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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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それぞれの策

 少年の言葉の意味を理解して、自分の背中に通っている神経に……、直接、氷を当てられたような気がした。


 背中が冷えすぎて……、痛いぐらいだ。


「左手首に面白いものを宿してるね。しかも紛い物ではなく、本物。よっぽど、神にとって、キミの魂は魅力的なんだろうね。……ボクはケーナの方が良いけど」


 そう言って、こちらを冷えた目で見据える。


「ベオグラーズが結んだ神紐(かみひも)はヤツが死んでも残るし、普通の神官には視えない。魂に結んでしまえば、結んだ人間しか視えないからね。でも……、双子であるボクにはよ~く視えるよ。その左手首に……、2本、それ以外の場所を合わせると7本かな?」


 こちらの反応を見ながら、さらに揶揄(からか)うような言葉。


「ベオグラーズは大切な者が増えすぎた。ケーナだけにしておけば良かったのに、ディーンやクレス……、そして……、ああ、キミたちもか。壊されると困る者が多いなんて弱点を見せるだけじゃないか。愚かだよね? ケーナ」


 そう言いながら……、倒れている少女を片手で無理矢理、引きずり起こす。


「う……っ」


 少女は小さな声を出した。


 彼女はまだ生きている……。

 それが確認できただけでも少し安心した。


 だが、早くあの場所にいかないと……。人間は、出血し続けるだけで死ぬことも珍しくはないのだ。


「ねえ、可愛いケーナ? キミもだよ。ベオグラーズだけにしておけば良かったのに……、彼女に出会っちゃった。彼女を手にしたくなった。ベオグラーズにまで嫉妬を(いだ)くほどに」


 その声は……。


「……でもさ~、普通は逆じゃない? まあ、この執着は、恋愛じゃないから、見逃してあげるけどさ」


 どこまでも傲慢に。

 どこまでも純真に。


「でも、見ていてケーナ。彼女たちがキミ以上に紅く染まれば……、ボクたちを邪魔する人間はいなくなる。ああ、シオリに関して言えば、シンショクを進ませた方が良いかな? 神も喜んで、ボクたちを祝福してくれるだろう。そうは思わないかい?」


 少年は問いかける。


「思わない」


 だが、その問いかけに対し、即座にその口から反論の言葉が出た。


 冗談ではない。

 そんなの丁重に断らせていただく。


「シオリ……。いや、別の名前で呼ぼうか? 魔名(まな)と魂の名。どちらで呼ばれたい?」

「え……?」


 魔名?

 その言葉で自分の思考が停止しかかる。


 何故、あの少年がそれを知っているというのか?

 自分の心の内にざわりとしたものが広がっていく。


「ベオグラーズの片割れであるボクはその能力はほぼ同じ。そして、これまでずっと溜め込んできただけ、この身に宿る法力はヤツよりもずっと大きい。だから、ヤツに分かることはボクにも分かるんだよ。大神官が魔名(まな)真名(しんめい)も見抜く力がないと思うかい?」


 だが、相手に自分の動揺は見せない。


 相手の目的と、大神官に似たような能力を持っているというのが本当なら、それぐらいの挑発はしてくるだろうと思ってた。


「ああ、シオリが魔法を使うことができるなら、このボクが法力を使う前に……」

「ていっ!」

「!?」


 少年の言葉を遮るかのように、いきなり爆風が巻き起こり、周囲のものが巻き上がる。


 しかし、的にされた少年は、倒れている少女を抱えて飛び去っていたので、残念ながら無事だった。


「ちっ、外したか」


 思わず口から出る舌打ち。


「ちょっ、ちょっと待っ……!?」


 制止の声など当然、無視だ。


 始めからそんなものを言うぐらいなら、こんなことをしでかすな。


 そして、喧嘩を売るなら、相手を選べ。


 ()()に、普通の魔界人の道理など、通用しない!


「必殺! 魔気の()()、乱れ撃ち~!!」

「なっ!?」


 ずどどどどどっ!


 そんなと共に、凄まじい勢いの空気の塊が、次々と、()()の周囲から射出された。


 ありえないことだと、その名を聞いた人間たちは語る。


 彼女のアレは……、「護り」などという可愛いものではなく、誰がどう見ても、「立派な攻撃魔法」だと。


「全弾、外れ……か。やっぱり空を飛べるってずるいね」


 当事者である彼女は悔しそうにそう言った。


「毎回思うけど、お前のあれ……。いろいろとおかしい」


 ()()()、そう言わざるを得ない。


「おかしいとかそう言ったレベルじゃないよ! ボクの台詞中に、しかもなんで、ケーナごと攻撃するのさ!? しかも、必殺ってことは殺す気なの?」


 オレの考えを全部読んだような突っ込みが、あの少年から出た。


「へ? ストレリチアの王女殿下が、わたし如きの魔気の護りで怪我なんかするわけないじゃない。それに王女殿下についてもあなたが手放せば問題ないでしょ」


 けろりと高田は答える。


 いや、あれ、絶対、「護り」じゃねえから。


 そして、魔法かと言われると……、疑問が残る。


 魔法国家の王女殿下である水尾さんは、「アレを魔法の括りにいれたくない」らしい。

 だから、アレは、魔法ではないと考えた方が良いだろう。


 だから、高田はまだ魔法が使えない。


 風というより、空気の塊。

 本来は風のはずなのに、空気砲のような空気を固めて圧縮したものを放射する……。


 うん、あいつはいろいろおかしい。


 そして……、一番恐ろしいとオレが思うのは、「必殺」とか「乱れ撃ち」とか言っているのに……、()()()()()()()()()()()()()ことである。


 魔気の護りをぶちまけているだけ。

 彼女にとっては、本当にただの防御なのだ。


 だから……、この国の結界が作動しない。

 普通に考えてもハチャメチャすぎる。


「ま、まさか……、ここまで常識が通用しないとは……」


 オレもそう思う。


 あれを初めて見た時は……、水尾さんが「無駄撃ちもここまでくれば立派なキョウキだ」と、腹を抱えて大笑いしていた。


 それは、つい一週間ほど前のことである。


 口された「キョウキ」の文字が、どの字なのかを確認しなかったのは些細な問題だろう。


「だが……、あれほどの魔法力を使ってはお前も……」

「第二陣、発射!」


 高田がVサインをしたまま、その手を上げる。


「はあ!?」

 

 ずどどどどどおっ!


 再び、凄まじい勢いの空気の塊が、彼女から放出された。


 あれ、信じられないよな。

 あれだけの魔力放出を、後、数回はできるんだぞ、あの女。


 水尾さんとの魔力干渉の効果か、魔法は使えないのに魔力だけが増大している。

 でも、あのギャグみたいな状態は本当に侮れないのだ。


 それを知った時の兄貴の反応は……、笑顔のまま無言だった。

 それは……、つい三日ほど前の話だったかな。


「け、ケーナ? あの娘のどこが良いんだ?」


 思わず、少年は高田から目を逸らし、王女に問いかける。


 阿呆が!

 油断しすぎだ!!


「なっ!?」


 空中にいた少年の周囲をカラフルな組紐(くみひも)と呼ばれる紐が囲む。それはまるで、クモの糸に絡めたられた獲物のようだった。


「ば……、馬鹿な……。神官ですらない人間が……、ボクを拘束……、だと……?」

「神官が大量にいる国にいて……、神官への対策を何もしていないなんて阿呆だろ?」


 神官が全て味方だとは思っていない。

 だから……、オレは自分でも使えるような法具を持つようにした。


 法力を封印し、拘束するもの。

 それも……、大神官が込めた特性のやつだ。


 法具はもともと持ってはいたのだが、今使用しているのは、高田と「青羽(せいう)の神官」のことがあった際、貰うことになった。


 あまり例があっても困るのだが、高神官クラスとなれば、大神官クラスの法力でなければその動きを封じられないだろうと言われたので……、素直に受け取ったのだ。


「ワカ!」


 少年が手放し、王女の身体がそのまま自由落下していく。


 それを高田が思わず両手で受け止めようとして……、その目の前で攫われる。

 ヤツが……、魔法で王女の身体を引き寄せたのだ。


「キミたち……、ボクを本気で怒らせたいんだね?」

 

 法力を封印し、拘束したところで、相手は魔法も使えるヤツだ。

 それぐらいは予想している。


 しかし、拘束された上に、あのように王女を抱えた状態で、あの少年にどれだけのことができるのか?


 ヤツの目の前にいる高田は……、魔法国家の王女殿下の魔法すら、受け流すというある意味、規格外の人間だ。


「…………」


 高田は無言で、少年を見る。


「…………」


 少年も無言で高田を見た。


 だが、決め手がないのはこちらも同じだ。


 あの状態ではオレも高田も下手な魔法は使えない。

 王女に当たることは本当に気にしないだろう。


 後でかなり怒られる可能性は高いが、それでも命があるだけマシだ。


 問題はあの拘束している組紐(くみひも)が切れてしまうことだった。


 簡単には切れないだろうが……、高田の調節ができない魔力の塊では……、大神官の組紐でもやってしまう可能性はある。


 オレは……、もう一つの奥の手を考える。

 だが、それはこんな所で使いたくはない。


 オレが護らないといけないのは……、たった一人なのだ。


 この場にいる誰もが動けない状況の中……、動く気配があった。


「私の友人に手を出すな~!!」


 そんな叫びとともに。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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