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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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夢に視た情景

 私たちが笹さんおすすめの店を出るのとほぼ同時のこと……。


フッ


「え?」


 周りの明かりが突然、消失したのだった。


「な、何?」

「下手に動くな」


 真っ暗な中、驚く高田と妙に落ち着いている笹さんの声だけが聞こえてくる。


 多分、これは城下の明かりが、全て消えてしまったのだろう。

 そうでなければ、ここまで暗くなるはずがない。


 どのくらいの範囲かははっきりと分からないけれど、かなりの広さだと思う。

 空の暗さも手伝って、昼だというのに明かりのない真夜中のようだった。


 傍にいるはずの高田や笹さんの気配は感じているのに、その顔や影すら分からない。


 これはまるで……。


ピシャーンッ!


 突如として、突き刺さった耳を(つんざ)くような異様な音。

 それとともに、周りの建物や、地面すら揺らすような激しい振動。


 そして……、さらには城……、いや、城門を貫くかのような眩しい光。


「ま、まさか!?」


 それを見た誰の瞳にも同じものが映ったことだろう。


 城門に落雷があったのだ。

 それも、追い打ちを掛けるように何度も何度も。


 それはまるで、天を引き裂くような、激しい光だった。


 周囲が暗いためにその光はより強調される。

 まるで誰かにその凄まじさを見せつけるかのように。


「落雷だ!!」

「城門に落ちたぞ!!」


 人の気配や、叫び声が聞こえてくる。

 周囲からはいつもは静かな城下ではありえないぐらいの喧騒。


 突然の事態に混乱しているのだ。


 本来なら、王族として落ち着いて考えなければいけないのに……、今の私にそんな判断力などなかった。


 私はその閃光が何を貫いたのか……、いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。


「ワカ!? 駄目!!」

「若宮! 行くな!」


 私が動く気配を察したのか、高田と笹さんはほぼ同時に制止の声をかける。

 その声を振り切って、私は、走り出していた。


 あの二人を連れて一緒に行くわけにもいかない。


 そこには、この国の話に他国の二人を巻き込みたくないという冷静な自分と、一刻も早く、あの場所へと向かいたい焦った自分があった。


 真っ暗な闇の中でも、あまり慣れてない道であっても、今の私には関係なかった。

 目指す場所はただ一つ。


「ベオグラ!!」


 これは私が少し前に視た夢と、全く同じだったのだ。


 城門の方を貫く激しい閃光を見て、暗闇の中を走り出す私。


 その全てが少しの狂いもなく同じだと分かっているのに、その結果何が待っているかも知っているのに、何度も転びかけながら、人にぶつかりながらも懸命に走った。


 そしてその先で……。


「やめてええっ!!」


 叫ぶ自分の目の前で、長身の男に向かって更なる一筋の光が落ちる所まで。


****


 夢であって欲しいと願う。


 ―――― でも、走った足の痛みや息苦しさは現実で。


 別人だったらと思う。


 ―――― だけど、自分があの姿を見間違えるはずなくて。


 偶然だったらまだ救われる。


 ―――― だけど、それすらも知っているのだ。


 これは、大神官「ベオグラーズ=ティグア=バルアドス」を狙ったモノだと。


 私の目の前で……、黒こげとなった塊がゆっくりと崩れ落ちていく。


 それは酷く緩慢な動きで、まるで人間界の映画で観たスローモーションと呼ばれる動きのようだと思った。


「あ…………」


 あまりのことに言葉も出ない。

 手を伸ばそうとして……、さらに、目の前で光と轟音がほぼ同時に走り抜けた。


「うっ!?」


 目が焼き付くかのような眩しい光と鼓膜を破るかのような音に私は思わず倒れる。


 情けない。

 こんな所で怯んでどうする?


 まともに機能していない目や耳、思考の中で……、それでも、すぐに立ち上がってあの塊に駆け寄らないと……、もう二度と触れることができない気がした。


 しかし、夢の通りだと間違いなくいるのだ、その存在が。


「あはは~っ。大神官が死んじゃった~」


 思った通り、この場に不似合いな無邪気な声が響き渡った。


 それはどこにでもいるような無遠慮で空気を読まない子供の声。

 だけど、私は知っているのだ。


 これが、悪魔の声だと。

 そして、この事態を引き起こした元凶だと。


 でも、私が、知っているのはここまで。


 後は、何も知らない。

 ここから先に何が起こるのかなんて、そんなこと分からないけれど……。


「ね? ね? ケーナ、見てくれた? ボクがあの大神官を殺っちゃったんだよ? すごい? すごいでしょ? 褒めてよ。ねえ、褒めてよ!」


 私に向かってなれなれしい口調でそう話しかけながら、その声の主は姿を見せた。


 サラサラした黒い髪と同じような色の大きなくりくりした瞳。

 背は小柄な高田よりももっと低くて、見た目通りの年齢なら9歳ぐらいだろうか?


 多分……男の子? だと思う。


「貴方……、誰?」


 目の前の子供を即座に捻り潰したくなるような激しい衝動に駆られながらも、私は彼に尋ねる。


「あれ? 分からない? そうだね~。分からないのも無理はないか。でも、大丈夫。時間はたっぷりあるから、ゆっくり教えてあげるよ。だって、これからはずっと一緒にいるんだもんね」


 答えになっているようで、なっていないような妄言を吐きながら、彼は未だ煙の立ち上っている黒く大きな塊に向かって、トコトコと歩いて行った。


 その塊を中心に周囲の石畳が大きく抉れ、そこから奇怪な形の地割れが四方に走り、黒焦げになっている部分もある。


 破片も飛び散って、城門の前とは思えないほど無残な状態だった。


「あれ~? おかしいな~。こいつの死体はその欠片も残らず粉々に粉砕してやるつもりだったのに……。でも、仮にも大神官ってことか。神のご加護があったんだね。死体だけは残して貰えたのか。運の良いヤツ」


 その黒い物を確認しながら、その子供は首を傾げている。


「答えて! 貴方は誰?」


 だから、私は叫んだ。


「こいつにボクのケーナを盗られちゃったから、取り返そうとしただけだよ。それの何が悪い? 悪いのはこいつだからボクは当然、何も悪くないよ」

「はあ?」


 頼むから、会話をして欲しい。

 これだから会話もできない子供って大っ嫌いなのだ。


 人の話もまともに聞きやしない。


「心配しなくても大丈夫。今なら、邪魔は入らないよ。今、この辺りに結界を張ったからね。これで、ケーナはボクのモノだ。嬉しい? 嬉しいよね? ボクはこんなにも嬉しいんだからさ!」


 ヤバイ……。

 こいつ、本物のストーカーか!?


 そして、いつから私がこんな子供のものになったというのだ?


「大好きなケーナには教えてあげる。ボクはね、こいつの母親に殺されたんだよ」

「え?」


 その言葉で思考が働くことを放棄しようとした。

 危ない、危ない。


 でも……、ベオグラの……、母親って?


「そんなのいたの?」

「いなきゃ、こいつの存在はどうなるのさ?」


 呆れたような声で冷静に突っ込まれた。


 何故、そんな所だけ普通に返すのか?


 でも……、ベオグラの出生については私や乳兄弟である兄さまは(おろ)か、当事者であるベオグラ自身も知らないはずだ。


 ベオグラは生後、間もなく大聖堂に捨てられていたらしいのだから。


「あのね。こいつの母親は、こいつを生かすためにボクを殺したんだよ」

「殺した? でも、あんたは実体があるじゃない」


 幽霊……、魔界で言う思念体や残留魔気の一種だと言うのなら、半透明で実体を持つことはないと聞いている。


 神と同じような存在。

 だからこそ、人間は死んだ後、神がいる聖霊界へと行けるのだ。


 高田の苦手なリビングデッド……、生きる屍ならば、誰かが遺体を操らなければならないが、この子供は自分の意思で動いているように見える。


 話が半分通じないけど。


「ああ、これ? これは貰ったんだ。『アルト』って名前と一緒にね。そして、ボクの本当の歳は生きていれば21歳。だけど、こんなガキの姿をしているのはこの身体が貰い物だったってことなんだよ」

「アルト?」


 聞き覚えはない。


 生きていれば21歳。

 ベオグラや兄さまと同じ年齢だ。


「そ。名前すらなくこの辺を彷徨っていただけの思念体に、紅い髪の親切な男がこの身体をくれたんだ」

「紅い……、髪の……男?」


 私は、その言葉に不吉なものを感じたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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