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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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綺麗な女性

「九十九! ワカが!!」


 わたしはワカの気配が離れていったのを見て、九十九の方向を向いた。


 周囲は真っ暗で、その姿は見えないけれど、彼の気配だけは分かる。


「分かってる! 落ち着け」

「でも!」


 油断したとしか言いようがない。

 まさか……、こんなことになるなんて。


 午前中、雄也先輩に頼まれて、わたしと九十九はワカを連れ出したのだ。


 できるだけ、彼女を城門から引き離せと。


 でも……、あの様子だとワカは城門へ行ってしまっただろう。

 嫌な予感がどんどん胸の中に広がっていく。


 ふと……、何かに包まれた気がした。


「落ち着け、良い子だから」


 すぐ近くで聞こえるどこか優しい九十九の声。


 それよりも、ちょっとした圧迫感と、この温もりに覚えがある。


「無理無理無理無理!!」


 わたしは、叫ぶ。


 九十九が、落ち着かせるためにわたしを抱き締めたのだ。


 周囲が暗いためか、いつもよりも九十九の温かさとか、力強さとか身体の形とかはっきりと分かってしまう。


 顔が見えなくて良かった。

 わたしはきっと先ほどよりもずっと赤い顔をしている。


 雄也先輩がかけてくれた「お(まじな)い」のような心臓に悪い魔法すら……、申し訳ないが時空の彼方にすっ飛んだ!


「良いから、よく聞け。このまま移動するぞ」

「ふへ!?」


 わたしの意思を伝える前に、既に魔法は作動していた。


 移動魔法独特の気配は、暗闇の中でもはっきりと分かる。


 これは、魔力を解放されたためだろうか。

 まるで、心地よい風の中にいるようだと思った。


「やっぱり……、あちこちで移動系妨害の気配がする。これ以上は魔法で城門に近付くのは無理だな」


 どこかに着いたのか、足の感覚が変わった。


 大きな石畳のような道だったのが、細かいタイルのようになっていた。


「ここは?」


 どちらにしても全く見えない。


「神殿通りだ。前に『見習神官』たちを山積みにした場所を覚えているか」

「う、うん」


 魔力を解放した直後、わたしはここで「見習神官」たちに追いかけられたことがあった。


 その場所だと九十九は言う。


 でも、真っ暗では何の判断もできない。


「明かりをつけるぞ」


 九十九がそう言って照明魔法をかざす。


 光源を調整したのか、明かりは凄く小さかった。


「…………あ」


 目の前に九十九の胸元があった。


 そのままわたしは固まる。


 いや、こんな時、どうすれば良いの?

 状況的に前と同じように突き飛ばすってなんか違うよね?


「ああ、悪い」


 混乱していたわたしを他所に、九十九はあっさりと離れた。


 そのことにホッとする。


「落ち着いたか?」

「いやいやいや? あれでなんで落ち着くと思った?」


 むしろ、心臓がバクバクお仕事してますよ?


 でも、表情はともかく、わたしの顔色までは分からない様で、九十九は気にした様子もない。


「オレはお前の『なでなで』で、落ち着いたから」

「じゃあ、素直に撫でろ!!」


 わたしは、反射的にそう返したが……。


「分かった」


 すっと手を伸ばす気配がしたので、その場から飛び去る。


「…………いや、そう、素直に反応されるとわたしが、悪い」


 我ながら、かなりおかしい言葉になった。


「? あまり離れるなよ?」


 そう言いながら、九十九は「幻覚魔法」を使うと、四方を覆う壁が伸びる。


 前よりはかなり範囲が狭いが丸みを帯びた天井があった。

 縦も横も高さも2メートルぐらいかな?


 ドーム型と言えなくもない形だった。


「これでもっと明るくできるか」


 九十九が照明に手をかざすと、さらにその光が明るくなる。


 まるで、電気の明るさ調整のように気楽な感覚だった。


「その光、魔法の発動中でも変化させられるんだね」


 なんとなくわたしの魔法に関する知識が人間界のゲームが基本となっているせいか、数を追加するという発想はある。


 しかし、既に現れている魔法の光を再利用して明るくし、さらにその範囲を広げるなんて器用なことはあまり考えられなかったのだ。


「水尾さんに教えてもらった。新しい魔法とは違うけど……、威力を上げる、範囲を広げる。効果を上げるというのは魔法が一度、発動した後でも魔力の調整次第でできるって。始めに見せられた七色の火の変化も、そう言うことだもんな」


 そう言いながら、九十九はわたしを見る。


「落ち着いたな」

「へ? あ……、うん」


 確かに、先ほどよりはずっと落ち着いた。

 暗闇で、光を見たせいだろうか?


「じゃあ、顔貸せ」

「……なんで?」


「今から綺麗にしてやる」


 にこやかに微笑む九十九。

 その顔はまるで、雄也先輩みたいだと思った。


「……それって、ど~ゆ~意味かな? わぷっ?」


 相手によっていろいろな意味にとれる言葉だったので、思わず問い返すと、頭に何か被せられた。


「悪いが、悠長に会話はできん」

「カツラ?」


 深い藍色の……、なんとなく、恭哉兄ちゃんを思い出させるような色の髪の毛だった。


 長さは……、ちゃんと被ると肩までのセミロングぐらいかな?

 今のカツラと交換すれば良いのだろう。


 こうしてカツラを外すとよく分かるけど……、下にある地毛も結構伸びている。

 ちゃんと切らないとね。


「服と、瞳はこれで」

「カラーレンズ……?」


 渡されたのはお久しぶりのカラーレンズ。


 でも、もう慣れたものだ。

 セントポーリアの城下では毎日つけていたし。


 つけると……、ちょっと緑色っぽい。

 こっちは、ワカの瞳の色に似ている気がした。


「で、服は……、九十九、回れ右」

「お、おう」


 流石に、彼の目の前で着替える気はない。

 そこまでいろいろ捨ててないのだ。


 しかし……これ、服の上にさらにガウンを着て……、その上からコルセットのような腰帯を付けて……。


 ぐぬぬ……。

 一人で着ようとすると、結構、力がいる。


「この国の一般的な信者の出来上がり……ってところ? こんな感じ?」


 わたしは両腕を広げて、仕上がりを確認してもらう。


「で、さらに化粧をする」

「……お化粧なんて、したことないけど?」

「オレがしてやるんだよ。目を閉じろ」

「はい?」


 その言葉の意味を理解する前に顎を掴まれ……、雄也先輩に以前、されたようにベタベタ、ばふばふ、ぬりぬりとされた。


 なるほど。

 綺麗にしてやるってこ~ゆ~ことですね?


 理解、理解。

 心中、かなり複雑だけど。


 今は逆らわず、目を開けない方が良いのはよく分かっている。

 すぐ近くに、九十九の気配がしているのだ。


「な、なんで、あなたたち兄弟はこんなことができるの?」


 顔の化粧が完了し、髪の毛を整えられながら、そんなことを聞く。


 いや、だって、化粧できるってわたしよりずっと女性らしくないですか?


「兄貴に仕込まれた。いつか必要になるはずだからって」


 いや、どんな場面で……って今だね。

 今、してくれたね。


「黒髪、黒い瞳の印象を少しでもなくして化粧して……っと、これで……。ああ、うん。もはや、別人だな」


 そう言いながら、九十九は鏡を渡してくれた。


「うおおおおおおおっ? 誰? これ?」

「お前だが?」


 なんとビックリ、雄也先輩とは違ったテクニック!?


 雄也先輩のは状況的に白塗りっていうか、厚化粧っぽかったけど、こちらはナチュラルメイクに近く、それでいて、目鼻立ちが強調されて……、五割り増しぐらいになってる。


 いや、緑の瞳、深い藍色の髪の時点でかなり印象は変わっているのだけど。

 さり気なく、眉毛とかも整えられているし。


 本当になんなの? この兄弟!?


「綺麗になっただろ?」

「うん」


 九十九のどこか自慢気な言葉に、わたしは素直に頷くしかなかった。


 自分を「綺麗」っていうのは、自画自賛っぽくてアレだけど。


 元が元だけに確かに美人とは言えない。

 でも、ちょっとはマシに見える。


 これが噂に聞いた「磨けば光る」ってやつ?


 化粧、凄い。

 そして怖い。


「城下でお前自身が目立つわけにはいかないし、若宮と親しくしている姿を城下の人間たちに見せつけるわけにはいかないからな。まあ、この行為もただの保険でしかないが、やらないよりはマシだろう」

「えっと……、九十九は?」


 その理論では、九十九も同じだと思う。


「オレはお前と違ってすぐできる」


 そう言って、姿を変えた。


 毎度ながら、「魔法ってずるい」……、が、今回に限ってそんなお約束の言葉よりも先に、別の言葉が出てくる。


「その……姿……」


 失礼ながら、思わず、九十九を指さしてしまった。


「こっちの方が気付かれないだろうからな」

()()()?」

「違う!!」


 そこには、わたしと似たような髪や瞳、そして衣装を身に纏ったわたしより()()()()()()姿()があったのだ。


 流石に、スカートではなかったし、首元も隠されていたけど。


 彼は、恭哉兄ちゃんや水尾先輩のように中性的な顔立ちをしているわけではないのに、これほど化けるとは、どんな高等技術なのだ?


 これって魔法?


 でも……、ちゃんと九十九の面影もあるから化粧技術の結果だとは思う。


 確かに少し、肩幅が広くて、若干骨太の感はあるけど、注意深く見なきゃそこまでの違和感がない。


 こんな女性はいるだろう。


「あんまりジロジロ見るな! オレだってやりたくてやってんじゃねえ」


 九十九は顔を真っ赤にして言ったが……、これは見ても仕方がなくないですか?


 いや、うん……。

 これは化粧も上手くなるってもんだね。


 雄也先輩はどうなのだろう?

 そう思ったが……、これ以上考えるのは危険だと判断して、思考を中断させたのだった。


 しかし……、突然、周囲の壁が消えた。

 外から、何かの衝撃を受けたのだろう。


 咄嗟に九十九は、照明の光を弱めた。


 そして……、照明をかき消し、目を眩ませるような光がカメラのフラッシュを、連続でたくように光った後、遅れること数秒、何度も地に叩きつけるような音が、その場に響いたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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