その救国の神子にしても、その血が大分、遠いところにあって、既に影響はないと思う。


 人間界でも、親戚って直系で六親等ぐらいまでだった。

 恐らく、六親等ってレベルじゃないほど離れているだろう。


「ダーミタージュって大陸は……、なんで今はないの?」

「いろいろな説がありますが……、六千年ほど前に歴史上からも地図上からも姿を消したと言われています。同時に多くの闇属性の魔法も多く失われた……とか」


 なるほど……、それで魔法国家の水尾先輩すら存在を知らないのか。


 六千年も昔になくなったのなら、ほとんど伝説の世界だ。

 歴史の勉強もそこまで追求しない気がする。

 

 わたしは「救国の神子」の絵姿を恭哉兄ちゃんに渡しながら……、溜息を吐いた。


「ところで、恭哉兄ちゃん。今回の『聖女』の件だけど……」

「どの件でしょうか?」

「認定の件」


 数日前……。


 あの騒ぎの中で、わたしは「神降(かみお)ろし」というやつをしたらしい。


 全く覚えてないから、正直、よく分からないけれど。


 それを多数の神官たちに目撃され、今、大聖堂に問い合わせが殺到中だと聞いている。


 中には隠さず公表しろという意見が神官だけではなく、貴族からも来ているそうで、大聖堂としては対応に追われているとか。


「栞さんは受けないのでしょう?」


 恭哉兄ちゃんは分かってくれている。


「うん。いろいろ考えたけど、やっぱり無理だ」


 だから、わたしは遠慮なくそう言った。


 「神降ろし」ができる人間というのは、法力が使える神女(みこ)以上に数が少ないらしい。


 何でも、ずっと長い間見つかっておらず、最後の目撃証言は、100年以上も昔だそうな。


 そして……、神の力を借りるだけの神女よりも、その身を使って神の意識を降臨させたり、時には受肉をさせて、その神力(ちから)が使える存在の方がその扱いとしても上となるらしい。


 そんな存在を、ただの一般人として秘匿することは神官たちにとって「世界の大損失」であり、適切に保護しなければいけないそうだ。


 この場合の保護とは……、大聖堂から……、具体的には大神官による「聖人の認定」を受けること。


 そして、その名を世界に公表すること。


 そうすることで、「聖女」として神官たちにも認められ、他国の王族、貴族にも手が出せない存在となる……、とか?


「王族でも簡単に手を出せない存在というのは確かに助かるんだけど……、死んだ時、『聖霊界(あの世)』じゃなく『聖神界(神の国)』に行く可能性が少しでもあるのは嫌だな」


 仮に認定を受けたとしても、特別な功績があるわけではないわたしが、「神の国」に招かれるとは思えない。


 実際、具体的に何かできたわけでもないのだし。

 でも……。


「わたしは死んだ時、ちゃんと()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。恭哉兄ちゃんたちを含めて……ね」

「栞さん、それは……」


 恭哉兄ちゃんの顔が少し厳しいものとなる。

 でも、怯まない。


「人間の血が入っているわたしが、この先100年も一緒に生きる大神官とその妻よりも長生きできるとは思えないんだよね」


 そう言うと、恭哉兄ちゃんにしては珍しく自分の口元を手の甲で押さえた。


「姫から聞きましたか」

「そこ以外に情報源はないな~。いや~、ラブラブで羨ましい限り」

「思わず、人間界の『類は友を呼ぶ』という言葉を思い出しました。そうですね。貴女は姫のご友人でもありましたね」


 失礼な。

 あそこまでいい性格はしてないつもりだ。


「それでは、聖女認定はしない方向で王子殿下にもお伝えしておきましょう」

「迷惑をかけるけど……、ごめんなさい」

「もともと、私が巻き込んだことですよ。それに……、認定したことで守れる立場と、護れなくなる立場もあります。私としても認定をお勧めしたくはありません」

「なんで?」


 その言葉は少し意外だった気がして、わたしは恭哉兄ちゃんに問い返した。


「現状では王子殿下の婚約者候補に上がる可能性があります。もしくは……、神官たちからも配偶者として、その身を狙われることでしょう」

「……うわあ」


 グラナディーン王子殿下の婚約者候補とは大それたことに……。

 でも、あの王子殿下って、確か気になる人がいるって話だったよね?


「もし、王子殿下の婚約者とならなければ、神官たちはいかようにも強引な手段をとれます。褒められた手段ではありませんが、『発情期』を装うことも考えられるでしょう」

「ぎゃあ!」


 その意味を理解して、思わず叫び声が上がってしまった。


 それは最悪だ!

 絶対に聖女などなるもんか!!


 そして、そこまでのレベルなんて思わなかった!


 ……というか、前にも思ったけど、神官たちって歳の差、気にしないの?

 わたし、まだ成長途上なのに!!


「私もまさか……、栞さんが、あそこまで見事な『神降ろし』をされるとは思っていなかったので……。申し訳ありません」


 何でも、受肉をさせたわけでもないのに、九十九のように法力を持たない人までもはっきりと視えるような完璧な神さまの姿(意識)を降臨させるって、文献上でも例が少ないそうだ。


 い、いや、あれは傍にいた大神官の補助が素晴らしかったからできたのだと今でも思っている。


 わたしの能力だけでは絶対にない。

 でも、つまりはそれだけのことを知らないうちにしでかしちゃっていたわけで……。


「九十九にも伝えておく」


 前以上に彼の気苦労が耐えなくなることは分かった。


 わたしだけのせいじゃないけど、申し訳ない。


 でも……、わたしの手首で光る御守り(アミュレット)は、紅い法珠がさらに増えたし、九十九にも新しい組紐が渡される。


 だから、少しぐらいは我慢しよう。


 人の噂も八十八夜……、、いや、なんか違うけど長さ的には大差がないから大丈夫だろう。


 幸い、「聖女」は()()()()と行動しているとの話だし……、大丈夫だよね?


 化粧の系統が似ていたからと言っても……、男性である九十九が姉……、か。

 わたしは助かるけど、彼は怒るかな?


 でも、いろいろと覆い隠してくれた雨には感謝しておこう。


 天気の神さまの名前はなんというのかな?

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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